使用人 マリーの話
気に入らないあの女。
私の方がずっとアベル様に思いを寄せてたというのに。
いつかアベル様の専属になれるようにと頑張ってた。
専属にさえなれば私がアベル様をお支えして、いつかはと思っていた。
本邸の使用人も皆アベル様になんとかお近づきになろうとしてたけど、皆撃沈してた。
そんな中、明らかに私だけアベル様の態度が違った。
何かにつけ気をかけてくれていた。
他の使用人にそんなことはしない。
だから朴念仁なアベル様には、ゆっくり距離を詰めればいいと思っていたのに、あんなガキに掻っ攫われるなんて。
あの女が離れに住み始め、私もお母さんと離れの専属になり、最初こそまだ婚約期間だから同じ屋敷に住まないのだと思ってたんだけど。
一ヶ月経っても二ヶ月経ってもアベル様と交流してる様子が一切ない。
もちろんアベル様が訪ねてくることもなければこちらから行く様子もなかった。
もしかしてあの女アベル様に嫌われてる?
そこで探りを入れるべくお母さんに聞いた。
「ねえ。結婚式っていつやるの?衣装作ってる様子ないけど。」
「まだお若いからご成長なされてからされる予定のようよ。」
「でも横に並んで採寸したり身長差のバランスとか考えられたらいいのに。ルイ様の結婚式もあることだし対になるような衣装を作られないのかしら。婚約していると言うのに揃いの衣装がひとつもないなんて。普通考えられないわ。」
「アベル様はこう言うことには鈍いお方だから……気にはなっていたのだけど。」
お母さんはあの女に聞いてみると言った。
これで採寸に来たアベル様の様子をみれば一目瞭然かしら。
もしそっけなくされてたら笑っちゃうかも。
その日が来るのを楽しみにしつつ、それでも仕事はしなければならない。
ちなみに侍女の仕事はお母さんが。
わたしは雑用をしていた。
掃除は大嫌い。
でも衣装室を掃除と管理は好きだった。
あの女が持ってきた大量の装飾品やドレス。
どれも華やかでいつも掃除と言って部屋に入っては装飾品を身につけて鏡の前でポーズを取っていた。
ドレスはちょっときつかった。
まあ、子供サイズだからね。
ただあの女が身につけているのを見た事がない。
少しならもらってもバレなさそう。
試しにひとつ、くすねてみようか……
そう思っていたら衣装室のチェストの上に青いリボンがあるのを見つけた。
決して高くはないだろうが立派な刺繍が施されており美しいブルーのリボンだった。
いきなり高価なものをくすねるのもね。
これならもらっても問題なさそう。
そう思って髪に結んでみる。
鏡をみると自分のアッシュブラウンの髪に鮮やかなブルーがよく映えている。
「ふんふーん」
楽しくなって鼻歌を歌いながら鏡の前でポーズを決めているとドアが開く音がした。
お母さんかと思ったが最悪なことにあの女だった。
ハッとすると向こうも驚きに目を大きくしている。
目は私の頭に。
まずいと思った時にはもうあの女の手が私の頭に伸びていた。
「泥棒!!」
「!」
「外して!外しなさいよ!!」
髪の毛を引っ張られて思わず抵抗して叫んでしまう。
「痛い!やめてよ!!」
なによ、あんなに高価なものたくさん持ってるくせに!!
アベル様と婚約して、こんなにたくさんの宝石を持っていて、リボンのひとつくらいくれてもいいじゃない!
「ケチね!」
思いっ切り揉み合いになる。
あの女はリボンを取るのに必死だった。
髪の毛ばかり引っ張られる。
必然的にあの女の顔が目の前にあった。
憎らしいほど、綺麗な顔。
腹立つわあ!
あの女目掛けて思いっ切り手を振り下ろした。
「っ!!」
声もなくあの女がよろめく。
髪を引っ張られてる私もよろめいた。
「なにを騒いでいるの!」
どさっと2人で尻餅をついた時にお母さんの声がした。
パタタと小さく音がした。
「ブリジット様!」
お母さんが悲鳴のようにあの女の名前を叫んだ。
その声に私はあの女に目を向ける。
「あは!!」
思わず吹き出した。
私の手はあの女の顔面を直撃したらしい。
鼻血をだしてる!みっともなーい!
しかし笑ったのも束の間
「ブリジット様これは一体!」
そう言いながらお母さんがハンカチを出しあの女の鼻を押さえ、私の方にキッと目を向けた。
私の手は鼻と目をたたいたらしい。
右目が赤くなっていてこうしてる間にみるみる腫れ上がっていく。
こちらはせいぜい髪をひっぱられた程度だ。
「ひどいひどい!髪の毛がこんなに抜けてしまったわ!!!」
それなら、私は泣き喚こうかしら。
幸いリボンはあの女が持っているしね。
「リボンを見てただけなのに!見てただけなのにい!」
睨みつけるような目を向けていたお母さんも私が泣き喚くと困惑したような顔になる。
うん、うまくいった。
お母さんは濡らしたタオルを持ってきてあの女の目を冷やすと、青ざめた顔で
「アベル様に謝りに行かなければ」と言った。
ちょっとなんでよ!




