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変人令息は悪女を憎む  作者: くきの助


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契約と遂行 ーブリジットー

しばらくブリジットは塞ぎ込みがちになった。

そんなブリジットを心配して夫人が言った。


「もう少し元気になってから入籍したほうがいいかしら。」


ブリジットは飛び上がりそうなくらい驚いた。


そうなるとまた契約が!


慌てたブリジットは無理矢理にでも、求められている自分を演じることにした。

公爵も夫人も元気になったブリジットに安心し、予定通り入籍した。


入籍して正式に夫婦になった後は夫婦の寝室でブリジットが眠るまでセドリックと話すのが日常となった。

ブリジットが眠った後、セドリックは自室の寝室で休む。


ブリジットは前のように無邪気に勉強やお茶会を楽しめなくなっていた。

しかし『以前のような自分』をしっかり演じているブリジットにとってセドリックとのひとときの話はいい気分転換となっていた。


そんなブリジットのお気に入りはセドリックの隣国に留学していた話だった。


世話焼きでお母さんのような侯爵令息サイラス

研究オタクの子爵令息のアベル

そして天真爛漫なセドリック

隣国の学校は5年制でセドリックは14歳の年から留学していた。

そこから17歳で帰国するまで4年間共通点がないような3人は仲が良かったそうだ。


放っておけば研究しかしないアベルと放っておけば令嬢が群がって収拾がつかなくなるセドリック、ヒイヒイいいながら面倒をみているサイラスの話をくすくす笑いながらブリジットは聞いていた。


「アベルはね、研究にしか興味がないようなヤツで放っておけば研究室から出てこないんだよ。」

「アベルは自分を地味な男だと思い込んでいるんだが薄暗い研究室で真摯に研究しているアベルはなんとも言えない色気があってね。ファンの令嬢もたくさんいたんだよ。本人は知りもしなかったけどね。」

「アベルは格好に無頓着でね、でも僕が研究室に来たことに気づいて顔を上げた時に伸びた前髪から覗くブルーの瞳が洞窟で宝石を見つけたように綺麗だったよ。」


気がつけばブリジットはアベルの話ばかり聞いていた。


最初は安価で人体に無害な農薬を発明したと、それにより子爵領が飛躍的に発展したと言う話に興味を持った。


「もともと領地の立地はよくてね。大きくはなくとも潤っている領地だったのだけど、アベルの発明後は下手な上位貴族より潤っているんじゃないかな。」


害虫がきっかけでみるみる借金まみれになった自領を思うと話を聞きたくなった。

そのうちアベルの為人が気になるようになり、いつか自領の農業のことを相談したい、会ってみたい、そんな風に思うようになっていた。


そしていつしか周りを騙し偽り続けるブリジットの唯一の癒しのようになっていた。



セドリックは以前のような明るさがなくなったブリジットに「領地に帰るかい?」と何度も聞いてくれた。

それでも契約は成立するから大丈夫だ、と言われてもブリジットは首を縦に振らなかった。


契約を続け人を騙し続けていながら自分は逃げることがずるい気がした。


自身の噂のこともそうだ。


最初こそ噂を知った両親は悲しむのではないかと思っていた。

しかし今は両親にまであの眼差しを向けられたらと思うとぞっとした。


「婚約期間も入れて約4年間、周りを騙し続けてほしいってことだ。そんなことお前には無理だよ。」


契約の話をしたときの父親の言葉通りだった。


ブリジットには無理だった。


優しい公爵家の人々、楽しいお茶会の夫人たち。

前までは確かに楽しかった日々が今は一緒にいると泣いて叫び出したくなる。

ただただ与えられた役割を全うする。


ブリジットは日に日に辛くなりとうとう耐えられなくなっていた。


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