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契約の解釈 ーブリジットー

「先日のお茶会は楽しかったかい?よくやってくれていると母から聞いているよ。」


婚約者としての親睦を深めるための午後のお茶の時間というのがあった。

ここでは使用人は遠くに控えてもらい、2人だけで話せるようにしていた。

聞かれては不味い話もできるように。


「ええ!お義母様のお友達は皆博識でお話しするだけでとても楽しいわ!それに聞いてちょうだい!ローズ侯爵夫人が今度刺繍を教えてくださると言ってくださったのよ!」


公爵家に来て三ヶ月は経とうとしていた。

初めてお茶会に参加したのが先月のこと。

そこからブリジットの評判は上がる一方だった。


大人たちに混じり明るく素直に「お話とても楽しいわ!」と言っていたかと思えば、絶妙なタイミングでお茶会についてきていた子供達を連れて庭で遊んでくれる。

決して大人の話を邪魔することはない。


お茶会に参加した夫人や小さな子供たち、皆口を揃えてブリジットを絶賛していた。


そして公爵家に突如現れた婚約者の評判は社交界にも広まりつつあった。

思っていた以上にうまくやってくれているブリジットにセドリックは満足気なのだが、少し顔が曇っているようにブリジットは感じた。


「セディ兄様?少し元気ないのでしょうか?」


ブリジットがそういうとセドリックは少し驚いたように目を大きくした。

が、すぐにニコリと微笑む。


「気付かれてしまったかな。確かに実は少し困っていてね。そうだね……べべちゃんにしか言えないから聞いてもらおうかな。」


ブリジットはそう言われるとパッと表情を明るくした。


「ええ!私でよければ話してちょうだい!」


その様子にセドリックはクスリとしながらも話し始める。


「アリスがね、どうやら君の評判を小耳に挟んだらしい。少し自信がなくなったらしく僕の心が離れてしまわないか不安みたいなんだよ。」


「あら、そんなの気にすることはないわ。私たちは嘘の婚約者なんだもの。」


「そうなんだけれどもね。僕たちは兄妹のような関係だと言っても、評判のいい君に心移りしてしまうのではないかと心配な様なんだ。まあそうは言っても我慢してもらわなければいけないのだけれど。それがとても心苦しいんだ。」


実際2人の間にあるのは兄妹のようなそれで、恋情などは一切なかった。


「じゃあ、そうだわ!私がアリス様に話してあげるわ!そうしたらきっとアリス様も安心なさるわ!」


胸でパチンと手を合わせて名案といった様子でブリジットが言う。

その様子を微笑ましく見ながらセドリックは諭すように言った。


「それはダメだよ。契約違反だからね。」


そういうとシュルシュルと分かりやすくブリジットは意気消沈してしまった。


「どうしてダメなのかしら……」


ブリジットにはアリス様と一切関わらないという契約項目をわざわざ作ったのか理解できなかった。

秘密を共有するもの同士仲良くすればいいじゃないか、と。


「ありがとう、僕のべべちゃん。こうして聞いてくれるだけで僕は救われているよ。」


くすくす笑いながらセドリックは言った。

しかしその笑顔は寂しげに見えた。


なんとかしてあげたい。

そんな思いがブリジットの心をいっぱいにした。


そしておもむろに立ち上がる。


「そうだわ!いいことを思いついたわ!悪役令嬢よ!」


目をキラキラさせていきなり立ち上がったブリジットを見上げてるセドリックに向かってブリジットは続ける。


「悪役令嬢です!兄様!」

「うん?少し落ち着いて、座っておくれ。」


たしなめられて、はしたなかったと気づき慌てて座り直す。

そして改めて話し出した。


ブリジットは最近悪役令嬢モノと呼ばれる小説にハマっていた。


「私が悪役令嬢のようだと噂されればいいのです!そうすればきっとアリス様も安心でしょう?」


セドリックは微笑む。

ブリジットなりに考えてくれたのだ。

しかしやはり子供だ。


公爵家の婚約者が悪女と噂される。

そんな根も葉もない噂でブリジットが貶められた日には、父母は怒り狂って噂の出どころを突き詰めようとするだろう。

この貴族社会舐められるわけにはいかないのだから。



実際の話ブリジットはとても上手くやっていた。

父母に気に入られなければ結婚まで行けないし、結婚できなければまたセドリックはお相手探しから始めなければならない。


うまくやってもらわなければ困るのはセドリックとアリスだ。

しかしうまくいけば愛しいアリスが不安になる。


セドリックはまさにジレンマに陥っていた。



しかしはたと思いついた。


(下位貴族の間だけならどうだ?)


上位貴族の噂は下位貴族にも流れるが、下位貴族の噂が上位貴族に上がってくることはほぼない。

下位貴族のパーティで少し話題にのぼるくらいなら、公爵家にとってはなんでもない事だ。

愛しいアリスの気が休まればそれでいいのだ。


「べべちゃん、それはいい考えかもしれないぞ?!」


セドリックは声を弾ませた。


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