8(鍛錬)
「いつまで寝てるんだい、さっさと起きな」
聞き覚えのある声とともに重い瞼を開ける
目の前にはマスターが立っていた
外からはにぎやかな声と強い日差しがレンに届く、それと同時にレイの頭は覚醒する
まずは、体に魔力を回すか、寝る前はできるだけ魔力を流し続けようと考えていたがいつのまにか解けていたようだ
「起きたようですね、出る準備をしてください早速行きますよ」
マスターの後ろから出てきてセリーナが言った
セリーナはもう準備ができており早く行きたそうにしている
なんかちょっと休みの日に出かける前の子供みたいだな
「起きるの早いんだなセリーナ」
レンは体を起こし水浴びをし、昨日の残りという名のマスターが用意した朝食をとりにキッチンに向かう
「やっと起きたのかレン」
そこにいたのはロトだった
「あんたも昨日は遅くまでいたのに遅れずに来るとは偉いことだな」
「いや、俺は結構早く来たんだが、お前の相方は俺が来る前に起きててびっくりしたぞ」
レンはその言葉に不信感を持ちロトに質問をする
「ロトはいつここに来たんだ?」
「店を出た後本部で報告書を書いて三時間ぐらい仮眠してきたから、店を出て四、五時間して戻った感じかな」
昨日は結構疲れる日だったけどそんなに睡眠が短くていいのか?もしかしたら、セリーナは寝ていないのかもしれない
そんなことを思いながらレイはロトと雑談しなら朝食をとった。そして、セリーナが座っているカウンター席に足を運んだ
「セリーナもう出れるよ」
「では、出ましょうか、目的地は北の平原です」
セリーナは席を立ち二人は酒場の扉に向かう
「お前らどっか行くのか、俺もついてくぞ」
ロトが後ろから声をかける
「ちゃんと監視しろよ、ロト」
「いわれなくてもわかってるよ」
ロトは少しめんどくさそうにしている
そうして三人は酒場を出て北の平原に向かって歩き出した
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「ここらへんで鍛錬を始めましょう」
セリーナが歩みを止めた
歩き始めて三十分ほどしたころ周りには草といくつかの木がある平原にきた
「なんだお前ら今日は鍛錬をするのかそれなら俺は遠くで見てるよ」
そういいロトは木の下で腰を下ろした
だが気を抜かずにこちらをしっかり監視してるのをひしひしと感じた
「セリーナ、それで何をするんだ」
「まず、こちらを渡しますね」
セリーナはそう言い二本の木刀を魔法で作り上げ一本をレンに渡す
普通の木刀だな。しかし、日本刀のような形をしているのはなぜだ。冒険者協会や兵士の持っている剣は西洋風だったはずだ。まぁいい、こっちのほうが心躍る
「では、今からレンは本気で私を殺しに来てください」
セリーナが冷徹な表情で言う
対面しているレイは少しプレッシャーのようなものを感じ始めてた。まるで、森で魔物と対面した時のようなプレッシャーだ。しかし、あの時とは違い命の危機のようなものは感じなかった
「大丈夫か、ケガするんじゃないか」
レンは笑みと余裕を見せながら言った
さながら、強がっているように見える。いや、実際強がっているのだ。強がることで己を強いと錯覚しようとしているのだ。自分が強いと思はないと立ち向かうことすら難しくなっている。レンはそれほどのプレッシャーをセリーナから感じていた
「レンが私の体に木刀を当てることは万に一つもありません」
「そうですか」
セリーナの確信しているようなセリフがレンを勝気にさせる
やってやろうじゃねえの一発は入れてやるよ
「それじゃ行くぞ!」
レンは両手で木刀を持ち一気に間合いを詰め木刀をセリーナ目掛け剣を振るい始めた。しかし、いや、やはりというべきかレンの剣はすべてセリーナにいなされる。しかし、レンはまだ余裕の表情を浮かべていた
「そんな攻撃では私を動かすことすら叶いませんよ」
事実、セリーナのほうは先の場所から動くことなくレンの攻撃を捌いていた
大前提攻撃を捌くときは相手のリーチに入らないのが一番手っ取り早い、相手が攻撃するタイミングに合わせて一歩下がればいいのだからだ
剣で相手の攻撃を捌くということは相手のタイミングに合わせて正確に剣を当て正確にいなすなり、弾く必要がある。
リーチに入らないのはタイミングを合わせるだけでいいが、剣で相手の攻撃を捌くのはタイミングを合わせるだけでなく高度な剣術が求めらるということだ
「まだ、始まったばっかだろ。焦んなよ」
まずは、シンプルに上に相手の剣を持っていたのちに下に剣を振るう。
簡単に言うと相手の空いているところ剣を振るう、その空いているところを作るために相手の剣を誘導する
まぁこれは止められるか、シンプルに剣振ってるだけだしな
それじゃ次はフェイクと緩急を混ぜますかー
そして、レンの剣は変化した。
一定のリズムだった剣の振りはじめは不定のリズムとなり緩急のある振りはじめになった
それに加え振り方も先までまっすぐだった剣筋に緩急、フェイク、曲がりが加わった
普通の人であればさばくのに苦戦するようなところだが、セリーナは表情変えることなく難なく捌いていった
「そんな小細工意味がありません。レンの剣は止まって見えます」
レンに先まであった余裕のある表情は徐々に引きつった笑顔に変わっていく
「俺の剣は十分動いてるけどねー、セリーナが俺の剣が見えていないんじゃないか」
「では、私はあなたの剣を見ずに捌いていることになりますがよろしいのですか?」
セリーナは戦闘中ということを感じさせずにクスクスと笑っていた
「相当余裕あるな」
引きつった笑いとともにレンはボソッとつぶやく
それにしても、これも止められるか
なんというかフェイクとか曲がるときにセリーナの剣は誘導できてるのにそのあとの当てようとする剣にもしっかり対応されている
スキがない。というか、なんか前提としてなにかが足りないように感じる
まぁいい、必殺技を使うとしよう
レンは片手で剣を持ち始め、改めてセリーナに接近した
必殺!目くらまし!
セリーナに向けて砂が投げられた
どんな達人だって目が見えなかったら、攻撃を捌くことは無理だろうなー!
砂に続いてレンの剣がセリーナに向かう
「だから、遅いと言っているでしょう!」
セリーナがどこか怒りの混じったような声と同時にレイの剣は弾かれ、レイは十メートルほど吹き飛ばされた
「いってぇ」
いてぇなんてもんじゃねぇ!てかこれ、骨折れてね、内臓ぶち壊れてね
レンは激痛とともに少しの絶望を感じる
てか、今何が起きた?
全く分からなかったぞ、なにを俺は食らったんだ?剣か、魔法か、拳か、それともまた別の何かなのか?
酒場のマスターの動きは見えなくても何が起きた予測できた。でも、セリーナのしたことは予測すら許さないのかよ
レンは混乱と絶望が入り混じり奥歯をかみしめる。剣を握る手は緩み始めた
「砂なんて投げないでください、汚れます。そんな小細工よりとにかくもっと早く剣を振るってください」
レンとは反対にセリーナは冷静にいい放つ
もっと早くって十分全力で剣を振っているぞ
これ以上早くってどうやっ、いや、そういうことか
レンは何かをひらめいたようで表情が徐々に明るくなっていく。そして、先の余裕のある表情に戻っていた。先までかみしめていた奥歯は自然と緩んでいく
そういや前、セリーナは言ってたな「ちなみにその循環の速さによって魔力の消費量は変わります。早ければ多く魔力が消費され遅ければ魔力の消費は緩やかになります」って、つまり、この魔力の循環は早ければ早いほど身体能力は上がるということなんじゃないか
そう思いレンは体内の魔力に意識をむける
今までは血の流れのようにゆっくり流していたがもっと早くまるで電流のように
レンは体内の魔力をとにかく早く循環するイメージをする
きた!
レンの体内の魔力は先までとは違い電流とまではいかなくともタイヤが逆回転しているように見えるように魔力も逆回転しているように見える速度で循環する。そして、先まで普通に見えていた景色はスローモーションのように動き、足元の虫は止まって見える
「やっとですね」
セリーナはあきれたような感心したようにつぶやいた
これ以上早く循環できねぇ、なんか体がすげぇ熱いこれ以上早くしたら何かが燃え死ぬ。でも、間違いなく先より早く動ける。てかこれ体内の魔力がえぐい速度で減ってるんですけど
レンの魔力いや、輝く光は目に見える速度で輝きを失っていく
これもって十秒ぐらいか、とにかく次の一撃は「絶対入れてやる」
その言葉がレンの剣を持つ手を心を強くする
レンはセリーナに向かって一直線に加速する。
先までとは違いレンの接近する速度は酒場のマスターより早く。剣を振る速度いや、剣を突く速度ははたからは見ることもできない
このスピードを一番生かせるのは剣を振ることではなく剣で突くことだ。走るスピードに加え、腕の伸ばすスピード、上半身を前に出すスピード、すべて使って俺の最速を出す
「とてもよくなりました。でも、まだ止まって見えますよ」
セリーナはそういい笑顔でレイの突きを剣で受け止めカウンターで蹴りをいれレンをまた十メートルほど吹き飛ばした
「クッソ」
そうして魔力も体力も気力もなくなったボロボロのレンは気を失った