5 魔石を受け取りに行こう
「そうだねぇ……メリッサ。今日はフランカについてまわっていろいろと教えてもらうといいよ。前とは大分違うだろうからね……フランカも頼んだよ」
「わ、わかりました!」
「ただし、体調は万全じゃないはずだから調子がおかしいと思ったらすぐに言うようにね」
今のところ体調も大丈夫そうだけど……無理して倒れたりしたら余計に迷惑かけるだろうし、素直に言うこと聞いておこう……
「わかりました!」
「じ、じゃあ行きましょうかっ」
「はい!」
どうも、この部屋であちこち動き回れるのはわたしとフランカお姉ちゃんとグウェンさんだけのようだ。
おばばさまやマイケルじいちゃんは年齢的に厳しくて……マチルダさんは起き上がれない日もあるというし、妥当なメンバーかな?
ハワードに関しては……トイレとご飯以外は魔石を握ったまま微動だにしないというから論外だ。まぁ、トイレやご飯を自分でしてくれるだけ幾分ましだと思うけどね。
朝7時の鐘が鳴ると同時にグウェンさんは魔道具の基盤作りのための道具や材料を受け取りに行くとのことで部屋を出ていった。
これは毎回グウェンさんが行かないと受け渡しがスムーズにいかないらしいので、わたしが手伝えることはないんだとか。基盤作りなんて聞いたことのない仕事だし、慣れているひとが行くのが安心だろう。
「メリッサちゃん。ま、まずは魔石を受け取りに行きましょう」
「はい!」
「き、旧広場地区はわかりますかっ?」
「きゅうひろばちく……」
へぇー、ちゃんと区分けされてるんだ……
「そ、そっか。ま、まだ食事も取りに行ったことないか……え、えっとね……食事やノ、ノルマとなる魔石の受け渡しはき、旧広場地区というところで行われているの。そ、そこへ向かいます」
「はえー」
受け渡し場所とかあったんだ……今世のわたしが知らないことはまだまだたくさんありそうだ。
「す、少し歩くけど、しんどかったらす、すぐに言ってくださいね?」
「はい!」
わたしのペースに合わせて少しゆっくり歩いてくれたフランカお姉ちゃんについていくと……広場らしき場所に到着した。
かつては噴水やベンチがあったであろう残骸と敷き詰められた石から飛び出る草たち……たしかに旧広場だなぁ。
ちらほらと歩いているひとが増え、その流れに乗るように歩いていくと……皆、吸い込まれるようにひとつの建物へ入っていくのが確認できた。
石造りの建物は所々ひびや欠けがあるけれど、ほかの建物と比べても大きく頑丈そうに見える……どうやらここが目的地みたい。
「そ、そこの建物でま、魔石を受け取ります……し、静かについてこれますか?」
「しずかにします!」
うるさくして見張りに目を付けられるのは避けたいもんね。
フランカお姉ちゃんの後ろについて、魔石を受け取りに建物へ入ると……そこには気怠そうな見張りたちが数人椅子に腰かけていた。
他のひとたちはすでに見張りたちのいる机までのびる列に並んでいるようだ……わたしたちもそこへおとなしく並び、列が進むのを待つ。
待っている間、室内を観察してみたが……見張りたちが使っている椅子と机、木箱が山積みなこと以外は特に特徴のない部屋だった。いや、まともな家具を見たのはじめてかもしれない。
死にかけグループの部屋は論外として、ここは前の部屋と比べても広くてきれいな印象を受けるし、ちゃんと使える家具が当たり前にあることからして驚きだわ……
そうしているうちにわたしたちの順番がやって来た。
机の前まで進み……
フランカお姉ちゃんが「し、死にかけ3班です」と告げると「ちっ、死にかけかよ……ほら、そこの箱持っていけ」と流れ作業で魔石の入った木箱を示された。
ささっと木箱を抱えたフランカお姉ちゃんに続いてその場を後にする。
どうやら部屋によってノルマが違うらしく……自身の所属を伝えることで木箱を渡される(示される?)しくみのようだ。
それに所属によって魔石の量にも違いがあるみたい。
前の部屋では魔石が入っていた木箱しか見たことなかったけど……きっと誰かがこうして受け取りに行っていたんだなぁ。
そのうち、前の部屋にいた大人に会うこともあるのだろうか……んー、顔をまともに覚えてないや。すれ違っても気づかないかもしれないなぁ。
「う、受け渡しは……い、今みたいにすればいいですよ」
「えっと、見張りに『死にかけ3班です』っていえばいいの?」
「え、ええ。そ、それが私たちのへ、部屋の名前なんです」
死にかけ3班だなんてセンスのない呼び名だ……どうせ管理するならもっと可愛い呼び名にすればいいのに。なんだか、気にくわない。
ふと、他の死にかけグループの1班や2班にわたしたちみたいに動けるひとがいなかったらノルマはどうなるんだろうと疑問が湧いた………見張りが魔石を運んでくれるわけないし……違う仕事が振り分けられているのかな?
「死にかけグループにはみんなうごけるひとがいるの?」
「え?ど、どういう意味かな?」
「んーと……おばばさまやマチルダさんみたいなひとしかいなかったら、うけわたしはどうするのかなって……」
「あ、あぁ………そういう。ど、どうも部屋に入れる時にあ、ある程度組み合わせをか、考えているみたいです。ほ、他の班のひとにもあったことあるのでま、間違いないですよ」
「そうなんだ……」
そういえば、回復しても死にかけグループからは出れないって言う話だったな……きっと、ひと部屋に最低でもひとりはそれなりに動き回れるひとがいるのだろう。
なんか、帝国のそういう計算高いところ嫌いだな……そう思いながらも口には出さず、手分けして魔石の入った木箱を部屋に運ぶことに集中した……いやー、ちびっこの体には結構重労働だわ。
まぁ……幸か不幸か水汲みで鍛えられて持ち運べたんですけどねー。骨と皮だけじゃなかった!少しだけ筋肉もあったのだ!わーい。え?ガリガリには違いない?うん、まぁ……これからに期待ということで。
「た、ただいま戻りました!こ、これお願いします」
「おねがいしますっ!」
魔石を落としたりせず……無事におばばさまやマチルダさんに引き渡すことができた。ふぅ、ひと安心だね。
今まではこれらをフランカお姉ちゃんがほとんどひとりで担当していたというんだから、少しでも負担が減ればいいなぁ……