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「捕まえた」

作者: はらけつ

「参った」


訊いて欲しい様に、言う。

尋ねて欲しい様に、呟く。


仕事終わりの夜、彼とはよく、待ち合わせを、する。

待ち合わせて、お茶を、取る。

或いは、夕食を、取る。


「何が、参ってん?」


彼は、訊いてくれる、尋ねてくれる。


「最近、よく意識が飛ぶと云うか、意識が、ブラックアウトすんねん」

「多かれ少なかれ、そんなん、誰にでもあるやん」

「いやいや、今までそんなに無かったのに、最近、頻繁やねん」

「ほお」

「しかも」

「しかも」

「変な妄想が、セットやったりすんねん」

「変な、妄想?」


彼が、怪訝な顔を、する。


「俺は、歩いている」

「歩いている」

「誰かに、追いかけられている」

「誰や?」

「分からん。

 その誰かの人影は、黒々としていて、

 男か女か、若いんか歳入ったはんのかも、分からん」

「難儀やな~」

「でも」

「でも?」

「『捕まったら、あかん』のは、ひしひしと、本能的に、分かる」

「ほお」

「それが」

「それが?」


頻繁に、なっている。

しかも、ブラックアウトする毎に、その人影が、近付いて来ている。

今現在、既に、手が届きそうな所まで、来ている。


「そら、なんか、ヤバい感じやな」


彼が、眉を顰めて、言う。


「そやろ」

「何も起こらんやろうけど、気持ちのええもんでは無いわな」

「そやろ」

「なんとかならんのかいな?」


う~ん


「色々、試してみてん」

「例えば?」

「常時、気分良くいる為に、常に、美味しいもん、

 食ってるとか舐めてるとか飲んでるとか」

「なるほど」

「萌えでは無いカワイイもん、常に、身に付けとくとか」

「そんな趣味が」

「実は」


ここで、ちょっと、付け加える。


「他にも、あって」

「それは、何や?」

「精神的なもんで、ポジティブ・シンキングとか、ヨガとか、深呼吸とか」

「ああ、そっち」


ここで、顔を、曇らす。


「でも」

「でも」

「どれも、効果が、無い」

「うわちゃ~」


彼は、額に、手を、当てる。


「どうすんねん?」

「どうこうも、今のところ、打つ手無いねん」

「無いんか~」

「だから、いっそ」


ここで、溜める。

溜めて、言う。


「『最後まで、行ったろかいな』、と」

「最後まで?」

「最後まで」

「いやいや、あかんやん。

 『なんか、あかん様な気』が、してんのやろ?」

「してるけど、最後まで行かな、カタ付けへんやん」

「そらそやけど、それ、危なないか?」

「危ないかもしれんけど、グズグズ、グダグダしているのも、

 精神的に悪い」

「そら、そうかもしれんけど」

「スッキリせんままいるのは、嫌やねん。

 良くも悪くも、スッキリしたい」

「う~ん」


彼は、腕組みを、する。

腕組みをして、悩み考える。


十数秒、経つ。

何も、彼から、いい考えは、出そうも無い。


突破口は、見つからす。

お互い、モヤモヤを抱えたまま、その日は、解散する。



翌日。


ギラッ


暑い。

青空から、太陽が、眩しい。

風は、無い。


揺らめく。

風景が、揺らめく、道が、揺らめく。

陽炎が、そこら中に、沸き立つ。


照りつける日は、クッキリと、作る。

俺の影を、黒々と、形作る。


揺れる様に、歩を、進める。

フラフラ、前後左右に、揺れ進む。


頭が、朦朧と、する。

いつものブラックアウト妄想に、引き摺り込まれる。


 ・・ キュッキュッ ・・

 ・・ キュッキュッ ・・


もう、追い付かれる。

もう、捕らえられる。


捕まったら、どうなるのだろう。

想像したくないが、想像せずには、いられない。


ガッ


「ヒッ!」


出し抜けに、肩を、握られる。

心臓が、飛び上がる。

思わず、声を、上げる。


フリーズ。

動けない。


首だけ後ろに、捻じ曲げる。

ギギギと、音がきしむ様に、捻じ曲げる。


そこには、彼が、居た。

微笑む彼が、居た。

ニッコリ笑って、彼は、言う。


「捕まえた」


太陽は、燦燦と照りつけるも、彼の影は、作らない。


{了}

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