第三壁 謀りと雷龍神の慟哭② (共和国兵舎にて隊長たちの会話)
そのころラクシアソル共和国の防衛兵団の兵舎の隊長たちの席の間へ
第8騎士団隊長ミオーレ・オルティスが中心街の盗賊襲撃に対して出動しなかった第4隊長と第10隊長にその理由を問い詰めに訪れていた。
第10隊長 ジャック・ゾール 青髪の20代中頃の男が壁に背をつけて自分の剣の鈍く輝く刃を眺めて狡猾な微笑みを浮かべる。
第4隊長ヘラルド・ウィラン 30後半ほどの屈強な落ち着いた男が会議などで囲む
大きなテーブルの席の一つに腰掛け両肘をついて手の甲を顎にのせて静かに前を見つめている。
ミオーレは静かに怒りをたぎらせた睨む表情 二人に目配せして口を開く。
ミオーレ「随分な休憩時間だな二人とも・・・あの城壁を破るほどの
凶賊がなだれ込んできてなお、そのように優雅に構えているとは
肝が据わっていて何よりだ・・・・据わり過ぎではないか?
何か考えがあったなら聞かせてもらおうか」
ジャック「これはミオーレ隊長 今日は良いお茶がおいてあるようで
貴女も一ついかがですか?なかなか質のいいものでして
貴女も今より休憩でしたら是非」
ヘラルド「・・・・・」
ミオーレ「チッ・・・」
ミオーレがテーブルのヘラルドに早歩きで向かっていく。
ダアーーーーーーーンッ!!!
ヘラルドの眼前のテーブル面に右こぶしを振り下ろし、明確に怒りを示した。
ミオーレ「貴様ら何をしていたあああ!!
侵入者が白昼堂々と攻め入り、我が物顔で中心街を踏み歩き、
民を脅かした有事に!!
その鎧と役職は装飾か!!
飾りつけのカカシのごとく呆けて座してその場に刺されば
食える分だけ務めたか!!?
我々の地位は民の盾となり迅速に災いを切り捨てる剣だ!!
隊位授与式に貴様らが思っていたのは
安泰と金と売女の群れに囲まれた濁り光る豚の園か!!
何のためだ!!?なぜ即座に隊を率いて出動しなかった!!」
不信が積もり積もっていたのだろう ミオーレの貯められた怒りが放たれ
ふてぶてしく居座る2人の男に激しく浴びせかけられた。ヘラルドは圧に動じず
ミオーレのほうに目を向けた。
ジャック「どうか落ち着いてください 怒りはわかりますが
事情を説明させていただきたい 私たちは決して高をくくって静観したのでも
怖気づいて籠っていたわけでもありません。今回の有事は確かに我々にも
届いており、あのギルガなる者の力の危険度が高いことも分かった上です。
詳しい状況によれば奴らは、身体を魔法強化したうえで市民を人質に取りながら犯行を進めており、兵士たちは苦戦を強いられ、ギルガは宝物庫に向かう一方だったという。街に出動したところで我々二人を前にすれば奴らも取り乱し、人質を手にかける恐れがある。しかし奴らは計画的に市民を人質としてのみ利用し、積極的に殺戮の対象にはしないよう命令されていた。
ならば我々は考えたのです。
市民が死なぬなら奴らの最終目標である宝物庫のあるこの近くに待ち構え我々二人で確実に宝物庫を護ると。この国の理念は1人でもその命と自由を尊重すること。我々もそれは重んじています。
ただし国の財産を奪われてはたとえ市民が誰一人殺されなかったとしてもそれを埋め合わせるために市民に増税を強いることになりましょう?
だからこそなのです。こちらから出向くよりも強力な賊を刺激せず、冷静に迎え撃ってその真の目標を阻止する。
ですので
今回の場合はむしろ我々が出動しないことこそが最適だったのですよ。」
ミオーレ「・・・・納得しそうになった 話の通りならば市民の確実な安全を冷静に分析しての成り行きに聞こえる だがわからん
ここにいながら相手の戦力具合を直に見にも行かず報告だけを聞き、
短時間によくそこまでの采配が下せたものだな?
それに
天空騎兵隊はどうした? 彼らなら数発で中型ドラゴンを射落とす弓矢がある
盗賊どもの強化の魔法とはそれさえ及ばぬものだったのか?しかも対人戦では盾で防ぐ拍子を掴ませぬよう矢を魔法で透明化もでき、気づかれぬ狙撃も・・
(まてよ?天空騎兵隊?・・・・そうだ、こいつらだけではない・・・
地上の兵と同じく天空騎兵隊も当然侵入者に応戦するはずだ、だがその行動を聞いていない・・・・頭にあるべきことだが忘れていた?・・・・
こいつらに吠え掛かってやっと思い出したみたいだ・・・
偵察を中断して城壁に急いで近づくまでは確かに天空騎兵隊の動向も頭によぎったはず・・・何故だ?城壁に入った瞬間その思考だけが抜け落ちたというのか?まるで・・・思考の一部を切り取られたように・・・)
ジャック(チッ・・)
ジャックが何やら気に食わぬ様子で目を横に背ける。
ジャック「それはですね・・・」
そして寡黙にすましていたヘラルドが重い口を開ける。
ヘラルド「ミオーレ・・・俺たちは宝物庫の防衛だけにずっとここにいたのではない・・・早とちりをしているようだが俺たちは正確には出動したぞ?
外を見て見ろ」
ミオーレ「なに?」
ミオーレが兵舎の大窓を開けると、外では天空騎兵隊員たちがペガサスたちを厩舎に引いている。その向こうに何か小山が見える。
何かが積みあがっているようだ。兵士の数人が小山から大きなものを荷台に乗せて運んでいく。大きな生き物だ。すでに死んでいる。
ミオーレ「あれはワイアーム?あれほどの数のワイアームが あれらをどうしたのだ?」
天空騎兵隊たちが運んでいるのはワイアーム。蛇型の胴体に翼のみが生えているドラゴンの一種で、腕が翼でも足があるワイバーンとも違う種
天空騎兵隊は大量のワイアームをいつ討伐していたのか
ミオーレ「聞いていないぞ!?ワイアームの群れがいつ現れたのだ!?」
ジャック「言い遅れましたミオーレ隊長、何せこの大仕事を指揮して
わたくしも空でペガサスを駆っていたもので、その余韻に浸っているところ
貴女のちょっとした誤解の叱責に圧されておりましたゆえw
盗賊団たちと同時にあのワイアームどもが中心街の上空に侵入し、
我々はその討伐にまず追われ、その戦いの最中に地上の盗賊団の情報から整理し、出動をあえてしないことを塾講して決断したのです
本命は宝物庫を狙うあの城壁壊しの猛者ギルガですから」
ヘラルド「そういうことだミオーレ ワイアームどもはギルガどもが中心街の空と地上の結束を分断するためにけしかけたものだろう。
その狡猾に対し我々はこの国をいつものように防衛してみせただけだ・・・
偵察に離れていたとはいえ戦闘中にいなかった貴様に強く責めを問われる筋合いなどはない・・・懸命な当事者を怠け者扱いする前によく全体を把握することだな・・・貴様の勇猛さは買われたものだが男に負けまいと勢いを張り過ぎだ・・・!・・・今少し視野を広げるのだな」
ミオーレ「なんだと!?・・・いや・・・
その通りだヘラルド・・・・貴殿らが悠長に高みの見物をきめこんでいたなどと早合点し、国の不忠義者などと嚙みついたことを謝罪する。
それに・・・・そこまで気にするとは心になくてな・・・
其方のように、
羽虫が着いても気にせず苔むした岩のごとく動かぬ唐変木に・・・
麗しき乙女の批難にうろたえてヒビが入る心があるとは・・・・
存外繊細なのだなw」
ピキッ・・・・・
ヘラルドの額の血管が少し浮き出た。表情に出さないように抑えているが
怒りを沸かせたようだ。
ジャック「まあまあ!ミオーレ隊長は誤解を解いてくださりました。
我々が不忠義者ではないことをわかっていただけて大いに結構でございます!
ミオーレ隊長と同様にこの国を守る職務への誇りと熱意が
我々にも備わっていることを!
ヘラルド隊長も!我々は良き同志なのですから」
ミオーレ「・・・そうだな・・・これからも良き関係でありたいものだ こう仲良く戯れるほどに、そう構えるなw」
ヘラルド「・・・ふ・・・努力しよう・・・」
ジャック「ならば安心しました!それではわたくしめは失礼します。
まだワイアームどもの後始末がありますゆえw」
ジャックはそう言って兵舎の廊下への扉を抜けて退出していく。ミオーレは座り込むヘラルドを少し横目で見下げて、2つ目の扉で外へ出ていくのだった。
ミオーレ(これで納得・・・できるか!上手く辻褄合わせしたようだが
漏れ匂っている (事実)ではあるが(真実)ではない!
ジャックのあの態度・・・私が気づかなければ言い出さないつもりだったろ!
タンタどもが!一杯食わせたつもりだろうが顔面に吐き戻してやる!)
(タンタ この世界の現代日本で言う狸に相当する生き物 人を誤魔化し
逃げ切る例えに使われる)
天空騎兵隊がワイアームを運んでいる現場に歩み寄るミオーレ
兵士「あ!ミオーレ隊長!偵察から帰還なされましたか!!」
兵士2「我々は上空でワイアームの襲撃に追われ、地上では盗賊団たちが略奪に及んだそうですが、今日も防衛しました!」
ミオーレ「空の防衛戦、よくやってくれた、ご苦労だ。ところで・・・
私もその場にいたわけではないが、お前たちは地上での騒動に気付いていたか?あの城壁の残骸から見るに襲撃の始まり自体が激しいものだったはずだ。破壊音もうるさかったのだろう?誰か一人でも街に降りて盗賊たちを抑えようとしたか?まあワイアームたちはその隙もくれない数と勢いであっただろうが」
兵士「あ・・・」兵士2「・・・」
天空騎兵隊員たちはミオーレの問いに思い当たることでお互いに顔を合わせた後ミオーレに向き直り語りだす。
兵士「それなのですが・・・我々も解せないものを感じています」
兵士2「地上での一大事があったことに気付いたのは、ワイアームどもをすべて
倒して、死骸の回収作業に入ってからで・・・地上の兵士の報告で初めて知ったのです。」」
兵士「かなりの数だったとはいえ、そのようなことは近くの異変に気付かない程の飽和状態だったかといえばそれは違います。これが単なる注意不足によるものならば恥ずべきことですが、何十人といた騎兵の皆が誰一人として同じことを言うのです」
ミオーレ「お前たちもか・・・私もジャック隊長とヘラルド隊長に報告され
やっと空中戦があったことを知った。盗賊に襲われていた市民たちも防衛兵もだ。ワイアームが空を舞っていたなど誰も気づかなかったと」
兵士「隊長殿もですか!?」
兵士2「我々だけではなく、地上の兵や市民さえも、お互いにあったことを気づいていないと・・・どういうことなのでしょうか?」
ミオーレ「それなのだが、お前たちはその不可解をどのように例える?」
兵士「例える・・・ですか・・・」
兵士2「そうですね・・・視野は広くしていたつもりでした・・・ですが
地上のことは全く目にも入らず、それどころかワイアームたちが街に降りる恐れさえ頭に浮かびませんでした。それをどう例えるかと聞かれますと・・・」
兵士「そうだ!それもおかしい!我々だけではない!
ワイアームさえ一匹も下に降りる素振りがなかった!すべてが我々だけに向かってきた!だからこそ下の様子を気にせずに奴らと対峙することに集中できはしたが・・・」
兵士2「地上を忘れていたのは我々人間だけではない?あの場にいた生き物すべてがそうだったのか?」
ミオーレ「忘れていた?・・・そうだな・・・だがもう少し詳しい例えがあるような気がする・・・忘れるにしては場が近すぎるし、人だけでなくワイアームまでも地上が目に入らなかったなど・・・(忘れる)とは人間の自発的な行いだろ?なぜケダモノまでがそろって忘れるのだと思う?」
兵士2「忘れ・・させられていた・・・あの場の生けるものすべてが
天と地のそれぞれがお互いの存在を・・・」
兵士「もしや魔力か!?何者かがそういった視野を狭めさせる魔法をかけたというのか!?」
兵士2「そうだとしたら憂うべきことだ!騎兵隊は戦いに集中できたのではなく、集中させられたのだ!ただワイアームを消しかけるだけでは足りず、
我々の認識ごと塞いでその隙に盗賊たちは!奴らめ!!」
兵士「壁の魔法使いなる者がいなければ、ジャック隊長とヘラルド隊長が空の指揮を執って地上に行けぬ間にどうなっていたか!!ギルガども!オレが尋問役を買って出たいくらいだ!!狡猾な策を!」
ミオーレ(塞ぐ、壁・・・もしや・・・いや、あの少年ではない。
ジャックとヘラルドは最初から知ってたかのようだった。あの少年の力ならばあの2人だけが異変を認識はしない・・・共和国の全員が同じように認識を塞がれていなければ・・・認識阻害の見えない壁か・・・・・・
それがこのラクシアソル共和国の上空に?)
ミオーレ「それだ!・・・礼を言うぞ!話はここまでだ。仕事の邪魔をしてすまなかった。酒を飲む時間を遅らせてしまいそうだし、ここで失礼するよ!
今日もよくやってくれた!!」
兵士「隊長?・・・は!恐縮です!」兵士2「労いをありがとうございます!」
ミオーレ(まだ辻褄を合わせたいがための仮の考えだ もうかなり怪しいが
いかにいけ好かなくとも証拠も無しに人を責めることはできん
だが、認識を地上と空で絶つ魔法があったとして何のためだ
侵入者が来たときに偶然発動させた?ふん そんな偶然あるか
ジャックとヘラルドは盗賊たちに余裕をもって進撃させるため
天空騎兵隊の眼を地上から分断した ギルガどもと通じてな!
その確かな逃げ道のない証拠を集め、突き付けるのだ!
ネズミどもが 2匹とも尻尾を踏んでやる!まあ・・・・
懸念すべきは巣穴を掘っていくうちに
2匹どころではなかった場合だが)
ミオーレはワイアームを運ぶ荷車の列に並んで歩いていく。
横目で積まれたワイアームの死骸を眺めるうちに男性の声が聞こえた。
何やら仕切るように急かしている。兵士たちを
「そいつは傷が少ない!綺麗だから第一棟の研究室に運べ!
そいつはボロボロだ!廃棄候補だ! 第4棟だ!間違えるなよ!!
何をぐずついている!そいつは第二棟だ!もたつくな!ボンクラども!」
ミオーレ(なんだ?・・・)
「ち!ったくやかましい男だ!」
「あの爺さんめ!防衛兵団の指揮系統に属さぬくせに何様のつもりだ!」
白衣と赤い帽子を身に着けた小太り体系の、意地の悪そうな顔をした壮年
その男がワイアームを運ぶ兵士たちに指示を出している。
手際よく作業させているとは言えず怒る隙を探してはやし立てているようだ
兵士たちが反感しはじめていた。
「ん?おい!またお前かあ!!
ちょろちょろうろつきやがって!吾輩を監視でもしているのか!
こんな単純作業見ても学びにはならんぞ!?兵士どもも要領が悪いからな!
貴様は備品の整理をして正しく配置しておけ!
そんな態度で!博士になれるなどと思うな小娘!とっとと失せろお!!」
男が怒鳴りつける先には眼鏡をかけて、壮年の男と同じく白衣を着た少女がいた。人間の少女の体に加えて茶色い毛並みの犬の耳と白衣の後ろからさらさらした長毛のしっぽが覗いている。
少女は木の影に隠れてワイアームの分別の場を見つめていたが
男に怒鳴られると怯えた表情でその場を急いで駆け出して道に逃げた。
「ライカ、ここにいたのかい ワイアームたちに興味があったのかな?
ここは忙しいみたいだ 研究棟に行って備品を整理しよう 先生も手伝うよ」
ライカ「先生!ごめんなさい・・・私・・・」
眼鏡の白衣の少女ライカは、先生と呼ぶ同じく白衣を着て眼鏡の中年の細面の男性の前に止まる。怒鳴る壮年の小太り男と違い、口調もいで立ちも優しく、思慮深さがうかがえて他人に慕われていそうな男性だ。
ミオーレ「フリート博士 その子は?」
フリート「ああミオーレさん この子は最近外周地から来た子でして
物事を観察するのに優れ、生き物の姿を細かく書き写したり、
大人が労働の進め方に悩むと道具の効率のいい位置や使い方に気付いて作業を改善させて驚かせたり、普通の子供とはよい意味で違っていて、理解ある両親の頼みで私が研究員として推薦し、他の学者がたも彼女の才能を認めてくださり、研究施設に来てもらったのです。
ライカ、このお方は防衛兵団の隊長様だ ご挨拶をしよう」
ライカ「は・・・はじめまして!私はライカです!外周地から来ました!
私、他の子たちと体を動かして遊ぶよりも、自然や世界の物事の法則
そういうこと興味があって・・・だからお父さんとお母さんが
もっといろいろなことを専門的な場所でお勉強できるようにと先生たちに会って頼んでくれて、ここにやってきました。
あの・・・いつも私たちが無事に暮らせるように守ってくれて
ありがとうございます!おかげで私も落ち着いて好きなことを学べます!」
ライカは自己紹介と日頃からの防衛兵団たちへの感謝をミオーレに述べる。
ミオーレ「・・・ふふふ・・そう言ってもらえて私も嬉しいよ!
君はとても賢い子なのだな 幼いうちに自分が好きなものがあるのは素晴らしいことだ それどころか、強い向上心を持ってその素質を磨こうと
国の中枢にまで来てくれるとは頼もしいかぎりだ
君の様な子供がこの国で生まれ、我々を頼ってくれるのなら
それは給与以上の栄誉だ。私はとても感動している!ありがとう!
君が将来優れた人物に成れるように、私たち防衛兵団は弛まず努力する!」
「フリート博士!その娘がうるさく吾輩の周りでうっとおしく纏わりついておるのだ!速く連れて行っていただきたい!んん?」
ライカは驚いてフリート博士の横に回り、博士の白衣を握りしめる。
壮年の小太りの嫌な男が近づいてきて、ミオーレに目を移した。
「あなたは?天空騎兵隊の隊長殿ですかな?初にお目にかかる
吾輩はドクター・マルガス 新しくラクシアソル共和国、研究開発所で
室長を務め初めておりますゆえ、どうぞお見知りおきを!」
ミオーレ「いいえ、私は第8騎士団隊長、ミオーレ・オルティス
地上部隊の者だが天空騎兵隊も部下に当たり、任務の帰りに立ち寄ったまでです。ところで、研究開発所で人事異動が行われたとは初耳だ
これまで室長はフリート博士だったはずだが?・・・」
ミオーレはフリートをほうを向く。
フリート「・・・ええ・・それなのですが・・ここ最近の周辺国の情勢や
怪物や魔物たちの活性化が懸念され、その対処の開発が急務とされまして
敵性存在の分析や新たな有効武器の発明において注目されるマルガス博士に
人望が集まり、議会にて承認され、現室長はマルガス博士が就任なされております。」
ギルガたち盗賊団が初ではない。ラクシアソル共和国の周辺では国民を襲う単独強盗や女性にいかがわしく襲い掛かる者など暴力犯の出没が増え
人間以外にも危険な野生動物や怪物、魔物の発生頻度も上がり始めていた。
その脅威の解決のために魔物の体の解剖学や駆逐の分野
犯罪者を捕縛、もしくはその場で処刑するための方法論や武器
周辺国との開戦に備えた新兵器と戦術の開発 それら戦いのための知見が
優先して重要視され始めてきていた。その流れに乗るように
マルガスは熱心にそれらに関連する研究開発を努めて学者たちや議会にまで熱心にプレゼンし続け、国の意思決定の各所を納得させ
新たにラクシアソルの叡智を司る研究開発所の室長の座を射止めたのだった。
フリート「私の研究分野は自然や産業に用いる道具の新開発。それに
子供たちの学識向上のための教育指導の仕事もあり、
それゆえ荒事に関することは遠く、昨今の緊迫し始めた情勢を鑑みた結果、私も含めた賛成多数にてマルガス博士に室長を引き継いでいただいたのです。」
ミオーレ「フリート博士・・・」
マルガス「その通り!今この国は危機に瀕しようとしている!
今日の盗賊団どもの襲撃が有意なサンプルだ!敵を効率よく葬り、破壊力の凄まじさを他国に知らしめれば、国を守り通すことが可能!それを実行するため
吾輩は今日まで研究を死に物狂いで進めてきたのです。
隊長殿、あなた方と同じだ!我々はいわば同志!吾輩の作り出す新兵器が
あなた方をより強力に進化させるのです!
吾輩の叡智から編み出す力こそが、国の民全員を救いあげて導くのです!
ゴロツキや怪物や他国の軍隊も、全てが震えあがるような強大な力を
ミオーレ隊長殿、あなたも必ず感心するはず!是非吾輩の工房の…
ミオーレ「あーはい!よくわかりました。組織の枠を超えて手を携えていただければありがたい、是非ともお願いで(チッ・・・)」
マルガス「そのために!兵士たちに自覚を強く促していただきたい!
見てくださいこのワイアームの損傷具合を、こんなボロボロにされては
検体に不適格だ!もっと的確に急所を狙って効率よい戦い方を指導していただけませぬか?」
マルガスは近くの荷車に載っている天空騎兵隊に激しく攻撃を受けて
損傷の激しいワイアームの死骸に歩いて行くと、懐からナイフを取り出す。
マルガス「講義をお少し!ワイアームの頭骨はこのように」
グシャリ・・・・・・・
マルガスはワイアームの左眼の後ろにナイフを深く差し込む。
そして頭骨ごと肉を穿り回して肉片を取り出す。
マルガス「このように頭骨同士の結合緩い箇所があり、弓矢や火器で十分狙いやすい箇所だwここを射抜けば無駄な動きでやたら斬りつけなくとも速やかに
殺せるwどうです!!ここならば脳髄にすぐ届きます!w」
得意気に見せびらかし、研究熱心というよりは凶器に酔うような
歪みのある笑みを浮かべる。
それを見て嫌悪を催すなら良識があるほうだと一般には思われる光景だ。
ライカ(ひっ・・・)
その陰惨さに目を閉じて下にうつむくライカ
スッ・・・・
ライカ(・・・・!)
ライカの顔の前に、ミオーレの右手がかざされる。子供の無垢な心に
見るに堪えないもので暗い影が刻まれるのををさえぎった。
ミオーレ「的確な急所を教えていただきありがたく思います ですが
すでに死んでいるとはいえその命には敬意を払っていただきたい
ましてや子供の前なので」
マルガス「はへ?敬意・・・ですか?こ奴らは国を襲った敵ですぞ?
防衛兵団の隊長殿はワイアームが好みですかな?
女性なら毛のある暖かい血の動物を好くと存じますが・・・・
このような変温の鱗の怪物に関心があるとは
貴方も研究者的な気質があるようですな!」
ミオーレ「確かに倒されるまでは害をなす敵だった。
しかし彼らはただの動物。それ自体に悪意を持っているとは思えません。
悪意ある者によって操られなければ山で我々と関わらず生きていたはず
哀れでもあります。命の尊重というこの国の理念がある。」
マルガス「?それは一見下らぬ生物にも資源として価値があるとかそういう見地…
ミオーレ「そういう私も!
彼らに捧げる懺悔を忘れてはいた・・・・
マルガス博士が抗議していただけたから思い出せたのです。
感謝をいたします。」
マルガス「?・・・なにやら的を得ないですが・・・役にたったのならば結構!では!吾輩めはこれで!課題が山積みでしてなあ!
そうそう!重ねて言うがその小娘には吾輩の近くをうろつかぬように!
厳しく言ってきかせていただきたい!では!」
マルガスは振り返ってまたワイアームの死骸を仕分ける兵士たちをはやし立てに戻っていった。ライカは悲し気にうつむいている。
ミオーレがライカの頭にそっと手を置き、左ひざを地につけてしゃがみ
子供の目線に合わせて優しく語りかけた。
ミオーレ「嫌なものを見てしまったな・・・これ以上生き物の死骸をもてあそばぬようにマルガスに注意しておくよう皆に言っておく・・・研究職は残虐なことをする免罪符ではないと私も思う」
ライカ「・・・!」
ミオーレ(マルブタだかマルバスだかあの男・・・この国の所属でなければ
足元に短剣を投げ刺して黙らせていたところだ 悪趣味が過ぎる・・・
いけ好かない奴がまた増えたな)
フリート「じゃあ行こうライカ、備品を仕分けなければね わからないことは
先生が手伝うから」
ライカ「先生…私・・・」
フリート「ライカも、ワイアームたちが可哀想に思ったのかい?それは大切なことだ。生き物を研究する前に命として受け止めることは、
研究者としても、ミオーレ隊長がおっしゃったようにこの国の理念としても」
ライカ「そう・・・でもそれだけじゃないです。私、どうしても気になることがあって」
フリート「他に何かあるのかい?」
ライカ「はい・・・今日盗賊たちとワイアームたちが空と街に来た時
空の騎士さんたちは下を見なくて、街の兵隊さんたち、いいえ
街の人たちも空を気にしていないのが見えたの
最初は余裕がなくて目の前だけしか気にできないのかな?
って思った。でも違うの。
誰も空を少しも見ないし、下の街も見ない。見ないんじゃなくお互いに見えていないみたいで 普通じゃないと思ったの。何か不思議なことが起きてる。
でも「不思議」ってだけで済ませたらいけないと思ったから・・・私・・・」
ミオーレ「!・・・小さな博士さん!・・・もう少し詳しいことはわかるかな?それがね・・・私も非常に気になっていたんだ!
これは解き明かさないといけない謎だと思う!
私は君の鋭い観察の眼を、今とても頼りにしたい!」
ミオーレがライカの肩に手をかけて快活に頼み込んでいると
ライカのマルバスの高圧で怯えた表情が明るく微笑みに変わった!
憂鬱な感情が、垂れていた犬耳が少しピンと持ち上がったことで晴れてきているのがわかる。
ライカ「(わぁ///)はい隊長様!