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第一壁 転移と邂逅

世の中には攻撃力を高く盛って突き詰めたお話は多々ありますが、

防御能力で簡潔に強さを表現した作品は少ないと感じ、

心優しき主人公が防御で大切な味方を、時には敵になる前の分かり合えるかもしれない誰か

改心の可能性を残した敵をも守ることで

善とはなにか 悪とはなにか その答えを出す冒険を描きたいと思います。

いいことと悪いこと 善悪とはなんだろう


悪とはなんだろう 何かを盗むこと?人を騙すこと?人を憎悪で貶めること?

人を殺すこと?                   人を傷つけること

動物を殺すことは 食べるためならいいという

生きるために仕方なく 誰かが自分や大切な人を襲ってきたら

それは許されるという

 

 悪とはなんだろう いつどこで生まれたのだろう


善とはなんだろう 何かを与えること?人に本当のことをいうこと?

人に愛の言葉をかけること?人の命を救うこと?    人を癒すこと

動物が襲ってきたら殺すのはいいという 楽しむためならいけないという

本当にしてほしいことを知らずに 助けたと勘違いするのは傷つけるだけで

それは許されないという


 善とはなんだろう いつどこで生まれたのだろう


どうして人は悪いことをしてはいけないのだろう 

どうして人はいいことをしなければならないのだろう

2つは人々の中で、生まれた時はどちらでもなく、生きていくうちに善と悪は分けられる 壁で仕切られるように


 眼鏡の少年 真加部真守まかべまもるは登校時の駅で電車の遅れにあう。誰かが飛び込んでしまったらしい。

ホームの人々が口々に囃し立てて騒がしい朝

 

「また電車が止まったあ!会社に遅刻しちゃうよ!」

「バイト先に電話しよう」

「ライブ間に合わないんだけど!(# ゜Д゜)どうしてくれんの?」

「ホント迷惑!!死にたいなら一人で死ねばいいのに!他人をまきこんでんじゃねえよ!!」

「速く片付けろよ駅員!」


 真守はこれが嫌でしょうがなかった。朝は目覚めると雀の可愛らしい声に和み、陽の光で眠気を取り払い、母親の作った目玉焼きとソーセージのおいしさを頭に残して爽快な気持ちで家を出る。だがこれでまた台無しだ。

電車が遅れたことではなかった。真守はまだ見ぬ人の痛みを想像する感受性の強い少年 電車を止めた人物を責める人々の声 心無い呪いの罵声

 どんなに気分を整えて登校してもこれで気分を悪くしてしまう。

飛び込んだ人物を責めるなど真守にはありえなかった。あんな鋼鉄の塊に自ら割り込むほどの命を捨てざる得なかったその人の痛み、悲しみを想像する。 

何があったのか?見ぬふりしようとしても真守の頭の構造上それはできない。

なぜホームの人々は誰かが命を捨てなければならなかったほどの痛みを思わないのだろう。自分に予期せぬ邪魔が入って怒る声ばかりが聞こえる。

 その人の弱さが悪いのか そういう人々が多いから追い詰められたのではないか?

それでも 

 真守は鬱屈した想いをしまい込んで学校に向かう。会社に行く父親もそうだが、多少の嫌なことをしまい込む最低限の我慢を誰しもして人は生きるのだと自分の甘え、不甲斐なさと、環境で他人から受ける圧力に折れる被害

その境界もたいていは曖昧なものだ 真守はそれもわかろうとした。

数年後のちかいうちに社会に自ら出るのだから


???「今日も誰かがいなくなったみたいだねー」

真守「?」

???「飛び込んで電車が止まったんだろう?いろいろ社会は便利になってるのに、むごいことが起きるのはなんでだろうね 可哀想に」


 遅れた電車に乗って改札から出た気さくに真守に話しかけてくる高齢の女性

その人は真守が高校生になって電車登校をするようになってからこの駅で高い頻度で会って話す人だ。話すついででたまにジュースやコーヒーやパンをくれる。このお婆さんのおかげで弁当を忘れた日も助かっている。

 

 お婆さんは近くで昔ながらの駄菓子屋のようなコーナーもあるゲーム屋を営んでいる。それで入ってくる子供たちを相手にしている。他の大部分は人気の名作や新作のボードゲームなどを売っていた。店と兼用の実家の居間には将棋盤が置いてあり、同世代の老人とも打って負かしているという。

格闘ゲームとシューティングの筐体も4台ある。PCのアダルトゲームも一時期は置いてあったがいろいろあって撤退した。


真守「ええ・・・またありました。」


???「また元気がないねえ 嫌になったかい?もう当たり前に起こることで

なんとか無くせないのかねえ」


真守「みんな・・・予定が遅れたことを迷惑がるばかりで、人が自分で命を絶つって悲しいことじゃないですか?ヤバいことですよね それがボクは嫌だ

いい子ぶるとかじゃなくて生理的に正直な気持ちです。」


???「おや、みんなではないよ?たまたま嫌な声がその場に固まっててそれしか聞こえないだけさ みんなが仕方なく死んだ人を責めたりはしない

口に出さないだけで その人たちだって一度はむっとしただろうけど

その後に黙って冥福を祈るぐらいはしていると思うよ?人間はそんなものさ


真守君はやっぱりいい子だよ 生理的に正直に、人を思いやれるんだから

世の中は真守君に近い人のほうがずっと多い そしてこれから人の世界が進んでいくうちにもっと増えていくはず 文明ってのはそういうものだと

おばちゃん思うねー そういう人はほうっておいていい人たちに眼を向ければ

真守君は気が楽になれると思うよ じゃあ長話もなんだしこれ!」


 お婆さんはそう言って苺牛乳とソーセージの挟まったパンを真守にくれた。


真守「えへへ・・・今日もありがとうございます!」

???「いってらっしゃい!今日も元気に!」


 嫌な想いもこのおばあさんとの触れ合いで大きく軽減され、真守は少しだけでも世の中に失望せず気楽に生きていけるのだった。

 

 学校の教室に入ると、気になる話題があった。


「聞いたあ?あの子飛び降りたらしいよ?」

「それそれ見た見た!男に騙されて振り回されたんだよね!」


 1人の女生徒の突然の訃報 彼女は真守と仲のよかったクラスメイトだった。真守とはゲームや漫画のサブカル趣味が合い、たまに他の女子に見せるスマートフォンの画像で着ていた服はゴスロリで可愛らしかった。少し気にはなっていた。どうして

 女子2人が泣いていた。2人は彼女の友人で大きくショックを受けていた。


「あ・・・マモル君・・・」「あの子・・・死んじゃった・・・」

真守「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何があったの?」


「あの子、自分が大切にされてると信じてて、でもそううまく思い込まされてただけで たまたま携帯みちゃったら他の女の子のいやらしい画像いっぱいあって、怒ったら殴られて自分もそういうの撮られたって!相手は逮捕されたけど」


「あの子 ゲームとか漫画とか好きだけど そういうのただ好きな男子じゃなくて、できれば一人前の男の人と付き合ってみたいって思ってて

背伸びしてみたって・・・そいつは優しくてしっかりしてるって思ってた。

でも甘かったって」


 真守も茫然としたが、悲しむ生徒ばかりではなかった。むしろ少数派


「なんか誘った男がさあ 同じオタクっぽかったんだって でもイケメンでモデルみたいな奴で そういう趣味の女に近づいていい感じになるの

でもある程度になると豹変してあとはお察し  そういう女って男見る目なさそうじゃん?だからまんまと騙されてさあ 他にもいっぱい付き合ってた女がいてー問い詰めたら酷いことされたって遺書が」


「そうなんだー でもあの子けっこうメンヘラじゃなかった?あんまショックじゃないっていうか 周りにいっつも冴えない男子ばっか寄せてたじゃん

いかにもそういう男が好きそうな子だったよねw」


「当の本人はクズイケメン本命でそいつら搾取されてただけってのがねwww笑えるww」


「おいおい不謹慎だろうw」


「本人もまた搾取されてた獲物の一人だったってのが食物連鎖かんじるw

生物の勉強ww」


「メンヘラが自業自得で身を滅ぼしただけって思えば悲しさ感じないww」


「ねえww一応冥福祈っとくけど なんみょーほーれん」


 ここでもこうだ あの子は悪い人ではなかった。話してると楽しかった。

友達だった。しばらくしたら好意が膨れ上がって告白することも考えた。

まだ恋人などではない関係だったが大きな喪失感

 ただ高いレベルの恋愛に夢見ていただけ 愚かにも思えるが その過ちをもって笑い話にされる。真守は彼女とメール交換もしてその日の楽しいことや

なにより彼女がときより匂わせる悩みを真摯に聞いていた。

力になれていると少しでも思っていた。だがそれは勘違いだった。

 真守は立て続けに起こる悲しみ、それを軽く扱うことで和らげようとする

人間の軽薄さ、醜さに無力だった。


 彼女の葬式に出る。彼女の遺影に向けて線香をあげて手を合わせて家を出ると彼女の母親が裏庭でタバコをふかして参列者と雑談している。


「・・・なんかねえ・・・放任しすぎたかなって・・・離婚もあって負い目感じてたから怒らないようにしてたけど・・・バカになっちゃった・・あーあ」


 数日後から真守は学校に行かなくなった。街にも 

真守は引き籠った。


 


 


 しばらくは布団をかぶり、塞ぎこむだけだった。

それでも、失意に堕ちてばかりはいられない。現実の人間の暗黒面に耐えられず眼をそらしても、あのお婆さんの言っていたことも片隅に残る。

自分の見たかったものはなにか 正したいことはなにか

自分の理想の世界を作りたい。それは・・・・・・ゲームだ

あのお婆さんの生業も照らし合わせて 

あのお婆さんはゲーム屋をしながらいい言葉をかけてくれた。

あのお婆さんの境地をなぞって至りたい。そうすれば強くなれるかもしれない


「僕はひきこもりだ 学校が面倒くさい でもただこもっているわけじゃない

僕はゲームを作ることにした。家事も日中は僕が進んでやっている。

どうせ 今の世界はテレビ、ネット、リアルを見ても嫌な人間が多い・・・

と思う。

 そんな社会から流れてきて纏わりついてくるよくわからない道を選ぶより

これがやりたいと思ったことを見つけた。だから学校を離れることに後悔はなかった。あんな子たち

どうせ卒業後それぞれ違う人生のみんなとなんとなく過ごすのは意味がない。

これでいいんだ。」


「ゲームのジャンルはRPG いわゆる剣と魔法の世界 とはいえ勇者が道中の敵と戦って最後に魔王を討伐して世界を救うというのはよくある古されえたものだ。僕自身そんなシナリオのゲームを飽きるほどプレイしてきた。僕は新しい展開を望んだ。だからこそやりがいがあるんだ。」


部屋にこもりPCを見つめてキーボードの上を踊る指以外は彫刻のように動かない彼だが、その身の中には己の本分を掴みかけて燃焼し始めた情熱と

その目には生きた光がともし始めてきている。

薄暗い独房で外界を絶って無為に過ごす生気の抜けた死んだ魚の目で排泄物を製造し続けるだけの肉の器物とはまるで異なるものだ。


「ステージを作るってなかなか進まなくて萎えてくるなあ・・・( -᷄ω-᷅ )

そうだ ゲームには特典がつきものだし、最強武器とか

だけど攻撃力の高い武器はありふれてる。何より標的がどう崩れるかの表現も作りこまなきゃならない。同じように萎えそうだ。


 それにボクはもう「攻める」とか「傷つける」とかしばらくは嫌だ! 

防具がいい。敵を倒しきるよりも自分や味方を守りきるほうが素敵じゃないか

何より防御の表現って複雑な表現いらなそうで簡単そうだし

手抜き・・・いや手軽でスッキリだ。防御力は9999で


いや・・・ちょっとまてよ?それだと物理的に強いだけでまだ足りない。

毒で壁を溶かされたらダメだ。

毒 炎 雷 氷 酸 

状態異常遮断も・・・て、これだと状態異常の種類ごとに耐える表現をつくらないといけないじゃないか!やっぱり面倒だ


物理や化学攻撃だけじゃない

空間ごと豆腐みたいに斬る剣だってあるはず 時間を止められて回り込まれでもしたらいくら硬くてもなんの意味もない!バリアとかはそれで攻略されるだろう バリアは却下だ


それに単純に物凄い速い攻撃で構える前に攻められたら?

防具なら盾だけど、盾なら弾き落とすことができるし無敵とは言えない

何かいいのは・・・


やっぱり真面目にステージづくりに戻るか この煉瓦の壁は地下ダンジョンに

この石造りの壁は街の道路の脇に・・・楽だな ただ敷き詰めればいい

当たり判定もないし・・・・・


当たり判定?・・・・・・そうか!思いついたぞ!

無敵の防御に難しい御託はいらない!なんもいらないんだ!

当たって変化を受けるなんて防御力9999あってもその時点で脆いじゃん

閃いた!持ち運びのアイテムにはしなければいけない

でも防御力自体に作りこみしない 何もしなければそれ自体はどんな攻撃をあてても壊れない 何も起きない 変化がない 誰にも変えられない

当たり判定なんてつけなければいい!

それに壁! 

盾とかを持つ時点で構えというものが生じる バリアも呪文詠唱とか

最強最速の攻撃を持つ相手にはそんな余裕はない

壁を出す!ただ出す!構えも詠唱もなく無言で立ってるだけで普段は隠れている壁が出るんだ

攻撃を見てからでもまだ遅い ならば相手の攻撃が起こると同時に

反射的に自動発動するようプログラムすれば!一瞬に!0秒ってくらいに!

当たり判定もゼロ!発動時間もゼロ!

できたあ!

また手抜き・・・いや画期的な閃きだ!・・・・・・



一度休息期間にしてもいいよね よっし」


 両手で膝を叩いて万歳で上半身を伸ばし凝り固まった体をほぐす。

ここは二階 椅子から立ち上がって部屋の窓へ歩きだして外の景色を眺める。


「ぷはー‼

晴れてるなー そういえば何日も散歩もしてないや やることやりまくったし部屋の換気もしたし

気分も喚起するか―…ん?(クンクン)…くっさ!風呂も忘れてたからなあ まず朝風呂だ」


善良なる努力のひきこもりと言えども 長期の彫像化による熟成した香りだけは悪性のひきこもりと同質でしかないのだった。


「さてと・・・」




だがシャワー室へと踵を返したその時である。


「え?・・・・・・・」


わが目を疑う

窓の外を見返した真守の瞳に


太陽の光を割り込み映ったのは  


大型トラックの前面


なにかの拍子なのか 車体が豪快に飛び上がり、

真守の家の二階の自室まで空中に舗装された見えない坂の道路を昇るが如く

無情な鉄塊は乗りあがり 真守ごと家屋に突き刺さったのだった。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘だろ?・・・・・・・・・・・・

これは何?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カミサマ・・・・・こんなのありかよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「事故だ!トラックが家の二階につっこんだぞ‼大変だー‼」

「きゃああああ‼」

「窓に人がいた‼見たもんオレ やばいぞ‼救急車だ‼」


鳴りやまない通行人たちの悲鳴と喧騒がざわめいて 真守の意識でフェードアウトしつつある。


真守の自室の世界は変わった。川岸の岩のように砕けた壁 割れた窓のガラス欠片

「これだと」人生をかけた本気の作業をこなすために夜に飲み干されたエナジードリンクの空き缶

小さい時からやりこみ、プレイヤーから作り手へと変わるため研究し続けた数々の往年と新作のゲームソフト 


紅い血だまりの海


全てが床に残骸と化して配置されて その世界が終焉を迎えた。


真守の五体はすり潰され 全ての力が抜け 意欲 希望 絶望 悲しみ 後悔 あらゆる感情が蚊風のように抜け 空っぽの骸 亡骸へと 目は消灯して瞼が閉じられた。



少年の生は終わった。


???「やってくれたねえ・・・真守君・・・かわいそうに・・・

    だがただでは終わらせないよ 絶対にこのままで済まさない

    そっちがそんなズルするならば・・・こっちもいくよ?

    真守君は新しく始まるんだ・・・そして奪われたものを取り戻す

    あなたはとうとう戦いに巻き込まれた だからあなたの思い描く

    無敵の力を目覚めさせる・・・こちらのとびっきり強いコマとして

    

 いつもの駅前で待つ老婆が トラックの刺さった真守の自宅の部屋を

近所の通路で人混みに紛れて後ろ手を腰に組んで落ち着いて見ていた。    



現代日本ではない 闇の空間があった。しかしその空間はただ黒く染まらずにおり 黒い色に流れがあった。

静かだった。だが激しかった。凄まじい本流 音のない闇の濁流


「僕は・・・・・

 

 死んだのか・・・・・」


真守の意識はこの空間で かすかに目覚め始めた。


「死んだ・・・・え?ちょっと待てよ?・・・・どうして死んだとわかるんだろう?・・・・・

死んだなら考えることもない…言葉も出てこないはず・・・意識すらないんじゃ?・・

何もないはずじゃ?・・・もしかしてここはあの世なのか?・・ここは…死後の世界?・・・」


亡くなったはずの意識がまたはじまった時 命を失った時までの多くの想いが強くなり

巡りだした。


「・・・・はッ‼・・・そうだ・・・僕は・・・僕にはやることがある・・・やるべくことが・・

やりたいことがある!どうして今なんだ? まだ死ねない!僕は作り上げるんだ!僕のゲームを!


引きこもったことか?心のない人たちと向き合う面倒なことを捨てて、

みんなのように街や学校に行かなかったから?それが罪なのか?

心が蝕まれそうなことを弾いて自分にとって本当に必要なことのために

他のいろいろなものを捨てるのは悪いことなのか?



闇の流れがその世界に横たわって浮かんだ少年の意識のオーラだけの体を彼方へ運んでいく。


「いや 違うだろそんなの

納得できないよそんなの!嫌なんだ! いや・・・嫌よりも「ダメ」なんだ!

ここで僕が消えるのは!・・・・ボクだって強くなって誰かを救ってみたい!

世界をよくしたい!

絶対にダメなんだ! ボクは死にたくない!・・・僕は蘇りたい!・・・僕はまだ・・・


         「ボクは・・・生きる!!」




暗黒の空間の闇の海流はそれぞれが別方向にのたうつように向こうに進んでいた。

だが大きく開いていた各々の角度と幅が 徐々に狭まり始めた。

まるで真守の強い心の叫びに応えたかのように 

その流れは一つの点に向かう様に狭まり やがてすべての流れが合流した。


(ピカッ)


 突然闇の流れが結んだ一点からかすかな小さな光が、そしてまばゆい閃光が生まれ、ビッグバンのように大きく育って無明の闇を塗りつぶして光の軌跡が急速に展開する。


「!?うわあ!」

 真守はまぶしさに瞼を閉じ右手で顔をとっさに覆う。

やがて光は空間の全てを覆いつくし 黒い流れは消え去った。先ほどまでとは真逆の輝かしい白金の新世界が誕生した。


 閉じた目を光に潰されぬよう恐る恐る見開いた。


「あの日、あなたには何も起きないはずでした。心を晴らし、また電子の箱の前に座して挑み続ける日々を送るはずだった。しかし、あなたの存在を障害ととらえた悪意ある者の手により命を落としたのです。」


「え? あのトラックの運転手が僕を憎んでいたということ?

それとも運転手も弱みか何かを握られてやらされていた?

僕は運送業界に怨まれるようなことなんてしてないぞ?

それに一階ならともかくどうやって二階まで乗り上げたんだ?」


「いいえ、あなたの世界に生きる者が物理的な細工により行ったはかりごとではありません」


「・・・どういうことですか?・・・物理的じゃないって・・・」


「それは運命・・・因果の操作によるもの あなたの・・・というよりは

あの乗り物の運転手の運命を捻じ曲げることで あなたを間接的に葬った。

あの人こそ悪意ある者の最大の被害者であるでしょう。」

空間に水面に映る鏡像のような光景が映った。

作業服の男性 事務室から出発の報告をして トラックを走らせ

彼の視点になり 玄関のドアを開けると玄関に彼の妻 遅れて廊下の向こうから幼い息子と娘が走り寄ってきた。

抱えあげられた息子の笑顔が大きく拡大された。

そして

映ったのは真守の家の近所の通行路

いつもの安全運転第一の運転 目的地へ荷物を届けて事務所へと戻り

家族の待つ家へ帰るはずだった。だが

トラックの前に道路に沼の様な円が現れそこからローブを纏う 幽鬼、死神のような何者かがゆるやかに 不気味に這いだして進路上に立ちふさがったのだ。


「・・・・え!なんだこいつは?止まって!やばいぞ!止まるんだ!」

過去の映像でも思わず脅威が迫る運転手を案じてしまった。


 だが運転手にはその存在が全く見えていなかった。

そのまま眼前の何もないはずの方向にトラックが走る。


トラックがその者の近距離に迫った時 その者が脇に添えていた左手の掌を上にして持ち上げて掲げると トラックの前輪の裏側の地面から突きあがってきた。どす黒い泥で形作られた指 手首 肘までの巨大な腕 巨人の腕の様な

腕が5mほどの高さまで真上に伸び 

10tほどはある大型トラックは空へ突き上げられてしまった。


「・・・なんだ・・・これ?・・・・」


 真守の家の二階の窓に衝突したあの時の別の視点の一連の詳細を真守は茫然と見ていた。あまりに非現実的で超常的な現象に 

ありえない あってはならない凄まじい悲劇に


「逃げろおおおおおおおおおお!!」


「え?」


「逃げるんだああああ!!」 


 実はあの時気づいていなかった。トラックが空を飛んで二階に突っ込むなど

その事実を脳が受け入れがたく思考も動きも止められていた。


だが家屋へ衝突すると悟ったとき、その部屋のなかに少年がいるのに気づいた運転手は何度もクラクションを鳴らしていた。

そして叫んでいた。せめて少年に逃げることを伝えて 突然の災いでも

間に合わなくとも この一瞬で最後まで 運転手自身から惨事に巻き込まれる少年の無事へと願いが移って



 真守は表情を悲しみに曇らせた。

死後に最初に思ったのは自分の理不尽な死による無念の怨嗟ばかりだったがその後に死を運んだトラックの運転手への怒りを思い出そうとしていた寸前。しかし知った。あの運転手も決して不注意を欠いていたわけでもましてや悪意をもっていたわけでもなかった。真っ当に社会に貢献して家族とともにただ幸せで日々を生きていただけだった。

死においやってしまう少年を最後まで藁をもつかむ思いで案じていたことも


「あのう!! あのトラックの人はどうなったんですか!?まさか

あの人も・・・・亡くなって?・・・・」


「あの方は無事です。法による調べを受けることになりましたが

あの様な不可解なできごと あなたの世界の知見ではあの方が悪意で起こした出来事だとは判断することはできないでしょう?彼が咎めにより大きなものを失わされることはありませんでした・」


「よかった!!・・・・」


「・・・・」


「本当に・・・・よかった・・・・」


話を遮って出た言葉 真守は安堵していた。強く 

運転手のせいではなかったこと。

運転手の命が助かったこと

取り返しのつかないことをさせらた罰を受けなかったこと。

善良な人として失ったものが何もないことに 自分が死なせられたことを一度

脇に置いて忘れるほど やるせない心の痛みの多くが消えていた。


「しかし・・・」


鏡面の場面が映し変わった。あの運転手の家の中が映された。

運転手は居間のソファーに腰掛け 後頭部に両手を当ててうつむいている。

その体が震えている。

妻と子供たちは彼の体に寄り添っている。


「・・・・この人は・・・」


「彼は打ちひしがれています。彼が起こしたことではありません。法は彼をさばきませんでした。けれど奪われた命は戻ることはないと 法ではない彼自身の罪として受け取った。その重すぎる業を背負って生きていくことが 果たしてできるのかと」

次に映し出されたのは 真守の両親だった。真守の遺影を見て

父はふさぎ込み 母は激しく泣いている。

運転手もその場に来ていた。二人に向けて両手を床につけ頭を深くさげて

謝罪している。激しく何度も 頭を床に打ち付けて叫びつづけていた。

後悔と自責の念を 償いきることが到底できないと 言葉をなんど放っても


場面が変わった。インターネットの掲示板 SNSに投稿された文章

その多くは 運転手へ向けた批難 それどころか運転手への辛辣な中傷も


「・・・止めろよ・・・・その人は何も悪くない!・・・その人のせいじゃないのに・・・僕を殺したのはその人じゃない!・・・あいつのせいだ!

僕を殺したのはあの訳の分からない奴なんだ!・・・なぜなんだ?・・・なんでこんなことに・・・あの化け物はなんで・・・僕が邪魔だって?

なぜ僕を自分で消しに来ないんだ?なぜ他の人を巻きこむ必要があるんだ?」





「あの一瞬で僕は・・・・壁があればいいと思った。家の壁じゃなくて

強くてバリアーみたいな壁が一瞬で現れたら僕もあのトラックの人も守れたんじゃないかって もしあの化け物みたいな奴と出会ったら 

戦いというものになったら 誰かと喧嘩して勝とうと思ったことなんてないけど もし戦うなら初めから攻撃するより まず自分や味方の人に攻撃が当たらないように攻撃に反応して一瞬で出てきて 一枚だけじゃなくたくさん呼び出せて 疲れていても 眠って無防備な時でも勝手に表れて エネルギーやコストとか関係なく何度でも使える 

それに あの運転手だって悪くなかった。だれかにやらされて仕方なく

何かされたとしてもその相手が敵かは限らない そうだ あの化け物みたいなのだって もっとやばい上の奴らに脅されて命令されたのかもしれない

だからまずは自分の攻撃力がやばいとかじゃなくて相手の攻撃を完全にとめて それから事情を聴きたい。対話して確かめたい。

もし敵じゃないかもしれない相手を倒してしまったら 何かがこじれていくかもしれないし ていうか僕が誰かを殺してしまうとか できれば考えたくないっていうか 仲間になれたかもしれない誰かを敵にまわさないチャンス

そういうのはないよりあったほうがいい思うから」


「あなたを再び世界に送り出します。ただしそれは元の世界ではなく別の世界

で あなたはあなた自身の人生も取り戻し そしてあの運転手の人生も戻したいと思った。そのためには災いを企てた黒幕にたどり着き 邪悪を終わらせなければなりません。」


「別の世界?で」


「では 新たな命を受けとってください。あなたの進む道に光があり続けることを」


光球がさらに強く光を放った。初めに闇で、次は真っ白い光で空間から視界がなくなった。つぎに音までもが出た。地響きのような轟音で空間そのものが激しく揺れ動いた。


「!?わあ!」



 真守は二度目の意識の途切れを経験した。



草原があった。青空があった。鳥たちのさえずりがあった。土も空気も水も太陽の光もある。一見どこかののどかな自然


 真守の体が草の上に置かれていて 瞼をわずかに開けると戻った意識が

驚きの続きを再開させ、飛び起きた。


「わあ!!・・・・あれ?・・・・ここは・・・どこだ?

これが・・・別の世界?・・・」


当たりを見渡すと草原と言わば 近くに森林があり遠くには山々が見える。

額が暑くなっていくのに気づいて手を眉毛のあたりに人差し指の側面をつけて水平に添えて空を見上げた。太陽の光だ。


「光・・・そうか・・ずっとこもってたから久々に外に出て太陽の光を浴びに行こうとしてたんだ・・・」


思い出したように背伸びをする。久々に浴びた日の光はとても気分がよかった。


「うーん!やっぱりたまの日光浴は気持ちいいや!」


この場所に送り出してくれたのは あの声の主の餞別か優しさだったのだろうか


「・・・さてと!これからどうやってけばいいのかな・・・服は着てるけど

なんかファンタジーで見る町の人の地味な服っていうか

住む家は・・・・ない・・・・お金もないみたいだし・・・・あ!

食べる物は!?・・・・」


服のあらゆるポケットに手を入れてみるが


「食べ物もないみたい・・・生き返らせてはくれたけど何もくれずに送り出すなんて けっこうひどい人なのかな?・・・まさか自給自足で暮らしてけって?家事はやってたし料理も全くできないわけじゃないけど・・・外でのサバイバル経験とかないしな 小さい時にキャンプしたぐらいしか・・・はあ…」


 とりあえず森の中に歩き出してみた。鳥や虫たちの声が豊かに騒がしい。

現代日本で言えば初夏ぐらいの季節のようだ。


「食べるとすれば・・・まずは木の実とかか・・・素人の判断でキノコはやばそうだし 生き物を捕まえて食べたこともないしそれはまだ嫌だし ナイフとか道具もないしなあ…・いや、そもそもこの世界のものはボクの体にあうのか?・・・木の実も毒だったりして・・まさかそんな世界に送り出すわけない・・よな?・・・」


森に入って10分ほどたった。歩き続けると 


シュバ!


 真守の3mほど前に小さな生き物が飛び出してきた。外見はウサギとよく似た毛のある生き物。


「お!なんか出た!うさぎ?この子を・・・食べるのは可哀想かなあ」


小動物はそこにあった草を食べ始めた。


「いいなあ 食べる物があって その草食べれるかな?」


 真守も草を手に取ろうとかがむと草むらから今度は大型犬ほどの生き物が飛び出してきた。


「あ!」


オオカミはウサギにとびかかり、ウサギの体を前足で押さえつけ頭の上から

噛みついて捕らえた。ウサギは体を揺らして激しく鳴いて抵抗するが

オオカミは暴れるウサギの首を咥えたまま草むらに駆け戻っていった。


「・・・そうか・・ウサギもオオカミが食べるんだ・・・ボクも可哀想とかいってられないかもな・・・う・・まずい」


野草を食べてみたものの とても食べられる種類のものではないようなので

立ち上がってさらに森を歩いていく。


どこまでも木々のわけではなく開けた場所が見えた。一度途切れる森の木の間を抜ける。


(また広いところに、うん?あれは!?」


抜け出た平地に真守にとって驚くものを見た。数頭の馬が しかもその馬たちはみんな背から大鷲のような翼をもった ペガサスである。


「この生き物ってペガサス?・・・ペガサスなんて伝説やファンタジーでしかみたことない 本物のペガサスなんて この世界にはほんとにいるんだ!

すごいなあ やっぱりここは異世界なんだ!なんか・・・不安だったけど

ちょっとワクワクもしてきた!」


(ぐうううううううう)


「・・・・ここの草は食べれるかな?」


異世界のまだ見ぬ体験を楽しむ前に命をつなぐため腹ごしらえをしなければならない。


ペガサスの仔馬が一頭走り出していく。その先に一頭の大人のペガサスが仔馬に向いて立ち止まっている。


「お母さんなのかな?」

草を採集して吟味しながら親子らしき2頭の様子を見守る。

仔馬は大人のペガサスの前について首をかしげて見つめた。

相手に鼻をつけて匂いを嗅ぎまわしている。


 嗅ぎまわすのが長い気がする。同じ群れの仲間なら見知っているはず。

まるで初めて見る相手を調べるような様子である。

あの大人のペガサスは同じ群れの仲間ではないのだろうか

違うグループから来た一頭?それ以外に気になることがある。

そのペガサスは立ち止まっている。だが立ち止まっているだけ。

呼吸でうごく肩の隆起も 耳を上下させることも 尻尾を振ることも 

ペガサスもおこなうが、鳥が地上に降りて歩くときの翼の何気なくおこなう羽ばたきも

全くしていないわけではないが他のペガサスたちと違って淡白に見える。

ペガサスを象る器物が、よく見れば定期的に単調な動きを真似ているかに見える。

違和感が出てきた。


群れにまとまっている大人の一頭が仔馬を呼ぶように嘶いた。

仔馬はそれに耳を立てると群れの大人たちのほうへ向き返し

輪の中に戻ろうと駆け出す。


その時だった。

直立不動のペガサスの顔が真ん中に沿って割れたのだ。頭などではなく別れたそれぞれは大きな前腕の肘のようだった。肘の先には爪があるが爪の湾曲の内側からギザギザしたさらに細かい刃がノコギリのように肘まで続いていて

ペガサスの顔や頭部ではなく、別の生き物の腕だったのがわかった。

動物と言ってもさっきのようなウサギやオオカミなどの哺乳類ではなく

鱗のあるトカゲのような爬虫類のでもない。これは骨のない動物

ペガサスと同じ毛が生えてはいるがそれ自体が硬い骨のような

外骨格の虫の腕 前脚だ。曲がった刃物のような前足 鎌のように刈るための

その2本の大鎌が開いた間にあったペガサスの頭部だった箇所に真の顔が現れる。

逆三角の輪郭と仔馬をじっと見据えた無情の複眼 

2つの翼がそれぞれ上下に分かれて4つに増え 羽毛の翼ではなく 殻と膜である翅だった。擬態を解いたそれはペガサスの仔馬へ大鎌を振り下ろす


「あれは!」

この生物にも見覚えがあった。少年の世界にもいるよく知る生き物

昆虫 その中でも肉食で他の虫を捕食し、時にトカゲや蛇、ネズミや小鳥などの多くの虫にとって天敵である動物をも肉に変える、強者

虫好きの子供たちからは昆虫上位種と謳われる昆虫


「カマキリだ!!なんて大きさだ!!しかもあれは・・・擬態!?

カマキリの中には花や木の葉の形や色を真似た姿をして獲物を待ち伏せる種類がいるって見たことあるけど、ペガサスの姿を真似ていたのか!?

鎌を畳んで馬の頭みたいに、後ろの四本の脚をまっすぐに馬の脚みたいにして

立って・・・・!!」


ペガサスマンティスの両鎌がペガサスの仔馬をとらえる寸前に


 先ほど仔馬を群れに呼び戻した大人のペガサスが全速力でたどり着き

急旋回してペガサスマンティスの顔と胴体へ後ろ足による渾身の蹴りを

繰り出した。それを受けて相手がのけぞる間に仔馬は脱出することができ

大人たちの群れと勇敢に捕食者へ挑んだ母親の間の距離に止まり

母親を気遣う嘶きをあげる。


「おお・・・お母さんすごい!・・・・」


 だがペガサスマンティスは蹴りを食らいながらも母馬の後ろ脚を両鎌で挟み込んで捕まえていて今度は身代わりに母馬が捕食されようとしていた。

母馬の尾のつけ根の上の腰部分をペガサスマンティスの横開きの顎が噛みつき

牙の食い込んだ傷から少量の血が流れ出した。


「うわ・・・このままじゃ食べられてしまう・・・でも手助けとかできないよな・・・あのカマキリだって・・・今のボクと同じ・・・食べて生きるために

やってることで・・・悪いとかじゃない・・手を出しちゃいけないんだ・・・」


 食べ物に適するかどうかで地面から抜いて手に取った草を見つめて

今自分がしていることも カマキリがしている凶行も同じことで

自分の命にも他の生き物にも公平であるべきだ感じた。


母馬は体を噛みちぎられる痛みに鳴き叫んでいる。

群れのペガサスたちが一斉にペガサスマンティスに駆け寄った。


「え?」


取り囲むとそれぞれ体当たり 前足で突き続ける 後ろ蹴り 頭突き

ありとあらゆる攻撃で仲間を救出しようとペガサスたちは荒ぶった。


「そうか!あの子たちは仲間を見捨てないんだ!ボクがカマキリの邪魔はしちゃけないけど、同じ仲間が助けて逃げて生き延びることを祈るくらいなら悪くないはずだ・・・いいぞ!がんばれ!」


ペガサスマンティスは群れのペガサスたちの猛攻に耐えきれなくなり、両鎌の母馬の後脚の拘束は緩んでいく。その隙に母馬ペガサスは翼を羽ばたかせ空へ離陸した。

膝からすぐ下あたりを強く締めていた鎌が足首のあたりまで滑り落ちつつもまだとらえているが、動きの自由が戻った母馬の飛行の馬力に負けて前へと少し引きづられ、やがて両足を掴んでいた2本鎌の片方が解かれ、もう1本のみでひっかけてペガサスマンティスは母馬の後脚の片方に垂れ下がったままより速く引きづられはじめた。


「よしもう少しだ!がんばれ逃げ・・・」


母馬の脱出を応援していた真守だが 


母馬はよりにもよって真守のいる方向へとペガサスマンティスを引き連れて進んで来たのだった!


「へ?・・・ちょっとまって?なんでボクのほうに?・・・」


 母馬はさらに飛行力を上げて低空から真上の空により高く駆け上がった。

本格的な飛行に移るその勢いで後脚を前に思いきり振りだした。

かろうじてぶら下がっていたペガサスマンティスは振り子となって

しつこく引っ掛けていた残り片方の鎌が母馬の足首から外れて

ペガサスマンティスは豪快に放り出された。


真守の目前の地点に


ドシーン!!


「わあああ!!」


放物線運動に放り投げられたペガサスマンティスが地面に叩きつけられて

やや大きな土ぼこりが巻き上げられた。

真守はとっさに顔を腕で覆う。

ペガサスの母子とその仲間の群れはそのまま全員が飛び立ってその場を後にしていなくなってしまったのだった。


「ゲホッ!ゲホッ!・・・・なんでわざわざボクの方に、黙って見てたのがまずかったのかな!?・・・・ぺっ!!ぺっ!!土が口に入ったあ!」


巻きあがった土がすべて地面に落ちて揺らめいていた砂ぼこりが薄くなり、


ガキン!・・・ガキン!!


うつぶせのペガサスマンティスが前脚の大鎌を左、右と順に地面に振り降ろし

顔面を上げた。


「!」


 その目は真守を見つけたようで、両鎌を支えにカマキリの前半身がゆっくりもたげ、後ろの4本足を踏みしめて腹ばいの後半身を地面から浮かせて完全に起き上がった。


「まさか今度はボクを狙ってる!?・・・やばい・・これはすごくやばい!!」


特大の御馳走を取り逃したペガサスマンティスは そこにいた少年を新たな獲物と定め、捕らえて喰らおうと構え直し、少年へとにじり寄ってくる!


(ゴクり・・・)

緊張で唾を飲み込む


「君も必死なのはわかる・・・だがボクは美味くないぞ!?よすんだ!ボクなんて小さいし、腹はふくれないぞ!やめろよ!来ないで!うわっ!」


後ずさりしすぎて体制を崩れて地面に座り込んでしまった。


とうとうペガサスマンティスは少年の足先に後ろ前足が付くほどの近接に来てしまった。近づき始めたときは少年へまっすぐ向けていた視線が真守を見下ろすほどまでに迫り切った。


「はア・・・はア・・・はア・・・はハア!・・・」


呼吸が荒くなっていく 元の世界でのトラックによる一瞬の予期せぬ死とは違う 時間をかけて告知される死 捕食される恐怖!!


「ハア!・・・ハア!・・・ハア!・・・ハア!・・・ハア!・・・ハア!・・ハア!・ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ッハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」


呼吸と心臓の鼓動の間隔が急速に狭まる!少年の額の汗のしずくが溢れて滝のように流れ落ちる!絶望で躰は固められてしまい動けない。立ち上がって逃げることも、立ち向かって戦うこともできず・・・


そして 


構えた大鎌が、真守に突き伸ばされた!


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」



             



              その時だった


               ピカ!!


    へたりこむ真守と突き出された大鎌の間の空間が光った。

     光は形があり 横の短い線と縦の長い線が

    宙に定規でまっすぐ引いたような 緑に輝く線から蒸発する湯気の

    ように光の粒子が波打っている

   

   二つの線は真守から見た右上にそれぞれの端を合わせて「L」の文字を

   逆さにしたような直角を作ると左下の対角線上にもう一組の横と縦の線

   が「L]の形を作り、二組が合わさり長方形となった。

   短径1m、長径2mの板状?いや木材や鋼板の薄い板というより

   板よりも厚みを持つ三次元の直方体 その4つの枠の光がフェードアウ    トするように消え、

   入れ替わりに物体の姿がフェードインするように透けて見える向こうのペガサスマンティスの大鎌を覆い隠し 無からはっきりと現出した。


              「壁」だ。


   赤茶色と、黒寄りの濃い灰色の2種のレンガを交互に積み上げて

   構成された石造りの家屋や居住地を囲むのに使うような堅牢な壁だ。


    その壁がまっすぐ空中に浮いているのである!

そして真守を捕らえんとするペガサスマンティスの大鎌に立ちふさがって

食い止めたのだ!


             ガーンッ!



 しかもその一連の流れは時間を消費していないかのようだった。

真守の叫びの最初の文字「う」を出しかけた時にはすでに現れていた。

ペガサスマンティスの鎌のほうがかなり遅れてぶち当たったように見える。

1秒どころではない 0.1秒よりもはるかに速く、むしろ最初からその場に位置していたように まさに一瞬だった。


「なんだ・・・これ?・・・これは・・・

 壁?・・・なんでこんなものが?・・・」


真守は死の恐怖から、なんの前触れもなく突如自分を警護した謎の壁への不可解と驚愕に変わっていた。


ペガサスマンティスも二度目の狩りに割り込んだ邪魔者に、表情はないが動きを止めて驚いているようだ。気を切り替えたのか壁の上辺と脇に大鎌を引っ掛け捕まえると壁を引き寄せようとする。


だが壁は動かない。剛力を込めて引っ張っているのに僅かに揺れ動きもしない。数センチはおろか1ミリさえも微動だにしない。支えもなく宙に浮いていて押したり引いたりすれば動かせそうなのに 見えない柱が付いて地面に刺さっているかのごとくその壁の位置は絶対的に固定されたままだ。

ペガサスマンティスは業を煮やして壁にかじりつき、咀嚼を試みる。

横開きの歯を食い込ませて何度も咬み続けると細かな破片がこぼれ始めた、が、削られたのは壁の材質ではなく硬さに負けた歯のほうだった。

壁は表面にも傷さえつかず 壁の位置と同様に変化が何も起こらない。


「・・・は!・・今のうちに逃げるか!・・・・・・

今日はお互いに散々だったけど、食べものにありつけるよう頑張ろうね!

じゃあ!」


 尻もちから立ち上がって後ろに駆け出した。壁相手に食べられる可能性を模索して悪戦苦闘し続けるペガサスマンティスにねぎらいの言葉をかけ

森の中の空き地から逃げ出すことに成功した。

       

     タッタッタッタッタ


「はあ・・はあ・・はあ・・はあ・・・・」


ペガサスたちがいた広場からさらに先の森の奥を、とにかく息の続く限り遠くに走り続ける。


(とりあえずまいたけど、また別のやばい生き物と遭遇したら?

またあの壁が出てきてくれる?あの壁はほんとなんなんだ?

誰かが出してくれたのか?・・・・・ん?・・まてよ?・・壁・・・)


     元の世界の自分の部屋で行っていた作業の風景


 PCで製作していたゲームのダンジョンに敷き詰める壁のテクスチャー 

さっき自分を守った壁はそれと近い構造をしていたのに気づいた。

 そして 大型トラックの奇襲時に反射的に願ったこと


     あらゆる破壊を完璧に防ぎきる無敵の壁が

     瞬間的に出てきてくれないかと


「壁を出したのは・・・ボク?・・・ボクが願ったから?・・・

ボクが危なくなると壁が現れるのか?」


 森の中を走り続けて 走り疲れてペースが全速力から早歩きになっていった。並みいる森の木々の中を駆けていくと また森が途切れるひらけた場所に出た。

「はあ・・はあ・・はあ・・・もうダメだ・・・ここで休憩だ!・・・

ここは大丈夫かな?・・・さっきのカマキリみたいな危険なのが出て・・

・・ん?・・いや・・なんかここ・・ちゃんとした道みたいだ・・・」


 次に出てきた場所は草むらではなく、真っ直ぐに同じ幅で長く続いている。

森を切り開き整えた道のようだ。人の往来を感じる通路

この異世界に送り出されて初めて、自分以外の人間の存在を思わせる景色を

見つけだせた。


「ということは、ここで待ってたり歩いたりすれば他の誰かに会えるんだ!

やった!・・・助けてもらえるかもしれない!いろいろ聞きたいことがあるし

この世界のこととか・・まずは食べ物をわけてもらいたい・・・

あれ・・冷たい・・水が降って・・雨?・・・」


 いままで澄み渡っていた快晴の空がいつのまにか灰色の雲に覆われて

水滴が少しずつ落ちてきている。時間は昼をだいぶ過ぎていた。

 水滴が増えていき、激しく降った。

夕立だ。雨が大地や草木の葉に打ち付ける音が激しい。


「そんなあ・・・この分だと土砂降りになりそうだなあ・・ほんとについてないや・・あは・・・、

カマキリに食べられかけて空腹なうえに大雨・・・

この世界でも不運続きなのかな・・・」


 雨天の空に向けて右手のひらを上げる。冷たさが手のひらに


「冷たいし寒い…疲れたし…雨宿りするところがないかな・・あ!

壁はボクの危険に反応して出たのかもしれないけど これはさっきと違って

命がやばいってほどでもないし、出てこないか?

死にはしなくてもこの状況は辛い。この雨風をしのぐ壁と屋根が今欲しいな、壁・・出てきてくれないか?」


 すると真守のかざした右手のひらの全体が最初の壁の現れた時と同じく

緑色に輝いたのだった。


「はえ!・・・これは・・・なんの現象だ?なんかすごそう・・

やっぱり・・壁の発生源はボクなのか?・・・」


シュイーン


 そして次に、両目が一度だけ緑に強く輝いた。その時から身体に何か変化を感じる これまでの日常生活では感じたことない、人間の五感以外の新しい感覚が肉体に増設されたような 神経を通してその新たな作りが全身に敷かれて

神経組織の顕著な部位である目の輝きをもってその完了が告げられたのだろう。


「なんだ?・・この感じは・・・手足や目を動かしたり、呼吸をしたり匂いを嗅いだり、同じくらい当たり前にできそうな・・・

イメージが沸いてくる・・・壁を・・・壁をまた出せそうな気がする!」


 真守の頭上に再び壁が一瞬で現れた。今度は立っているのではなく水平に空中に置かれて屋根として雨を受け止めている。


「できた!!雨は防いだ!次は囲んで寒さをしのぎたい!どうだ!?」


屋根となった壁の4つの辺に沿って垂直の壁がまた一瞬で建てられた。が


「できた!・・って・・一つは要らないかな・・これじゃあ箱に自分を幽閉してるみたいじゃないか

でも・・・・」


 ペガサスマンティスがペガサスたちや自分を食べようと工夫を凝らし生きるために努力をしていたように見えること

 そして現代日本で生きていた日々にかつて考えていたこと

それらが連なって関係しているような鬱屈した想いを巡らせる。


「でも・・・あれが生きるってことなのだろうか 弱肉強食・・・自然はもちろん・・・人間もそうだったら・・・外に出れば誰かと競争することになって戦って・・・社会に出てそういう場所に来たら・・・・分け合えるはずのものも奪い合わなきゃならない時もあるかもって・・・」


 高校一年の時 クラスで男子同士が喧嘩した。

(大きい男子が小さいほうの男子の胸倉をつかんで殴りとばす)

 文化祭の出し物の準備で意見の相違と 元から仲が悪かった者同士の火種が炸裂して協力して皆で進めることが絶望的になった。

(小さい方の男子が大きい男子に負けじと突進する。周りで泣き叫んでいる女子と争いをはやし立てて煽りを楽しむ女子)


「そういうのが嫌だったから引き籠った

違う世界だけど・・・ボクは外に出てしまって・・・逃げ隠れる家もない・・・でも今できたかも・・・ボクにトラックを突っ込ませた奴らと戦うなんて・・・しなくていいのかも・・・外に出て・・・

 死ぬ前よりも人間同士の嫌なものがひどい世界だったらと思うと・・・

 あんな大きな恐ろしいカマキリだっている世界だし、元の世界より何もかも過酷な世界だったら・・・・・う・・・・・・・・・・・・・・・・」


 生き返るときに誓ったことが揺らいでいる。このまま野草を漁って危ない時は壁を作って閉じこもる。無理なく息をひそめて静かに嵐が過ぎ去るのを待つ

誰かと争うことなくつつましく生きる?それでもいいのかもしれない。

真守の本来の気質にとっては




            トントントン


???「あのう!・・・誰か中にいますか?・・・もし?・・・どなたかおられますか!?」


「え?・・・」


???「どなたかおられるのでしたら!・・・お願いします!・・どうかお願いします!・・・大雨に降られてしまって雨宿りさせていただきたいんです・・わたしは・・・誓って怪しいものではありません!・・・私はただの

ノームの娘です!・・・雨が降り止んだらすぐに去ります!・・・

どうか中に入れていただけないでしょうか!?」


(女の子?・・・ノーム?・・・人間じゃないのか?・・・でも・・・初めて

話せそうな誰かと会えた!・・・よし今壁を開けて!・・・いや・・・・・

さっきのカマキリみたいな怪物もいたし・・・この子も人間の言葉や女の人の声を真似て人間を捕まえるような化け物だったら・・・やっぱり開けるのはよしたほうがいいかな・・・)


???「・・・誰もいらっしゃらないのですか・・・そうですよね・・

よく見ると周りには扉の一つもないし・・・どなたかいらっしゃるはずもないでうよね・・・うっ・・・」


 壁の向こうの少女の声が止んだ。別の音が聞こえる。静かに悲し気な・・

嗚咽・・泣いている。


(・・・・・ごめんね・・・・・・外は冷たいのに・・・いないフリをして・・無視して・・・だから)


 外の少女の上に水平の壁が現れる。


???(!)


 少女は涙に濡れてしかめた目を開いて見上げ、驚いた。

さらに長方形の屋根の両の短辺から縦の壁が二つ伸びて地面に下ろされ

風よけとなる。


???「・・・・・・・・すごい・・・この壁は・・


あなたが魔法で作ったものなのですね・・・・ありがとうございます・・・・

私を信用してはいただけないのでしょう・・・そうですよね・・姿も見せないで怪しいのに・・・けれど感謝します・・・ほんとうにありがとう!!

助けていただいてとても嬉しいです!!」


 少女の声は、暖かみのある、血の通った声だった。壁の向こうの姿の見えない相手でも寒さ悲しさから助けてくれたことへの、なんの企みの不純もない心からの全力の感謝の喜びを伝えてきた。


「・・・・これでよければ。ボクもこの壁を出せたばかりで役に立てたなら嬉しい・・」


???「言葉で答えていただけるのですね!少しだけ、信じていただけた・・

優しい人が中にいて、私。話しかけてみてよかった!!」


 少女の声はさらに驚きと嬉しさを増した。

少年と少女はお互いを隔てる壁ごしに声だけを交わしはじめた。


「いや・・ごめんなさい、ずっと話しかけてたのに無視しちゃったみたいで

もっと早く壁を出せば・・・冷たい想いをさせてごめんなさい」


???「そんな・・謝らないでください・・外から誰かもわからないのにいきなり雨宿りをさせてなんて、怖かったですよね!・・・こちらこそごめんなさい!あ!無理に扉?・・・あったらですけど扉を開けなくていいです!このままで、雨が止むまでいさせていただければいいので・・止んだらすぐに立ち去りますので」


「大丈夫です、そのまま休んでいってください。

ていうか・・・ボクもやっと話せる相手に会って・・・少し安心しかけてて」


???「え?・・・」


 壁を背につけてうつむき真守は打ち明け始める。


「ボク、いろいろあって、元の世界からこの場所に迷い込んで・・・

森の中をさまよって、誰にも会えなくて、美しいペガサスを初めて見た時は

テンションがあがったけど、ペガサスを食べる大きなカマキリにボクも襲われて・・・怖くて必死で逃げてきて・・・なんとか森を抜けて他の人がいそうな

この道にたどり着いて・・・隠れるために自分を壁に閉じ込めて

そして今やっと話すことのできる人が現れて・・・正直寂しくて潰れそうだった。

でも・・・ボクこそお礼を言いたいです・・・ありがとう・・最初に出会ったのがあなたで・・」


???「・・・・・そうだったのですね・・・とても怖い想いをして

辛かったのですね・・・でも・・・安心して・・・私は決してあなたの

敵ではありません。・・・あなたを傷つけたりは絶対にしない・・・

それだけは信じていただけますか?・・・心細いなら・・・いくらでも

お話を聞きたいです!」


「・・・・・・・じゃあ・・・・雨が止むまで・・このまま話がしたいです・・そこにいていいですから・・・いえ・・・いて欲しいです。」


 少女の口元が嬉しさで開いた。

心を開いてもらえたことに心の曇りが今の天気よりも先に晴れて笑顔になる。


???「いいですよ!・・・私なんかでよければ!・・・私も心細かったから・・・助け合えるかも・・」


 



 どのくらいたったか 気づけば肌を刺す大気の寒さも消え、

暖かみが体に昇っていく 陽の光が小さく散らばって消えゆく雨雲の中から

太く大地と、道に壁で少年の密閉された即席の停留所と少女を照らしていく。


            空はもう晴れていた。


???「!うわあ!・・・お話していたら・・・すっかり晴れてくれたみたい!・・・よかったあ!これで今日のうちに街にいくことができます!

壁の向こうの魔法使いさん!親切にしていただいてほんとうにありがとう!

では・・・迷惑にならないように・・・私はこれで・・・行きますね・・・」


 真守は少女の話しかける壁を背に座り込んでうつむいていた。壁に囲まれた内部だけは相変わらず暗いまま

 だが少女から聞いた情報に顔をすこし上げる。


「・・・街?・・・この世界にも人が集まる街があるのか・・・」


???「ご無事でいてくださいね!今は無理に姿を見せてくれなくても、

私が去った後でも、気が向いたときでいいのです・・・こわいだけじゃないと思います・・・この世界は・・・明るいところ・・・光だって満ちていて・・・

美味しい食べ物や楽しいことがたくさんあって、優しい人たちがたくさんいます・・・ちょうどあなたのような方が・・


「・・・・」


「ちょっぴり勇気があればいいのかも・・・今日わたしにしていくれたように

誰かを思いやって動ける心を持ち続けて歩いてゆけば、危なくなっても

あなたを好きになってくれた人たちが怖いものからきっと守ってくれるはずです・・・そうしてお互いに助け合って。支えあって強くなっていけばいいのです!そうやってみんなで、闇が訪れても吹いてとばしていけば・・・この世界はきっと素晴らしいのです!絶対です!!」


「・・・・!」


「・・・・じゃあ・・・私はこれで失礼します・・・・・またどこかで出会えたら・・その時は今度は私があなたを助けますね・・きっと・・・

ごきげんよう・・・」


 少女は名残おしいように少し微笑み、できれば孤独に怯えていた「優しい壁の魔法使い」の姿を、一目見ておきたかった、お互いを見て、ひとりではないことを伝えてあげたかったというふうに 壁を背に身を返して街へと続くというの道の脇へと歩いていった。




(・・・・ボクは何をしていたんだ!?・・・悪いことから逃げるばかりで

異世界とはいえ、驚いたことがあるからってまた前の世界の嫌なことを思い出して打ちひしがれて・・・また世界というそのものに怯えだして・・一度決意したことも忘れかけてた・・・


自分の人生も

あの運転手さんの幸せだって・・・取り返すって決めたじゃないか!

ボクを殺したアイツだって・・・話して本当のことを聞いてみたい

なんであんなことをしたのか・・全てを明らかにして・・・戻るんだ!

もとの世界に!勝ち取るんだ・・・ボクがムカついてる全てへの完全勝利を

ボクはもう逃げない!少しづつでも、きつくなったら休んでもまた・・・

止まらない・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・ボクは!!!)



 少女は少し憂いた表情で下を見つめながら歩く


「待って!」


???「!?」


後ろから強く引き止める声に驚き、再び壁の雨宿りの建物へと向き直った少女


 視線の先には少年が立っていた。外壁の4つのうち少女と背中合わせになり

気持ちだけを通していた心の扉となって、唯一温かみを帯びていた壁の一つ

それを取り払って 


        少年ははじめて姿を少女に見せた。

        少女ははじめて少年の姿を見た。


 この世界で初めて出会った心ある一人と真に向き合いたいと思った。


 壁を乗り越えて 勇気をもってとうとう正体を明かして私を信じてくれた。


「ボクは、その・・・ボクも行きたいです!・・・その街に・・・この世界のことをもっと知りたい!・・・一緒に・・・行っていいかな?」


少女の髪はサイドに顔の下まで、後ろ髪は長く黄金色 片目の隠れた前髪

白い上着にフードのある外套とスカートの服で足首までの革の厚い靴 身長は150㎝中ほど 

 あどけない顔立ちで 正直・・・・少年は彼女を可憐だと思った。


 壁を取り払う前にせめてのぞき穴を開け、前もって照れてから落ち着いて

外に出ればよかったと後悔したほど


 ましてや彼女は今、

壁を一瞬で消して現れた彼の登場と魔法めいた力を目にした驚きから

壁の魔法使いが心を開いて自分と行き先をともにしてくれると言ってもらえたことに輝かしく喜びの笑顔に変わっていくのだから!


「・・・はい!!・・・私もお願いします!・・・あらためてはじめまして!

           わたしはアイシャ、


         アイシャ・ソロフムスです! 


ノーム村から来ました!姿を見せてくれて、とても嬉しいです!

・・その・・私と近そうなお年頃で・・・声のとおりに優しそうなお方で

親しみやすそうなお方で・・・安心しました!!」


「ボクは・・・・・真加部真守まかべまもる・・・・・です。

ここから遠く離れた場所から来ました・・・ボクは・・・・

やらなければいけないことがあります・・・・恥ずかしながら

さっきまでそれを投げ出そうとしていました。でもアイシャさんの言葉で

思い出すことができて・・・すぐにできることじゃないけど・・・

いくらかかっても必ず辿りつかなければいけないことなんです

この世界でそれを成せと言われました。どこまで一緒かわからないけど

よろしくお願いします!!」


アイシャ「そうなのですね・・・大切な使命を持ってここまで来られたのですね・・・・打ち明けていただいて・・・本当に嬉しいです!!

     ふふふ・・・」

真守「え?ちょっとおかしかったですか?」


アイシャ「いいえ・・・とても澄んだ目で、強い意志をこめて

間違いなく心から出た素晴らしいことをおっしゃって・・・

まるで絵本で見た勇者様みたいでしたから・・・わたくしのような者がそのような方と初めに出会えたのであれば・・・すこし滑稽で微笑ましくて・・・

でも特別な何かを感じてしまって^^」


真守「勇者・・・勇者ですか?・・・ボクそんな輝かしく見えました?

   ボクあんまり目立つの苦手でw・・・タンク・・にしても貧相でむいてないし、かといって魔法の賢者も、あんまり頭良くないから違うし

なんなんでしょうボク?」


アイシャ「え?・・・うふふふw・・・おどけて見せるのも親しみやすくて

安心します!謙遜なさらないでw私にはきちんと賢そうな方に見えています!むしろその2つをもうかねています。魔法の壁で守りを固める賢者様!

それで間違いありません!とても強そうじゃないですか!」


真守「そう・・・ですかね・・・ならばこの先しっかりその役割は果たします!」


アイシャ「ふふ!・・・頼もしいです!では行きましょう!!ようこそ!!

この国はいいところです!これから行く街は賑やかですよ!

あ、私も遊びにいくわけではないんですけどね!」


 心をせき止めていた壁は完全に取り払われた。

真守の旅路はここから真に始まった。

その優しさで踏み出す勇気をくれた少女とともに 


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