回想と旅立ち
旅の始まりはいつも突然で、思わぬ形で訪れる。
それまで慣れ親しんだ家と別れ、同じような生活をずっと続けてきて、冒険者をまたやる気になることもなかったが、自分のことをずっとかばってくれたさやかがすごい勢いで飛び出して、連れて行ってくれたおかげで、やり直すことにした。
「レイト、お前に引きこもりは無理だよ。いつか、誰かが連れ出すだろ。」
いつだったか、友人がはっきり言ってた言葉を思い出す。
「その時はためらうな。」
最後に、残したその言葉通り、気づいたらさやかたちと村を飛び出していた。自分なりに人間に溶け込もうとしたが、難しかった。自分では気づかないうちに、嫌であるのにしょうがないと受け止めていて、出るきっかけを探していたのかもしれない。
溶け込めないのは、結局にんげんではないからだろうか?
ただ不思議と人間でも人間関係に皆、苦しんでいるらしい。それは見ていても、話してもわかる。
では別の国、別の時代、あるいは別の世界ならどうだろう?
友達(勇者)は異世界からの転生者だった。別な世界での歴史や友達の生きた時代の話を聞いたが、別の世界でもそれは変わらないらしい。
悩んでいた。
人間に変わる。あるいは生まれ変わったら、何か変わるのだろうか?
あるいは、魔族としてあらためて、本筋に戻るべきではないのか?
どうするか、この旅でそれを見極めようと思った。
勇者に仲間になるときも、今、こうしてさやかたちと旅立つ時も、予感みたいなものは感じていた。それがどういう結果になるのかはわからないが、必要なことでやらなければ後悔することを知っていた。
それは分かっている。ただ、具体的にはいつも分からない。流れはわかるが、その時にならないと分からないことが多すぎて。そして、はっきりとした答えはないので誰かに説明するのが難しい。頼むから聞かないでくれよと思っていると、心配したとおり、さやかが、背中をたたきながら聞いてきた。
「もう、魔王を倒すまではここに戻れないね。これから、どうするの、レイト?」
そう聞きながらも、まるで不安を感じさせない笑顔で聞くさやかを見ると、ホント不思議な気持ちになる。さやかは小さな頃から、自分の話をよく聞いて育っていて、
いつも「もっと、聞かせて」
「死にそうになった話は?」
「面白い話は?」
「友達は?」
と言って同じような話も、物語に書かれていない話もよく面白そうに聞いていた。今では、自分以上に分かっているふしがあるので、少しこわくなるような不思議な感覚にとらわれる。
勇者パーティーに参加し、はじめて魔王を倒したとき、その話は物語として広くひろまった。絵本もできるくらいだった。その話に自分も登場する。魔族の裏切り者。そして人間の協力者として。
話では出番は多いものの、それほど目立っていない。魔族を英雄視することを恐れたものもいるのだろう。もちろん、個人的になかよくするものもいたが、警戒するものもいる。
人間に協力する魔族は、協力魔族として、冒険者ギルドにもその後多数在籍していた。その後、彼らがどうなったかは、あまり覚えていない。木奥のロックがかかっているように、不思議とあまり思い出せない
初代魔王を倒した旅は今も覚えている。ただ、その後のことがよく思い出せない。ひきこもっていると、不思議と色々な感情がかすれていく。記憶はあるのに感情がともわないような、どこか他人事のような不思議な感覚。引きこもったせいなのか?
いや、それだけではないはずだか、考えてもしょうがないときは1度止めておく。
そんなことを考えていると、笑顔でさやかがこっちを見ていた。
「それで、これからどうするの?」
不意にさやかが、背中をたたきながら、聞いてきた。