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短編集・散文集

浅見くんと浮気心

作者: Berthe

 大学生の(あさ)()くんは、ただいま浮気進行中です。


 ひとりはバイト先の一つ上の先輩で、くりっとした瞳と抱き心地のよさがお気に入りです。


 ひとりは大学の一つ下の後輩で、たおやかな身体つきと、涼し気で愛らしい顔立ちに癒やされます。


 浅見くんも浮気を敢行するくらいですから、それなりに容姿には自信があり、女性が自分へ好意の目をむけているかどうかはすぐに見抜けます。


 けれど、彼女たちから言い寄られたというわけではありません。


 現実ではそんな美味しい展開には中々ならないし、そもそも浅見くんは自分から迫りたい質なのです。


 そこで浅見くんは持ち前の爽やかさを武器に、ころころっと二人を落としてしまいました。


 まずは先輩から。そしてそれから四カ月ほど時を置いて後輩も。


 そういうわけで、現在、浅見くんには恋人が二人もいるのです。これは浅見くんにとってより幸福な状況なのでしょうか。


 つまり、恋人が二人だということは、1+1=2を意味していて、二人はもちろん一人よりも値が大きいことを意味しているのでしょうか?


 浅見くんの実感としては必ずしもそうではないような気がしました。


 そこで、浅見くんは両辺を2で割るという数学的な操作をしてみました。


 するともちろん、1/2+1/2=1という結果が導かれます。


 この数式に、浅見くんはしっくりきました。二人合わせて一人分という答えに、なるほどと思ったのです。彼女たちの存在は、それぞれとしてみると小さくなっていたのです。


 浅見くんは経済学部の学生なので、講義や演習を通して、効率や分配、比率などについてよく考えを巡らせています。


 ですから、いきなり女性のことを数式で考えたとしても、いぶかる必要はないのです。


 少し冷たいようですが、浅見くんにはそのような気持ちは起こりません。明快な答えにかえって頭がすっきりしたほどです。


 しかし恋人が増えたにもかかわらず、実感としてその数に変わりがないということは、浅見くんからそそがれる愛情の総量は、恋人が一人のときから変化していないことを意味するのではないでしょうか?


 そうだとするなら、一人の女性にそそがれる愛情は半減してしまいます。


 女性の勘が鋭いというのが迷信でないなら、そのことに彼女たちは遅かれ早かれ気づいてしまうでしょう。


 気づかれたが最後、今現在の幸福はあっけなく崩壊してしまうかもしれません。


 彼女たちは浅見くんの行動を監視して調べ上げ、ついに露見したのちには、壮絶ないざこざに発展したあげく、そのまま不幸へと転落してゆきます。


 それはもちろん絶対に回避すべき惨状です。


 浅見くん自身そのことに今すぐにでも気づいて、それこそ経済学部らしく「合理的」な思考を働かせると共に、短期的な快楽に溺れることなく、中長期的な幸福を見据えた行動へとすぐにでも舵を切ってほしい。私はそう願っています。


 けれどその時には、少なくとも一人の女性を悲しませることになります。


 浅見くんはあるいは惜しいことをしたと思うだけで、ひょっとするとそれほど気にしないかもしれません。


 それは私たちとしてはもどかしいことですが、このまま浮気をつづけて彼女たちの最も可憐な時期を奪ってはいけません。それはまさしくしてはいけないことです。


 では、このように浮気を敢行してしまう浅見くんはひどい男なのでしょうか?


 浮気ができるほどの男はただただ最低な男なのでしょうか。


 そう決めつけたいところですが、よく考えてみると、いい男でなくては恋人などできませんし、ましてや浮気となればなおさらです。


 そうです。浅見くんはやっぱりいい男なのです。素敵な男性なのです。世間的にはこれからもずっとそうでしょう。


 だからこそ、もっと誠実でいてほしい。


 これは高望みなことでしょうか。

読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 浮気や二股をする人には異性が寄ってくるイメージがあります。異性を惹きつける何かを持っているのか、それとも壁が無くて気安く接するタイプだからそういったシチュエーションになりやすいのか… 浅見く…
[一言] なにやら合理的(?)に、色恋に数学的処理を施す浅見くんにふふっと笑ってしまいました。 作品によってがらっと文体を変えられてしまうのは、僭越ながら流石だなあと思います。 まだ何作かしか拝読でき…
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