王立学院の学院長
入学三日目にして三つの伝説を打ち立てた令嬢エリザベート。
ひとつは歴代最高記録の魔力適性を叩き出す。
ふたつ目は最強の四騎士のひとりを決闘で圧倒する。
三つ目はこの国の王子様にカウンターパンチを食らわせる。
脳内で裁判官と裁判長と弁護士の格好をした自分が、
「有罪」
の札を上げていた。
ああ、侯爵令嬢エリザベートよ、あなたは入学三日目にして除籍処分です、となることを予想して登校するが、さっそく、教員に呼び出される。無論、罪状は昨日の暴力騒ぎであった。聖女カレンはあれは乙女の貞操を守る正当防衛です、と庇ってくれたが、なにかと目立つエリザベートは教員たちの評判が悪かった。そもそもカウンターストップするほどの魔力値があること自体、由々しき事態なのだそうな。
「もしかしてこの娘は魔族なのかもしれません」
と教員のひとりが深刻そうな口調で言った。
惜しい、魔族は魔族でも魔王の娘です、と自分から言い出すことはできない。
エリザベートは震えながら沙汰を待つが、放課後、学院長室に呼び出される。〝お友達〟の聖女カレンも学院長室の前まで付き添ってくれた。
「エリザベートさん、ファイトです。なんとか弁明して退学だけは避けてください」
「はい。なんとか停学くらいで手打ちをして貰えないか交渉してみます」
と恐る恐る学院長室に入ると、偉そうな人たちがずらりと並んでいた。
ひとりは魔力測定のときにエリザベートの魔力を測定した教師だった。魔術師風の格好をしている。
もうひとりは片眼鏡をはめ込んだいかにも堅物そうな人物だった。彼は副学院長らしい。
そして最後に学院長室の高そうな椅子に座っている人物、白いおひげを生やし、鍔広帽を被っているのが学院長。
ちゃんと三人とも偉さが容姿に比例しているのがすごい。
口火を切ったのは片眼鏡の副学院長だった。
「このものが昨今、我が王立学院を騒がせている問題児か」
やはりエリザベートは問題児認定されているようで……。
女教師は副学院長に媚びを売るような口調で言う。
「はい。入学早々、魔力測定器を壊したのはこの娘です」
「あー、やっぱりあの測定器、壊れていたのですね」
「違うわ。あなたが〝壊した〟のよ」
女教師いわく、カウンターストップしてしまったあの機械は圧倒的な水圧によって破損したそうで現在、業者に修理依頼をしているらしい。ちなみにあの機械は一台で馬車と駿馬三頭が買える値段とのこと。
「あのあと、私が始末書と稟議書を書かされたんですからね」
と教師はお怒り気味。余計な残業が増えたとのことであった。ただただひたすら申し訳なくなり頭を下げるが、副学院長は追撃の手を緩めない。
「入学早々、高額な測定器を破損させる」
副学院長は重箱の隅を突くような口調で言う。
「さらにその翌日には私的な決闘に応じる」
副学院長はふすまを指でなぞるような口調で言う。
「さらにさらに入学三日目のプロムでの暴力行為、しかも王族に対して」
悪役令嬢も真っ青な陰険で意地の悪い口調で言う。
「以上、この三点から考えるに、この娘はこの学院に相応しくないと思いますが、学院長はどう思いますか?」
結論ありきというか、副学院長は退学確定の腹づもりのようだ。この場にはエリザベートの味方がいないかと思われたが、そうではなかった。なんとこの学院の最高権力者はエリザベートの味方だった。
学院長様は仙人のような髭を撫でながら、
「ふうむ、わしにはこの子こそが学院の理念を体現していると思うんじゃが」
と言った。
「な、なんですと!?」
驚く副学院長と女教師。
「それはどういうことですか?」
と詰め寄るふたり。
学院長は「ふぉっふぉっふぉ」と孫を見るような優しげな目でふたりを諭す。
「おぬしはこの学院の院長を経由して大臣となることを夢みておるようだが、この学院は〝本来〟魔王を討伐するものを育成する機関のはず。政治の踏み台ではない」
「う、うぐ……」
副学院長は一歩後ずさりする。事実を突かれたからだろう。
「この学院はセルビア王国の初代国王が魔王討伐をした際に当時あった統一帝国から褒美として賜った封土、その際に当時の皇帝陛下から未来永劫、魔王からこの地を守ると誓ったことは知っておるな」
「……無論です。血の誓いと呼ばれています」
「将来、魔王が復活した際に魔王を討伐できる人材を育成するため、建国王ブラムス様がこの学院を建立された」
老賢者はそこで一呼吸置くと言った。
「昨今の王立学院は貴族や平民たちが箔を付けるために入学を希望することが多いが、本来ならばこの娘――名前はなんと言ったかの」
「エリザベートでございます」
エリザベートはしっかりとした口調で名乗りを上げる。
「エリザベートか。よい名じゃ」
「ありがとうございます」
前世と同じこの名をエリザベートは気に入っていた。
「本来ならばこの娘のように生徒を育て上げるのがこの学院の責務のはず。このエリザベートは怪力無双にして無尽蔵の魔力を持った有望な生徒と聞く。近い将来、復活が予想される魔王討伐の切り札になるかもしれん」
「まあ、魔王様が復活されるのですか」
娘であるエリザベートはなにも聞かされていない。
学院長ザンダルフは、「一般生徒には内緒じゃぞい」しーっと己の唇に指を差すとトップ機密を明かしてくれた。黒猫のルナが小声で補足する。
『剣と魔法のRPG風乙女ゲーム「聖女と四人の騎士たち」ではヒロインの聖女が三年生のときに魔王が復活するんだ。そして君をダークサイドに招き入れてラスボスにする』
エリザベートも小声で返す。
「魔王さん自身は戦わないのでしょうか?」
『もちろん、戦うよ。しかし、君の前座だね。ラスボスは君だ』
「まあ、わたしは魔王よりも格上なのですか?」
『何パターンかあるね。殺意の波動に目覚めた君が魔王を取り込んだ究極生命体になるケース』
「……すごく不気味そうです」
『不気味だねえ。触手も生えるよ』
「なんかいやです」
『あとは魔王が先に討伐されて魂が娘の君に宿って暗黒化するパターン』
「物語でよくあるパターンですね」
『だね、娘である君は器にぴったりなんだ。あとは血縁上の父親を殺された君が復讐に燃え、暗黒面を開花させるパターンもある』
「て、何パターンあるんですか」
『「聖女と四人の騎士たち」にはバッドエンドも含めて24のエンディングがあるからね。君は多種多様な闇落ちをする』
「ちなみにわたしが報われるエンディングはあるんですか?」
『…………』
いや、そこで沈黙しないで欲しいのですが……、と思っていると学院長は説明を続ける。
「ともかく、近く魔王は復活する。この娘はそのときの切り札になるような気がするのじゃ」
学院長はそのように纏め、エリザベートを庇ってくれるが、とても申し訳ない気持ちになる。切り札どころか世界を滅ぼす走狗になる可能性が高いからだ。しかし、エリザベートは頑張って己の未来を変えるつもりだった。
悪役令嬢として断罪されるつもりは毛頭ない。ラスボスとして討伐されるつもりも。
エリザベートは〝健康的〟な女子としてごくごく普通の学生生活を送りたいのだ。
そのように心の中で誓うと、学院長の手を握る。
「学院長様、わたし、さらなる精進を重ね、見事魔王を討伐して見せます」
と約束をしたのだ。
「おお、やってくれるか」
学院長は目を輝かせる。
「はい。わたしはとある事情で幼き頃から鍛錬してきました。それは己の身に降りかかる困難を払いのけるためです」
「ふむ」
「それに魔王はわたしの未来だけでなく、この世界をも暗黒に覆う存在なのでしょう?」
「その通りじゃ」
「ならば見事討ち果たして見せましょう」
とガッツポーズをするエリザベート、学院長ザンダルフは「そのいきじゃ」と一緒に盛り上がるが、副学院長は大きくため息を漏らす。
「まったく学院長の変わりもの好きには困ったものだ」
と呆れかえっているが、彼は冷静に問うてきた。
「魔力測定器破壊と私的な決闘は許すとして、王族を殴ったことはどうするのです。これは学院でも庇いきれませんよ」
副学院長はそのように言うが、それについては心配ない、と学院長は言う。
「土の騎士ルクスとか言ったかの。ゼルビア王家の第三王子は訴えを取り下げたそうな」
「なんと!?」
「まあ」
「元々、あのすけこまし王子はええ格好しいのキザ男じゃからな。女に殴られたと訴訟ごとを起こすなどあり得ない、と言っておった」
退学うんぬんとなったのは周囲の取り巻きが勝手にしたこと、と学院長は補足する。
「ということはわたしは晴れて無罪。普通に学院に通ってもいいのでしょうか?」
「うむ、そうじゃのう。ただ、土の王子はひとつ条件を付けてきた」
「なんでしょうか?」
「それはのう……」
学院長は耳を貸せ、とエリザベートに耳打ちをすると、小声でとんでもないことをつぶやいた。
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