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プロムでぼっち

 新入生歓迎プロムナード。


 王立学院に入学した生徒たちをねぎらうために開催される花の祭典。


 雅やかにしてお貴族様感たっぷりのお祭りであるが、そもそもこの学院はこの国の貴族たちのために設立をされたのだ。このようなイベントがあっても不思議ではない。


 18時、プロムナードが開催される時刻が迫ると王立学院に次々と馬車がやってくる。


 この学院に通う生徒の六割は貴族の子弟なので馬車を持っていても不思議はない。ちなみに残りの二割は豪商の子弟だ。つまり彼らも馬車くらい持っている。


 問題なのは残りの二割の平民であるが、彼らはこの日のためにせっせとアルバイトなどをし、馬車のレンタル代を稼ぐのだそうな。あるいは参加自体、諦める生徒も多いそうで。


『まったくもって涙ぐましいね』 


 馬車の中にあるバー・カウンター・スペースの「チュール」をペロペロ舐めながら黒猫のルナは下々の苦労を嘆く。


「王立学院に通うのも楽ではありませんね。平民の皆さんは奨学金を得るために必死に勉強をしているそうです。その上でアルバイトですから」


『でも、この学院を卒業すれば将来の成功は約束されたものだよ。宮廷魔術師に、特級薬師、一級魔道具師、聖騎士や賢者にだってなれる』


 ちなみにこの国の大臣の七割は王立学院出身なのだそうな。


「まさしく選ばれたものという感じです。わたしのような小市民気質の人間が通ってもいいのでしょうか」


『君は大貴族の娘なのにそれらしさがまったくないからねえ』


「はい、前世の(さが)を引きずっています」


『逆にそのお陰で目立っているというのもあるけど。「おほほほ、あたくし系」になられるのも困るけど、所帯じみているのも逆に目立つね』


「はい。しかし、それも今日まで! 今日、わたしは社交界デビューをします!」


『お、やる気だね』


「はい。前世のわたしは病気がちでこの手のイベントとは無縁でした。しかし、わたしは無類の読書家、小説に出てくるような煌びやかで華やかなシーンに憧れていたんです」

 

 エリザベートはうっとりとした表情で軽やかに舞う。


 花々と宝石をちりばめたかのようなダンス会場、


 一流の楽団が奏でる華やかな旋律、


 それらを彩るように置かれたビュッフェ形式のご馳走、


 そして会場で舞い散る美しい花々、


 男子たちはフォーマルにきちりとタキシードを着こなし、女子たちは華麗なドレスを身に纏うおとぎの世界。


 女子ならば一度は憧れるシチュエーションである。


 恋愛に興味がない。淡泊と称されるエリザベートであるが、一応、生物学上の雌なのである。この手のイベントに興味がないわけではなかった。


「さあて、踊りますよ。踊り狂います。幼き頃にダンスの先生に習った腕前を見せて差し上げます」


『そのいきだにゃ!』


 と黒猫のルナも燃えてくれるが、30分後、華やかなダンス会場の壁際で花となっているエリザベート――。


「な、なぜに……」


 と困惑する。


 その理由は明白であった。


 プロムの会場にやってくるなり、会場にいた人たちの好奇と蔑視の視線が突き刺さったのだ。


 彼女らは悪魔でも見るような目つきでエリザベートを見つめると、口々に言った。



「……破壊神がやってきましたわ」


「まあ、怖い。この会場も壊されてしまうのでしょうか」


「そもそもよくこの会場にやってこれましたわね。王立学院幼年学校四騎士と謳われた炎の騎士レウス様にあんな醜態を見せたのに」


「見てご覧なさい、あの黒髪黒目、ああいやだわ、華やかなプロムが台無し」



「…………」


 エリザベートは沈黙してしまう。


 黒猫のルナは苦笑いを浮かべながら、『にゃはは』と説明をする。


『入学早々、ふたつの大事件を引き起こしておいて、男子と普通に踊れるなんて都合がよすぎたようだね』


「重大事件だなんてそんな。ただ、ちょっと〝うっかり〟実力の片鱗を見せてしまっただけです」


 エリザベートは反論すると近くにいた眼鏡の男子にぐいっと近寄る。


「あ、あの、わたし、ダンスの相手がいないんです。よろしければわたしと踊ってくれませんか」


「ひ、ひいぃ。許してください。僕は学者肌で荒事は苦手なんです」


 ぴゅいーっと逃げていく眼鏡男子。


 エリザベートは諦めず遠巻きでエリザベートを見つめていた金髪の男子に近づくと、


「ダンスはいかがでしょうか? わたし、こう見えても幼き頃にダンスを習っておりまして、それなりに得意なんです。オーレ!」


 華麗にステップをかます。


 金髪の男子は蒼白になると、


「い、命だけはお助けください」


 と逃げていった。


「な、なぜに……」


 絶句せざるを得ない。王立学院に通う将来有望な騎士候補たちでさえエリザベートを避ける。まだドラゴンとダンスを踊ったほうがいいという表情をしている。


「そ、そんな、わたしはただダンスを踊ってお友達になってほしいだけなのに……」


 繰り返すがエリザベートの前世は病弱、家と病院の往復の人生、恋人はおろか友人のひとりもいなかったのだ。せっかく健康な身体を手に入れたのだからお友達のひとりでもと思っているのだが、この学院にやってきて以来、友達ができそうな気配は微塵もない。


 すべては身から出た錆であるが、入学早々の重大イベント、プロムナードくらい人並みの女子のように踊ってみたかった。


 そのように嘆きながら壁際の華になる。


 誰も踊りに誘ってくれないのならばひっそりと植物のようになるしかないのだ。ビュッフェに用意された豪勢な食事を摂ることもできない。なぜならばコルセットで締め付けられ、胃腸に食べ物が届かないからだ。かといって光合成ができるわけでもなく、おなかは減る。


 これではいったい、なんのためにこの会場にやってきたのやら、と思っていると亜麻色の髪を持った少女が恐る恐る近づいてくる。


「あ、あのう」


 と声を掛けてきたのはなんと剣と魔法のRPG風乙女ゲーム「聖女と四人の騎士たち」のヒロイン聖女カレンだった。


 ひまわりのような可愛らしい黄色のドレスを着た少女は振り絞るように台詞を発する。


「は、はじめまして、あの、私は聖女のカレンと申します」


 あまりのことに固まっていると黒猫のルナがアドバイスをしてくる。


『や、やばいよ。聖女カレンと遭遇してしまった』


 ちなみにルナの声は他の人間には聞こえない。


「……これはまずいことなのでしょうか」


 小声で返す。


『少なくとも泣いて喜ぶ事態ではないね。「聖女と四人の騎士たち」の正史ルートでは適性試験のときにヒロインであるカレンと悪役令嬢である君が出会うんだ』


「そのときカレンさんにわたしより魔力適性が『1』多いと突っかかるんですよね、悪役令嬢エリザベートは」


『そういうこと。そしてこのプロムナードから本格的な虐めが始まる』


「虐められたくはないです」


『逆逆、君がカレンを虐めるんだよ』


「そうでした」


『本来の君は泣く子も黙る悪役令嬢だからね。入学三日目にして取り巻きを従え、健気な聖女カレンを虐めるんだ。そしていびりにいびり抜いた末、それが世間に露見して四騎士たちに断罪されるってのが正史なんだ』


「わたしは虐めなんてしません」


『分かってるよ。君は純朴で優しい女の子だからね。しかし、正史だと君が突っかかるんだけど、まさか向こうから声を掛けてくるなんて……。君がレベルをカンストしてしまったせいで歴史が大きく変わってしまったみたいだ』


「す、すみません」


『鍛えてしまったものは仕方ないし、カレンが声を掛けてきたことも仕方ない。そんなことよりも今は目の前の巨魁(きょかい)をなんとかするんだ』


 ルナはカレンのことを巨魁と称したが、彼女自身はとても優しい女の子だ。亜麻色のふわふわの髪を肩で切り揃えたとても可愛らしい女子であった。もしも彼女がヒロインでなければお近づきになってお友達になりたいタイプである。なぜって彼女は入学式二日目の自己紹介のときに、



「趣味は本を読むことです! 好きな作家はエランシー・ジェームスです」



 と明るく言い放っていたからだ。


 エランシー・ジェームスとは隣国の人気作家で、緻密な推理小説を書くことで知られている。翻訳版が発行されていないので知る人ぞ知る名作となっているのだが、まさか学院で同好の士に会えるとは思っていなかった。本の虫でもあるエリザベートは「わたしも大好きです」と声を掛けたくて仕方なかったが、さすがに自重したことを覚えている。


 しかし、不倶戴天の敵である聖女様がなんの用だろう。まさかエリザベートが魔王の娘であることに気が付いたわけではあるまいか。


 どきどき、とカレンの顔を見つめていると彼女は意を結したように口を開いた。



「あ、あの、よければですが、私とお友達になってください!」



 あまりに突飛で急でこの場にふさわしくない言葉にきょとんとしてしまうエリザベート、しかし何度も説明をした通りエリザベートには友達がひとりもいなかった。今世でも前世でも。だからだろうか、〝絶対に〟友達になってはいけない子からのアプローチにあっさりと陥落してしまう。


「はい。こんなわたしでもよければ」


 その台詞を聞いた黒猫のルナは『あちゃあ〜』とは言ったものの『君の破天荒な行動からこうなると思っていたよ』と半ば呆れるように言った。


 こうしてエリザベートに初めて友達ができるわけであるが、この歴史改変イベントは当然ながら波紋を引き起こすことになる。

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