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破壊神

 真っ赤な髪の毛と瞳をした美丈夫は登校してきたエリザベートを見つけるなり、


「おい、そこの不正(チート)女!」


 と、突っかかってきた。


 きょろきょろと周囲を見渡すが、エリザベート以外に人はいなかったので、そのチート女というのがエリザベートのことなのだろう。嬉しくないあだ名であるが、返答はする。


「チート女というのはわたしのことなのでしょうか?」


 己の鼻の頭を指さす。


「そうだ。おまえのことだ。しかしまあよくもぬけぬけと登校できたものだな」


「今日は登校二日目ですから。お休みする理由はありません」


 エリザベートの夢は皆勤賞のメダルを貰うことなのだ。


「なんて厚顔な女なんだ」


「厚顔と申しますと?」


「おまえは適性試験のときに不正を働いた」


「不正など働いておりません」


「いいや、不正だ。そうでなければ魔力値999なんて数字は出せない。おまえが首席のわけがないんだ」


「あれは……」


 実力なのだが、一応、世間的には機械の測定ミスということにしたい。なんとか目立たないように取り繕いたいエリザベートは必死に説明をするが、炎の騎士レウスは分かってくれなかった。


「俺はこの学院に入学できたことを誇りに思っているんだ。そんな中、目の前で不正を働かれたとなれば黙っておけないぜ」


「……不正じゃないです。機械の故障です」


「まだ言うか。この上はこれで勝負だ」


 炎の騎士レウスはエリザベートに木剣を投げつける。


「これは?」


「木剣だ。この学院には〝決闘裁判〟という制度があるんだ。俺が勝ったらおまえが不正を認め、退学をしろ!」


「決闘裁判ですか」


 エリザベートの通学用の鞄の中からひょこりと顔を出すのは使い魔にして神使の黒猫ルナ。


『王立学院の校則第二七条にこう書いてある。学内で起こった揉め事は決闘によって解決することが許される』


「まあ、そんな校則が」


『神様は正しきほうに味方するという神権授受思想の名残だね。この学院ではポピュラーな解決法みたい』


「野蛮ですねえ」


『そうかな、男の子の僕は燃えるものがあるけど』


 エリザベートとしては決闘などという野蛮なものはできるだけ避けたかったが、こっちにやる気はなくても炎の騎士レウスはやる気満々であった。ふたり分のやる気を見せる。エリザベートの手を握りしめると決闘場へと連れて行かれる。


「あらまあ、これが男子の手。ゴツゴツしています。剣だこがあります」


 などと見当違いな感想を抱いていると、いつの間にか決闘場には人が集まっていた。


 なんでも決闘には介添人が必要なのだそうな。


 決闘は神聖な儀式、不正があってはならぬと多くの衆人環視の中行われるという不文律もあるらしい。

 介添人は四騎士のひとり、氷の騎士レナードが務めてくれるとのことであった。


「ちなみに私とレウスは竹馬の友であるが、これは神聖な決闘、公明正大に介添人の役目を果たす」


 と宣言をする。


『ほんとかにゃあ』


 ルナは疑いのようだが、エリザベートは気にしていなかった。


『お、余裕だね』


 ルナはそのように尋ねてくる。


「ええ、昨日の魔力測定で彼の数値は一〇〇程度でした」


『あらま、聖女様以下だ』


「彼は魔術師タイプではありませんが、それでもわたしの敵ではないと思います」


『まあ、君のレベルは99だからね。魔力の数値から逆算すると彼のレベルは10あればいいほうかな』


「はい。だから決闘自体は余裕で勝てると思うんですけど、問題は相手に怪我をさせずに勝てるか、ということです」


『炎の騎士レウス様はその異名に恥じぬ熱血漢だからね。骨が折れても立ち向かってきそう』


「そうなんです。それにわたしは手加減をするのが苦手で……」


『まあ、なるようにしかならないよ。さあ、介添人が決闘開始の合図を始めようとしてるよ』


「はい、気を引き締めて手加減します」


 エリザベートがルナにそのような決意を述べると、氷の騎士レナードが決闘の合図を送った。



「いざ、尋常に、勝負!」



 ――その言葉を発した0.1秒後に炎の騎士レウスは決闘場の端に吹き飛ぶ。


 いったい、なにが起こったのか。周囲のものはもちろん、レナードも判断できない。それどころか吹き飛ばされた当の本人も分からないだろう。 


 種を明かしてしまえばエリザベートが〝普通〟に木剣を振り下ろしただけなのだが。


 要はエリザベートは魔法だけでなく、〝剣〟の腕前も最強ということだった。


『いやはや、まさかここまでとは。恐れ入るね』


「ちなみにわたしは剣を持ったことはありません。今日が初めてです」


 ダンジョンでの鍛錬は魔法と素手でのみ行っていた。巨人と腕相撲をして勝ったことさえあるのだ。


『ううむ、恐るべし、さすがは魔王の娘』


 納得の唸りを漏らすルナであったが、炎の騎士レウスは諦めが悪かった。


 彼は頭からだらだらと血を流しながら、


「ま、待て、今のは反則だ。開始の合図と同時に斬りかかってきた」


 と言い放った。


『気絶してないのも驚きだけど、まだ勝負にこだわる執念がすごい』


「さすがは炎の騎士様ですね。熱血です」


 エリザベートも思わず驚嘆する。


 炎の騎士レウスは介添人であるレナードをじっと見つめる。レナードとしてはエリザベートとの実力差ははっきりしているので「勝負あり」と言いたいところであったが、親友の諦めの悪さを知っているのだろう勝負を続行する。


 炎の騎士レウスは「ありがたい、さすがは親友だ」と笑う。


「わたしは治療をしたほうがいいと思うのですが……」


 氷の騎士レナードにそのように諭すが、彼は首を横に振るう。


「決闘はどちらかが負けを認めるか、死ぬか、あるいは意識を絶たれるまで続ける」


「人殺しは出来ません。もちろん、負けも認められません。負けたら退学をしないといけませんから」


「ならば試合続行だ」


 氷の騎士レナードはクールに言い放つと試合は再開する。


「今度こそ負けない!」


 そう言って斬り掛かってくる炎の騎士、エリザベートはその一撃をまともに食らう。



 カキン!



 と木剣を弾き飛ばすエリザベート。


 炎の騎士レナードは驚嘆する。まるで岩石でも殴っているような感覚を味わったのだ。


「……手がしびれやがる」


 ちなみになにか小細工をしたわけではない。単純に防御態勢を取っただけだ。エリザベートのレベルであれば敵の攻撃のタイミングを見計らって身体に魔力を纏わせればダメージが通ることはない。


 相手が降参する気がないと悟ったエリザベートはレウスの攻撃をすべて防御することにしたのだ。レウスは必死で木剣を振るうが、そのたびに弾かれる。一〇〇数余の斬撃がエリザベートに振り下ろされたが、結局、1のダメージも通ることはなかった。いや、正確にはエリザベートの黒髪に一撃が入り、キューティクルを傷つけた。


 その光景を見て、黒猫のルナは、

『え、えぐい……』

と語る。


 なんでもこれならば素直に力を発揮して相手の意識を絶ったほうがまだ慈悲があるとのことだった。


 事実、レウスは最後のほうは涙目になりながら、


「な、なんで攻撃が通らないんだよ。俺は炎の騎士なんだぞ。最強の四騎士のひとりなんだぞ」


 と剣を振るっていた。


 ごめんなさい、たしかにあなたは強いけど、世の中には上には上がいるのです、そのように心の中で謝ると決闘場に日が落ちる。


 介添人であるレナードはこれ以上やっても勝負は付かない、と「引き分け」を提案してくるが、レウスにとってそれは屈辱であったようだ。


「くそう、なんなんだよ、この女は……」


 口惜しげに漏らす。

 観戦していた生徒たちは、



「あのエリザベートって女生徒は化け物だ」

「魔力測定の結果、機械の故障じゃなかったんだな」

「引き分け? どう見てもエリザベートの圧勝のような」



 と口々にした。


 エリザベートはじとりと汗を流しながらルナに尋ねた。


「……目立たないようにしたつもりだけど」


『うん、完全に逆効果だね』


 魔力測定試験についで学院でも最強と目されていた生徒に圧勝してしまったエリザベート、その名は学院中に鳴り響く。そしてエリザベートには早速、あだ名が付く。



「ザ・破壊神(デストロイ)



 それが入学早々、エリザベートに付けられたあだ名であった。

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