一日八時間は寝たい
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聖女カレンと一緒に旅に出る、と言ったときの騎士たちの反応は淡泊であった。
「お土産を買ってきてくれよ」
「夏休みの宿題のアサガオ観察はどうするんだ?」
「おまえがいない間に鍛錬をしておまえを超えてやる」
「北方にバカンスとは優雅だね」
つまり四騎士は誰も付いてきてくれないということだ。その冷たさに鼻息を荒くするエリザベート。
「四騎士さんたちは冷たいです。お友達が転校しようとしているのに」
憤慨気味のエリザベートに黒猫のルナは言う。
『君がこの世界に介入したことによって四騎士たちの性格が大分変わってしまったね。本来ならばカレン転校イベントは四騎士が解決する予定だったんだ』
「なんと」
『しかももうちょっと後に発生するイベントだったんだけどね』
「わたしがこの世界に転生してしまったことによって歴史は大幅に変わってしまったということですね」
『うん、本来ならばその時点で一番好感度が高い騎士がカレンを迎えに行ってラブを深めるんだ』
「となるとわたしは動かず四騎士の誰かが救いに行くのを待つべきでしょうか」
『うーん、先ほどの四騎士の言動を鑑みるにカレンを救出しようという気概を持った騎士はいないような気がする』
「カレンさんはとても素敵なのに」
『君が目立ちすぎてその素敵さに目が行っていないんだろうね』
「魔王を倒すには彼女の力が必要なんですよね?」
「うん、魔王を弱めさせるには普通に武力でぶん殴ればいいんだけど、トドメだけは聖なる力が必要なんだ。聖女だけが唱えられる神聖魔法スターライト・エクスプロージョンが必須だよ」
「わたしは暗黒炎ならば唱えられるのですが」
「それは魔王が回復しちゃううやつ」
「ですよね」
説明するまでもないが魔王は闇属性の権化、エリザベートの呪文の過半は通用しない。
「ボコボコにするまではどうにかなるでしょうが、トドメはカレンさんにやって貰わないといけないわけですね」
『そう。しかし、その肝心なカレンが転校してしまったらお手上げだよ』
「それはわたしたちでなんとかしましょう」
そのように言うとメイドのクロエに旅立ちの荷造りをして貰った。
執事のセバスチャンは嫁入り前の娘が旅などエレガンスではありません、と言ったが、なんとか説得する。
「お友達の運命が掛かっているんです」
と真剣な表情をすると彼は納得してくれた。しかし、女ふたりで旅立たせてはくれない。クロエを同伴させるように言う。
「まあ、クロエが?」
「はい。クロエはこう見えて武術の達人なのです」
「なんと」
なんでもクロエは東洋の「忍術」というものをマスターしているらしい。本来はエリザベートの護衛もできるポテンシャルも秘めているとのこと。
「お嬢様が強すぎて役に立った試しがありませんが、長旅ともなれば役に立つこともありましょう」
「それは嬉しいです。わたしはともかく、カレンさんは普通の女の子ですから」
護衛役は多ければ多いほどいいだろう。北方の星教会の本拠地に行くまでの安全を保証するものエリザベートの役割であった。
「それではクロエにも旅の準備をして貰って、明日には王都を出立しましょうか」
そのようなやりとりをするとエリザベートは寝室に向かった。旅の前ゆえにじっくり休んでおきたかったのだ。北方の都市エルリュートは馬車で一週間ほどのところにあった。しばらくベッドの上での睡眠はお預けになるだろう。エリザベートは枕が変わると眠れなくなるようなタイプではないが、それでもベッドでじっくり寝たい派であった。一日、八時間以上の睡眠を欲する健康優良児なのである。




