鉄の執事
決闘騒動が終わった学院は静けさを取り戻す。いつもの平常運転となる。魔術科に通うエリザベートは普通に座学をこなし、時折実技に参加する。
魔術科の実技は多種多様である。魔法を的に命中させる授業、空飛ぶほうきに乗ってボールを運ぶ競技、《衝撃》の魔法を使って対戦相手を気絶させる競技なども行われる。座学以外の実技ではエリザベートが無双したのは言うまでもないだろう。
ただ、魔術科は攻撃魔法ばかり学ぶところではなかった。《鷹目》と呼ばれる探索系魔法の授業があった。大空を飛ぶ鷹の視点を借りて地上の物体を観測する魔法であるが、これがなかなか難しい。大空を飛ぶ鷹に意識を移す練習が必要なのだが、エリザベートは意識を飛ばすのが下手だった。他人をのして意識を飛ばすのは得意なのだが、ことが自分となるとなかなかに難しいのだ。
うーん、と意識を飛ばすと間違って雀に憑依してしまうこともある。雀の視点はローアングルで狭い。
鷹のように大空から俯瞰することはできなかった。雀も空を飛べるじゃん、という意見もあるが、魔術科の先生は原理原則に厳しく、鷹に憑依できないエリザベートには容赦なく落第点を与えた。
「ミス・エリザベート、あなたは魔王討伐にばかりかまけて学生の本文である勉学をおろそかにしているのではなくて」
ちくりと言われるが、そのような嫌みを言われても仕方ないだろう。それくらいエリザベートは細々とした探索魔法が苦手であった。
むしろ、得意になりたいので、自分から居残りを志願して練習するが、なかなか上手くなれなかった。この手の魔法ならばカレンのほうが得意なくらいであった。それを証拠に放課後、カレンはエリザベートに鷹見の魔法を教えてくれる。
「心を自由にして、大空を舞う鷹の気持ちになるんです。そうすると鷹と気持ちがシンクロして鷹の視点を貸してもらえるんです」
そのように言うとカレンは大空にいる鷹の意識を奪う。
「鷹はとても目がいい動物です。大空から地上にいる鼠を発見できるくらい」
実際、カレンは学院の中庭にいる鼠を発見し、鷹にそれを捕縛させる。
鷹に鷲づかみされた鼠はじたばたと暴れる。
カレンはとても優しい子なので鼠の命は奪わず、その場で解放する。
「と、このようになれるとこんなこともできます」
「カレンさんすごいです。わたしはそんな器用なことできません」
「私に言わせればエリザベートさんの攻撃魔法が羨ましいですよ。あんな威力を出せるのならばどのような敵も一撃です」
「ままならないものです。もうちょっと弱くなってもいいから基礎魔法も上手くなりたいです」
「エリザベートさんは魔力が強すぎるから基礎魔法が苦手なんでしょうね」
たはは、と頭をかくが、そのような茶目っ気を出していても魔法が上手くなるわけではない。カレンとともに放課後、自主的に練習をしているとそのときは訪れる。エリザベートの運命を変えようと刺客が現れたのだ。その刺客は武器を持った刺客ではない。魔王軍の息の掛かったものでもなければ魔王討伐反対派の先兵でもなかった。むしろ、エリザベートの実家のマクスウェル家の関係者であった。
そのもの名はセバスチャン、エリザベートの父親がエリザベートを優雅にするために送り込んだ最強の刺客であった。
エリザベート・マクスウェルは王立学院のそばに邸宅を借りている。そこでメイドのクロエと一緒に住んでいるわけであるが、その邸宅は広く、ふたりでは少々持て余し気味であった。部屋の九割は使っておらず閉鎖されているのだが、その中のひとつに初老の男は荷物を下ろす。
「ここがエリザベート様のお住まいか」
初老の老人は執事服に身を包んでいた。彼は執事なのだ。カイゼルひげを生やし、片眼鏡をはめた気難しげな男は部屋の窓の縁に指をやると埃の有無を確認する。彼の指には埃がついた。
「むむ、エレガンスではないな」
眉をひそめる執事。
「これは一ヶ月は掃除していないな。クロエのやつめ、サボりおって」
吐息を漏らす執事。
「いくらひとりで管理しているとはいえ、これではマクスウェル家のメイド失格だ」
そのように漏らすと執事服の男は掃除をし始めた。
エリザベートは学院から帰るとまず手洗いとうがいをする。健康を保つ秘訣であるが、うがい液がなくなっていることに気がつく。
「クロエ、うがい液がないのだけど」
控えめに訪ねると、クロエは申し訳ありませんでした、と、うがい液を持ってくる。
並の令嬢ならばそこで会話は終了であるが、エリザベートはなかなかに観察眼に優れる娘だった。クロエの表情が優れないことに気がつく。
「どうしたの、クロエ、なにか浮かない顔をしているけど」
「……気がつかれました、お嬢様」
「それなりに付き合いが長いですからね」
「それなのですが、実は本家から伝達が来まして、新しい使用人が来るそうなんです」
「あらま。――でもなんでもそれが憂鬱なの」
「はい。クロエは会ったことはないのですが、メイド仲間から聞いたところによるとやってくる執事はとても厳しい方だという噂です」
「執事さんがやってくるんですね」
わあ、すごい、なんかお嬢様みたいだ、と、つぶやく。
「なにを呑気に。その方はセバスチャンと言って規律と戒律が執事服を着て歩いていると言われているほどお堅い方なんですよ」
「まあ」
「別名、鉄の執事、エレガンスを極めるために生まれてきたという男性で、執事学院を首席で卒業したとか」
「そんな学院があったのね」
「はい、貴族の中では有能な執事の需要が高いですから」
「ならば優秀でいい人なのではないでしょうか」
「はあ、クロエは怖い人と聞いています」
クロエは軽くおののくがなにを大げさなと笑っているとその男は現れた。
彼の右手にはゴミ袋が握られていて、そこには大量の埃が詰め込まれていた。
「マクスウェル家のメイド、クロエ、これはおまえが掃除をさぼっていた証だ」
そのように言い放つと、執事のセバスチャンはそれを投げ渡す。
「ひ、ひえ」
クロエは自分の怠慢の証を脂汗をかきながら見つめる。
「おまえは生活に使用している場所以外の掃除をさぼっていたな」
「……は、はい」
その通りなので言い訳のしようがない、とクロエは肩を落とす。
「マクスウェル家のメイドにあるまじき行為だ。星ひとつ減点だ」
星とはマクスウェル家で用いられる評価方法でマクスウェル家の品位が上がる行為をしたものは加点され、逆に品が下がる行為をしたものは下げられる。星の数がマイナスになると強制的に解雇され、暇を言い渡される。
エリザベートとしてはクロエをかばいたいところであるが、埃というぐうの音も出ない証拠を積み上げられているのでどうにもならない。いや、それでもかばうか。なにせ彼女には日頃からお世話になっている。
「あ、あの、たしかにクロエは使っていない部屋の掃除をさぼっていたかもしれませんが、それくらいで星をマイナスにするのはどうかと」
ぎろり、と執事セバスチャンの片眼鏡が光る。
「あなたがエリザベートお嬢様ですね」
「は、はい」
「使用人をかばうその態度は見上げたものですが、これは使用人同士のけじめです。たしかに今のところ部屋を使用していなくてもいつ客人がやってくるかわからないのです。そのときやってきた客人にほこり臭い空気を吸わせてマクスウェル家の品位を下げてもいいというのですか」
「だ、だめかな」
「その通り、駄目なのです。マクスウェル家はゼルビア王国の名門貴族、一メイドの不始末によって優雅を欠くわけにはいきません」
「は、はい」
あまりの圧に肯定するしかないエリザベート、出会った瞬間からこの人に逆らってはいけないオーラが醸し出されているのだ。
「ちなみにわたくしはこの家をエレガンスにするために派遣されました。ここに住まう主をエレガンスにし、その下僕もエレガンスにします」
どうやらこの執事の口癖は「優雅」のようだ。
「わたくしはマクスウェル家の当主リチャード様に頼まれ、この屋敷に派遣されました。この屋敷を王都でも有数のエレガンスな空間にするために――」
セバスチャンはそこで一拍おくと、じろり、とエリザベートを見る。
「ときにお嬢様、なぜ、わたしがこの屋敷に派遣されたかわかりますか」
「え、ええと、分かりません」
「でしょうな。では答えから言います。それはあなたがエレガンスではないからです」
「わたしがエレガンスではない?」
「そうです。あなたはこの国の名門一族である四騎士のうちの誰かと婚約をするとお父上と約束しましたね」
「そういえばそんな約束をしたような」
「その約束が全く果たされていません。学院に密偵を送り込んでいますが、あなたは魔王討伐にばかりうつつを抜かしている。しかもこの前は令嬢にあるまじき決闘までして」
「…………」
全部筒抜けなので弁明しようもない。たしかに決闘や悪魔討伐はエレガンスとは対極にあった。
「で、でも、魔王討伐はお父様も認めてくれた事業です」
「ええ、その通り。しかし、それはあくまでエレガンスであってこそ。マクスウェル家の品位を落とすのならば話は別です。魔王を討伐しながらエレガンスに貴族として生きることも可能なはず」
「エレガンスにですか。自分では優雅なつもりなんですが」
「まったくもってエレガンスではありませんね」
セバスチャンはぴしっと指をさす。
「制服が斜めに三度ほど着崩れています」
「さ、三度」
この人は分度器でも持っているのだろうか。
「それにそのアホ毛はなんですか」
いや、これはヒロインの特徴だし。ぴこん、とアホ毛を揺らす。
「それに表情がにやついています。侯爵家の令嬢なのですから安易に微笑まないように」
えびす顔を怒られてしまった。
「わたくしがこの家の家令になったからには昨日までのように甘くはいきませんよ。お嬢様とメイドの性根を鍛え直します」
エリザベートとクロエは同時にいやな顔をしたが、それも指摘されたので慌てて表情を作り直すと、新しい同居人を迎え入れた。
執事が去ると、エリザベートは再びいやな顔をするが、クロエは「どうしようもない」と言う。
「旦那様が命じられたことですから我々にそれを覆す権限はありません」
「ある意味、魔王よりも厄介です」
「でしょうね。ああ、明日からお掃除する箇所が十倍です」
「わたしなんて制服が三度ずれていただけで怒られてしまうんですよ」
「お気の毒ですが、明日から分度器を持って制服を着付けます」
「「はあ……」」
と、ため息を漏らすがセバスチャンの教育的指導は二四時間体制であった。
その夜、食事の時間になるとセバスチャンは懐から懐中時計を取り出し言った。
「食事の時間に三分三二秒ほど遅刻しております」
もしもこれが重要な会席だったらどうするのです、とセバスチャンは怒った。
その後、お風呂に入ると柱の陰から、
「入浴時間が短い。淑女たるもの三〇分以上は入浴し、スキンケアにも気を遣うべきです」
と言ったり、就寝時間前に本を読んでいると、
「就寝時間を五分ほど超過しています。睡眠不足は淑女の大敵。毎日、同じ時間に眠るべきです」
と指摘してきた。
その光景を見てクロエは、
「マクスウェル家の別宅は監獄になってしまいました」
と嘆いた。
「あ、あの、クロエ、わたし、この生活に耐えられそうもないです」
「わたしもです。労働時間もですが、四六時中監視されていて」
「本当に監獄のようですよね。いったい、どうやったらセバスチャンさんは監視の目を緩めてくれるのでしょうか」
「それは我々がエレガンスになっていちいち監視しなくてもいいと納得したらではないでしょうか」
「それはいったいどうやって実現すればいいのでしょうか」
ぶっちゃけエリザベートはエレガンスではなかった。子供の頃からレベル上げに勤しんでお嬢様っぽいことはなにひとつやっていないのだ。ピアノは弾けるが、それくらいしか令嬢らしいところはない。
「お嬢様の特技、ピアノ持ち上げも通用しそうにないですしね」
「はい。武力が通用しそうな相手ではなかったです」
セバスチャンの個人的実力は不明だが、武力による恫喝は通用しそうになかった。彼はプロフェッショナルな執事としてただただマクスウェル家の未来を心配していた。だからむやみやたらに反発することはできない。
エリザベートはしばらく耐え忍びながら学院と家を往復した。
令嬢たるもの歩くときは背筋をピンと伸ばして角を曲がるときは直角に。
そのような言葉を心の中で唱えながら学院の廊下を歩いていると、カレンが心配げに声をかけてきた。
「最近のエリザベートさん、少し変ですよ」
「……変ですか? 礼儀作法に気をつけているだけなんですが」
「もちろん、礼儀作法にかなった動きをしていますが、ぎこちないというか、楽しんでいる様子がまったくありません」
「はい。わずかなミスもしないようにそればかりに気をとられてしまって」
「まあ、いったいなにがあったのですか? よければ私に教えてください」
「それがなのですが……」
かくかくしかじか、と詳細を説明するとカレンは「まあ」と驚いた。
「本家から執事さんがやってきたのですね」
「そうなのです。悪魔は簡単に倒せるのですが、執事さんを倒すわけにはいかず、困っています」
「最強の令嬢にも弱点はあるのですね」
ふふふ、と笑う。
「しかし、その執事さんとはお腹を割って話し合うべきです。このままではエリザベートさんは参ってしまいます」
「すでに降参気味です」
べたぁ、とその場で突き伏す。
「分かりました。それでは放課後、私がエリザベートさんの家に行って交渉します」
「本当ですか?」
目を輝かせ、カレンの手を取る。
「ええ、大切なお友達の精神が崩壊したら大変ですからね」
「じーん。やっぱり持つべきはお友達です」
そのようなやりとりをしていると放課後になる。
カレンは意気揚々とエリザベートの屋敷にやってくる。彼女はエリザベートの屋敷を見ると。
「す、すごい立派です。これがエリザベートさんの家」
「はい」
「玄関から門まで歩きますね」
「はい」
「ゴールデンレトリバー、いえ、ドーベルマンがいそう。もしくはジャーマン・シェパードとか」
「いませんよ。その代わり猫はいます」
『にゃあ』
黒猫のルナはしおらしく鳴く。
「まあまあ、屋敷は立派ですが、そう肩肘張らず」
「張りますよ。私はド庶民の出なんですから」
わたしもそうでした、とは言っていいのだろうか。エリザベートに前世があることは秘密になっている。理由は前世があると吹聴すると変な子だと思われるから。前世を思い出して以来、周囲の大人には秘密にしてきたし、学院に入ってからも内緒にしてきたが、カレンにならば言ってもいいかもしれない。そんなふうに思っているとくだんの執事が出迎えてくれた。
「おお、お嬢様がご友人を連れてこられた」
セバスチャンはカイゼルひげを揺らし目を細める。
「お嬢様にはご友人がいないと聞いていたので心配していたのですよ。まさかこのようにエレガントな友人を連れてくるとは」
エリザベートに友達がいないというのはマクスウェル家全員が知る公然の秘密なのだそうな。まあ、たしかに王立学院に入学するまでは友達はひとりもいなかったけどさ。しかし、今はカレンという素敵なお友達がいるので堂々と胸を張る。
「この方がわたし唯一の友達にしてベストフレンドにしてソウルメイトのカレンさんです。どうか、よろしくお願いいたします」
「カ、カレンです」
カレンはどぎまぎしながら答える。屋敷に圧倒されている上、立派なカイゼル髭を持った執事にも圧倒されているようだ。しかし、彼女は神々しい力を持つ聖女、この程度でへこたれたりしない。エリザベートの前に一歩出ると「セバスチャンさん! エリザベートさんの教育に手加減をしてください!」と〝小声〟で言い放った。当然、セバスチャンには届かない。
「カレンさん、びしっといってくださるんじゃないんですか」
「え、ええ、もちろん。でも、喉が渇いてしまって大声が出せそうになくて」
それを聞いたセバスチャンは「それはそれは気がつきませんで」と紅茶を入れるようにクロエに指示をする。クロエは黙々と紅茶を入れる準備をする。
「の、喉を潤したらちゃんと伝えます」
と脂汗をかきながら言う様はあまり頼りにならない。実際、紅茶が出て喉を潤してもなにも言ってくれない。
「マ、マドレーヌを食べてからちゃんと言いますから」
メイドのクロエがマドレーヌを持ってくるとそういうが彼女は子リスのようにかじり、最大限時間をかけてマドレーヌを食べる。
「に、二杯目の紅茶を飲み終えたら言ってやります」
と言うが、彼女は二杯目の紅茶にたっぷりとマーマレードを入れるだけで借りてきた猫のようにおとなしかった。
「うう、カレンさんは肝心なところで役に立ちません」
と漏らすが、当人の耳にも届く。
「ご、ごめんなさい。セバスチャンさんの威圧感がすごくて」
誤解のないように言っておくがセバスチャンは終始笑顔である。珍しくお嬢様がお友達を連れてきた、
と喜んでいるが、それでも立派なカイゼル髭と鋭い眼光は隠せず客人を威圧するに十分なようだ。
「ええい、こうなったら自分で言います」
意を決したエリザベートはセバスチャンに具申する。
「セバスチャン、あなたはエレガンスにこだわりすぎです。わたしは侯爵令嬢として最低限のエレガンスさを心がけているのであまり自分のエレガンスを押しつけないでください」
立ち上がりながらそのように宣言するとセバスチャンはぎろりと目を光らせた。
「お嬢様方はエレガンスを否定するために共闘しているのですかな」
エリザベートは小動物のようにおびえながらカレンの後ろに隠れる。
「――とカレンさんが申しています」
「あ、ずるい」
カレンは困惑するが、ここにきて肝が据わったのだろう意を決するとエリザベートの味方をしてくれる。
「エリザベートさんは今でも十分エレガンスです。無理にこれ以上エレガンスにしなくても」
「ご友人はうちのお嬢様がすでにエレガンスだと申すのですか」
「はい」
「いやいや、お嬢様は未熟、このセバスめが指導しなくては」
「指導はいいのですが、行き過ぎな気がします。最近、エリザベートさんの目が死んでいるのが分かるんです」
「むう、このわたくしめの指導が行き過ぎだと」
「もう少し手加減をしてほしいです」
エリザベートも必死に訴える。
「――分かりました。こうしましょう」
セバスチャンはしばし沈黙するとそのように言う。
「幸いと王立学院には一般教養の授業があります。その中に礼節の科目もあるはず。それで九〇点以上の点数をとればセバスは口を慎みましょう」
「本当ですか?」
カレンは目を輝かせる。
「このセバスチャンに二言はありません」
カイゼル髭をキリッとさせ言い放つ。
次いでカレンは喜び勇みながら、
「やった! やりましたよ、エリザベートさん」
と笑顔を漏らした。
その笑顔につられてエリザベートも笑みが漏れ出るが、すぐに不安な表情を作る。
「あ、あの、わたし、礼節の試験で七〇点以上を取ったことがないのですが……」
重大な発言をするが、カレンは大丈夫です、と拳を握りしめる。
「わたしがエリザベートさんを指導します」
「なんと!」
「わたしは庶民の出ですが、それを補うため、座学は勉強しまくっています」
「カーテシーも知らなかったカレンさんがいつの間にそんな……」
「えへへ、こう見えても努力家なんですよ」
笑顔で力こぶを作るカレン。
「それと四騎士のみなさんに相談しましょう。レナードさんやルクスさんは礼節に詳しいはず」
「たしかに」
カレンはそのように纏めるとさっそくレナードとルクスを探すため、学院に向かった。