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嫉妬のマリアンヌ

 王立学院の生徒会主催の定例ダンスパーティーはなかなかに華やかであった。


「そもそもこの王立学院にも生徒会はあるんですね」


 そのような感想を漏らすとカレンはにこやかに、


「あるんですよ。私も実は誘われていて」


 なんですと、という顔をする。


「聖女なのですから生徒の模範となって生徒を導いて欲しいとのことでした」


「断わったんですよね?」


「はい。私には魔王を討伐するという目標がありますから」


「ほっ……、よかった」


 カレンは魔王攻略の要、生徒会活動でレベル上げを怠って貰っては困る。


 そのような話をしていると馬車は王立学院のダンス会場に到着する。


 馬車から降り立つとそのまま会場に向かうが、他の生徒たちは、


「……破壊神がきた」


 と、ざわめきを漏らしていた。


「破壊神じゃありません~」


 と声高に主張したいところだが、言葉で解決するのならばこんなに困ってはいない。行動によって普通の娘であることを主張する。


 先にパーティー会場にやってきていたルクスに声を掛けると彼とダンスを踊った。


 ルクスはまるで王侯貴族のように優雅にエスコートしてくれる。さすがは第三王子である。


 軽妙な音楽に合わせるかのようにステップを刻んでるとちらほらとこんな声が。



「あら、素敵」

「第三王子のルクス様と対等に踊るなんてすごい」

「ルクス様と仲直りされたのかしら」



 そのような話を背にするとうきうきとしてくる。


「ああ、これであらぬ誤解が解ける」


 そのように安堵しているとパーティー会場の中央からとてつもない熱量の視線が注がれていることに気が付く。


 それは負の感情が濃密に詰まった嫉妬の視線だった。


 エリザベートを呪殺する勢いの視線を送るはマリアンヌ・デュークハルト公爵令嬢だった。


「……しまった。彼女の存在を忘れていた」


 マリアンヌ・デュークハルトは魔王復活論否定派であるデュークハルト家の娘だ。さらにいえば彼女は王族であるルクスに好意を寄せていた。


 そんな娘の前でこのようなダンスをすれば嫉妬の感情をかき立てるのは必定であった。


「……マリアンヌさんのことをまったく考えていませんでした」


 ぬかった、とため息をつくが、案の定マリアンヌはずかずかとこっちにやってくる。


「エリザベート・マクスウェル、あなたはルクス様に好意がないっていったじゃない!」


「こ、好意なんてありませんよ」


 これっぽっちも、と断言したいところであるがマリアンヌは二の句も告げさせない。


「嘘よ! 好意がないのならばなぜこんなに親しげにダンスをしているの!」


「それは和解の印というか、この前、カウンターパンチを入れてごめんなさい、という意味を込めてのダンスなんです」


「よく分からないけど、ルクス様のことが好きなんじゃない!」


「お友達としては好きですよ」


「信じられないわ」


 らちがあかないと思ったエリザベートはルクスを見つめ弁明を求めるが、この男、とんでもないことを言う。


「マリアンヌか。エリザベートはたしかに俺のことを好いていないようだが、俺はこの娘を好いているぞ。自分の女にしたいと思っている」


「…………」


 ああ、もうどうにでもして、覆水盆に返らず、なにをしてもどうにもならないと悟ったエリザベートは放心する。


 そんなエリザベートに向かってマリアンヌは手袋を投げてくる。


「もう、こうなったら決闘しかありませんわ! エリザベート・マクスウェル、わたしと決闘なさい!」

「え、ええ~」


 間抜けな声を漏らしてしまう。


 ここに来て仲裁をするのは聖女カレン。


「マリアンヌさん、分かっているんですか? あなたが決闘を申し込んでるのは〝破壊神〟の異名を持つ最強の令嬢なんですよ」


「分かっているわ。でも、わたくしは愛に生きる女。愛するものを奪われて無為無策でいるなんてできない!」


 マリアンヌは闘志を燃やす。


「それにお父様は言っていた。エリザベート・マクスウェルは魔王が復活すると喧伝し、人心を惑わす魔女だと。生徒会に身を連ねるものとして許すことは出来ない」


 マリアンヌさんは生徒会の役員だったのか。


 まったく、なにからなにまで最悪のほうに転がっていく。


 そのように嘆くが、ここまできたらもうあとには引き返せないだろう。決闘を行うしかなかった。


 ただ、正式な決闘には代理人を立てることが許されている。自身に武力がないものは他者を代理に立て、決闘を代行させることが許されるのだ。


 マリアンヌもその権利を行使するようである。


「こうなったらお金に糸目を付けず、国内でも最強の決闘者(デュエリスト)を用意してやりますわ」


 とのことであった。


 それを聞いて軽くおののく。


 エリザベートはたしかにレベル九九であるが、それでもこの世界は広い。同じレベル九九に到達しているものはいないかもしれないが、エリザベートに対抗できうるレベルを持ったものならばいるかもしれない。例えばであるが、近衛騎士団長のゲオルグなど、エリザベートといい勝負をするだろう。


 そんな感想を抱いたが、わくわくとしているのも事実だった。


「国内最強ってどれくらい強いのかしら」


 黒猫のルナいわく、


『戦闘狂のバトルマニアの思考法だね』


 とのことであるが、概ね間違っていない。エリザベートは自身のレベルに誇りを持っており、どこまで可能性を秘めているか知りたいという側面もあるのだ。


 というわけで決闘を楽しみにするが、ルクスはきょとんとしてた。


「おれを中心に物事が動いているが、おれ不在で物事が進んでいる気がする」


「たしかに」


 と思ったが、ルクスのせいでもあるので同情はしない。


 ちなみに決闘で負ければルクスに近づいただけでビリビリと電気ショックを受ける呪われた腕輪を終生はめないといけないとのことであった。


 そんなものははめたくないので全力で決闘に勝ちに行くつもりだ。


 日課のスクワットと腕立て伏せを始める。

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