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蓬莱のサシーミ

 保養所のお風呂は露天風呂というやつだった。


 もちろん、男女別々であるのでルクスのような好色男がやってくることはない。。


 女だけ、肌を晒しあって友好度をアップ。


 裸の付き合いというやつだ


 じーっと聖女カレンの肌を見つめる。


「ど、どうされたんですか。まるで獣のような目をしています」


「いえ、カレンさんは肌が白くて綺麗だなあ、と思って」


「ありがとうございます」


 恐縮するカレン。


「本当、雪のように肌が白いです」


「北国育ちだから日照量が少ないのでしょう」


「なるほど、お肌の大敵はやはり太陽さんでしたか」


「はい。私の短い人生経験によれば老化と太陽は密接に関係しています」


「それではわたしも気をつけます。日傘でも買おうかな」


「それがいいですよ。若い内に太陽を浴びすぎるとシミやソバカスになると聞きます」


 ふたり、女子トークに花を咲かせていると温泉に侵入者がやってくる。


 男子どもが乱入したのではなく、雄猫がやってきただけであるが。


『ふー、ここが露天風呂か。なかなか風情があるねえ」


「あー、ルナ」


 黒猫のルナはオスのくせに堂々と女湯に入ってきた。注意をする。


『なにをいまさら、僕は君の着替えを何度も見ているでしょう』


「カレンさんは別でしょう。わたしの友人の肌は見せません」


 と大の字になってカレンを庇うが、ルナは気にした様子もなく、温泉に浸かる。


「しかも身体を洗わずに入りました」


『猫だけの特権さ』


 のほほんと言うルナに注意を喚起するが、カレンは「まあまあ」と仲裁してくれる。


「猫ちゃんなんですから、大目に見てあげましょう」


「うー、カレンさんは甘いです」


「きっと寂しいんですよ。怠惰の悪魔討伐には彼を連れていきませんでしたから」


『そうだよ、カレンの言うとおりさ。あんな一大事に僕を置いていくなんてありえない」


「ルナは戦力になりませんからね」


『なにを言う。ボクは君の軍師だよ、知恵袋だ』


「ルナがいなくてもどうにかなりましたよ」


『それはたまたまさ。君には僕が必要さ』


 そのようなやりとりをしていると聖女カレン様は当然の疑問を口にする。


「あの、先ほどから猫さんとにゃあにゃあやりとりをされていますが、もしかして黒猫さんとお話ししているのですか?」


「ああ、そうだ。そういえばルナは他の人には声が聞こえないという設定でした」


『設定言うな』


 エリザベートはにこりと微笑むと、ルナを紹介する。


「ルナはわたしの使い魔にして神使なんです」


「神使?」


「神様の使いですね」


「まあ、神様の使い。そういえばどこか品のある猫ちゃんのような」


『お、さすが、聖女様だね。僕の隠しきれない育ちのよさに気が付くなんて。褒めて使わす』


「――などと申しています。基本、この子はすぐに調子に乗るのであまり褒めすぎないでくださいね」


「分かりました。しかし、それにしても可愛い猫ちゃん」


「カレンにだってカーバンクルのカーくんがいるじゃないですか」


 緑色の幻獣(カーバンクル)の姿を想起させる。


「そういえば旅の途中でも見かけませんが、学院に置いてきたのですか」


「はい。カー君は乗り物に弱そうだったのでおいてきました」


「ルナも置いてくればよかった」


 そのように言うと、ルナは「ふにゃー」と抗議の声を上げる。


 さて、このようにしてお湯に浸かっているとさすがにのぼせてくる。


「あまりお湯に浸かりすぎても逆効果です。そろそろでましょうか」


「はい。一時間入ったので一時間は寿命が延びたかな」


「このお湯に浸かり続ければ不老不死ですね」


 そのように笑い合うとふたりは温泉から出た。ついでにカレンの肌を触るがつるつるであった。自分の肘も触るがちゅるんとする。水を弾くような肌がより健康的になった気がした。保養所の温泉恐るべし、である。





 温泉から出ると保養所の食堂に向かう。


 なんでも今日は遙か東にある蓬莱(ほうらい)という国風のもてなしをしてくれるらしく、食堂には舟盛りが用意されていた。


「これはなんですか」


「これは蓬莱風サシーミという食べ物です」


 本で知識があったエリザベートは自慢げに語る。


「まあ、すごい」


「へえ、これがサシーミか」


 大商人の息子である風の騎士セシルでさえも食べたことがないようだ。


「いや、お金持ちだからって毎日酒池肉林の騒ぎをしているわけじゃないよ」


 と抗議の声を上げるが、たしかにエリザベートの家も侯爵家であるが、山海の珍味を毎日食べているわけではない。それは王族であるルクスも同じようだ。


「俺もサシーミは初めてだ。サシーミというのは生魚なんだよな? 腹を下さないか?」


「川魚は寄生虫がいるけど、海の魚はいないことのほうが多いらしい」


「いないことのほうが多いって言い回しがすでに怖いのだが……」


「おまえらは勇気がないな。腹を下すのが怖くて騎士など務まるか」


 炎の騎士レウスは腹をくくると一番最初に舟盛りに手を伸ばした。


 箸を不器用に使うとソイソースにサシーミを付けて口に放り込む。


「……むしゃむしゃ」


 一同の視線がレウスに注がれるが、レウスは無言で咀嚼をすると最後に、


「美味い!」


 と言い放った。


「まじかよ」


「本当か?」


 と騎士たちは口々に言うが、レウスは「騙されたと思って食べてみろよ」という。なんでも少し生臭いが、ほのかに甘く、独特の旨みに溢れた味とのことであった。


 三騎士たちは次々に箸を使って口にサシーミを運ぶが、彼らは皆「美味い!」と口々に言った。それを見て女子陣たちもサシーミを口に運ぶ。


 ちなみにエリザベートは今世では鉄の胃袋と腸を持っており、おなかを下したことは一度もない。そんな健康優良児のエリザベートの舌はなかなかに肥えているが、生魚のサシーミはなかなかに美味であった。


「サシーミって美味しいですね」


 そのように言うと皆で争うかのように舟盛りを食べ始めた。


「あとはゲイシャとテンプーラさえあれば蓬莱を堪能し尽くせるが」


 レナードはそのように言うが、ゲイーシャさんはやってこなくてもテンプーラはちゃんと用意されていた。さすがは王立学院の保養所である。


 このようにして保養所生活を満喫し、羽を伸ばす。温泉地はここ数日、悪魔との連戦で疲れ切ったエリザベートたちの身体を癒やしてくれた。このようにしてエリザベートたちはHPと気力を回復させると学院に戻った。

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