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父親との再会

 ドレスを手に入れたので次はダンスの練習に励む。


 エリザベートは王立学院に入ったことにより令嬢らしくなり、女性的な魅力を蓄えた、と父親に思って貰うのが作戦なのだ。


 分かりやすくそれを分かって貰うにはダンスが適当であった。


 アン・ドウ・トロワ!


 とダンスを練習し始めるが、舞踏会の日は迫ってくる。


 一生懸命に練習していると、黒猫のルナが声を掛けてきた。


『そんなに一生懸命にお父さんにアピールしなければいけないの?』


 と首をひねってきた。


『親子なんだから、普通に話し合って解決すればいいんじゃないの?』


「それができれば苦労はありません。だってわたしは生まれてから数度しかお父様と会ったことがないんですもの」


『えー!? そうなんだ』


「はい。幼き頃から別の家で育てられました、会えるのは誕生日の日くらいでした」


『どうしてそんなドライな親子関係になってしまったんだい?」


「お父様は仕事が命なんです。王国の法務大臣を務めているのですが、家にほとんど帰ってきませんでした。それにわたしは妾の娘なので本家の敷居をまたがせてくれなくて」


『ああ、君は側室の娘という設定だったね』


「はい」


『側室の子として別して育てられたエリザベートは性格が歪んでしまって悪役令嬢になるって設定だったね』


「はい。正史では。でも今世では放任主義を逆手にとって幼い頃からレベル上げに没頭しておりました」


『偉いよね。君は本当にレベル上げの天才だ」


「ありがとうございます」


 そのように家庭事情を説明するが、エリザベートとしても父親に会うのはどきどきする。わざわざ家まで別にして育てられたということは好かれているとは思えないからだ。


 胸をドキドキさせながら王宮の夜会が開かれる場所まで行くとお父様に挨拶をする。


 立派なあごひげを蓄えた偉丈夫、それがエリザベートの父親だった。


 エリザベートは父にカーテシーをすると、


「お久しぶりでございます」


 と言った。


 法務大臣の父は偉い人たちだと談笑をしていたが、さすがに娘の顔は覚えていたのだろう。談笑を中止し、エリザベートに声を掛けてくれる。


「エリザベートか。久しいな。一年ぶりか」


「はい。最後に会ったのは誕生日なのでおそらくそれくらいかと」


「一年会わない間に美しくなったな。そのドレス、似合っているぞ」


「ありがとうございます。なにもかもお父様のおかげです」


「私はなにもしていないがな。ただ、養育費を払って自由奔放に暮らさせていただけだ」


「それが功を奏したのでしょう。健康な身体を養うことができました」


「おまえは子供の頃から健康、健康と五月蠅かった。まるで年寄りのようだったぞ」


 前世では健康を損ないベッドで生活をしていたのだ。今世では健康にこだわるに決まっている。


「しかし、話は聞いていると思うが、昨今、おまえははっちゃけ過ぎだ。女だてらに魔王軍討伐軍を指揮しているそうではないか」


「はい。三年後、魔王が復活するのですからそれを阻止しなければ」


「それなのだが、本当に魔王は復活するのか? 魔王復活の報告は王国上層部にも伝わっているが、虚報であるという報告もある」


「魔王は復活します。わたしが三年生になり、卒業を迎える頃には」


「信じられん。魔王は数十年前に封印されたというのに」


「その封印が解かれようとしているのです」


「しかし、それが本当だとしてもおまえが魔王討伐軍の指導者になるという意味が分からない」


「わたしは幼き頃から修練をしてレベルがカンストしてしまったのです。ですから学院長様にその秘訣を教えよ、と選ばれたのです」


「おまえを放任主義で育てている間にそんなことをしていたのか」


「はい。より健康的で強い身体を手に入れるため」


 それと破滅ルートを回避するために、とは宣言できない。魔王の娘であること、前世の記憶を持っていること、この世界が乙女ゲームの世界であることは内緒なのだ。そんなことをのたまえば精神病院に幽閉されてしまう。


「おまえを自由にしすぎた。これからはそうはいかない。おまえは我がマクスウェル家から嫁に出す身なのだ。その辺を踏まえ、自重せよ」


「しかし、ここでなにもしなければ三年後にこの国を大災厄が襲うのですよ。そうなれば政略結婚どころではありません」


「それは大賢者ザンダルフ殿やパワーセブンの賢者たちがなんとかしてくれよう。それにおまえの学院には四人の勇者候補たちがいるのだろう。それに聖女も」


「はい」


「そのものたちに後事を託せ。さすればおまえは結婚に専念できる」


「それなのですが、お父様は王立学院でコネクションを増やせとおっしゃられました。そのことば通りに四騎士の皆さんと仲良くなったのです。四騎士といえばご実家も名門ばかり」


「まさか、そのうちのひとりと恋仲にでもなったか」


「――それはまだですが、四人それぞれと仲良くさせて頂いております」


「本当か?」


「本当です」


 と舞踏会の会場から一番高貴なもののに目を付ける。


「あそこにいるのは土の騎士様のルクスさんです。彼とももうお友達なんですよ」


「なんと、この国の第三王子と恋仲なのか」


「そこまでではないですけど、踊りを踊るくらいの仲です」


 ささっと彼に近づくと踊りを所望する。


 事前に舞踏会で踊ってくれとお願いをしていたので彼は快くダンスを踊ってくれた。


 女たらしの彼は、


「これは俺の愛を受け入れてくれるフラグと考えていいかな」


 と、うそぶくが、丁重に無視をする。エリザベートは恋に落ちるにしても多情な人は避けたかった。

 一曲踊りを披露すると今度は炎の騎士レウスが踊りを所望してくる。


「リズ、俺と踊ろうぜ」


 彼にも事情は話していたので気を使ってきたのだろう。レウスはエスコートも下手だし、ダンスも不得手であったが、一生懸命に踊ってくれた。そうなれば風の騎士セシルも、氷の騎士レナードも空気を読んでくれる。四騎士全員と見事な踊りを披露すると、エリザベートはちょっとしたダンスクイーンとなる。

「ほほぉ、見事な踊りだな」


 エリザベートの父は微笑む。貴族としての打算が生まれてくる。


「……このまま魔王討伐軍都やらを続けさせて将来、この国の中枢を担う諸家と婚姻させたほうが我がマクスウェル家の利益になるのではないだろうか」


 そんな考えが浮かび上がっているような顔をしていた。


 父リチャードは立派なあごひげをなで回すと、「魔王を討伐したら四騎士の誰かと結婚をする気はあるか?」と尋ねてきた。


 ありません、というのが本心なのだが、ここは「ある」と方便でも言ったほうがいいだろう。


「あります。四人の中で一番わたしを愛してくださる殿方のもとへ嫁ぎます」


「その言葉に二言はないか?」


「はい、もちろん」


「ならば魔王討伐の件はなにもいわない。魔王でも魔神でも好きなものを倒すがよかろう」


 リチャードはそのように言うとエリザベートの勝手を許してくれた。


「おまえを今さら修道院送りにしたところでレベルが下がるわけではない。ならばレベル99の嫁でも持て余さない男を見繕ったほうがいい」


 合理的な考え方である。たしかにレベル99であるエリザベートを妻に出来るのは将来、エリザベートに肉薄することに成功した四騎士の誰かしかあり得ない。


 そのような感想を抱きながら舞踏会で四騎士様がたと踊るが、エリザベートは会場の端でキョロキョロとしている少女を見つけ出す。


 どうやら聖女カレンもこの夜会に参加しているようだ。しかし、平民出の彼女は右も左も分からないといった態であった。


 カレンはエリザベートの数少ない友達である。このまま壁の花にしておくには惜しいと思ったエリザベートは彼女に声を掛け、


「踊ってくれませんか?」


 と尋ねた。


 すると彼女は太陽のような笑顔を浮かべ、是非、と言った。


 その光景を見て、四騎士たちは、「聖女様もリーダーも」恋愛には興味がないのだと悟ったようだ。事実、そうであった。エリザベートはこの健康的な身体で青春を謳歌したいと思っているだけなのだ。それを見て四騎士たちは、「花より健康」だな、と賞するが、まさしくその通りであった。



 さて、このように楽しく夜会は過ぎていくが、エリザベートを見つめるのは氷の騎士レナードであった。先ほどエリザベートと踊ってから身体のほてりが取れないのである。


「……ただ、踊ってくれと頼まれただけなのにな」


 そのようにつぶやくと改めてエリザベートを見つめる。


 黒髪黒目の不吉な少女、眉目は秀麗であるが、正直、なにを考えているのか分からない不気味さはある。二言目には健康と口走るが、まるで人生を二度送っているかのような貫禄を感じるときもあるのだ。


 はっきりいえばとても珍しいタイプであり、興味は引かれるが、恋愛感情のようなものを抱くとは夢にも思っていなかった。


 それはレウスやルクス、それにセシルとて例外ではなかろう。


 最初こそ邪険にしていた彼らであるが、今は学院でもこのような場でも彼女を中心に花を咲かせている。


 レウスと話をしていても二言目には、


「あの健康女」


 あるいは、


「カンスト女」


 という単語が飛び出てくる。


 エリザベート・マクスウェルは異性にモテて仕方ない四騎士さえも虜にしてしまうなにかを持っているのだ。


「まったく、罪作りな女だ」


 友人以上の存在である炎の騎士レウスの視線を見てそのように思ってしまう。

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