魔力測定
王立学院入学初日、生徒たちは講堂に集められ、学院長の有り難いお話を聞く。
長く退屈なお話を小一時間ほど聞くと、生徒たちは鍛錬場に連れて行かれ、そこで適性を測られる。
この世界は剣と魔法の王国。剣士に適性があるか、魔法使いに適性があるか測られるのだ。無論、本人の希望も考慮されるが、魔力がないものは魔術科に配属されることはない。
エリザベートはもちろん、魔術科に配属を願う。
エリザベートはヒロインと攻略対象を撥ね除けるために幼き頃からせっせとレベル上げをしていたのだ。それに黒猫のルナを学院に連れて行くには魔術科に通うしか方法はない。
ちなみにエリザベートの仇敵であるヒロインも魔術科を目指しているようだ。
黒猫のルナがヒロインを見つけると肉球を差す。
『ほら、見てごらん、あの子が将来、君を討伐する聖女様だよ』
「あの方がわたしの敵になるのですね」
『うん、虫一匹殺さない顔しているだろう。でも、魔王の娘となれば話は別さ。RPG風乙女ゲーム「聖女と四人の騎士たち」では容赦なく君を倒し、愛しい攻略対象たちとイチャラブの人生を送る』
「イチャラブですか。異性とイチャイチャするのは楽しいのでしょうか?」
『さあて、僕は人間じゃないから分からないけど、すべての生物の基本は種を残すことだからねえ』
「なるほど」
『まあ、君は異性どころじゃない前世だったものね』
「はい」
明日をも知れない不健康な身体を持っていた前世、異性とイチャつくどころかどうやって明日生きるかしか頭になかったのだ。そのときの癖もあるが、今世でも生存を賭けて戦っているので、異性に興味というものがまったくなかった。
もちろん、貴公子然とした男子を見ていると眼福ではあるが。
エリザベートは視線を移す。
仇敵であるヒロイン以外の面子も鍛錬場に集まりつつあったからだ。
ヒロインたちと共闘して悪役令嬢であるエリザベートに挑む四人の騎士たち。
一人目は炎の騎士。
熱血漢でなによりも正義を愛する猪突猛進の騎士。
真っ赤な赤毛と整った顔立ちを持つイケメン。
二人目は氷の騎士。
冷徹怜悧な性格をしているクールな二枚目。
色素の薄い髪と瞳を持つ氷の貴公子。
三人目は風の騎士。
茶目っ気たっぷりの末っ子タイプの甘え上手。
愛嬌と茶目っ気をたっぷりと備えた女顔の少年。
四人目は土の騎士。
強引で豪快な性格をしている俺様系。
黒髪黒目の整った顔立ちをしている。
以上、彼らがエリザベートを打ち倒す四人の騎士であった。
「うーん、皆さん、強そうです」
『なんの。今の君のほうが遙かに強いよ。だって君は幼少期からめっちゃ鍛えているからね』
「はい。未だにスクワットと腹筋はかかしません」
『ならば余裕さ』
「そうでしょうか……」
自信なさげに言う。たしかにエリザベートは生まれ変わってから鍛錬を欠かしていないが、自分の強さがどのくらいであるか、よく分かっていなかったのだ。レベルの上限に達しているとは思うのだが、それでもヒロインと攻略対象に通用するか、未知数なのである。
エリザベートは沈黙しながら教師の言葉を待つ。
鍛錬場に教師がやってくると、彼女は言った。
「これから生徒諸君には適性試験を受けてもらう。ほとんどのものは魔術科か騎士科を望むだろうが、このふたつはエリートしか入れないことを念頭に置いておいて欲しい」
ちなみにヒロイン様は魔術科、攻略対象たちは騎士科を望んでいるようだ。
生徒たちは順番に適性試験を受ける。
まずは魔術の適性を見極めるため、測定機械に『水球』の魔法を打ち込むテストが始まる。新入生たちは順番に撃ち込んでいく。
『あの機械に魔法を撃ち込むと魔力値が分かるんだね』
「そうみたいですね。あの子は10、その前の子は8でした」
『二桁行けば合格点みたいだ。君ならば余裕だね」
「だといいのですが……」
と思っているとヒロインの番が。
「聖女カレン、次はあなたの番よ」
カレンとはヒロインの名前である。彼女に姓はない。彼女は平民の娘で聖女の力が発現したので特別に入学を許可された経緯があるようだ。そのため周囲にとても期待をされているのだが、彼女はそれに見事に応える。
「えいっ!」
と放った水球の魔法、水の塊は測定機械の真ん中に命中する。出た数字は123というとんでもない数字だった。会場がどよめく。
「す、すごい。三桁だなんて」
「しかもあの子が放った水球を見た? あの大きさは普通じゃないわ」
「あれが聖女なのか。さすがだな」
ざわめきはなかなか収まらない。たしかに優秀な生徒で二桁の数字が出れば御の字の中、ぶっちぎりの三桁を出したのだ。注目されてしかるべきであった。
あれが噂の聖女か、と会場の生徒の話題は持ちきりになるが、いつの間に自分の番が回ってくる。
「次、エリザベート・マクスウェル」
担当の教師がエリザベートの名を読み上げるが、はてさて、どうするべきか、と迷う。
ここは本気を出すべきか、それとも力を抜くべきか迷っているのだ。
エリザベートの目的はラスボス討伐エンドの回避である。そのために幼き頃から鍛錬をしてきたのだ。
正直、聖女と同等以上の数字を出すのは簡単であった。しかし、そうなれば必然的に目立ってしまう。
(目立つということはヒロインたちに目を付けられるということ)
さすればエリザベートの討伐エンドが早まってしまうということも十分に考えられる。
(……ということはここは手を抜くのが正解ですね)
魔力を最小限に押さえ、二桁に乗るか乗らないかの数字を出せばいいのである。さすればエリザベート・マクスウェルという生徒は〝普通〟の生徒として認知されるだろう。
そのような策略を巡らせるが、黒猫のルナも同意してくれた。
『いい作戦だと思うよ。ちなみにRPG風乙女ゲーム「聖女と四人の騎士たち」での悪役令嬢である君は最初は聖女様よりも才能がある生徒として扱われていたんだ。ところが魔法力テストで出した数字は122。君より1多い数字を出したカレンに突っかかったことからカレンとエリザベートの因縁は始まる』
それを聞いたエリザベートは喜々として手を抜く。最小限の力で魔法を放つが、その手から漏れ出た水球は特別に大きかった。
どばー!
と、まるで滝のように放たれる水の塊、測定機械の中心どころかすべてを包み込むような水球はとてつもない勢いで測定機械の数字をカウントする。
50、120、180、250、590、880、
聖女の123などという数字があっという間にかすむと最終的に示し出された数値は999というものであった。
周囲からどよめきが起こる。
「な、999って」
「測定機械の最大数値を振り切っているってこと?」
「あ、ありえないわ」
「でも、あの水球、まるで激流のような威力だった」
「聖女でも123なのよ。なにかの間違いだわ」
「…………」
いいえ間違いではありません。最小限に威力を絞っても測定機械上限になってしまうだけです。エリザベートは心の中でそのように付け加える。
『君は加減ってものを知らないの?』
黒猫のルナは吐息を漏らし、呆れる。
「ダンジョンでは常に全力だったのです……。手加減って難しいのですね……」
『てゆうか、これで目立たず学院生活を送るのは不可能になったよ』
「……そのようです」
きょとんとしている聖女カレンと、攻略対象たちの視線が突き刺さる。
「な、なんだ、あの女」
炎の騎士レウスは驚愕する。
「面白い女がいるな。侯爵家の娘か」
氷の騎士レナードは興味深げに己の眼鏡を動かす。
「なに、あの子、すごーい。お友達になりたいな」
風の騎士セシルは明るい声を上げる。
「ほう、変わった娘だな」
土の騎士ルクスは独語する。
正史で自分を倒す四騎士たちに注目されてしまうエリザベート。
討伐されまいと幼少期から頑張ってきた鍛錬が徒となった形となるが、一応、教師に弁明はする。
「……機械の故障のようです。ですのでわたしの数値は12くらいにして貰えませんか?」
だめもとで尋ねるが、教師はあんぐりと大口を開けて呆れながら、
「エ、エリザベート・マクスウェル、魔力値999以上、首席で魔術科に合格」
と、つぶやいた。
「め、目立ちたくないのに……」
と、つぶやくが、エリザベート・マクスウェルの名は入学初日に全校生徒に響き渡ることになる。
このようにして入学初日から〝目立って〟しまった悪役令嬢エリザベート、彼女と聖女と四人の騎士たちの戦いはここから始まることになる。
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