レベルアップ
演習初日、兵士や騎士たちはそれぞれ自分のペースでレベルアップをする。
男子三日会わずば刮目してみよ、ということわざの通り、三日後にはそれなりの実力を身につけさせているだろうが、演習はまだ二日目であった。
一日目は初級の魔物を討伐させてレベルを上げさせたが、二日目はさらに強力な魔物を用意する。ドラゴンを召喚するのだ。召喚士の皆様方は張り切ってドラゴンを呼び出すが、表れたドラゴンはなかなかに勇壮であった。
ただ、召喚士の人たちでもコントロールできないのが玉に瑕だが。召喚したドラゴンは召喚士のひとりに食いかかってきた。危うくぱくりと一飲みにされそうになる召喚士。エリザベートは慌てて竜の口をこじ開けると彼を救う。ちょうどいいので竜に誰がご主人様か教えるため、尻尾を捕まえてぐるぐる回す。それによって〝実力差〟を感じ取ったドラゴンは白旗を揚げ、エリザベートに使役されてくれる。
さあ、これで騎士と兵士たちの練習相手は揃った、といわんばかりに彼らに伝えたが、彼らの反発はすごかった。
「待て待て、いきなりドラゴンは酷くないか?」
「そんなに強くないですよ? わたしでも尻尾をぐるんぐるんってできるくらいです」
「人類最強の女を基準にしないで欲しい」
「人を最強の生物扱いしないでください」
「事実最強だろうが」
そのようにやりとりをしていると、レウスとセシルだけはやる気を見せてくれた。
「実は俺、昨日の演習で大幅レベルアップしたんだよね。レベル20になってた」
「おお、すごいです」
「僕もレベル19になったよ。だからドラゴンと手合わせしたい」
さすが覚醒イベントをこなしたふたりだ。
こうなってくるとレナードとルクスも逃げ出すわけにはいかず、ドラゴンと対峙してくれるという。
「ええい、こうなったらやけだ。勝てないだろうが、がむしゃらに戦うしかない」
と剣を突き出し、突撃する。
氷の騎士レナードはドラゴンの炎をかわすとそのまま斬り掛かる。しかし、ドラゴンの鱗は堅く、彼の攻撃を弾く。通用するのはレウスの大剣くらいであろうか。そう悟った三人は協力し、レウスに攻撃を託す。
聖女カレンは、
「レウスさんに皆で強化魔法を掛けましょう!」
と指示を出す。いい作戦だ。大剣使いであるレウスの攻撃力は四人の中でも最強、そんなレウスにリソースを集中させ強化させるのは妥当な作戦と言えた。
事実、カレンが強化魔法を掛けるとレウスの大剣はドラゴンの鱗を剥ぎ取る。残りの三人もレウスに強化魔法を掛けるとドラゴンを徐々に追い詰め始めた。
これはいけるか、なかなかにいい作戦なので魅入ってしまうが、この作戦の弱点は負担がレウスに集中してしまうところ、彼の腕力にも限界はあるし、体力の限界もある。ドラゴンを出血させるまでには至ったが、それ以上の成果は得られなかった。
そうなるとドラゴンは逆鱗に触れられたかのように怒り狂う。
尻尾を振り回し、聖女カレンを攻撃しようとするが、ここにきてエリザベートは止めに入る。
しゅぱっと残像を残す速度で移動するとドラゴンの尻尾を掴み、カレンを守る。
「エリザベートさん」
「カレンは攻撃させない」
四騎士たちは男の子、多少傷ついたところでどうでもいいが、カレンは女の子なので僅かばかりの傷も負わせたくなかった。
ドラゴンにそのように語るが、彼は知性を持っていないので、
ぎゃおおん!
と咆哮でしか返してくれない。
ならばこちらとしても武力で説き伏せるしかない。ドラゴンの尻尾をむんずと掴むとその場で回転し、振り回す。そして遠心力が最大になったところで放り投げる。
ぴかーん!
とお星様になるドラゴン。こうしてエリザベートが召喚したドラゴンはエリザベートによって退治される。うーん、これはマッチポンプなのだろうか、そんな感想を抱くが、四騎士と兵士たちはただただエリザベートの強さに畏怖するだけであった。
こうして演習二日目は終わる。
演習が進むたびに兵士や騎士たちがエリザベートに引いているのは気のせいだろうか。
皆、化け物を見るかのような目で見つめてくる。
ただ、カレンだけが、
「エリザベートさん、お疲れ様です。エリザベートさんのお陰で大分パワーアップできました」
と微笑んでくれた。
「カレンはレベル10になったみたいね」
「はい。これで回復魔法もパワーアップします」
「それは素晴らしいですね」
「はい。わたしだけでなく、兵士さんや騎士様方もパワーアップしていましたよ」
「一気に能率的にパワーアップです」
「たった二日でこの状態はすごいです。三日目はどうするのでしょうか?」
「三日目は私vsその他全員の模擬戦をしようかと」
「え……!?」
ジトリと汗を滲ませるカレン。さすがに彼女は無謀さを悟ったようだ。
「そんな、わたしたちがエリザベートさんに勝てるわけないじゃないですか」
「もちろん、だからわたしの強さを抑える呪符を使います。近衛騎士団長ゲオルグさんのプレゼントです」
「そ、そうか、ならば大丈夫なのかな?」
「私の能力値は三分の一になるそうですからたぶん、いい勝負をするかと」
そんな楽観論を述べるが、翌日の全員組み手でエリザベートは六〇人抜きという化け物じみた戦績を残した。
「てゆか、なんでこんなに強いんだよ」
「こいつは化け物だ」
「彼女ひとりで魔王を倒せるんじゃないか」
兵士たちはそんな感想を漏らしたが、エリザベートはひとりで魔王を倒すつもりはない。そんなことをすれば本物の化け物と認知され、エリザベートが討伐対象になりかねなかった。エリザベートの作戦としては魔王という共通の敵と戦うことによって人類との絆を作ることであった。エリザベートがいつ魔王の娘だとばれるか分からない今、なるべく人類の脅威ではないことをアピールしておきたかった。
ただ、百人組み手で六〇人抜きはやり過ぎであったか。実力が三分の一になる呪符ではなく、一〇分の一になる呪符を用意して貰わなければいけないかもしれない。
そんなふうに思いながら初めての演習を終えた。
魔王討伐軍の中核メンバーである騎士たちのレベルは大幅にアップし、兵士たちの能力の底上げも出来た。エリザベートとしては大満足である。
これならば三年後の魔王討伐も楽勝かもしれない。
そんな余裕を心に抱きながら帰路につく。
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