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ワイバーンで特訓

 風の騎士セシルの父親ロイド・マテウスはマテウス商会の長である。


 マテウス商会はセルビア王国でも有数の大商人で、王都の目抜き通りの四割を所有していた。自身が一割を使用し、残りは貸しているのである。要はこの国で一番地価が高い区画を独占していた。


 そのような大商会ゆえ、その事務所も立派で大きい。


 王都の目抜き通りに大きな邸宅を構えており、その風格は王侯貴族のそれを思い起こさせた。


「と言ってもうちには一代男爵号しかないけどね」


 とはセシルの弁。どのようにお金があっても買える爵位は子爵までだそうで。


 それにロイド自身合理化で、王宮に出入りできる最低限の爵位さえあれば満足なのだそうな。


 見得とか虚栄心とかが一切ない、合理的な商人がロイド・マテウスであった。


 そのような性格ゆえ、実の息子が面会を申し込んでも、明日の一三時五〇分から一四時二〇分までならば空いている、という返答しか得られなかった。


 セシルは、「てへへ、パパっていつもこんな感じなんだよね」と舌を出す。なんでも息子の実の誕生日を祝ったこともないのだそうな。仕事人間であり、24時間仕事のことしか頭にないのだそうな。


「それでは素直に明日、出直しましょう」


 エリザベートはそのように言うと翌日、出直すことにしたが、その夜、セシルがエリザベートの家を訪ねてきた。


 取り次いでくれたメイドのクロエは、


「美少年が面会を求めています」


 とエリザベートに言う。


「あらま、セシルさんが」


「セシルというのですね。女の子のように可愛らしい顔立ちをしています。お嬢様はあのような男子が好みなのですね」


「違うわ、訳あって仲良くはさせて貰っているけど」


「本当ですか? クロエは旦那さまにあなた様の目付役をしろと言われています。真実のみを報告する義務があるのです」


「本当よ。ちなみに彼はマテウス商会のご子息」


「まあ、玉の輿」


「だから違います」


「まあ、そういうことにしておきましょうか。どこぞの馬の骨は近づけるなと言明されていますが、玉の輿は積極的に籠絡するように言われておりますから」


「違うんだけどなあ」


 とため息を漏らすと、応接室へ向かう。


 そこには無邪気な顔をした少年が、


「ちゃお!」


 と控えていた。


 なかなかに可愛らしく、保護欲を駆り立てられる笑顔である。クラスの女子たちが「セシルきゅん」と騒いでいるのも納得であった。


 さて、そのセシルきゅん、なに用であろうか。


 クロエに紅茶を用意して貰うと彼に用件を尋ねた。


 セシルは紅茶に口を付けるよりも先に頭を下げた。


「ごめん、リズ。明日のパパとの取り引き、失敗すると思う」


「え? どういうことですか?」


「あまりにもパンパンと話が進んでいたから言い出せなかったけど、パパはとてもケチなんだ」


「でも、王都の目抜き通りに大きな邸宅を持っています」


「あれは客人を招くから必要だという論法で持っているんだよ。ちなみにパパの寝室は使用人と同じでベッドと机くらいしかないこじんまりとしたものなんだ」


「まあ、世界でも有数の商人さんなのに」


「ほぼ一代で財を築き上げたからね。とにかく無駄金を嫌うんだ。ちなみに僕が王立学院の騎士科に通っているのも気に入らないみたい。高い学費を払って騎士科とはなにごとか、おまえは商人科にかよって未来の大商人になるんだ! って、大喧嘩をしたこともある」


「まあ……」


「そんな僕が騎士として魔王討伐の演習費を出してくれと言ったら……」


「また喧嘩が勃発しますね」


「ね、だからパパを説得するのは無理だと思う」


「いいえ、そんなことはありません」


「え?」


「お父様はなんだかんだで騎士科の学費を払ってくださっているのでしょう?」


「そだけど」


「つまり心の底では強い騎士になってほしいと思ってるはずなんです」


「パパが……」


「だからセシルさんが強い騎士になったことを証明すればきっとわたしたちを助けてくれると思うんです」


「でも、いったいどうやってそれを証明するの?」


「簡単です。今から特訓をしましょう!」


「特訓!?」


「そうです。今からわたしが特訓用の召喚獣を召喚するので、それと戦ってください。それに打ち勝てればセシルさんは勇者になれると思うんです」


「……僕が勇者か」


「はい。試してみませんか?」


「そうだね。無理かもしれないけど、やらなければ後悔するかも。このままなあなあで騎士科に通っていても中途半端な騎士にしかなれないと思う」


「その意気です。頑張って本物の騎士になってお父様を見返してやりましょう」


「そうだね。うん、エリザベート、悪いけどその召喚獣を出して」


「分かりました」


 とエリザベートは庭に出ると、呪文を詠唱し、召喚獣を召喚する。


 召喚された獣はワイバーンであった。


「これは足なし飛竜!?」


「はい。以前わたしが戦った魔物です。これをひとりで討伐できるようになったら一人前です」


「わかった!」


 とセシルは短剣を抜く。華麗な二刀流でワイバーンに挑むが、ワイバーンは腐っても竜種、その鱗は鋼のように堅く、セシルの短刀を弾く。


「……くそ、やっぱり僕じゃレベルが足りないのか」


 くじけそうになるセシルだが、ちらりとエリザベートを見る。彼女は心の底からセシルを応援してくれていた。それに彼女はこのワイバーンを一撃で倒すのだ。男であるセシルが弱音を吐いて逃げるなどとても恥ずかしいことであった。


「僕もエリザベートも同じ人間だ。彼女にできるのならば僕だって!」


 そのように言い放つとらせん状に回転をしながらワイバーンに飛び込む。そして与えた一撃はワイバーンの鱗を数枚切り取った。


 それを見てやれる! と思ったセシルはワイバーンに戦いを挑み続ける。


 その戦いは翌日の午後過ぎまで継続した。


 つまりセシルはロイド・マテウスとの交渉時に欠席となったのである。


 他の三騎士は実の息子なしでどうやって交渉するんだ、と嘆くが、エリザベートはそれよりも今、この瞬間に強くなろうとしているセシルの気持ちのほうを優先させたかった。


 そのように事情を話すと、三騎士たちはエリザベスの行動を理解してくれた。

「面白かった」

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