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湖の渡り方

 学院長直々に紹介状と外出許可証を貰うと、また学外に向かう。入学して以来、休日もまともにないような気がするのは気のせいだろうか。


「知っているか? おまえのような人間を異世界の言葉でシャチクというそうだぞ」


 皮肉気味に言ったのは土の騎士ルクスであった。


「シャチクってなにー?」


 風の騎士セシルは純情な瞳で尋ねてくる。


「異世界のニホンという国にいる勇敢な戦士のことだ。デンシャと呼ばれる奴隷船に積み込まれ、強制労働に従事させられている。24時間死を恐れることなく働き続け、主に対する絶対的忠誠心も持ち合わせている野武士だな」


「うう、そんな世界、絶対に行きたくありません」


「俺もだよ。だから素早くセシルの父親に会って、協力を取り付けよう」


「さんせー」


 とセシルは急ぎ足で歩き始める。


 ちなみに三人は徒歩で移動していた。目指す森は前回訪れた森の反対側にある。


 てくてくと歩く。


「…………」


 沈黙してしまったのはやたらと目立つと思ったからだ。


「なぜか歩いている人がこっちをガン見してきますね……」


「んー? そうか」


「気にならないけど」


 両騎士様はあっさりと言うが、絶対にこのふたりが元凶だと思う。そもそもこの王立学院の制服はとても目立つ、王立学院に通うものはエリートの中のエリートなので市井にもその名を響き渡らせているのだ。さらにいえばこのふたりの顔面偏差値の高いこと高いこと。


 俺様系男子のルクスは黒髪黒目だがとても整った顔立ちをしており、古代の彫像を思い浮かばせる。

 僕っこ系天然男子のセシルは女の子のような顔立ちをしており、何時間見ていても飽きないほど可愛らしい。


 そんなふたりを侍らせるは黒髪黒目の不吉な少女、見ようによっては異様に見えるはず。女性たちはイケメンをはべらしやがって、と思っているに違いない。なので両脇にふたりが配置されないように隅っこに引っ込んでいると空気が読めないセシルが、


「僕たちのリーダーがそんな端っこじゃ駄目でしょう」


 と腕を組んでくる。


 道行く女性たちは「逆ハーレムよ、どこの家の子かしら」とひそひそ話をする。


 平穏無事という文字を毎年お正月に書いているエリザベートとしては由々しき問題であるが、セシルは家に着くまで距離感がバグっていた。


「これが天然の陽キャさんなんですね」


 病弱本好きキャラのエリザベートには理解できない距離感だが、いやらしさは感じなかったのでそのまま森に向かった。


 しばらく歩くと前方に暗い森が広がり始める。


「あれが件の賢者がいるという森か。なにか魔物が出そうな雰囲気だな」


「そうだね。気を引き締めないと」


 と言うとセシルは腕を組むのをやめる。いつでも短刀を取り出せる体勢を整える。


 ちなみに四人の騎士たちはそれぞれに使う武器が違う。



 炎の騎士レウスは大きな大剣。

 氷の騎士レナードは細身のレイピア。

 土の騎士ルクスはポピュラーなロングソード。

 風の騎士セシルは短刀を二つ使う二刀流であった。



 それぞれがイメージ通りの武器を使う。


「てゆか、リズは武器を使わないの?」


 セシルは不思議そうに首をかしげる。


「わたしは鍛え抜かれたこの身体が武器です」


「でも、武器を持てばもっと強くなるのに」


「徒手空拳で十分です。いえ、徒手空拳がいいんです」


 そのように言うと近くにあった木を引っこ抜く。


「それにいざとなれば武器など現地調達できます」


 あまりの馬鹿力を見たセシルは「にはは、愚問だったね」と汗を流した。


 それを見てルクスは、


「おまえのようなお子ちゃまが扱えるような女ではない。ナンパなら諦めるんだな」


 と皮肉を漏らした。


「それをデートに振られた男がいうかね」


「振られたわけじゃない。二択を迫ってワイバーンを選ばれただけだ」


「ぷぷ、ワイバーンよりも好感度が低いんだね」


「うるさい」


 そのようなやりとりをしていると森に到着する。



「鬱蒼としています。ここに学院長様の御友人がいるんでしょうか」


「話によるとな。まったく、なんで隠者ってやつは不便なところに住みたがるんだ。


「そりゃ、隠者だからでしょう。陽者だったら街でパーティーピープルをしてるよ」


「たしかにそうなのだが」


 そのように言うと木々の上から蝙蝠が飛びだしてきた。


 ルクスはそれを一刀両断する。


「吸血蝙蝠だ。弱いがばい菌を持っている。血を吸われないように」


「はい、ルクスさん、ありがとうございます」


「あー、ルクスばかりずるい。僕もいいところを見せなきゃ」


 そのように言うとセシルは「魔物や出てこーい!」と叫ぶ。しかし、一向に魔物は出てこなかった。


「不気味な森だが魔物はいないのかもしれないな」


「そのようですね。わたし、感じるんです。この森の暖かい魔力を。不気味な森ですが、それを手入れされている隠者さんはとてもいい人なのかもしれません」


「かもしれないな」


 そのように纏めると、森が多少開ける。


 すると目の前に湖が広がる。


「わあ、綺麗」


「水がとても澄んでいるな」


 ルクスは口を付けて確かめる。飲料水にもなるようだ。


「あの中央に島があるよ。隠者はそこに住んでいるんじゃないかな?」


「この森に住んでいるのは彼だけらしいからその可能性は高いな」


「でも、森に住んでいると想定していたから泳ぐことを想定していなかったな。セシルおまえは泳げるのか?」


「あまり得意じゃないね」


「おれはかなづちだ」


 ふたりの視線がエリザベートに注がれる。


「わたしも実は泳げません」


 前世は病弱、今世はレベル上げに忙しかったから水泳などというスキルを身につける暇などなかった。


「……ならば舟でも作るしかないか」


 ルクスはそのようにいうが、人が乗れる舟を作れるほど器用な面子ではなかった。


 しばし考えているとエリザベートの頭にぴこんと電球が灯る。


「そうだ、こうしましょう」


 エリザベートは持ち前の馬鹿力で大きな木を引っこ抜くとふたりにそれにまたがるように告げる。ふたりはなにをするのだろう、と疑問を呈するがそれを無視し、木の上に乗せるとエリザベートは、


「ていやッ!」


 と木を投げる。


 もちろん、目標は湖の真ん中にある小島だ。


 こうすれば泳ぐことなく小島に行けると思ったのだ。


 ふたりは、「なんていう強引な手法」と呆れるが、ルナがツッコミを入れる。


『君はどうするのさ? 君もかなづちなんだろう?』


「わたしもあの木の上に乗ります」


 両足に速度強化の魔法を掛け、ぴゅいっと空中で乗り込む。


「おまえは化け物か」


「人間業じゃないよ」


 顔面を蒼白にさせるふたりに、


「いえいえ、わたしはただの侯爵令嬢です」


 と言い放ち、悠然と木の上にまたがり小島に向かった。

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