学院長の依頼
ワイバーン討伐を終えた一行、結局、エリザベートひとりで倒してしまったような気がしないでもないが、共闘によって四人に絆のようなものが芽生えたような気がするのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない。レウスやレナードとのあいだにあったわだかまりのようなものが消え去ったような気がした。
それを考えるとワイバーン討伐はとても有意義なものであった。提案をしてくれた土の騎士ルクスには感謝をしないといけない。そのように思いながら学院に帰るとその土の騎士ルクス様がやってきた。
「まさか、ワイバーンをこうもあっさり討伐するとはな」
あきれ顔と賞賛が半々であったが、最後は拍手を持って迎えてくれた。
「というか、俺とデートをするのがそんなにいやだったのかね」
「ワイバーン退治のほうが楽そうだったので」
「なるほど、天秤のかけ方を間違えたようだな」
男らしくデートに誘えばよかった、と嘆いているとレウスとレナードが茶々を入れる。
「どんな女も落としてきた土の騎士ルクス様もエリザベートだけは無理だったようだな」
「第三王子様にも不可能があるらしい」
「うるさい。おまえらだって落としていないくせに」
「お、俺は別に狙ってねーし」
レウスは焦り始める。
「俺はあんな馬鹿力の女を嫁さんにする気はないよ」
「嘘をつけ、おまえは昔から自分より強い女を捜す、と言っていたじゃないか」
「いってねーし」
三人はわいわい始めるが、どうやら王立学院の四騎士は仲がよいらしい。なんでも彼らは王立幼年学校時代からの友人で四人でつるんでいたのだそうな。
四人といえばこの学院にはもうひとり異名を持つ騎士様がいたような、と思い出しているとその騎士がやってくる。
「なになにー、面白そうな話をしているね」
と無邪気にやってきたのは風の騎士セシル様であった。
ひょうひょうとした末っ子キャラ、自由闊達な風のような騎士が風の騎士セシルであった。奇しくも学院の美男子四騎士が揃うと道行く女生徒たちはため息を漏らす。
「ああ、王立学院の四騎士様よ、今日も神々しい」
「なんて素敵なの。あの方のどなたかひとりでも振り向いてくれたら」
「ううん、私の名前を呼んでくれるだけで天上に旅立てるわ」
皆、乙女チックに目を輝かせるが、四騎士様がエリザベートに親しく声を掛けると殺気のようなものを向けてくる。うん、前々から気が付いていたけど、エリザベートの学院生活は楽ではなさそうだ。
そのように嘆いているとエリザベートは教師に呼び出される。
はて、なんだろう、特に問題を起こした記憶はないが、と首をひねっているとなんでも学院長じきじきにお話があるそうな。
なんなのだろう、と学院長室に行くと、学院長ザンダルフは鳥の雛に餌をあげていた。
可愛い雛ですね、と声を掛けると、学院長はにんまりとする。
「これは東洋の幻獣、鳳凰の雛じゃ。知り合いの賢者から譲り受けた」
「可愛らしい」
「鳳凰や麒麟が天を舞えば瑞兆の証となる。世に吉兆が訪れる兆しとなるのじゃ」
「それではキリンさんも飼いましょう」
「麒麟じゃな。字が違う。麒麟も珍しい生き物でなかなか手に入らない」
「それは残念です。――ところでザンダルフ様、わたしになにか用ですか」
「そうじゃった。まずはこのたびのワイバーン退治の祝辞を述べようかと思っての」
「ありがとうございます。なんとか退治することができました」
「なんとかじゃと? 報告によればひとりで無双して倒したと書いてあるぞ」
「無双だなんてそんな、協力して倒したのです」
「ふうむ、謙虚な娘じゃ。その謙虚さを見込んでおぬしに頼みがあるのじゃが」
「わたしに頼みですか?」
「そうじゃ。貴殿を魔王討伐のリーダーに抜擢したい」
「え!?」
「魔王については前、話をしたじゃろう」
「はい、わたしたちが三年生になる頃に復活するとかしないとか」
「そうじゃ。魔王復活のときは迫っておる。しかし、魔王復活の切り札である聖女と騎士たちがどうも頼りない」
「カレンさんたちのことですか?」
「そうじゃ。彼らのレベルはまだ10しかないのじゃ」
「そのようですね」
「魔王は強い。あと3年で50はレベルをあげておきたいところ」
「ふむふむ」
「無論、我々学院側でも彼らを鍛えるが、ここはレベル上げのプロフェッショナルであるおぬしに協力を仰ごうと思っての」
「プロフェッショナルだなんてそんな」
「謙遜をするな。入学時点でレベル99の娘など前代未聞じゃ」
「幼き頃から健康に満ちあふれていたのでついうっかりレベルを上げすぎてしまったのです」
「そんなレベルではなく、生まれついてのレベル上げ巧者じゃぞ。いったい、どんな秘訣が」
「毎朝、腹筋とスクワットは欠かしません。それと幼き頃から一日八時間魔術の本を読んで、八時間ダンジョンに潜っていました」
「生活がほぼレベルあげじゃな。それでよく一般教養も身につけたの」
それは前世のほうで、と言いたいところだが、それは黙っておくべきだろう。
「ふうむ、やはり天才とは努力を苦に思わない情熱家のことを指すんじゃろうか」
ザンダルフは髭を撫でるが、それでもエリザベートを魔王討伐のリーダーに指名したいようだ。
「おぬしが努力の天才なのは分かった。カレンたちはおぬしの修羅について行けないだろうが、それでもおぬしがもう討伐のリーダーになればよい影響が出ると思う。なんとか指導役を引き受けてくれないだろうか」
「わたしが魔王討伐の指導役ですか?」
「いやか?」
「いやというわけではないですが……」
もにょってはしまう。なぜってエリザベートは魔王の娘だから。実の親を倒す討伐チームのリーダーに就くのは親不孝というものなのではないだろうか。
黒猫のルナに相談してみる。
「ねえ、ルナ、今さらですが、わたしが魔王を倒してもいいのでしょうか?」
ルナは呑気な声で、
『いいんじゃないかな』
と言った。
「あっさり」
『いや、だって君、以前に魔王を倒すって誓ったじゃん』
「主導的な立場になるとは言ってません」
「まあ、いいんじゃないの。ノリノリで倒しちゃっても」
『軽い……」
『いや、正史でも今でも君は魔王と会ったことがないでしょう?』
「ええ」
『それは向こうも君に親子らしい感情を持っていないから。君は戯れに人間の娘に生ませた庶子のひとりなんだ。たまたま魔王の器と適合したから最終的には利用されちゃったけど、それまで存在を忘れていたほどなんだよ』
「あらまあ」
『それに魔王はこの世界に仇なす存在、倒しちゃっても問題ないと思うけどね』
RPG風乙女ゲーム「聖女と四人の騎士たち」の知識に精通しているルナがそのようにいうのならばそれで問題はないのだろう。
そのように判断したエリザベートは、
「はい、分かりました」
とOKしてしまう。元々、頼み事は断れないたちの人間であったし、エリザベートはこの世界を気に入っていた。剣と魔法がある変わった世界だが、エリザベートの大好きな本もある。文化的で華やかで面白おかしい世界でもあるのだ。それを破壊しようとする魔王は悪いやつなのである。実の父親とはいえ、手をこまねいて見ているわけにはいかなかった。
それにエリザベートの目的は破滅フラグを回避すること。
エリザベートを破滅させるのは聖女カレンと四人の騎士たちであるが、よくよく原因を突き詰めれば実の父親の魔王が悪いような気がしないでもない。カレンを闇堕ちさせるのはたいていの場合、彼なのだ。
『災いは禍根から断つべし!』
ルナはそのように言う。
「がんばります!」
エリザベートはそのように応じ、ザンダルフの願いを聞き届けることを了承した。
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