カーバンクルのカー君
碧色のリスはちょこんと聖女カレンの手のひらの上に乗ると大人しくしている。
「可愛い~」
と女子陣はきゃっきゃと騒ぎ出す。
「緑色のリスって珍しいですね」
カレンはそのように言うと氷の騎士レナードは眼鏡をくいっとさせ、「それは違うな」と説明をする。
「それはリスではなく、カーバンクルだ」
「カーバンクル?」
「そうだ。リスに似ているが、リスなどといったありふれたものではなく、幻の幻獣の一種だぞ」
「幻の幻獣!?」
「燃える石炭のような赤い宝石を頭に乗せた緑色の小獣、偉大なる探検家セルバンテスが500年ほど前に発見した貴重な獣だ」
「へえ」
「ちなみにその赤い宝石は一個で平民の家が買えるくらいの値段がつくぞ」
「まじですか」
「あわわ……」
小市民気質のエリザベートと平民のカレンは慌ててしまうが、当のカーバンクルは小首をかしげきょとんとしている。
「そ、そんなお高い……もとい貴重な獣を使い魔にしてもいいのでしょうか?」
「いいんじゃねーの?」
とはレウスだった。
「むしろ貴重な幻獣を使い魔にしたほうが箔が付くってものよ」
あっけらかんとした口調であるが、たしかにその通りなのでカレンにこの子を使い魔にするように薦める。
「分かりました。ってどうやって使い魔にするんですか?」
「使い魔にしたい、と強く念じながら魔力を送り込むんだ」
なるほど、とカレンは黄金色の魔力を送り込む。するとカーバンクルも同じ色に輝き始める。 カレンの魔力が最大値に達し、輝きが閃光に変わったとき、カーバンクルは「きゅるん」と鳴き声を上げる。どうやら使い魔にすることに成功したようだ。
「カーバンクル、ゲットだぜ!」
とレウスは元気よくいった瞬間、聖女カレンに使い魔ができる。世にも珍しいカーバンクルだ。
「さっそく名前を付けましょう!」
エリザベートはにこやかに提案する。
「そうだな、名前がないと可哀想だな」
レウスはそのように言うと、
「ギガンテウスにしよーぜ!」
と提案する。
「ぎ、ぎがんてうす……」
カレンはひらがなにしても可愛くありませんと顔を引きつらせる。
レナードは呆れながら、
「まったく、ネーミングセンスがないな」
レナードは呆れるようにつぶやくと、
「オッペンハイマーに決まっている。優雅にして華麗な名前だ」
独特の名前を発した。
「おっぺんはいまー……」
またしてもひらがなになってしまうカレン、まったく、男子はどうしてこうもネーミングセンスがないのだろう、ここは女子力が向上しつつあるエリザベートの出番だ。
「名前はケンコーイチバンにしましょう。きっと丈夫な子に育つはずです」
前世が病弱だったエリザベートは健康の大事さを誰よりも知っていた。なのでその名前を提案したのだが、カレンはひらがなで復唱さえしてくれなかった。うーん、名は体を表すという言葉を知らないのだろうか、と思っていると黒猫のルナは呆れた口調で、
『君のセンスが壊滅的に駄目なんだと思うよ』
と直撃のディスり発言をくれた。
「そ、そんな、小説を千冊は読んだこのわたしのネーミングセンスが駄目だなんて」
根拠を述べてください!
と詰め寄るが、ルナは『じゃあ、僕がいう名前をカレンに伝えてごらん、喜ぶと思うから』
と言った。猫の浅知恵で作ったネーミングセンスごときに負けるわけがないと思うが、エリザベートは一応伝える。
「あの、カー君というのはどうでしょう。カーバンクルのカー君です」
その名前を聞いたカレンは花がほころんだかのような笑顔を浮かべる。
……どうやらとても気に入ったようだ。
「……うう、猫に負けました」
と肩を落とすが、カレンは軽やかにステップを決め、
「この子の名前はカー君です。カー君! 今日からよろしくね!」
くるくるとカー君を回す。カー君は「きゅるん! きゅるん!」と喜びの声を上げた。
こうして聖女カレンに使い魔ができる。そして土の騎士に依頼されていたワイバーン退治も終わる。すべてが万事めでたしめでたし――なのだろうか。
なにもかもが上手くいきすぎて怖いくらいだが、ともかく、ともかく、四人は家路についた。
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