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大山鳴動してリス一匹

 あっという間に討伐対象であるワイバーンを駆逐したエリザベート、これにてミッション終了であるが、今回のサブミッションには聖女カレンの使い魔捜索というものも含まれていた。魔術科に配属されて間もないカレンはまだ使い魔を使役していないのだ。


 エリザベートとしてはひ弱な彼女を守るデュラハンやワイバーンなどがおすすめだったのだが、彼女は可愛らしい生き物がいいようで。


「鹿さんなんかが手頃かも」


 今し方森を横切った鹿を指さす。


「鹿は使い魔としてはポピュラーではないな」


 氷の騎士レナードはそのように評す。


「やっぱ使い魔と言ったら猫とか梟だよな」


 炎の騎士レウスは嫌がるルナを抱きかかえながらそのように評す。


「ちなみに使い魔の規定とかはあるのでしょうか?」


「そのような規定はないな。魔術科のものならば無条件で持てる。そのほかの科の場合は申請制だが」


「皆さんはお持ちではないのですか?」


「俺たちは騎士科だからな。魔法は使えるが、使い魔が必要な場面はほとんどない」


「ちなみに使い魔は魔術師が研究の助手をさせたり、見張をさせたり、偵察をさせたりするのによく使う」


「あとは慰安目的だな」


 レナードは今も無理矢理ルナをもふもふしようとしているレウスを見て言う。


「私もどちらかというと慰安目的です。だから鹿さんはいいな、って思いました」


「しかし、鹿は大きいぞ、学園に連れて行くと目立つ」


 使い魔に小動物が多いのは理由がある。先ほどレナードが言ったように小間使い的な役割をさせるのが使い魔の主な目的であった。


「鳥や猫が重宝されるのはそういった理由がある。ちなみにカレンは寮暮らしなのだろう?」


「はい。地方からきた平民は皆、寮暮らしです」


「ならばそれも考えねばな。エリザベートが主張するデュラハンやワイバーンは寮で飼えない」


 たしかに王立学院寮をうろつく首なし騎士の姿を想像するととてもシュールだった。


「となると小動物がいいのですよね」


「そうなるな」


「森にいる小動物……リスさん!」


 カレンがそのように大声で叫ぶと、木々の上にいたリスはびくりとし、逃げ出す。


「いいんじゃないか。なかなかに捕まえにくいという点を除いては」


「なんの、多少の困難があったほうがいいですよ」


 エリザベートはカレンの案を全面的に支持する。


「それではリスさんを捕まえましょう」


「不肖、このエリザベートお手伝いします」


「ありがとうございます!」


 と聖女と魔王の娘は結託するが、騎士様たちも手伝ってくれるのだそうな。


「騎士の鍛錬に俊敏な小動物を捕まえるというものがある」


 レナードはそのように言い。


「弓馬の鍛錬だとシギっていう鳥を射貫くのもあるぞ」


 レウスはこのように言う。


 なんだかんだで面倒見のいいふたりである。こうしてリスを捕まえる作業が始まるが、リスというのは思いのほか、捕まえにくい生き物だった。炎の騎士レウスが「うおー!」と木々を揺さぶっても落ちてこないし、賢しい氷の騎士レナードがどんぐりを餌におびき寄せてもやってこなかった。


「うーん、なかなかに難敵です」


 身体能力(フィジカル)お化けのエリザベートはお猿さんのように木々を駆けてリスを捕まえようとするが、野生の動物は気配に敏感だ。エリザベートの魔王めいた暗黒オーラを即座に察知し、逃げ出す。


「うう、なかなか捕まりません」


 嘆くエリザベート。


カレンは申し訳なさそうに、


「……お手間を掛けてしまってすみません」


 と謝った。


「カレンさんが謝ることではありませんよ。そもそも使い魔を勧めたのはわたしですし」


「そうだぞ、カレン嬢、昨今、鍛錬を怠っていたからちょうどいい。まさか、リスを捕まえるのがこれほど難しいとは思わなかった」


「てゆうか、あいつらの野生感やばいよなあ。この黒猫とは大違いだ」


 ルナは「ふぎゃー」とレウスをひっかくが、たしかにルナは猫のくせに俊敏性に欠ける。野生というものを感じさせなかった。


『そりゃあ、僕はいいところのにゃんこだからね。そこらの野良と一緒にして貰ったら困る』


 ルナは主張する。彼は見た目はただの黒猫だが、神様に派遣された神使なのだ。なんでも幼き頃より大切に育てられたのでネズミの子一匹取れないと胸を張る。それは猫としてどうなのかと思うが、彼には野生は微塵も残されていないのでリスを捕まえることは不可能であろう。そのような結論に達すると一同は難儀する。

 ここはリスを諦めて鹿にすべきか。


 鹿を常に連れて歩くのはナンセンスであるが、協力して寮に鹿小屋を作ればなんとかなるのではないか、そのように相談をしていると、前方数メートル先にひょこんとリスが現れた。


「…………」


 一同は沈黙する。カレンが無言で近寄って抱き上げてもリスは逃げなかった。


 大山鳴動して鼠一匹……。


 いや、リス一匹か。


 そのようなことわざが頭に浮かぶが、カレンが抱き上げたリスは実はリスではなかった。彼女が腕に抱いている小動物は緑色がかっていた。

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