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ランチバスケット

 土の騎士ルクスは驚愕する。


 プロムで自分を殴りつけた侯爵令嬢エリザベート、今週末は彼女とデートをする予定だったのだが、それがキャンセルとなったのだ。


 せっかく、週末の予定は空け、準備万端に整えていたものを……。


 なぜだ、と腹心である男子生徒に尋ねると、彼は正確に事態を報告した。


「どうやらエリザベート様はルクス様のことがお好みではないご様子」


「な、なんだと……」


 ありえない、と、かぶりを振るうルクス。


「俺は王立学院の四騎士にしてこの国の第三王子なのだぞ!?」


「この世の中には地位や身分に惹かれない女性もいるのかと」


 男子生徒は控えめに具申をする。


「ルックスだってこの学院で最上位だ」


「好みは人それぞれですから」


 土の騎士ルクスは黒髪黒目の美男子だ。整った顔立ちと肢体も持っており、幼年学校時代からモテモテであった。自分が少し流し目で見つめれば大抵の令嬢はなびいたものだが……。


「……信じられない。俺とデートをしたくない女などいるのか?」


 俺とデートをするか、ワイバーンを倒すか迫ったのは女性に〝言い訳〟と〝大義名分〟を持たせるためのスマートな手段であった。絶対に自分とデートをするほうを選ぶと思ったのだ。プレイボーイであるルクスにとってそれらは当然の配慮であったが……。


 しかし、その配慮もテクニックも通用しない女がこの世にいるなんて……。


「……面白い女だ」


 生まれてから女に一度も不自由したことがないルクス。ゆえに本気で恋愛に没頭したことはないし、心の底から女を愛したことなどないが、ここにきてやっと興味を抱くことができる女と出会うことができた。



 土の騎士様がそのように困惑しているさなか、エリザベートたち一行は王都郊外へと向かっていた。王都郊外に現れたワイバーンを討伐するのである。


 炎の騎士レウスは悪態をつく。


「なんで俺がこんなことをしなければいけないんだ」


「す、すみません」


 エリザベートは思わず謝ってしまう。


 氷の騎士レナードは「気にすることはない」とフォローしてくれる。


「我々は王立学院の四騎士の称号を授かっている。生徒たちの手本とならなければいけない存在なのだ。王都郊外に魔物が発生したら進んで討伐すべきだろう」


「いや、だけどよ。なんでこの女のために」


「おまえはエリザベートに借りがあるのだろう。決闘でわざと手を抜いてくれた」


「う、うぐ……」


「エリザベートのレベルは99のカンストだ。彼女が本気になっていればおまえなど消し炭になっていたぞ」


 だろう? エリザベート、と尋ねてくるが、苦笑いをしながら「あはは……」と肯定するしかない。あのときは上手く手加減できずにごめんなさい、と言うとレウスは「余計に惨めになるからそれ以上触れるな」と涙目になる。


 そのようなやりとりをしながら歩いているとお天道様が頭上に差し掛かる。正午になったのだ。するとエリザベートのおなかがぎゅ〜となる。


「あら」


 と聖女カレンが指摘をするとエリザベートは顔をまっかにする。


「うふふ、もうお昼時ですものね」


「はい。恥ずかしながらこの身体は健康優良児でして胃腸の動きが活発なのです」


 前世は病院のベッドにくくりつけられていたので一日一食で満足できたが、魔王の娘のこの肉体は基礎消費カロリーがとんでもなく、三食きっちり摂った上でおやつも食べないと満足できない身体になっていた。


 カレンとは短い付き合いであるがすでに腹ペコキャラで認知されていた。なので彼女は「じゃじゃーん」と言った上でランチバスケットを取り出す。


「こんなこともあろうかとお昼ご飯用にサンドウィッチを作ってきました」


 えへへ、と頭をかく聖女様、さすがだ。女子力は999を振り切ってらっしゃる。エリザベートは有り難く餌付けされることにする。


 道中、街道からそれると炎の騎士レウスが湧き水を探し、氷の騎士レナードが薪を探す。そして火を起こすとカレンとエリザベートが紅茶とコーヒーを入れる。


 レウスは紅茶に砂糖を二杯、レナードはブラック・コーヒーを所望した。ちなみにカレンは紅茶に砂糖を三杯、エリザベートはコーヒーがカフェオレになるくらい砂糖とミルクを入れる。


 それぞれの好みの飲料が揃うとバスケットが開陳される。


 バスケットの中身には卵サンドとツナサンド、それにハムとレタスのサンドウィッチが詰め込められていた。王道の中の王道であるが、どれも美味い。卵のサンドウィッチは濃厚な黄身の味がしっかりと出ているのにしつこくない。上質な卵を丁寧に処理しているのだろう。ツナサンドウィッチはタマネギが混ぜ込まれており、味のアクセントになっている。またハムとレタスのサンドウィッチはパンがべたつかないよう懇切丁寧にバターが塗られており、細心の気遣いがされている。


 食べる人のことを考えて小さくカットされており、制作者の繊細さと気遣いが如実に表れていた。


『本当に女子力の高い娘だねえ』


 と黒猫のルナは彼専用に作られたツナを食べている。もちろん、たまねぎ抜きだ。


「はい、カレンさんは本当に聖女様のように清らかな心をしています。見習いたいくらいです」


『なんの君も負けないくらい気の優しい女の子だよ』


 そのようにルナは褒めてくれるが、ふたりの会話を聞いたカレンが尋ねてくる。


「エリザベートさん、以前から気になっていたのですが、ルナさんとお話できるのですか」


「はい、できますよ」


 エリザベートは包み隠さない。そもそもこの世界では魔法は普遍的に存在する。魔術師のほとんどは使い魔を持っているのだ。使い魔と意思疎通できるほうが普通なのだ。


「わあ、すごいですね。私、まだ使い魔を持っていなくて」


「あら、そうなんですか」


「はい。田舎の農村から出てきたので魔術の知識が少ないんです」


「そのわりには魔力値123もあるけどな」


 とは炎の騎士レウスの弁だった。


「基礎能力は高いが知識が追いついていないのだろう」


 氷の騎士レナードはそのように補足する。


「はい。13歳の誕生日に神殿に行ったらそのまま聖女認定されてしまって、あれよあれよという間に王立学院に入学することになっちゃったんです」


「神殿で魔術の基礎は習わなかったのか?」


「光魔法の練習を少しだけ。あとは王立学院で学べと言われました」


「なるほどな。俺たちは騎士科だから使い魔はいらないが、魔法科ならば使い魔がいたほうがいいだろうな」


 レウスの提案にエリザベートは諸手を挙げて賛同する。


「レウスさんの考えに賛同です。使い魔は最高ですよ」


 びしりと黒猫のルナを指さす。


「使い魔は最高です。まず好きなときに肉球をぷにぷにできます!」


 ルナの右手をぷにぷにし、悦に浸る。


「それに喉も触り放題!」


 喉を撫でると「ごろごろにゃーん」と喉を鳴らすルナ。


「そしてこうしておなかに顔を埋めてもふることもできます」


 すぱぁーっと息を吸い込むとトロンとした表情になる。


「お日様の香りがします」


 皆さんも一発決めてください、と促すが皆、エリザベートの猫愛に引いている。しかし、使い魔の有用性については全員認知しているようだ。


「カレンは魔術科なのだから使い魔くらい飼っておくべきだろう」


 という結論に達すると、森で使い魔候補を探すことになった。


 こうしてワイバーン討伐兼使い魔捜索の旅に変わった一行であるが、美味しいお昼ご飯を食べて元気いっぱいであった。午前よりも速いペースで歩みを進めると小一時間ほどで森に到着した。


 件のワイバーンが住み着いたという森は鬱蒼とした茂みが生い茂っており、いかにもなにか出そうな雰囲気であった。

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