二者択一
すけこまし王子こと土の騎士ルクスがエリザベートに二者択一の選択肢を用意した。
いわく、
なにもなかったことにしてほしければ、
〝自分とデート〟
をするか、
あるいは、
〝王都近郊に巣くっているワイバーンを退治してくるか〟
と迫ってきたのだ。
それを聞いた聖女カレンは、
「ワ、ワイバーン!?」
と、おののく。顔を真っ青にさせる。
「カレンさん、どうかされたんですか?」
「エリザベートさん、なにを悠長に構えているのです。ワイバーン退治を要求されたんですよ」
「はあ、たしかにルクス様はそのような要求をされていますね」
「ワイバーンは竜種の中では下級に位置されますが、それでもドラゴンはドラゴン、Cランク以上の冒険者や正騎士様でなければ勝てないといわれています」
「わたしは10歳の頃に火竜をぶん投げていましたから」
と真顔で返答するが、カレンはそれを冗談と取ったのだろう、意に介しない。
「ともかく、ワイバーンは強力です。ここは屈辱かもしれませんが、ルクス様とデートをして矛を収めるべきかと」
聖女カレンはそのように提案をするが、そのような選択肢、エリザベートにはなかった。
「そんな、心配はいりませんよ。わたしは魔力値999オーバーの女ですよ」
もはや機械の故障とは言い張らない。すでに誤魔化せる状況ではないからだ。
「しかし、それでも一介の学生です。危険は回避すべきかと」
「大丈夫ですよ」
「そんなにルクス様とデートするのがいやなんですね」
「そこまでではないですけど……」
土の騎士ルクスはイケメンであり、学院の女子の憧れである。正直、デートというものを一度もしたことがないので、彼と初めてデートをしてもいいかなあ、と思わなくもないが、「デート」という単語が飛び出て以降、クラスメイトたちの反応が怖い。女子たちは明確に殺意を向けてくる。
「殺す、殺す、殺す。もしもルクス様とデートをしたら呪い殺してやる」
「いびる、いびる、いびる。もしもルクス様とデートしたら目にもの見せてやる」
「はぶる、はぶる、はぶる。もしもルクス様とデートしたらクラス全員で無視してやる」
彼女たちの視線はそう語っている。
ぶっちゃけ、初デートの好奇心など吹き飛ぶ視線であった。
というわけで迷うことなく、ワイバーン退治を選択したのだが、なんとカレンはそれについてくると言う。
「駄目です。カレンさん、危険すぎます」
「それは私の台詞です」
「なにを言っているのですか」
聖女カレンはきっと力強い視線をエリザベートに向けると、「そこまでしてルクス様とデートしたくないのですね。乙女の初デートは貞操と同じくらい大切ですものね」と勝手に勘違いをしてくれる。
(……余裕で勝てるから選んでるだけなんだけどなあ)
と思っているとカレンは一人盛り上がる。
「そこまでデートがお嫌ならばこのカレンも付いていきます」
「ええー!?」
思わずのけぞる。
「なにをおっしゃっているのです。カレンさんこそただの一般生徒、危険すぎます」
「なんの。わたしはこれでも聖女認定を受けた身、光魔法の使い手なんです!」
えい! と手のひらに光を放出させる。うう、闇属性のエリザベートにはまぶしいが、たしかに彼女はなかなかの戦力になりそうだ。そもそも彼女は魔力測定で学年二位の成績を叩き出したのだし。ただ、繰り返すが正直、助っ人はいらない。なぜならばエリザベートのレベルはカンストしているから。
しかし、そのことを知らないカレンは「義を見てせざるは勇無きなり」と助っ人を買って出てくれる。さらに四騎士のふたりとも交渉をしてくれるという。
「先日のパーティーで炎の騎士様と氷の騎士様と仲良くなれたんです。彼らにも助っ人をお願いします」
ことがどんどん大きくなるなあ……、と思いながらもカレンの勢いに身を任せるしかない。エリザベートは案外、気が弱いのだ。
むしろ「聖女と四人の騎士」作中で気が弱いと表現されるカレンよりも気が弱いのではないだろうか、なにせ前世はただの商家の娘だし。
逆に聖女カレンは物語のヒロインらしく、気弱に見せて芯はしっかりしている。一度こうと決めたらぶれない心の体幹を持っている。さすがは数十年にひとりしか現れないという聖女様である。そのような感想を抱いていると彼女は、炎の騎士と氷の騎士のもとへ向かった。
彼らいわく、カレンが言うならば付き合ってやらないでもない、とのことだった。
うーん、さすがのヒロイン力。
魔力量は10倍以上の差があるが、コミュ力は逆に10倍は離されているような気がした。
こうして悪役令嬢エリザベートと聖女カレン、炎の騎士レウスと氷の騎士レナードという珍妙な取り合わせのパーティーが誕生した。
エリザベートたちは週末、学院に外出届を出し、王都郊外にある森へ向かった。
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