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桜子さんのショートショート

ファンタジー感0な山の中に転送された場合

作者: 秋の桜子

なろう世界に対する発想の違い?

作者:黒鯛の刺身♪様


のエッセイを拝読して執筆しております。

黒鯛の刺身♪様、ご了承ありがとうございます。



 産湯は滅菌処理されたクリーンなもの、トイレは勿論、ウォシュレット。長じて趣味はゲーム、好物は炭酸飲料。都会暮らしの高校生が諸々あって、マジカルなヨーロピアン異世界に、お約束通りの展開で転生しました。


 当然始まるファンタジーストーリー。マジカルな仲間(美少女)を集めて魔王を倒すぞ、僕は露出度が高い服を着ていた女神から、祝福を与えられた勇者だから、的な。そして彼は冒険の旅に出るに先立ち、修練の森でレベルアップするよう、教会から命を受けました。


 勇者君は頑張る。美少女仲間が出来る。


 勇者君は頑張る。美少女仲間が出来る。


 勇者君は頑張る。美少女仲間が出来る。


 パーティーが完成した頃、飽きてきた。


 勇者君は文句を言い出します。


「日本に帰りたいな、ここって米無いしさ。カレーライス、ラーメン食べたい。コンビニィィ! 風呂にテレビ。なんか毎日、ロールプレイングしてるみたいで飽きた」


 修行のモンスター狩りをサボるようになりました。良くない影響を、剣士と魔法使いが受けました。御目付役の聖女から報告を受けた世界の重鎮達が、お城に集まり考えます。そして……



 ☆☆


「うわわ。ベッドで寝ている間に転送されたみたい。なんだここは。見覚えがある山の中だなぁ。懐かしいや。日本に帰って来たみたい。俺は杉の木はわかるぞ、花粉症だから、あ! なんかに喰い付かれた」


 勇者君があたりを見渡し言いました。額をボリボリ掻きます。


「ええ! なんでどうして、ここって『ガチ・ド・イナカ』だよね。ペナルティエリアじゃん」


 ビキニアーマー、ニーハイ丈のブーツ、裾丈長い白マント、ミスリルソードを帯刀している、女剣士が、目の前にちらつく羽虫を手で振り払い、呟きます。


「噂に聞いたあそこ? ガチ・ド・イナカゾーン、ヤバいよ。妖精も精霊も居ない代わりに、ちっちゃい『虫』が凶悪な世界」


 三角帽にローブ、手には杖、魔法使いが、やだよぅ、なんでこうなったのと、文句を言います。


「そうです。ヤバいです。これもそれも私が口を酸っぱくして注意喚起をしていたのに、受け取らなかった貴方方の責任です。最近の成果が今ひとつだったからでしょう」


 やれやれ、私迄来ることになり、迷惑です。修道服に銀の十字架、聖女がため息をつきます。


「ヤバいって? 痒い、でも日本の山に似てるからこっちでもいいな。どうせ歩きで旅するんだもん」


 勇者君が記憶にある風景と重ね合わせ、しみじみ話します。


「ヤ! 痒い! 帰りたい、痒い!」


 剣士の彼女が、マントを跳ね上げ、赤くポチポチ跡が残る、身体の柔らかい部位をボリボリボリ掻きむしります。


「あ! 俺もまた喰われた。痒! てか、『ヤブ蚊』じゃん。久しぶりに見た、ここにはいるんだ、蚊、懐かしいな」


「やだぁ! ほっぺが痒い!ヤブ蚊、イヤもう! 帰りたい」


 魔法使いがほっぺたをポリポリ。


「あ、だけど虫さされは、痒いのを我慢をすればすぐに治るよ。でもどうしてここに転送されたんだろう」


 おでこをボリボリ掻きながら勇者君がぼやくと。


「改心せよと、言うことなのです。勇者様はじめお二人も最近、口を開けば文句ばかり。任務もおざなり。魔王城では、いつでもどうぞーと、待っておられるというのに。ストーリー展開が遅いと苦情が来ているのでしょうね」


 ため息をつきつつ聖女が諭す様に話します。


「ええ! なにそれ、俺が悪いのか、そういう事?」


「はうう、ダラリラしたのが悪かったのね、真面目に呪文書の暗記に励んでいれば、こんなことにならなかったのね」


「うー。あたしもダラダラに付き合っちゃった。素振り千本やっとけば良かった。痒いの我慢、我慢する、我……! できない! 薬、無いの? 薬」


 沢山刺された剣士が、魔法使いに泣きつきました。


「ひと瓶だけ、万能塗り薬あるけど。使う?」


 ローブの中から、クリスタルの瓶を取り出します。


「平和な日本の山の中って感じだよな。キャンプに行った時を思い出すよ、あっちは森の中、こっちは山の中だけど、どっちも一緒じゃん」


 おでこに塗って貰いながら勇者君は過去の記憶に想いを馳せます。


「違う。ヤブ蚊とやらがいる時点でアウトよ。くぅぅ、しみるよぉぉ、掻きむしったの、後悔!」


「そういえばあっちの森にはいなかったなぁ、過ごしやすかった。君だけは無事って、どういうこと?」


 勇者君が聖女に聞きます。


「私は日々の修練は欠かしません。ですからどこに行っても大丈夫なのですよ」


 その言葉に食い付く魔法使いと剣士。


「本当に?」


「はい。聖剣士や大魔法使い等、称号を得ればいいことだけ。そのためには日々の修練は必須事項! レベルアップを目指すのです!」


 その言葉に、剣士と魔法使いは戻ったら気合を入れて修練に励むと、心に誓います。


「んじゃ、俺は? 俺もそうなの?」


 おでこをカイカイする勇者君の質問に重々しく頷く聖女。


「ええ、その通り。レベルMAX限界突破をすれば、無敵! ですよ。無敵を得るために根性入れて、修練を日々、頑張るのです」


 根性が信条の聖女が熱弁を振るいますが。


「ふうん。まっ、戻れたら考えるよ。とりあえず山を下りよう」


 のほほんとした勇者君は、こっちが近道だよねと、ガサガサ。藪の中に入って行きました。


 ☆



 何時ものヨーロピアンな森とは違い、記憶の中にある山の景色に近い、ガチ・ド・イナカに、ウキウキワクワクな勇者君。獣道と思われる細い道を進みつつ時折、両脇の藪の中をガサガサ入り込み、出たりを繰り返しています。


「あ、またいない」


「前世の世界に似てるからって言っていたから、嬉しいのかな」


「はぁぁ、困りましたね。それよりも先程から、穢の香りが致します。何処かに死体でもあるんでしょうか」


 ガサガサ……、藪の中から小さな探検を終えた勇者君が、ひと休みをしている皆のところに、戻ってきました。顔を合わせた瞬間、山に響く叫び声!


「み! 耳に!耳にぃぃ!」


 剣士がスラリと抜刀! 斜に構え臨戦態勢。


「うわ。血が出ている。ぶっちょりしたのがひっついているの、き、気持ち悪」


「何なのでしょうか、魑魅魍魎なる生物が耳に喰らいついております。どうやら吸血鬼のお仲間の様子」


 三者三様の話を聞き、恐る恐るぬるりとした感覚のところに手をのばした勇者は、過去の記憶が蘇る!


(も、もしかして『山蛭(ヤマヒル)』)


「山蛭だよ。ヒィィィ! 誰か取って!」


「耳ごと切り落とす!」


 覚悟ぉぉ! 剣士が勇者君に向かおうとしたその時、チャンス到来と聖女が動きました!


「治癒して差し上げます」


 即座に祈りの詞を謳い上げ、力を発動しました。


「ふう、助かった」


 耳の違和感が綺麗サッパリ無くなり、ホッとしたのも束の間。


「誰なの? こんなところに埋めた人」


 魔法使いがぼやきました。


「ええ? ぞ、ソンビ?」


 色が違う地面から、ガボ! ザヂュン! 這い出てくる女性。手には刃の欠けた包丁を握っています。


「明るいからそんなわけ無い」


 剣士が鞘に収めつつツッコミを入れました。


「じゃぁ何なの?これ」


 ファンタジーではお目にかかることが無かった、未知なる存在に恐れ慄く勇者君。


「死体だ。殺されて埋められたんだ。どこの世界も一緒だね」

「そういや、ガチ・ド・イナカで力を使うと変に影響が出るとかお師匠様から聞いたわ」

「ええ、そう聞いております。この御方、異性に対して恐ろしい怨念をお持ちのようです」


 冷静に分析をする剣士、魔法使いと聖女。


「浄化して!」


「これ以上、影響を与えるのはよろしくないかと……、あら」

「あら」

「ほお」


 勇者君の提案は却下されました。そして全身が地上に出た、殺されて埋められていた彼女さん。集う面々をしっかと眺め回すと。


「オマエ、オトコ!」


 ビシッ! 包丁を勇者君に突き出しました。


「オトコ! コロス」


 埋められた彼女さんが、血糊がべったり、刃こぼれをした包丁を振り回しながら勇者君に猛突進、慌てて逃げる勇者君!


 山の中で追いかけっこが始まりました。後を追う3人。


「どうして死体があるのに治癒をしたんだ?」


 剣士がマントをはためかせて走りながら聞きます。


「戻るためです、戻りの扉の口を開くには勇者様が、程よく瀕死になってくれないといけないのです」


 聖女が軽やかに走りながら答えます。


「ふええ? そうなの?」


 あのお姉さんに殺られるの?魔法使いがポンと出した箒に乗り、超低空飛行をしつつ聞きます。


「無理でしょうね、刃こぼれしてますし、蘇ったところでそれほど力は無いかと」


 聖女の言葉に、じゃぁどうなるの? と二人が声を合わせて問いました。


「んー。天啓によると、小さき何かに追いかけ回されれば、帰れるとのお言葉がこの世界に来た折、おりてきていたのです」


「来た。小さき何かって、少なくともあのお姉さんじゃない。きっとヤブ蚊みたいなやつだよ」


「そんなのが致命傷を与える事が出来るの?」


 後を追いつつ、勇者君の運命を見守る3人。やがて埋められた彼女さんの限界が来たのでしょう。ぐにゃぐにゃになり、その場で罵詈雑言を吐くと、サラサラと。灰になり霧散しました。


「た、助かった、ふ、え?」


 暑いさなかの追いかけっこは、勇者君の体力ポイントを大幅消費。ガチ・ド・イナカでは、マジカルな底上げは期待出来ないのです。ここのところ、サボった事により低下している事に深く後悔をする勇者君。


「戻ったら、気合を入れて修練に励むよ、走っただけでバテるなんて、ダメダメだよ」


 ハアハア、へたり込む勇者君の言葉を、聖女はしっかりと受け取りました。


「では、帰り道を探しましょう」


「うん、さっさと山を下りよう」


 ヨロヨロとよろめきつつ立ち上がり、心清らかに一歩前に踏み出しました。にこやかに見守る聖女。勇者君と少しばかり距離を取るよう、剣士と魔法使いに密かに指示を出しています。


「うわ!何か踏んだ?」


 ズゴン。地面を踏み抜いた勇者君!慌てて足を上げましたが時すでに遅し。聖女が静かに教えます。


「地蜂の巣のようですね」


 ワワワワワワ。地面の中の巣は大騒ぎ。


 ブーン! 先鋒が飛び出し、その場で立ち止まっていた勇者君にフェロモン液を噴射!


「は、はははは、蜂の巣って。刺されたら、アナフィラキシーとかなるやつ?」


 勇者君は地蜂の巣を踏み抜いてしまったのです!小さくても蜂は蜂。蜂毒も弱いなりに持っています。


 しかし刺されたら痛くて大変です。体調やアレルギーの有無により、アナフィラキシーショック症状が、出る場合もあります。


 蜂の総攻撃が今! 始まりました。


 始まる、ガチに命をかけた追いかけっこ!


「これで帰れるのか?」


 剣士が聞きます。


「えと。確か黒いモノに反応するから、勇者様は髪の毛黒いもんね、総攻撃を受けたらヤバいんじゃないかな」


 魔法使いが答えます。


「大丈夫です。向こうに戻ったら、完璧に治癒をしますから、そして修練に励んで貰わないと。魔王城では、いつ来るか、いつ来るかと、首を長くしてお待ちのようですからね」


 にこやかに聖女が話しました。




 終わり。


ツッコミ満載ストーリーです。

お読み頂きありがとうございます、

ちなみに火サス的なお話はありませんが

山を歩けば獣の頭蓋骨はその辺に落ちています。


地蜂は大人しい性格の蜂さんです。蜂の子飯の蜂さんです。巣を踏み抜いたネタは旦那様からよく聞く話です。


元ネタ素敵エッセイの作者、黒鯛の刺身♪様ありがとうございます、

他のネタも書こうか思案中です!

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― 新着の感想 ―
[一言] いやもう、普通に日本の山の中に放り出されればこうなりますよねw 幸せなのに文句ばっか言ってちゃだめですね。
[良い点] 普段は文明の利器によって麻痺していますが、自然は豊かで残酷ですね。 ヒルのところで鳥肌が立ちました。
[一言] 〉「来た。小さき何かって、少なくともあのお姉さんじゃない。きっとヤブ蚊みたいなやつだよ」 〉「そんなのが致命傷を与える事が出来るの?」 つ【日本脳炎】
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