閑話─豚だわ………
もう1つ小話です
シルフィード帝国の紋章は
聖杯の上に浮かぶ聖剣を挟んで、2頭の金のライオンが雄叫びをあげている。
 
 
「豚だわ……… 」
貴族の既婚した女性達は、家では勿論の事、お茶会を開いた時には、各々の刺繍を持ちより、お菓子を食べ、お喋りをしながら刺繍をする事が婦人達の社交場だった。
レティの母も刺繍の腕はかなりのものだった。
家にあるハンカチや、大作になるとタペストリーまで刺繍が施されてあった。
「 豚ね……… 」
母は溜め息をついた。
帝国の紋章であるライオンを刺繍したつもりだった。
レティは刺繍が苦手だった。
3度の人生を経てもなお刺繍は苦手だった。
 
何故、刺繍をしようと思ったのか…………
後悔先に立たずで、泣きたくなってきた。
その上、何度もやり直したもんだから、白地のマフラーが手垢で微妙に薄汚れていた。
何で白を選んだのか…………
 
ブロンドの髪のアルベルトが、金糸の糸でライオンを刺繍した白のマフラーを首に巻く姿を想像しながら、一生懸命に刺繍をしたのだった。
「 気持ちよ、気持ちが一番なのよ 」
レティだって一生懸命作ってくれた物を頂いたら嬉しいでしょ……と母は言う…………
しかし、相手は溢れる程のプレゼントを貰う皇子様なのだ。
いや、優しい殿下は喜んでくれるに違いない。
違いないが………お洒落番長だったレティは、殿下にこれを首に巻いて欲しく無かった。
あんな綺麗な皇子様に豚ってどうよ………
それも薄汚れたマフラーよ!
絶対に駄目よ!
別のプレゼントにしようとしたら、母が断固として許してくれなかった。
「 レティが贈る初めてのプレゼントなんだから、絶対に殿下にはこれをプレゼントしなきゃ駄目よ 」
  
せめて一度手洗いをすると言うと、それも母に駄目だと言われた。
「 レティの一生懸命を流しちゃ駄目 」
 
レティは、渋々手垢で汚れた豚のマフラーにラッピングをした。
 
 
 




