特別な人
12月に入り
街はクリスマス一色になる。
休日の午後
私はクラスメイトのユリベラとマリアンヌと一緒に
白いコートを着て、クリスマスプレゼントのお買い物に来ていた。
料理クラブで仲良しのスーザンの店の輸入雑貨屋さんに来ていた。
「 リティエラ様は皇太子殿下に何を贈られるのですか? 」
とユリベラが言う。
「 クリスマスはお二人でお過ごしになるのですよね? 素敵だわ 、もしかして、皇宮で………」
妄想大好きのマリアンヌがうっとりしている。
そう、デビュタントがまだの私達1年生にとっては、皇宮は憧れなのだ。
「 えっ? 」………と私。
「 えっ? 」………とユリベラとマリアンヌ。
「 殿下とはお付き合いはしてませんわ 」
「 まあ、お仲がよろしいので、もうお付き合いをされているのかと……… 」
「 殿下は兄のご学友なだけですわ 」
間違ってはいない。
でも、プレゼントは買いたいかな。
勿論、お父様やお母様、お兄様とエドやレオのも………
貯めたお小遣いで買えるもの………
本当はデザイン料でお金はたんまりあるけれど、
それは未来への貯金ですから。
お父様とお母様にはお揃いの手袋。
お兄様とエドとレオには色違いのループタイ。
殿下は………
色々とお世話になってるから。
マフラー?
マフラーは嫌かしら?
マフラーに刺繍をして………
色は………白
殿下は喜んでくれるかしら………
お買い物袋を持って店を後にした。
広場近くに来ると………
皇宮騎士団の人達が馬に乗り、街の憲兵隊が人垣の整備をしていた。
皇族の誰かが通るんだわ。
道が大きく開かれ
ザワザワとする雑踏の中
馬の蹄の音とカラカラと馬車の車輪の音が聞こえてきた。
そこに…………
皇太子殿下専用馬車がやって来た。
周りが一段とざわざわとしてキャーと黄色い声があがっている。
あっ、殿下は今日はご公務だったのね。
あの馬車の中に殿下がいる………
そう思っただけで胸がキュンとなった………
「 皇太子殿下を想うだけで胸がキュンとするわ 」
「 素敵よね、本当に特別な人だわ 」
周りで女性達が口々に愛を囁き、頬を染め馬車を見つめている………
そう、殿下は我々国民にとっては、誰にとっても特別な人なのよ………
うん、うん、私も同じ気持ちよ………
………と、しみじみしていると………
「 公爵令嬢様、皇太子殿下がお呼びです 」
へっ?!
見知った顔の殿下の護衛の人が、ニコニコしながら私に近付いて来た。
人垣がさっと割れ、皆の視線が私に突き刺さる………
誰ですか?
公爵令嬢とは私の事ですか?
頭がパニック状態だ。
「 公爵家の御者には連絡しておきますから、どうぞ………殿下がお待ちです 」
ユリベラ達を振り返ると、キャアと頬を赤く染めながら、行ってらっしゃいと手を振っていた。
護衛騎士の人に促されて歩いて行くと、馬車の横に立つ護衛騎士の人が馬車のドアを開けてくれる。
皆、ニコニコしていた。
中から手が伸びてきて、私が持っていた買い物袋を先に取り、次に私の手を取って中に入れてくれた。
「 やあ、レティ、お買い物? 」
殿下は破顔していた。
扉が閉じられ、2人を乗せた馬車がカラカラと静かに動き出した。
殿下だわ。殿下がいるわ。何か変な感じだわ。
じっと殿下を見つめる………
「 何?レティ、僕に見惚れてるの? 」
「 白の妖精さんがいると思ったら、レティだったからビックリしたよ 」
殿下が嬉しそうだ。
私はまだ殿下を見つめている。
「 レティ、ぼーっとしてるとキスするよ 」
殿下がニヤリと笑う。
「 あっ………殿下ご機嫌よう、あの……ご公務ですか? 」
「 まあね、港街の両替商にね、奴らに腹が立ってイライラしてたんだ 」
「 良かった、レティに会えて…… 」
殿下は私の頬に触ろうとする………
「殿下、街で私を拾うのは止めて下さい、恥ずかしいです 」
「 拾うって…………」
殿下がクックッと笑い出した。
「 じゃあ、拾った子猫ちゃんはこのまま皇宮に連れて帰ろうかな 」
殿下はやたらと私を皇宮に連れて行きたがる。
お寂しいのかな………
「 拾った猫はお城には入れてはいけません、夜な夜な化け猫になり、お城の者を拷問部屋送りにするのですから 」
「 レティ、また変な本を読んだの? 」
「 魔法使いと拷問部屋 2」
「 その本、まだ続いているの? 」
2人で笑い合う。
ふと、思った。
今、私は………
街の人達から見ると、特別な人なんだろうな………と…………




