最近殿下がおかしい
秋が深まる頃
騎士クラブの初練習に来た。
中途入部は私だけかと思ったら
もう1人いた。
「 今日から一緒に練習に励む 1年生のリティエラ・ラ・ウォリウォール君とノア・ハルビン君だ」
宜しくお願いしますと頭を下げる。
ノア君………赤毛で金色の瞳、
あっ、あの時暴漢にタックルした子だ。
「 あの時は有り難う、君のおかげで助かりました 」
思わず彼の手を取った。
彼は、だんだん赤くなり、押し黙ったままだ。
「 あっ、ご免なさい 」慌てて手を離す。
「 レティ、」
誰かに腕を引かれた………
えっ?!
振り返ると殿下だった。
何故?!
「 今日から、皇太子殿下が入部されました 」
「 君達が将来仕えるお方に敬礼 」
皆が、片膝をつき、左胸に右手をやり忠誠の敬礼をする。
おう、私達はどうすりゃ良いのさ…………
ノア君と私の2人は突っ立ったままだ。
「 構わぬ、稽古に励め 」
殿下は右手を軽く上げながらそう言って、用意された椅子に座った。
殿下の横には殿下の護衛騎士が2人立った。
皇太子殿下と、憧れの皇宮騎士団団員の2人が居るので
その場のテンションが否応にも高まった。
気合いの入った声が鳴り響く。
エドガーと女子生徒がやって来て、私とノア君の練習着を渡して、着替えて来るように言った。
「 私が施設の説明をしますね 」
女子生徒は3年生、名前はエレナと言う。
女性騎士もいるので、更衣室とトイレはちゃんと女性用もある。
ロッカーで着替える。
首まである白のシャツに、胸当ての様な腰まである赤のチュニック、ズボンに膝まであるブーツで腰にはベルトを巻く。
亜麻色の腰まであるストレートな髪は、ポニーテールにしていた。
着替えて出てきたら
エドガーが待っていてくれた。
私の格好を見て笑いだした。
女騎士になろうとする人は元々体格が良いらしくて
一番小さいサイズの練習着でも、私にはブカブカしていた。
エドガーが私のベルトの位置を代えようとした時に
殿下が来て、殿下が締め直してくれた。
「はい、はい、お世話を頼みますよ」
エドガーはノア君の所に行った。
「 あの、殿下、どうしてここに? 」
「 あれ? 聞いてない? 君の世話をする為に入部したんだよ」
殿下はニヤリと笑った。
さっき
皆から最大級の敬礼をされ、敬われていた皇太子殿下が、こんな私の世話をするなんておかしくない?
騎士クラブは、休日以外は毎日練習があるが、庶民棟の生徒も同じなので参加は自由だった。
主には基礎訓練で、剣の代わりに木刀で稽古をしていた。
今日は走り込みの基礎訓練。
エドガーが私とノア君の指導者だ。
殿下は椅子に座っていたが、時折見回ったりしていた。
私を含めて全員が整列し
「 皇太子殿下に敬礼 」………で練習が終わった。
殿下は軽く手を上げ
「 良い練習だった 」と言った。
そして………真っ直ぐに私の所にやって来る。
殿下と私の前の道がザッと開ける。
だから………
それ、止めて欲しい。
殿下は私の手を取り、練習場の端にあるベンチまで連れて行った。
私の手をニギニギしながら
「 疲れてない? 」
疲れましたとも、練習より貴方の視線に疲れましたとも………
「 頑張ってたね 」
愛おしそうに可愛い可愛いと頭を撫でられる。
おかしい…………
最近殿下がおかしい………
王女とはどうなったの?
殿下の腕にボインボインの胸を押し付けて仲良くしてたじゃない………
レティは鷹の目だった。
視力が異常に良い。アーチャーにうってつけだ。
舞踏会でも、牧場でも、遠目からだったけど………
王女は美しかった………
ハッキリしたきつめの目鼻立ち、鼻はツンと高く、口はポッテリとして色気満載だった。
殿下のブロンドの髪と王女のシルバーの髪がクルクルと踊る度にキラキラして輝いていた。
殿下は、この時は、恋に落ちなかったの?
そんな事より、私は弓矢を手に入れたかった。
錬金術師のシエルに、研究するから持って来る様に言われていたのだった。
騎士クラブには弓矢が無いのかとエドガーに聞いたら
騎士クラブにある弓矢は管理されてるから持ち出せ無いらしい。
街に武器屋があるから、そこに行けば手に入れられると言った。
「 弓矢を欲しがって何するんだよ? 」
「 私、アーチャーになりたいから練習するの 」
「 ふ~ん 」
エドガーが何か怪しんでいるが、嘘は言ってない。
いずれは練習をするのだから………
女の子が1人で行ける場所では無いので、一緒に行ってくれるって言ってた。
「 あの、殿下には内緒でお願いします 」




