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狂って行く国王

 




 タシアン王国は他国を侵略する事により、その国の文化や経済、その土地で暮らす人々を自分の国の物にして発展して来た国だ。


 だから……

 全てに豊かな隣国シルフィード帝国を、何としても手に入れたいと代々の王は狙って来たと言う。



 シルフィード帝国の先帝の突然の崩御の際には、タシアン王は直ちに国境に兵士達を侵攻させた。


 マイセン越境伯とドゥルグ侯爵の兵士や騎士達による強固な守りに阻まれている間に……


 イニエスタ王国が真っ先にシルフィード帝国につく事を宣言し、続いてローランド国、ナレアニア王国と言う近隣の王国が名乗りを上げた事で、侵攻するのを断念したと言う。


 シルフィード帝国には、境地には助けてくれる多くの同盟国があり、タシアン王国の先王によるシルフィード帝国への侵略は失敗に終わったのだった。



 その後……

 先の国王は病に犯され、長きに渡りベッドから離れられない状態になった。


 医師達では手の施しようも無く……

 すがる様にして、まじないや祈祷に寄りかかって行き、いつの間にか傍には常に魔術師がいた。


 しかし……

 その甲斐もなく先王が崩御した事により、ザガード・セナ・ト・タシアン国王が誕生した。



 ザガードは物静かで気の優しい温厚な性格だった。

 戦争をするなんて事は、とてもじゃ無いが決断出来ないだろうと、家臣達からは思われていた。


 先王が長く患った分、新国王となったザガードは懸命に公務に邁進した。

 戦争なんかしなくても、この広い大地があるから何とかなるだろうと笑っている様な王だった。


 しかし……

 即位して間もなく、妻である王妃が流行り病にかかりあっと言うまに他界してしまった。

 妻は幼い頃からの婚約者で、そのまま大人になって結婚をした仲睦まじい夫婦であった。



 悲しみから抜け出せない彼は……

 寂しさのあまり、亡き父王が心の拠り所にしていた魔術師を傍らに置く様になった。


 やがて……

 魔術師には伯爵の爵位が与えられ、彼女がドレイン卿と呼ばれる頃には政治にも口を出す様になった。



 ドレイン卿が政治に関わり出すのに反して、ザガードは政治そっちのけで魔術にのめり込んで行った。

 同時に魔力と魔石に魅せられ、どんどんと夢中になって行った。


 やがて大量の魔石を集める様になり、その魔石の研究の為に他国の医師や錬金術師を拐って来ると言う暴挙に出るのだった。

 王立研究所では、他の研究にお金を掛けずに魔力と魔石のみに多大なお金を掛けた。



 国王に懸命に進言する側近や宰相、他の大臣達を遠ざけ、ザガードの周りにはドレイン卿の息が掛かった者ばかりが集められて行った。


 王が政治を捨てると国はどんどんと衰退して行く。

 絶対君主の国では……

 その国が栄えるのも衰退するのも国王次第なのである。


 シルフィード帝国でも、前帝が崩御して政治家達が内乱を起こしている間は国が乱れたのだ。

 国民に目が行き届かなくなると、人々は不安になり、治安が乱れ、犯罪が増えて行くと言う事に繋がるのだ。



 王妃との間には一粒種のコバルト王太子がいた。


 コバルト王太子は利発で思慮深く、次世代を期待させる様な王子だった。


 大臣達はこのままでは国が滅びると、コバルト王太子に王位を譲位して貰おうと水面下で動き初めていた。


 しかし……

 それに気付いたザガード王が怒り、コバルト王太子を幽閉してしまった。




 ***




「 私は3年間塔に幽閉されておりました 」

 彼はここまで淡々と話していたが……

 彼の瞳が急に曇った。


 目を伏せ少しの沈黙の後、彼は更に話を続けた。



 彼がコバルト・セナ・ト・タシアン王太子と名乗った事から、ルーカスは謁見室にロナウド皇帝と三大貴族であるデニム国防相、イザーク外相を同席して貰った。


 勿論、そこにはアルベルト、ラウル、エドガー、レオナルドも同席させた。


 最近は三大貴族での重要な会議には、息子達を同席させる事が多くなっていた。


 先帝の突然の崩御で、いきなり政治の中心に出る事になった自分達が、未熟なあまりに帝国中を混乱させた事を反省して、息子達には早くから経験させようと言うのが、ロナウド皇帝の考えなのである。


 その次世代の子供達は……

 ずっと静かにコバルトの話を聞いていた。



 ある日……

 3年振りに塔から出されたコバルトは父の前に連れて行かれた。


「 王太子! 久しいのう 」

「 !?……… 」

 コバルトの見た父は別人の様になっていた。


 黒髪は紫の髪になり、漆黒の瞳は赤く光っていると言う、あの温厚な優しい父の面影は何処にも無く、全く変わり果てた様相になっていた。



「 世は……世界を支配する……最強の王になったのだ! 」

 ハッハッハッ!

 そう言って王座の椅子に座るザガードは、不気味な高笑いをした。


「 ………父……上…… 」

「 そなたも、最強の王太子になるが良い 」

 ショックのあまりに声が出ないコバルトにそう言って、ザガードは席を立った。



 ザガードの傍らにいた魔術師が、壁際に控えていた深くフードを被った者達に、連れて行けと命じてコバルトは彼等に連行された。


 この魔術師はドレイン卿だ。

 あの時の魔術師の女だ。

 父上をこの様にしたのはこいつか!?


 コバルトはギリギリと奥歯を噛み締めたが……

 周りを見渡しても、何時も王の傍らにいた宰相も大臣達の姿は無く、護衛騎士達の姿も無かった。



 コバルトが連れて行かれた場所は王立研究所の一室。


「 私に何をする!? 離せ! 」

 ベッドに縛り付けられ、コバルトは注射を打たれた。


 うわーっ!!!止めろ!



 目が覚めた時には……

 腕に何かが埋め込まれ、そこは熱が放出してるかの様に熱くなり、コバルトは3日3晩高熱と強い吐き気に苦しんだ。


「 これは何だ!? お前達は私に何をした!? 」



 コバルトの腕に埋め込まれたのは魔石だった。

 魔石が埋め込まれた場所は薄い黄色に光っている。


「 これは……光の魔力を融合した魔石です 」

「 !? 何故こんな事をしなければならない!? 」

 魔石が埋められた場所を恐る恐る触りながら、コバルトは部屋にいたドレイン卿に食って掛かった。

 

「 それは余が説明しよう 」

 そこにザガードがやって来た。

 コバルトの黄色に光る腕を見てザガードは満足そうに笑った。

 笑うと……

 あの優しかった父の面影が見て取れるのが悲しかった。



「 流石に余の息子だ。しっかりと順応したな 」

 実験では多くの者が耐えられずに、命を落としたのだと言う。


「 父上……何故この様な事を…… 」

 理由が分からずにコバルトは顔面蒼白になって聞いた。


 ザガードは上着を脱いだ。

 驚いた事に……

 ザガードの身体には黄色、赤、水色、緑、そして……黄金色に輝く魔石が埋められていた。



「 余は、魔力使いになったのだ 」


 光、火、水、風、雷、魅了の魔力を融合された魔石を、身体に埋め込めば魔力使いになると言う。

 ドレイン卿の説明にコバルトは息を飲んだ。


 その魔力とは……


「 災い 」



「 何だって!? 」

「 災いの魔力!? 」

 コバルトの話を聞いていた皆が耳を疑った。


 皆がコバルトの腕に埋め込まれた魔石らしき物を見た。

 腕にある縫い跡が痛々しい。

 まだ少し赤く腫れ上がっている。


 こんもりと盛り上がった場所が、確かにうっすらと黄色く光っていた。



「 本当に……魔石が埋め込まれたのか……」

「 もしかしたら……あの森にあった魔石が…… 」

「 あれが……災いの魔石なのか? 」


 ガーゴイルが発生した森に落ちていた魔石。

 魔力の研究の第一人者である虎の穴のルーピン所長に、何の魔力かと聞いても、今までに無い種類の魔力だと言っていた。



「 誰か! ルーピンを呼んで来てくれ! 」

 ルーカスが叫んだ。


 謁見の部屋は騒然となった。


「 信じられない…… 」

「 真実なら正気の沙汰とは思えない 」

「 身体に魔石を埋め込むなんて…… 」


五つの魔力が融合された魔石を埋め込んだら……

魔力使いになるなんて事は、誰もが信じられなかった。

 いや、信じたく無かった。



「 私は……その夜の内に宰相から逃がして貰った 」


 シルフィード帝国の皇帝陛下に助けを乞う様にと、宰相から言われたのだと、コバルトはシルフィード帝国に来た理由を述べた。


 シルフィード帝国とタシアン王国は昔から敵対して来た国同士。

 そのシルフィード帝国にタシアン王国の王太子が助けを乞う?


 誰もがそう思った時に、ルーカスがノートに記入をしている手を止めて、コバルトをゆっくりと見据えた。



「 タシアン王国の事情は理解した。国王の事も……だが……貴殿がコバルト王太子だと言う証明が無い。諜報員ならば……その様な出鱈目は簡単に言える 」


 ルーカスの言葉にデニスとイザークが同調して、うんうんと頷いている。


「 そうだ! あまりにも非現実的だ! 」

「 王太子だと言う証拠が無い限りは我々は信用出来ない 」


 そりゃあそうだ。

 何処の誰かも分からない奴の言葉をどう信じてどうしろと言うのか。


 助けを求められても……

 第一我々は、年明けにはタシアン王国に宣戦布告をするつもりだったのだ。


 そうなると……

 それに感付いた諜報員が、我々を混乱させようとしているのかも知れないと言う事が考えられる。



「 私は……何も証明する物なんか持って出なかった! 」

 コバルトはそう怒鳴ると、どうしたら良いのかと頭を抱えた。



 その日の事。

 深夜に王立研究所のコバルトが寝ている部屋に宰相がやって来た。


「 タイナー……そなたは……生きていたのか…… 」

「 殿下……殿下も……ああ……お痛わしい…… 」

 2人は肩を抱き合って暫く咽び泣いた。


「 他の大臣達は皆……殺されてしまいました。私だけが……生きながらえております 」

 宰相は陛下の代わりに執務をしていると言う。

 それだけの為に生かされているのだと。



「 殿下……もうタシアン王国は終わりです。隣国のシルフィード帝国の皇帝陛下にすがるしか方法はありません 」


 このままでは……

 王太子殿下が陛下の様にされてしまうと言って、宰相は食料を詰めた鞄とマントをコバルトに渡した。


 そうして……

 コバルトは独り馬に乗り、シルフィード帝国を目指して旅立ったのだった。



「 どうしたら信じて貰える? 」

 コバルトは両膝を跪いた。



 すると……


「 その人は、コバルト・セナ・ト・タシアン王太子殿下に間違いないわ! 」

 とても可愛らしい声が響いた。


 いる……

 何故いる?

 いつの間に?

 可愛い。



 すくっと立った人物はレティだった。











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