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聖剣と聖なる矢

 




 アルベルトの雷の魔力が聖剣を通して放出された。

 それはレティの持つオリハルコンの矢を通じて、レティが射た雷風の矢の矢尻に融合した。


 矢は黄金に光輝きながら魔獣ガーゴイルに向かって飛んで行く。




 ***




 聖女は100年に1度現れるとされているが……

 しかし……

 聖女はかれこれ200年は出現していなかった。


 魔石の国ミレニアム公国のみ出現すると言われている聖女だが……

 実はあまりその実態は文献には残されてはいない。


 聖女と呼ばれているが……

 聖女は浄化の魔力を持つ魔力使いの事である。

 ただ……

 他の魔力使いとは違って、浄化の魔力を持つ者は女性だけだと言う事が確認されている。


 何故かと問われればそれは分からない事で。

 そもそも魔力使いそのものが謎の存在なのだから。


 魔力使いに関しては、どの国に置いてもシークレットになっている事からその実態を把握するのは難しい事だった。



 シルフィード帝国での魔力の研究の第一人者は虎の穴のルーピン所長だ。


 自分自身が水の魔力使いである事から、彼は魔力使いが現れたと聞けば確かめに行っている。


 魔力使い同士は互いに魔力の存在が分かるからで。

 アルベルトもある時期から、魔力があるとルーピンから言われていたのだった。



 現在、シルフィード帝国では、光、水、炎、風、雷の5種類の魔力使いが確認されているが……

 世界には、もっと他の能力を持った魔力使いがいるのかも知れない。

 現に、タシアン王国に魅了の魔力使いが存在している事を、皇帝陛下やルーカス宰相は確信している。



 アルベルト皇子の雷の魔力は、彼が虎の穴の魔法使いの部屋で開花させるまでは、シルフィード帝国には存在しなかった魔力だ。

 昔の文献には過去に雷の魔力使いがいた事は記載されてはいるが。



 そして……

 今、政府が確認している魔力使いは僅か12名だけである。

 その内の風と雷の魔力使いはたった1人しかいない貴重な存在であった。


 準皇族であるレティに危害を加えた風の魔力使いイザベラが、極刑を免れたのもこんな背景があった事は否めない。

 勿論レティの必死の懇願があったからなのも確かだが。



 魔力には、強い魔力を持つ者や弱い魔力しか持たない者もいて、生涯自分が魔力使いと気付かずにいる者もいると言う。

 魔力が弱ければ気付く事は難しい事から。


 聖女が200年現れていないのも……

 そんな理由があるからなのかも知れない。




 ***




 聖女の持つ浄化の魔力は魔獣に関してのみに通じる魔力だ。

 シルフィード帝国の国宝である聖杯と聖剣には聖女の浄化の魔力が融合されていると古い文献に記載されている。


 聖杯や聖剣には小さな魔石が組み込まれていて、魔石の色はロイヤルブルー。

 シルフィード帝国の皇族の象徴である色がロイヤルブルーなのも、この魔石の色からだと言われている。



 その聖杯と聖剣はオリハルコンの石から作られていて、そのオリハルコンの石はミレニアム公国から贈られた物であり、当時の錬金術師達が聖杯と聖剣を作り上げた。



『 皇帝陛下が聖杯を持って国を守り、皇太子殿下が敵に向かって聖剣を振るえば必ずや国は勝利する 』


 この言葉はシルフィード帝国の言い伝えとなっている。


 聖杯には浄化の魔力が融合されているから、シルフィード帝国には魔獣は存在しなかった。

 魔獣が現れるのは国境付近のみで。


 魔獣が出現しない事からシルフィード帝国は戦争に集中し、ここまで大きくなる事が出来たのかも知れない。

 その反面……

 魔獣に対する研究は他国よりも遅れていた。



 レティがローランド国に留学した際に、王立図書館で魔獣の事について調べたかったのもそう言う背景があったからで。


  ガーゴイル

  群れる事は無く発生率は稀である。

  嘴は鋭く、身体は中位で小回りがきくので厄介である。

  聖なる矢でしか絶命させる事が出来ない特殊な魔獣である。


 これがローランド国の王立図書館で読んだ、魔獣の事が記述されている本に書かれていた内容だ。



 群れる事の無いガーゴイルが大量に発生したのは、爺達が導き出した太陽が月に隠される現象と関係しているのだと思われる。


 問題はやはり聖なる矢でしか絶命させる事が出来ないと言う事で。

 聖女が居ない今、聖女が作り出す聖なる矢は存在しない。


 自分達でこの災いを打破するしか無いのである。



 アルベルト皇太子がドラゴンと対峙した事から、魔獣に対する武器も本格的に作られる様になった。

 レティが手掛けた雷風の弓がそうだ。


 雷風の矢は普通の魔獣位は一矢で絶命させる事が出来る代物だ。

 何しろ命中すると……

 木っ端微塵に吹き飛んでバラバラになるのだから。


 その最高峰の武器がレティの持つ国宝級の武器である()()()だ。



 同じオリハルコンの石から作られた聖杯と聖剣に聖女の浄化の魔力が融合されているのなら……

 このオリハルコンの石から作られたオハルに浄化の魔力が融合すれば、そのオハルから射られた矢が聖なる矢になるのでは無いかと、アルベルトとレティは考えたのだ。




 聖なる矢の代わりになる物。

 アルベルトから、このオリハルコンの矢と聖剣の話を聞いた皆は歓喜した。


「 大丈夫だ!! 」

 主君の言葉はこの先にある絶対的な希望を感じさせる。


 殿下は……

 駄目だった場合の事は考えていない事から、成功する確信があるのだろう。


 もし駄目だった場合でも……

 殿下には何か次なる秘策があるに違いない。


 臣下達にそう思わせ、希望を持たせる事が出来るアルベルトは、既に名君の気質があると言える。

 本当に何も考えていないとしても。



 アルが言うと本当にこの矢が聖なる矢になる様な気がするわ。


 秘策なんか無いと知っているレティでさえも、アルベルトの言葉には未来を感じるのだった。



 私の知らない……

 ループしなかったシルフィード帝国の未来を見てみたい!



 レティは渾身の力で弓を引いた。

 その瞬間に手に持っているオハルに、聖剣から放出された雷の魔力が合わさり、雷風の矢の矢尻にある魔石に融合した。



 黄金の光を放ちながら矢は魔獣ガーゴイルに向かって飛んで行く。


 矢は見事にガーゴイルの首元に命中した。



 その瞬間……

 


 ガーゴイルは消滅した。



「 !? 」

「 えっ!? 」


 皆が言葉を失った。



 そう……

 浄化とはそう言う事なのである。


 浄化の魔力使いが聖女だと言われる由縁が、この圧倒的な浄化の魔力だった。


 魔獣を完全に消し去る魔力。

 それが浄化の魔力である。



 やった……

 矢が聖なる矢になった。

 アルベルトはフゥゥっと安堵の息を吐いた。



 うわーーーっ!!!

 凄い歓声が沸き起こった。

 皆が両手を上げて拳を突き上げている。



 アルベルトとレティの考え通りに、雷風の矢は見事に聖なる矢になった。

 聖剣から放たれた魔力は浄化の魔力だった。


 聖剣は皇帝か皇太子しか持てない物とされている。


 シルフィード帝国には魔獣は殆ど出現しなかった事から、歴代の皇帝や皇太子は戦場で聖剣を振るうだけで、魔獣に聖剣を振るう事は無かった。



 今……

 初めて聖剣の価値が明らかになったのだ。



 ドラゴンの討伐の際にはあれ程苦労したが……

 アルベルトが聖剣を持っていれば、あの巨大なドラゴンも一瞬にして消滅させる事が出来たのである。

 蜘蛛型魔獣も然り。



 魔力使いである皇太子は歴代でもアルベルトだけだ。


 聖剣で直接魔獣に斬りつければ消滅するが……

 それは魔獣の近くに行く事になりかなりの危険を伴う。

 下手をすれば……

 聖剣を持ったまま皇太子は命を落とすかも知れない。


 しかし……

 雷の魔力が聖剣を通して浄化の魔力になるならば……

 それは鬼に金棒を持たせた事になる。


 聖剣を持つアルベルト皇太子は世界最強になった。



 ここにいる皆が……

 主君の無敵の強さに酔いしれ歓喜に浸っている中……

 1人だけ異を唱える者がいた。



「 それじゃ駄目よ!! 」

 レティの悲痛な声が響いた。


「 ガーゴイルが消滅したら解体出来ないじゃないの! 」

 レティが泣きそうな顔になっている。


 浄化がどんな状態になるのかなんて知らないレティは、解体用のノコギリや包丁を持って来ていた。

 これは魔獣用に作って貰った特注品。


 ドラゴンの時には解体に苦労した事から、より強い刃物を用意して来たのだ。

 ガーゴイルを解体する為に。



 魔獣を解剖や解体するには医師の免許がいる。

 そして……

 それを研究するのは薬学研究員。

 この2つの資格を合わせ持っているのは世界で、レティだけである。


 普通の医師は……

 人間を治療するので魔獣なんかの解剖はしない。



「 アル! 生け捕りに出来ない? 」

「 君は……あの狂暴なガーゴイルが見えないのか? 」

 ガーゴイルはギャアギャアと奇声を発しながらバタバタと飛び回っている。


「生け捕りにしたらね、首を切っても、お腹を裂いてもまた生えて来るんだから、エンドレスで実験が出来るわ 」

 こんな可愛らしい令嬢が恐ろしい事を言う。



「 レティ!気持ちの悪い事を言うな! 」

 ラウルが……

 こんな妹を持った覚えは無いと、眉間にシワを寄せてぶつぶつ言っている。



 医師で薬学研究員のレティは残酷だった。













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