表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
560/641

戦いの始まり

 




 アルベルト達は到着すると直ぐにこの場に天幕を張り、テントも設営した。

 天幕の下には矢を運び入れ、他の武器や食糧、水も運び入れられていた。



 皆が戦闘態勢に入った時に、アルベルトはガーゴイルを見据えながら細かい指令を出した。


「 弓騎兵達は先ずはガーゴイルに矢が命中する距離を知るんだ! 下手に近付き過ぎると殺られてしまう 」


 今、弓騎兵達が手にしているのは普通の矢だ。

 ガーゴイルが普通の矢でもダメージを食らい、地面に落ちるのはレティの3度目の人生で判明している。


 先ずは色んな事を試して、どれが効果的なのかを弓騎兵の1人1人に把握させなければならなかった。


 明後日の朝には……

 何百ものガーゴイルの大群が出現する事に備えて。



「 魔力使い達は出来るだけ魔力を温存して、前線にいる弓騎兵が危険な時には直ちに魔力でガーゴイルを攻撃して欲しい 」

 アルベルトは魔力使い達にも命じた。


 魔力使い達にとっては初めての戦闘だ。

 昔の魔力使いは、武器として常に戦場に駆り出されていたと言う事は彼等も聞かされていた。


 彼等は……

 自分達が魔道具以外にも役に立つ事があるのが何気に嬉しかった。



「 新米弓兵達は弓騎兵達の動きをよく見るんだ。今は後ろに控えているが、お前達も前線に出なければならない時が来る。肝を据えて見ておく様に! 」


 勿論、この31名の新米騎士達をいきなり前線に立せる訳にはいかない。


 いきなり前線に立った新米騎士レティの事を想うと……

 レティの3度目の人生での自分は、どんな気持ちで新米騎士であり、女性でもあるレティを前線に立たせたのかと……

 アルベルトの胸がチクリと痛んだ。



 第1部隊の騎士達は臍を噛んだ。

 剣士である自分達では空飛ぶ魔獣相手には全く役に立たない。


 前線に立っているグレイ、サンデー、ジャクソン、ロン、ケチャップは自分達と同じ第1部隊。

 自分達も弓矢の訓練をするべきだったと後悔するのだった。


 彼らは……

 第1部隊の訓練が終わってから弓騎兵の訓練をしていた。

 自分達が酒場に行き、家に帰っている間に……


 第1部隊は攻撃型の部隊である。

 最前線で敵と戦う事を誇りに訓練に励んで来た。


 今、彼等は……

 何も出来ない自分達を悔やんでいるのだった。




 ***




 3匹のガーゴイルは森の上をグルグルと旋回していた。

 時折こっちを見ているかの様に。



 皆に細かい指令を出したアルベルトは深く息を吸う。


「 全員! 戦闘配置につけ!! 」

「 御意!!! 」

 皇宮騎士団騎乗弓兵部隊の10人は、騎乗して最前線に立った。



「 これより、魔獣ガーゴイルの討伐を行う。弓騎兵達はガーゴイルを速やかに攻撃しろ! 」

「 御意!! 」


 アルベルトの命で、10人の弓騎兵達がガーゴイルが旋回している森に向かって馬を蹴って駆けて行く。



 森の上を旋回していたガーゴイルが、馬で駆けて来た弓騎兵達に気が付いた。


 ギガギィィィーン


 一声鳴くと……

 弓騎兵達目掛けて羽を水平にして急降下して来た。



 怖がる馬を巧みに操りながら……

 グレイが弓矢を構え、トリス達9人も一斉に弓矢を構えた。


 続いてもう2匹のガーゴイルも、弓騎兵目指して翼を水平に広げて急降下して来た。

 翼を水平にされるとその恐怖が一気に増す。


 陣営にいる皆は固唾を飲んで見守る。

 怖くてガタガタと震える者もいた。



 グレイが矢を射つ。

 矢は見事にガーゴイルの額に命中した。


 ギィャャーーーー


 叫び声と共にガーゴイルは地面に落ちた。

 ワッと後方で見守っている皆から歓声が上がる。



 続いてトリス、ワシャルが矢を射る。

 トリスとワシャルの矢は外れたが……

 すかさずサンデー、ジャクソンが矢を放った。


 ギャャィィーーーーーン


 ジャクソンの矢は命中してガーゴイルは落ちたが、サンデーの矢は外れた。

 ロンとケチャップが続いて矢を放つが2人の放った矢は外れる。


 ガーゴイルも殺られる訳にはいかないと、羽で矢を弾き飛ばす。



 矢を射たら直ぐに引き返すのが鉄則。

 命中しても外しても次の弓騎兵の後ろに駆け戻るのだ。

 そして、次の矢を射る準備をする。


 この流れるような攻撃は……

 弓騎兵達の連携が巧みじゃないと出来ないもの。


 グレイの指示の下、弓騎兵達は見事な連携プレイを見せていた。



 そして……

 今、前線に立っているのはゴージュとマージとカマロ。


 最後の一匹のガーゴイルが、飛ぶスピードを早める。

 前足を前に突き出した形になり、ゴージュを捕縛する態勢に入った。


「 うわーっ!! 」

 怯えたゴージュの馬の前足が上がり、ゴージュは矢を射る事が出来ない。


 絶体絶命のピンチに陣営の皆から悲鳴が上がる。



 バシュッ!!


 ギィガガギィィーーン


 すんでの所でグレイの射た矢がガーゴイルの額に命中し、ガーゴイルは叫び声を上げて、ゴージュの目の前で地面に落ちた。



「 グレイ隊長ーっ! 」


 陣営から物凄い歓声が上がる。

 グレイの見事な手綱さばきと、彼の冷静な判断と弓矢の腕を見せつけた。



 アルベルトも破顔しながら拳を上げてガッツポーズをする。


「 グレイは俺の従兄弟だ! ドゥルグ家の誇り高き騎士だーーっ! 」

 エドガーが泣きながら叫んでいる。


 エドガーも騎乗弓兵隊に入隊したが……

 勿論、あの10人の息のあった連携プレイにはまだまだ付いて行けるレベルでは無く、クラウドやラウル、レオナルドと一緒に陣営から見ているのだった。



 泣いているのはグレイの従兄弟のエドガーだけでは無い。

 ()()()()()()のレティも泣いていた。


 グレイ班長は私の自慢の師匠よーーっ!

 ショコラに跨がったレティは両手を上に上げて拳をブンブンと振った。



 私も皆と一緒に戦いたかった。


 レティは、皆と一緒に戦う為に弓騎兵の訓練に励んでいた。

 アルベルトに必死でおねだりをして、騎士団で訓練をする許可を貰ったのだ。


 しかし……

 やはりそこにはアルベルトの壁があって。



「 君は()()()で矢を射らなければならないのだから、僕の側にいなければ駄目でしょ? 」

「 それは……分かっているわ…… 」 

 だけど……

 諦められないレティはしつこく食い下がる。



「 君の3度目の人生の時の弓騎兵達と、今の弓騎兵達とは違うでしょ? 今の君と弓騎兵達とのレベルは明らかに違うから、シルフィード帝国の最高指揮官としては、君が彼等と一緒に出撃する事を認める事は出来ない 」


 レティの一番切ない所を突いてくるアルベルト。


 3度目の人生での騎士時代では、ずっと彼等と訓練して来たのだ。

 だから自信があった。

 直ぐに彼等と息のあった連携プレイが出来ると。



「 何でもかんでも駄目駄目駄目って……アルってお母様みたいだわ! 」

 ブンむくれたレティは……

 腹いせにこんな捨て台詞を吐いて、アルベルトに頬っぺたを捻られるのであった。




 ***




「 弓騎兵! 退却! 」

「 御意!! 」

 アルベルトの指令を受けて……

 地面に落ちているガーゴイルが動かないのを確認しながら、グレイ達が拳を握りながら戻って来た。


 とても誇らし気に。


 皆が歓声を上げて弓騎兵達を出迎えた。


 アルベルトは戻って来たグレイや他の弓騎兵達をグータッチで健闘を称え、エドガーはグレイに向かって走って行き、抱き付かんばかりにキャアキャアとはしゃいでいた。



 暫くしても……

 地面に落ちた3匹のガーゴイルはまだピクリとも動かなかった。


「 死んだんじゃ無いのか? 」

「 確か……飛行型の魔獣は弓矢で死ぬんだよな 」

「 死んでいれば良いのだが 」

 天幕の下にいるラウルとレオナルドとクラウドが、真剣な表情で話している。



 それはレティがもたらした情報だが……

 レティにも分からない事で。


 レティが留学したローランド王国の王立図書館で、魔獣の事が詳しく書かれた本に『 ガーゴイルは聖なる矢でしか絶命させられない 』と記載されていたのを読んだだけで……

 それが真実の事なのかは分からなかった。



 今、アルベルトはそれを確めようとしていた。


『 彼を知り己を知れば百戦殆からず 』の諺があるが……

 アルベルトは……

 ガーゴイルの事を知り、自分達の実力の程を知ろうとしているのだった。


 ただ闇雲に戦うだけでは勝機を見出だす事は出来ない。


 あらゆる戦いの文献を読んだアルベルトの、シルフィード帝国最高指揮官としての姿がここにあった。




 魔獣ガーゴイルとの戦いは……

 まだ始まったばかりだ。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ