レティと31名とプラス1
今年の騎士団に入団した騎士達は、レティの同学年の騎士クラブにいた面々だ。
レティが騎士クラブに入部した時に、レティがいるからと入部した、よこしまな考えを持った男子生徒達が31名いる。
その中のノアだけはレティと同じ日に騎士クラブに入部したのだが。
グレイ隊長率いる皇宮騎士団騎乗弓兵部隊に、31名全員が入隊して、僅か10名だった騎乗弓兵部隊は一気に賑わいを見せた。
ドラゴンの襲撃があってからは、国防相が弓兵の育成に力を入れた事もあり、彼等の希望のままに騎乗弓兵部隊に入隊出来たのである。
この31名はレティの子分。
また、学園時代の騎士クラブではアルベルトの教え子でもあり、グレイから弓矢の指導を受けたと言う非常にラッキーな新米騎士達である。
3度目の人生の時は、僅か10名で何百ものガーゴイルに挑んだ事から、レティは弓騎兵をもっと増やそうと考えていた。
突然の事とは言えあまりにも無謀な戦いだった事もあって。
この時の為に……
アルベルトの経営する牧場を改装させてまで、馬を増やして貰っていたのだった。
練習場も作って貰って。
牧場を増築させたお金は今でも少しずつ返却している。
レディ、リティーシャの名で。
勿論アルベルトは返却をしなくても良いと言うが。
「 なんですって!? 馬に乗れない? 」
レティはこの31名を前に御冠だ。
今は第1部隊の訓練中なのでグレイ達はいない。
ここにいるのはトリス、ワシャル、マージ、ゴージュにカマロだ。
ゴージュ以外は皆、国境警備隊で弓騎兵として任務に当たっていた。
2年前に新しく騎乗弓騎兵隊が発足され、グレイが隊長だと言う事でこっちに移動して来た面々達だ。
因みに学園への弓矢の指導にはトリス達5人が行っている。
グレイ達は第1部隊との掛け持ちで忙しくなったからで。
トリスが副隊長を勤めているので、隊長グレイが来るまでは彼の指示の下で訓練を行っている。
もうじきグレイ達が合流する時間が来るからと、今は休憩時間である。
「 だから、牧場で馬に乗る訓練をしなさいと言ったでしょ! 」
レティから説教されてるのは庶民棟にいた平民騎士8名。
レティの前で跪いている。
叱られているのに顔はデレデレで。
騎士養成所で乗馬訓練はあるので、勿論馬には全員乗れるが……
乗れるだけでは駄目なのが弓騎兵で。
「 馬も自分の馬を選んで、世話をしなさいと言ったでしょ! 」
何の為にアルに牧場の増築をお願いしたのか分からないわ。
馬も増やして貰ったのに。
本来ならば馬上訓練は入団してからで十分なのだが。
ガーゴイルの襲撃は後3ヶ月後。
だから……
この31名には早くから乗馬訓練をする様に言っていたのだ。
しかし……
この8人は牧場には通わなかったらしい。
弓騎兵の訓練も騎士団の馬に乗っていたのだと言う。
弓騎兵は馬と一体とならないとならない事から、自分の馬を持つ様に言っていたのだが。
「 直ぐに馬を買い付けに行きます 」
馬が無いなら出て行けとレティに言われて8人は慌てた。
他の騎士達はニヤニヤとしている。
この8人は貰った給料は酒と女につぎ込んでいる様な奴だった。
馬を買うにはお金はいるが……
騎士団割引を適用したら十分に買える値段なのである。
レティはこんこんと説教をした。
皆は騎乗クラブ時代を思い出していた。
久しぶりに近くで見るレティはやっぱり可愛くて。
レティファンクラブのメンバーが一気に増える事になるだろう。
新米騎士達は……
3ヶ月の新人研修が終わり、7月から騎乗弓兵隊に入隊してからは、訓練にレティが特別に参加している事を聞いて、今か今かとレティが来るのを待っていたのだった。
だけど……
この間は色んな事があり、流行り病の時は病院に缶詰で、魅了の香水の研究で研究室に籠ったりしていた事もあり、レティが弓騎兵の訓練に参加出来たのは9月のこの日だったのである。
レティの訓練への参加には、必ずやアルベルトが参加出来る日では無いといけない事もあって。
「 アルは朝の訓練をしてるから良いけれども…… 」
レティは最近は全くの運動不足で。
だからアルベルトに弓騎兵の訓練に、最初から参加させて貰える様にお願いした。
以前は、グレイ達が合流する弓矢の訓練をする時からの参加だったが。
アルベルトは渋々オッケーした。
3ヶ月後にガーゴイル討伐があるのだから仕方が無いと考えたからで。
弓騎兵の訓練は前半は基礎訓練で。
身体を動かす体術の後に剣を使った訓練が入る。
勿論、騎士では無いレティは剣は持て無い事から、少し離れた場所で木剣を振るう。
そんな前半の訓練を終えての今である。
そこに……
第1部隊の訓練を終えたグレイ達が、弓騎兵の訓練場にやって来た。
「 うわっ!? 」
何だ何だとロンとケチャップが騒いでいる。
リティエラ様の前であいつらが跪いてる。
リティエラ様が腕を前に組んで説教してる。
可愛らしい。
可愛らしいぞーっ!
殿下ーーっ!可愛いのが怒ってますよー!!
「 俺もリティエラ様に叱られたいッス 」
「 俺もだ 」
ケチャップが指を加えた子供の様に言うと、何時もは冷静なサンデーやジャクソンまでもが羨ましげに見ている。
「 良いな~リティエラ様の同級生って……騎士クラブでも仲が良さそうにしていたし……ですよね班長! 」
「 ………そうだな…… 」
レティの同級生になりたかったと言うロン。
グレイも自分達には見せないレティの顔を見ていた。
同級生だったら……
「 何かが変わっていたのかも知れないな 」
グレイは独り言ちた。
「 グレイ隊長! 」
トリスがグレイ達に気付いて敬礼をする。
「 グレイ隊長に一同敬礼! 」
皆が隊長グレイの前に整列した。
レティもちゃんと整列して敬礼をしている。
勿論、31名よりも前だ。
そこに誰かが走ってやって来た。
「 間に合った! 」
「 ギリギリだな 」
グレイの横に1人の騎士が立った。
「 エド…… 」
「 エドガー部長!? 」
「 今日から皇宮騎士団騎乗弓兵部隊に所属するエドガー・ラ・ドゥルグだ 」
グレイがエドガーを紹介する。
エドガーは第2部隊に所属だが、騎乗弓兵部隊にも所属する事になった。
それはエドガーたっての希望で、父親であるデニス国防相と、叔父であるロバート騎士団団長に願い出たのだった。
グレイ達が第1部隊と掛け持ちならば、自分も第2部隊と掛け持ちしても良いだろうと主張して。
第2部隊は皇族の護衛と街の人々の整備を専門的にする部隊であるが、第1部隊は皇族の護衛だけで無く捜査にも同行する部隊である。
エドガーは第1部隊に入りたかった。
その実力からも十分第1部隊に入れる資格はあった。
しかし……
エドガーは将来は国防相になる事を約束された身である。
アルベルトの御代での政治の片腕になる存在。
最も危険な部隊である第1部隊で最前線に立たせる訳にはいかないとして、第2部隊に所属となったのだった。
それに……
アルベルトの親友として1番近い場所にいる事から、護衛のノウハウを学ぶ方が良いだろうと。
シルフィード帝国の3大貴族であるドゥルグ家の嫡男である彼もまた、自由に職業を選べない立場であった。
そこがグレイとは違う所で。
だけど……
尊敬する従兄弟のグレイと同じ部隊で働きたい。
第1部隊が無理ならば、弓騎兵としてグレイのいる部隊に入りたいと。
あの船での……
第1部隊の捜査が彼の心を刺激したのだっだ。
「 弓矢で殿下をお守りするのも有りか 」
「 身に付けていて損は無いだろう 」
……と、父親や叔父の許可が出たのだった。
「 殿下を側でお守りする者として、弓矢でお守りする事が必要になる事もあるかも知れないとして、この度の入隊となった。宜しく! 」
「 はっ!! 」
エドガーが挨拶をして整列している皆の中に入る。
勿論、レティの後ろだ。
レティの前に並ぼうとするエドガーの腕を引っ張り、レティは無理矢理自分の後ろに並ばせた。
「 エドはこっちでしょ! 」
「 お前は……」
2人でひそひそと揉めている所にアルベルトがやって来た。
「 一同! 皇太子殿下に敬礼!! 」
グレイが号令を掛けると皆がビシッと敬礼をする。
勿論レティも。
エドガーの前で。
アルベルトは吹き出す。
やっぱりエドよりは前なんだと。
「 エド! 今日からだったな。大変だけど頑張れ! 」
「 はっ! 」
騎士団ではただの部下。
そこはわきまえているエドガーと……レティだった。
エドガーめ!
アルを弓矢で守るのは私だったのに。
何故かエドガーをライバル視する騎士レティなのであった。
アルベルトにとって、エドガーが騎乗弓騎兵の部隊に入隊した事は願ったり叶ったりの事だった。
自分が行けない時は……
自分の代わりにレティを側で見守って貰える。
こんな男ばかりの所帯で些か不安だった事もあって。
勿論、皆を信用しているが。
エドガーとレオナルドは特別で。
この2人はレティの兄なのだと。
アルベルトが来た事で皆の訓練に気合いが入る。
31名の新米騎士達は特に。
レティも暫く振りに騎乗しながら矢を射って、活気溢れる充実した訓練を堪能した。
これより1ヶ月後に……
ガーゴイル討伐に向けての特殊訓練が、アルベルトの命により行われる事になる。




