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公爵令嬢牢屋に入る

 




 レティとゴードン達は自警団の馬車に乗せられて、領主であるノーランド邸まで連行された。


「 彼女はウォリウォール公爵令嬢で、皇太子殿下の婚約者だと言ってまして…… 」

 自警団から引き渡されたレティを見て、レティの顔を知っている執事は驚いた。

 本物の公爵令嬢だと。


 良かった。

 拘束はされていない。

 あまりにものビッグネームだったので、縄をかける事は出来なかったと言う自警団を誉めてやりたい。



「 ウォリウォール公爵令嬢ともあろう貴女様が何故泥棒なんかを? 」

「 訳は今は言えないわ。兎に角あの2人を拘束していて欲しいの 」

 レティはそう言って、ゴードンから盗んだ鞄の中にある小瓶を取り出した。



「 これは危険薬物ですから、わたくしが所持します 」

 小瓶はデカイ顔のリュックに入れられた。

 割れない様にタオルに厳重に包んで。


 公爵令嬢が薬学研究科員だと知っていた執事は、レティの言うとおりにした。

 何か理由があると言う事は明らかだろう。

 何よりも面倒な事は避けたい。



 そして……

 湯浴みをして夜食まで食べたレティは、家人達の制止を振り切って牢屋に泊まる事を要求したのだった。


 お世話になったからと、女中達にはお礼にスキンクリームを届ける事を約束して、夜食を作ってくれたシェフとはすっかり仲良しになっていた。


 美味しい美味しいと言いながら、パクパク食べる公爵令嬢を皆が好きになっていた。

 人たらしレティはここでも健在だ。



「 わたくし、今夜は牢屋に泊まりますわ 」

「 それはご勘弁を……そんな事をしたら旦那様に叱られますから 」

「 ノーバート大臣はわたくしと懇意にしておりますから、叱らない様に伝えておきますわ 」


 公爵令嬢レティはずんずんと屋敷の中を歩き回る。

 牢屋を探して。


「 あら? 地下は何処にありますの? 」

「 我が邸には地下はありません 」

「 牢屋は地下にあるものでしょ? 」

 雰囲気が出ないわと言って口を尖らせる。


 執事はレティに押し切られて、渋々別棟にある牢屋に案内した。


 別棟に行けば……

 拷問部屋は何処にあるのだとか、石臼の重さはどれ位だとか煩い煩い。


 しかし……

 これが()()噂の公爵令嬢なのだと思ったら、すっかりファンになっていたノーバート家の執事だった。


 想像していた以上に可愛らしい。

 旦那様がメロメロになっておられる事が分かる気がします。


 執事は牢屋から追い出された。

 気分を味わうのだと言って。


 館に戻った執事は、これからどうしたら良いものかと執務室をウロウロと歩きまくって思案していた。


 そこにグレイがやって来たのだった。




 ***




 アルベルトがノーバート邸に到着したのは深夜を回っていた。


 執事に案内されて向かったのは牢屋だった。

 ドゥルグ騎士様がずっと牢屋にいる筈だと言って。


 ケチャップから泥棒として捕らえられたと言う事を聞いてはいたが……

 まさか牢屋にいるとは。


「 グレイが側にいるなら安心だ 」

 先ずはホッと胸を撫で下ろす。



 ノーバート邸の執事は、アルベルトの足下に這いつくばるかの様に腰を折り曲げ必死の形相で言い訳をする。

 長い足でスタスタと牢屋に向かうアルベルトの後を追いながら。


「 私共は何度も客間でお休みになる様にと申しました。だけど…… 」

「 分かった。案内はもう良い。そなたは館で待っていてくれ! 」

 館にいるクラウドから指示を仰ぐ様にと言って。



 レティの事だ。

 牢屋に泊まってみたかったのだろう。

 何せ彼女の愛読書は『 魔法使いと拷問部屋 』なのだから。

 牢屋や拷問部屋に興味津々で。



 レティが入っている牢屋は貴族が入る牢屋であり、平民の収容されるそれとは随分と違う。


 牢屋にはベッドが置かれ、トイレは牢屋の奥の衝立の向こうにあり、監守からは見えない様になっていて、貴族としての最低限のプライバシーは守られている。

 


 アルベルトが建物の中に入り牢屋のドアを無造作に開けると、グレイが鉄格子の扉の前で背を向けて立っていた。

 レティを守る様にして。


「 グレイ! 早い捜索は流石だな 」

「 殿下……リティエラ様は眠っておられましたので、そのままにしております 」


「 ご苦労だった 」

 そう労いながらアルベルトはグレイの肩にポンと手をやって、レティの寝ている鉄格子の扉を開けた。


 カチャリ……



 アルベルトは勝手な事ばかりするレティに怒りを感じていた。

 護衛が就いている立場の者が好き勝手に動くと、どれだけの多くの騎士達を翻弄させる事になるのかを分からせる必要がある。


 いくら王族で無いにしても、レティは平民では無く公爵令嬢だ。

 家には沢山の使用人もいるし私的な護衛もいる。

 それが分からない筈が無いだろうに。


 これでは何処かで必ずや4度目の死がレティに訪れる事になる。

 それを分かっていながら……



 しかし……

 レティの間抜けな寝顔を見たらそんな思いも吹っ飛んでいた。


「 良かった…… 」

 アルベルトはベッドの脇に跪いてレティの頬に手を当てた。


 暖かい……

 レティが生きている事にホッとする。



 抱き上げようとしたらレティの目が開いた。

 ぱちくりと。

 綺麗なピンクバイオレットの大きな瞳に、アルベルトが映し出されている。

 どうやらしっかりと目が覚めた様だ。


 レティはむくりと上半身を起き上がらせた。

 アルベルトはレティの額に掛かる前髪を指先で分けて、ぷっくらと可愛い頬に掌を当てた。


「 怪我は無いか? 」

 アルベルトの問いにレティはコクンと頷いた。


「 来てくれたのね 」

「 牢屋の寝心地はどうだ? 」

「 悪くは無かったわ……でも……2度目は無いわね 」

 

 2人はクスクスと笑いながらコツンと額を合わせた。



「 まだここにいる? それとも出る? 」

 君が望んでここに来たらしいから一応は聞いておかないとねと言って、アルベルトはニヤリと口角を上げる。


「 出るに決まってるわ。意地悪ね 」

 レティは白いローブの上からデカイ顔の黄色いリュックを背負い、オハルと矢筒も背負った。


 城の門番に聞いていた通りの姿にクスリと笑う。

 これなら何処に行こうが探し出せるなと思いながら。



 2人が鉄格子の牢屋から出ようとすると……

 扉が自動的に開けられた。


「 あっ!? ……グレイ班長…… 」

 グレイがいる事に驚くレティ。


 アルベルトが言う。

「 グレイとケチャップが君を探しだしてくれた。サンデー、ジャクソン、ロンもだ。 皆が他の任務を止めて君を捜索した 」


「 ………迷惑を掛けてごめんなさい…… 」

 耳が垂れた叱られた仔犬の様にシュンとする。

 反省はしてるらしい。


「 いえ……リティエラ様がご無事で何よりです 」

 グレイはそう言って優しく笑い……

 静かに頭を下げた。




 外に出ると……

 先程の監守の3人が地面に這いつくばって土下座をしていた。


「 ど……どうか……命だけは…… 」

 ガタガタと震えている。


「 何があった? 」

「 私がここに来た時に……リティエラ様を覗いてまして…… 」

「 !? 」

 グレイはレティに聞こえない様にアルベルトに耳打ちをした。



 アルベルトは指をパチンと鳴らし……

 3人の男の頭に雷を落とした。


「 ギャッ!! 」

 男達は地面に突っ伏して伸びた。


「 なぁに? 」

 男達の叫び声に、レティが振り返ろうとするのを制止する様にアルベルトはレティをさっと抱き上げた。


「 キャッ!? 何? 」

「 足元が暗いから危険だ 」

 そう言ってアルベルトは片手でレティを抱きながら、スタスタと歩いて行く。



 グレイは、男達がモゾモゾと動くのを確認してから2人の後ろ姿を見つめた。


 殿下の雷の魔力は凄い。

 本気の雷を落としたら……

 人間なんかはいとも簡単に殺せるだろう。


 昔……

 魔力使いが戦争に駆り出されていた事も頷ける。



 それでもドラゴンにはあれだけ手こずった。

 蜘蛛型魔獣も然りだ。

 あれだけの魔力を持ってしても、魔獣を弱らせるだけで絶命させる事は出来ないのだから。

 魔獣の強さは計り知れない。



 勘の鋭いグレイは何かを感じ取っていた。

 軍事式典のデモンストレーションでの、アルベルトとレティのコラボを見て。


 2人は何をしようとしているのかと。


 グレイがそれを分かるのは今から約5ヶ月後になる。




 そして……

 3人はクラウドの待つノーバート邸に入って行った。


 レティは……

 2度目の人生の続きを見る為に。













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