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4度めの人生は 皇太子殿下をお慕いするのを止めようと思います  作者: 桜井 更紗
第6章

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持ち帰った未来

 




 レティの1度目の人生は海に落ちて溺れる事で終わった。

 何で死ぬ事になったのかも分からずに。

 彼女は独りで死んでいった。


 弱冠20歳ではあるが……

 デザイナーとして成功していた彼女には、輝かしい未来があった筈なのだ。



 それがやっと……

 4度目の人生でその先に進む事になった。


 止まったレティの時間が動き出したのである。

 この日に何があったのかをやっと知る事が出来たのだった。



 その日は昼過ぎに帰城したが……

 レティは眠ったままで、アルベルトが横抱きでそのままレティの部屋に運んだ。


「 疲れて眠っている。起きるまで様子を見ていてあげてくれ 」

 レティ就きの侍女達にレティの事を頼んで、アルベルトは先ずはロナウド皇帝とルーカスの元へ向かった。


 この日にあった事とレティの事を報告しなければならなかった。

 勿論、詳細は皆が揃っての事だが。

 特にレティの事は、何よりも先にルーカスに伝える必要がある。



 お腹が空いたと言っていたのに。

 食べさせて欲しいと可愛い事を言っていたのに。

 夜は抱き締めて寝るつもりだったのに。


 侍女やアルベルトがいくら起こしてもレティは起きる事は無かった。


 翌朝になるまでレティはこんこんと眠り続けた。

 それだけ疲労困憊しているのだった。



 なので……

 ロナウド皇帝とルーカスへの詳しい報告は翌日になった。


 グレイや騎士達の報告書を纏める作業もあり、クラウドとしては翌日の報告になった事が寧ろ有り難かったが。



 アルベルト、レティ、ラウル、エドガー、レオナルド、クラウドが、ロナウド皇帝、ルーカス宰相、デニス国防相、イザーク外相のいる応接室に集まった。


 クラウド以外は、もはや親子会議である。



 シルフィード帝国を支える三代貴族が集結している事から、如何にこの事件が重要な事件と捉えられているのかが分かる。


 魅了の魔石に関する事と、敵対する隣国タシアン王国に関する事なのだから当然な訳で。


 因みにこの悪ガキ3人は皇帝陛下の前でも臆することは無い。

 小さい頃からここで遊んでいるのだから。

 寧ろ、アルベルトの方が父である皇帝陛下との距離がある位だ。



 話はジャック・ハルビンの密告書が届いた事から始まる。

 勿論、その日に予定していたアルベルトとレティの、港でのデートが元にあるのだが。



『 ◯ピー丸、密輸の疑い有り 』


 アルベルトがジャック・ハルビンからの手紙をテーブルの上に置くと、皆が覗き込む。

 勿論、レティも覗き込んでいる。



「 ○ピー丸? 」

 ロナウド皇帝とルーカスが驚いた顔をする。


 レオナルドが猫の名付け親になったいやらしい名前だ。

 共通語を話せる男なら誰もが分かるいやらしい言葉。


 レティがレオナルドをキリキリと睨むが、レオナルドはニヤニヤと笑ってウィンクをしてくる。

 全くもって憎たらしい。



 ロナウド皇帝とルーカスが驚いたのはいやらしい名前だからでは無かった。

 2人が極秘に捜査していた案件に関わる船が、正にこの船だったからで。


 宝石商のゲイブ・メリッケン、輸入品を扱うギル・チェイド。

 そして……

 この船のオーナーであり、船長でもあるガスター・ストロング。


 裏の世界では『悪の3G』と言われている彼等は、短期間でかなりの財を成し、貴族を陥れたりとかなり悪どい事をしていた。


 そこにルーカスが気付かない訳が無い。

 何軒もの貴族からの訴えも出ていた事から、逮捕の証拠集めをしていた所だったのだ。



 そして……

 今回、アルベルトがとんでも無い功績をあげたのである。


 騎士達が見付けたのは魅了の魔石や香水だけでは無かった。

 船の中を捜索した騎士達は、船長の部屋にある隠し部屋を発見した。

 そこには……

 密輸品である数々の宝石や調度品が所狭しと置かれていたのだった。


 それを発見したのは……

 皇宮騎士団第2部隊の班長。

 大手柄である。



 この船には……

 密輸品と魅了の魔石と言う全く別の2つの犯罪が乗っていた事になる。


 後にゲイブ・メリッケン、ギル・チェイド、ガスター・ストロングは、ルーカスの命により、皇宮騎士団特別部隊を引き連れたロバート騎士団団長によって家宅捜査をされ、彼等は逮捕されるのだった。



「 そうか……あの時皇太子殿下があの船に来たのは、ジャック・ハルビンからの密告があったからなのね 」

 レティは小さく呟いた。


 1度目の人生では死んでしまったから知らないが……

 2度目の人生も3度目の人生も、レティは船には乗っていなかった。


 手摺に飛び乗り、魔力使いに矢を射るレティがいなかったから船は爆発した。


 あの時の皇太子は密輸品は発見する事は出来たが……

 当然ながら魔石の入れた袋は見付けてはいないと考えられる。

 何故なら船にはレティがいなかったのだから。



 2度目の人生では医師だったから船には乗ってはいない。

 だけど……

 3度目の人生ではレティは騎士だったがやはり船には乗ってはいない。

 グレイ、サンデー、ジャクソン、ロン、ケチャップもだ。

 彼等はレティと一緒に騎乗弓兵部隊にいたのだ。


 そこでは違った事があったのかも知れない。



 ただ……

 確実に分かる事がある。

 今生ではレティは死ななかったし、船の爆発も起こらなかった。

 密輸品を発見し、盗掘された魔石と禁忌である魅了の魔石が発見された。


 そして……

 魅了の魔石で船長を操り、盗掘した魔石を運ぶ為にローランド国行きの船を、タシアン王国へ行く算段をしていたと言う事で、タシアン王国が関わっている事がより鮮明になった。


 個人の組織なのか国の組織なのかはまだ不明だが。



 事の経緯を一通り話すと……

 アルベルトはルーカスに謝罪をした。

「 潜入捜査でレティを危険な目に合わせてしまった 」


 そして……

 ルーカスはロナウド皇帝に謝罪をした。

「 娘を助ける為に殿下に危険な事をさせてしまいました 」


 最後にロナウド皇帝は……

「 危険をものともせずに、船を……港を……我が帝国民を救ってくれた事を感謝する 」

 そう言ってレティに頭を下げたのだった。




 ***




 今から……

 皇帝陛下と大臣達の前で魅了の香水と魅了の魔石の検証をする。

 

 先ずは魅了の香水の検証をする事に。


 ジャック・ハルビンの話では、魅了の香水を付けてる者の側に行くと好意を寄せると言う。



「 誰かが実験体にならねばならぬ 」

 ルーカスが周りを見回した。

 何時もなら面白そうだとノリノリになる筈の悪ガキ3人が躊躇している。


 彼等にとっては……

 魅了と言う言葉は苦い思い出でしかないのだ。



「 誰かやらぬか? 」

「 はい! 」

 皆が尻込みする中で元気良く手を上げたのはレティ。


 レティの好奇心は天をも貫く。


「 お前には魅了は効かないだろうが! 」

 3人からの突っ込みが一斉に入る。


「 あら!わたくしが付ければ問題無いわよ 」

 貸してみろと魅了の香水を自分に振り掛けた。


「 おい! 」

 皆は止めたがレティはお構いなしだ。


 全く……

 この突き抜けた性分の娘ってどうなんだ?

 ルーカスは頭を抱えるが……

 ロナウド皇帝とデニス、イザークの親達は、次世代の5人のやり取りを楽しそうに見ている。



 やっぱり……

 同じ香りだ。


「 この香水は魅了の魔術師アイリーンが付けていた香水と同じものだわ 」

 やはり……

 ルーカスとクラウドがメモを取る。


 魅了の魔術師達は……

 自分に近寄って来させる為に、この香水をつけて好意を持たせていたのだった。



「 どう? 」

 レティは横に座っているアルベルトの顔を覗き込んで迫る。


「 どうって…… 」

「 私の事を好きになった? 」

「 ………好きだよ 」

 アルベルトが蕩けるような甘い顔になって、レティの唇にチュッとキスをする。

 可愛い顔が近付いて来たのだから仕方無い。


「 うそっ……効いてるわ! 」

「 お前はバカか? アルは元々お前に惚れてるんだぞ! 」

「 意味の無い事をするな! 」

「 アルも効かないくせに何を喜んでるんだよ! 」


 3人の突っ込みが入る。



「 じゃあ!エドはどうなのよ? 」

「 うっ……それは…… 」

 エドガーの側に行き、レティはエドガーの顔を覗き込んだ。

 エドガーは何だかテレた様な顔をしている。


 効いているのか?



「 レオは? 」

「 好きだよ 」

 レオナルドが顔を覗きに来たレティの頬に手をやると、アルベルトがレティを抱き寄せた。


「 レオ! ふざけるのは止めろ!」

 ニヤニヤとするレオナルドに、アルベルトがレティを抱きながら睨む。


 全く……

 油断も隙もない。



「 分からんな 」

 ロナウド皇帝がルーカスと顔を見合わす。


 元々レティに好意を持ってるこの2人では結果は出ない。

 魅了の香水は付けた者に対して好意を持つと言う程度の物なのだから。


 そうなるとここにいる全員がレティに好意を持ってるのだから、心の変化が現れ無いのは当然で。



「 お兄様は? 」

「 ブス! 」

 何ですってーっ!!

 レティがラウルに掴み掛かる。


 ここが1番気になる所だが……

 どうやら兄妹間では意味が無い様だ。

 ルーカスとクラウドはせっせとメモを取っている。



 その時……


「 魅了の魔術師に掛けられたこの香水はアルには効かなくて、アルの魅了はアイリーンに効いたんだよな。アルに迫られて落ちる寸前だったんだから 」

 アルって凄いよなとエドガーが言う。


 皆が一斉にエドガーを見た。


 このKYが!

 この場でそれを言うか!?



 レティが涙目で今度はエドガーをポカスカと殴りだした。


「 痛い、痛い、レティ!何すんだよ! 」

 アルベルトがレティの手を取って殴るのを止める。

 僕以外の男に触っちゃ駄目だと言いながら。


 一見アルベルトにも魅了が効いている風だが……

 これは通常どうりだ。


 全く意味の無い時間だった。

 いや、検証とは意味が無い事でも、それに意味があるのだ。



「 これはわたくしが持って帰りますわ! 」

「 !? レティ!? 持って帰ってどうするの? 」

 アルベルトが慌てて香水を手にしているレティの手を取った。

 これ以上君に好意を寄せるハイエナ共を増やしてどうする?


「 まさか……逆ハーレム? 」

「 アルみたいに男に囲まれたいのか? 」

「 そんな訳無いでしょ! 」

 エドガーとレオナルドを睨み付けながら、レティはアルベルトも睨む。



「 ハーレムなんか作って無いから 」

 余計な事を言いやがってと、アルベルトはエドガーとレオナルドを睨みながら、両手を胸の前でヒラヒラと振る。


 ふん!

 どうだかね。

 鼻を鳴らしてアルベルトに思いっきりツーンとしたレティは、コホンと1つ咳をして、姿勢を正した。



「 わたくしは虎の穴の薬学研究員です。持ち帰って成分を調べますわ 」

「 !? 」


 あっ!……と、言う声が皆から漏れた。


 そうだ。

 レティは薬学研究員だった。

 この分野のスペシャリストである。


 この可愛らしい様相で忘れていたが……

 彼女は医師でもある。



「 では、香水の件はレティちゃんに託すとする 」

 ロナウド皇帝が笑いながら軽く片手を上げて……

 このハチャメチャな場を収めたのだった。




 ***




 今回手に入れた魅了の魔石は3個ある。

 ジャック・ハルビンが2人組の男から盗んで来た魔石と、ガスターが持っていた魔石と袋に入っていた魔石だ。


 魅了の魔石を見れば色んな色が混ざりあっており、その色が生き物の様に蠢いていて3個共に微妙に色が違う。


 魔石を持たせて……

 ある呪文を言って命令すればその命令に従うと言う、人を操る禁忌の魔石である。



「 ロバート! グレイ、ここに! 」

「 はっ! 」

 グレイがロバート騎士団団長と共に入室して来た。



 一同は魅了の魔石の検証をする為に広い場所に移動して来ていた。


 1番忠誠心の強いグレイが、魅了の魔石に操られ主君であるアルベルトに刃を向けるかどうかの検証をする。


 父親であるロバートの立ち会いの元に。


 ロバートには詳細を伝えているが……

 グレイは何も知らされてはいない事から、皆がここに集まっている事に少し驚いている。



「 殿下、前へお越し下さい 」

 アルベルトが前に進み出た。

 手には剣を持って。



 皆が固唾を呑んで見守る中……

 検証が始まった。



 ロバートがグレイの騎士服のポケットに魅了の魔石を入れた。



「 ○×☆#*#*☆○× 殿下を攻撃しろ! 」











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