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招かれざる客─3

 




 レティとウィリアムは皇宮の食堂にいた。

 レティが食事をしている所にウィリアムがやって来たのである。


 謁見の間で皇帝陛下達への挨拶が終わると直ぐに、レティを探していたのだった。



「 やあ! こんな所にいたんだね。随分と探したよ 」

「 う……ウィリアム王子殿下…… 」

 レティは、慌てて口の中にあった物をゴックンと飲み込み、席を立ってカーテシーをした。


「 お……お久しぶりです。お元気そうで何よりです 」

 アルが今朝お迎えに行ったのはウィリアム王子だったのだわ。



「 今回は父上の名代で来たんだ 」

 レティの手を取り手の甲に口付けをする。


 こ……こんな場所で。


 テーブルの上にはトレーに乗せた食べかけの昼食が乗っている。

 今日は日替わりBランチの『 ふわふわとろ~りオムライスの茸のデミグラスソース掛け』だ。



「 あら? 王子殿下は少し背が伸びました? 」

「 君は……相変わらず可愛らしいね 」

 2人並んで立つと……

 以前よりもレティの目線を上げなければならなかった。


 ウィリアムはまだレティの手を握ったままで。

 レティを見ながら懐かしそうな顔をしていた。



 ちょっとぉ!

 ふわふわとろ~りオムライスを食べたいのだけれども。


 握られた手をどうしようかと思っていると……

 ウィリアムの側近がAランチを運んで来たので、2人で仲良く食べる事になった。

 虎の穴での研究が長引いたので、レティは遅い昼食を取っていたのだ。



 2人は同い年で16歳の2年生の時の交換留学生同士。

 ウィリアムは翌年も半年間ジラルド学園に留学して来た。

 アルベルト皇子を、1年間ローランド国で面倒をみたのだから自分もみるべきだと言って。



 アントニオ学園でのウィリアム王子はハーレムを作って、女子生徒達と戯れていたが……

 実は……

 これはアルベルトの真似をしていたからで。


 ウィリアム自身は本来は素直で可愛らしい王子だ。

 顔は薄いが……

 自国王子として、皇子伝説の上をいきたかったそうな。


 ウィリアム王子が聞き及んでいたアルベルト皇子の留学時代とは……

 女子生徒をとっかえひっかえして食い散らかしている、プレイボーイそのものだった。



 しかし……

 実際にジラルド学園に留学した時に目にしたアルベルトは違っていた。

 恋人を一途に想う皇子(おとこ)だった。


 ジラルド学園では、女子生徒達がアルベルトに群がる事は無く静かなものだった。

 勿論、魔除けのレティがいたからだが。


 生徒会長をして学園を見事に統率していたアルベルトを見て、ウィリアムは考えを改めた。

 自分も生徒会の会長をしていた事もあり、帰国してからは今まで適当だった生徒会の仕事にも真摯に取り組んだのだった。


 ウィリアム王子の両親である王太子夫婦は、やる気になった王子に泣いて喜んだと言う。

 シルフィード帝国に留学をさせて良かったと言って。




 レティは聞きたい。

 あの時の婚約の話はどうなったのかを。


 ウィリアムは2年前に婚約が決まりそうだと、レティ達に嬉しそうに話していたのだ。


 お相手は……

 ウィリアムよりも2歳年上の侯爵令嬢で、大人しく控えめで趣味は刺繍と言うレティと正反対な淑女だと言っていた。


 しかし……

 ウィリアム王子が婚約をしたと言う話は聞こえて来ない。

 今の今まで。


 王子の婚約……

 ウィリアムは将来は王太子となり、国王となる第1王子なのだから、婚約をすると世界中にニュースが流れる筈だ。


 レティは聞きたい。

 聞きたくてたまらない。

 オペラデートもしたと言ってたじゃないかと。


 だけど……

 あんなに嬉しそうに婚約間近だと語っていたのに、2年経った今でも何の進展も無いのは何か理由があるのだろう。


 誰だって話したくない事はあるものね。

 私なんか話せない事だらけだもの。


 レティは聞かない事にしたのだった。



 2人の会話は途切れる事が無い。

 ウィリアムも生徒会会長をしていたのだから共通の話題がある。

 ましてやレティは()()()だ。

 蜘蛛型魔獣の話はウィリアムも聞きたい話なのだ。



「 やっぱり……君と話していると楽しいな…… 」

 ウィリアムがレティを見つめて嬉しそうな顔をした。


「 私の婚約者だ! 」

 アルベルトがテーブルの上にトレーを置くと、ドカッとレティの隣の席に座った。


 ランチはAランチ。

 サイコロステーキが鉄板の上でジュージューと音を立て、美味しそうな匂いを漂わせている。



 レティの目の色が輝く。

 迷ったのだ。

 AランチにするかBランチにするかを。

 前にAランチをしたから今回はBランチにしたのだが……

 ずっとウィリアム王子の食べているサイコロステーキに魅了されていた。

 美味しそうな匂いに鼻をひくひくとさせながら。



 アルベルトがレティの口元に、フォークで刺したサイコロステーキを持って行くと、直ぐにレティは可愛らしい口を大きく開けて……パクッと食べた。


「 熱く無かったか? 」

「 うん! 凄く……おいひいわ 」

 頬っぺを押さえながら……

 幸せそうにモグモグと口を動かすレティを見るアルベルトの顔は限りなく甘い。


 相も変わらずのバカップルだ。



「 アルベルト殿……頼みがあるのだが……()()を私に譲ってはくれないか? 」

「 !? 」

 ()()とはレティの事である。


 そんなバカップルの様子を目の前で見ていたウィリアムも、甘い顔でレティを見ている。


「 ウィリアム殿は何を言ってるのか? 彼女は俺のものだ! 」

「 じゃあ、もう1つスペアは無いのか? 」

 その可愛い生き物を、是非とも我が国に持って帰りたいとウィリアムは言う。

 真剣な顔をして。


「 あるわけ無い! 彼女は唯一無二の俺の妃になる女性だ 」

「 あら! 私もスペアが欲しいわ! 何時も身体が2つあれば良いと思っているのよ 」


 レティは前々から身体が2つ欲しいと思っていた。

 お店の経営者で医師で薬学研究員。

 2つ所か3つ位は欲しいと豪語した。


「 じゃあ、2つになれば俺の所に来てくれるか? 」

 ウィリアムが嬉しそうにレティに語り掛ける。


「 とんでもない!! 2つになっても3っつになってもレティは俺のものだ! 」

 慌てる皇子様が可笑しくて、ウィリアムとレティはケラケラと笑った。


 レティのいる場所は何時も笑いに溢れている。



「 まあ! 王子殿下ここにいらしたのね? 」


 皇子と王子の楽しそうな笑い声に、周りにいる皆もほんわかしていた所に、邪魔でしか無い耳障りな甲高い女性の声が響いた。


 声のする方を振り返ると……

 ローランド国の女官の制服を着た若い女性が、こちらに向かって歩いて来ていた。


「 ウィリアム王子殿下、皆が探しておりましたわ 」

 そう言う女性の目はずっとアルベルトを見ている。


「 ワタクシも……この楽しそうな席に同席させて頂いても宜しいでしょうか? 」

 今度はレティを見つめた。


「 お2人に重要なお仕事の話があるので、この機会にと思いまして 」

 その女性はケイトリン・セイ・ラザイヤ外交官。



 本来ならば……

 皇子と王子が食事をしている席に、他の者が同席するなんて無礼過ぎる事なのだが。

 仕事の話と言われれば否とは言えない。


 主君であるウィリアム王子が拒否しないならば、尚更アルベルトは拒め無い。


 少し離れた席で食事をしている側近達が彼女の無礼に眉を顰めていた。



「 皇太子殿下、お仕事の話を円滑にする為にもお隣の席の方を紹介して頂けませんか? 」

 同席しても良いと、まだ誰も返事をしていないのにケイトリンはアルベルトに微笑み掛ける。


 アルベルトは1つ溜め息を吐いて口を開けた。


「 ………彼女はリティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢、私の婚約者だ。それから……この令嬢はケイトリン・セイ・ラザイヤ侯爵令嬢……ローランド国の外交官だ 」


「 そして……皇太子殿下の留学時代のクラスメートですわ 」

 ケイトリンはアルベルトの紹介の続きにそう言ってレティを見て来た。



「 まあ! それは素敵ですね。わたくしもアントニオ学園ではウィリアム王子殿下とクラスメートでしたのよ 」

 ジラルド学園では隣のクラスだったが。


 立ち上がって挨拶をするレティだったが、ケイトリンは直ぐに視線をアルベルトに向けた。


 ?

 何か違和感が……


 レティは椅子に腰を落としながら首を傾げた。



「 楽しそうな食事の様子でしたので、ワタクシも御一緒にお喋りをしても宜しいですか? 」

 食事は静かに取るのがマナーだが、上の者が認めれば喋りながらの食事はオッケーとなる。

 現に3人は楽しくお喋りをしながら食事をしていた。


 しかしだ。

 まだ同席して良いと許可をしていないのに、彼女はお喋りをしながら食事をする事の許可を求めて来たのだ。


 彼女の全てが不快で仕方無い。


「 ああ、構わない 」

 ケイトリンは主君であるウィリアム王子を見ずに、アルベルトに視線を合わせて来たので、アルベルトが仕方無くそう答えた。



 ウィリアムの隣に腰を下ろしたケイトリンは特上ランチだった。

 因みに10人の爺達がアルベルトの傲りの時にだけ食べるランチは、特上()()()()()ランチで皇宮の食堂では1番高いランチである。



 本来ならば……

 後から来た者が皇子達の食事よりも上等な物を食べるなんて事はあり得ない事で。

 外交官なら尚更だ。


 サハルーン帝国の仕事の出来る()()ラビア外交官ならば絶対にしない。

 それが許されるのは爺達だけなのである。



 そう……

 ケイトリンは仕事の出来ない女だった。


 ローランド国の国の形態はシルフィード帝国とほぼ同じであるから、外交官になるには文官養成所に入所しなければならない。

 文官養成所に入所するには成績が優秀である事が必須だ。

 勿論入所試験もある。


 しかし……

 彼女の成績は悪く、何故文官養成所に入所出来たのかと皆が不思議に思っていた。

 いや、親のコネで入所したのだと噂されていたのだった。


 物怖じしない持ち前の図々しさと、彼女の達ての願いで外務省に配属されて外交官になったが。

 ケイトリンと仕事をすればする程に、同僚達からは煙たがられる様になっていた。

 外交に失敗すれば……

 それこそ国の今後に関わる事になるのだから。



「 まあ! ウォリウォール様はウィリアム王子殿下の事を名前で呼ばれているのですね? 」

 クラスメートですものねと、ケイトリンはウィリアムとレティを見やった。


「 ワタクシも当時の様に、アルベルト様とお呼びしてもかまいませんか? 」

 ケイトリンは甘えた様な声を出しながらアルベルトを見つめた。


「 ワタクシの事も……あの頃の様に()()()とお呼び下さい 」



 ケイトリンの爆弾投下にレティとウィリアムが彼女を見た。

 レティはウィリアム王子からも、レティとは呼ばれてはいない。


 名前を略して呼ぶ事はかなり親しい間柄と言う事だ。

 現にリティエラをレティと呼ぶのも、両親と兄、エドガー、レオナルドとアルベルトだけである。

 最近は両陛下からは『レティちゃん』と呼ばれているが。



 何かある!


 レティは横にいるアルベルトを見た。


 それを見ていたケイトリンがニヤリと意味深な顔をした。



 この女……


 レティはケイトリンを改めて凝視した。



 獲物だったのか。









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