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招かれざる客─2

 



「 ラザイヤ侯爵令嬢! 殿下の事は敬称で呼んでくれないか 」

 何時も飄々としているレオナルドが、こんなにも不快感を露にしているのは珍しい。


 因みに……

 アルベルトを名前で呼べるのは皇族か王族だけである。

 サハルーン帝国の外交官のラビアがアルベルトを名前で呼んでいたのは、彼女が皇帝陛下の姪で皇族だから。

 ラビアはジャファル皇太子の従兄妹なのだ。



「 あら! ワタクシの名を覚えていて下さったのね。嬉しいですわ。つい懐かしくて……では改めまして……皇太子殿下お久し振りでございます 」

 彼女はアルベルトに淑女の礼をした。


「 ああ……随分と久しいな……変わりは無いか? 」

「 ええ……いえ……ワタクシはあれから随分と変わりましたでしょ? 」


 アルベルトと視線を交わし向き合う彼女は、ローランド国に留学時代のアントニオ学園でのクラスメートだ。


「 ディオール様もお久し振りですわね 」

「 ………ああ……君は外交官になったんだな 」

「 ええ…… 」

 ケイトリンがレオナルドから視線を外し、アルベルトに向かって何かを言おうとした時に会議室のドアが開けられた。



「 殿下! 次の会合に遅れます!急いで下さい 」

 中々出て来ないアルベルトを心配してクラウドが顔を覗かせた。

 アルベルトの前にいるケイトリンに軽く会釈をして。


「 ああ、今行く。ラザイヤ侯爵令嬢、外交官としての公務を頑張ってくれ 」

「 はい……シルフィード帝国の()()と更なる交流を図りたいと存じますわ 」

 ケイトリンは意味深に笑ってアルベルトにカーテシーをした。


 部屋から出て行くアルベルトの後ろからレオナルドが続いて部屋を後にした。

 チッと舌打ちをしながら。



「 ……アルベルト様は……もう、ケイトとは呼んで下さらないのね…… 」

 ケイトリンは……

 背の高いアルベルトの後ろ姿を見つめながら呟いた。




 ***




「 彼女が? 」

「 そう……外交官としてやって来たんだ 」

「 わざわざアルに挨拶をしたのか? 」

 レオナルドはラウルとエドガーを急遽ディオール邸に招集した。


「 まさか……レティに何か言うんじゃ無いだろうな 」

「 この期に及んで…… 」

「 あの女……意味深な顔をしていたから 」

 結婚の日取りが決まった事は知っている筈なのにと、3人は顔を見合わせた。


「 男なら……過去の話なんかするな!ってぶん殴るんだけどなぁ 」

 エドガーが胸の前で、片手の掌にグーパンチをパンパンとしながら奥歯をキリキリと噛んだ。



「 それでアルはどんな様子だった? 」

「 その時は普通に挨拶を交わしていたが……その後は始終考え事をしていた様な気がする 」

 やっぱりと皆はアルベルトに同情した。


「 不味いよな~ 昔の女の登場は…… 」

「 余計な事を言わなきゃ良いんだけどな 」

「 あのタイプの女は言いそうだから怖い 」

 またレティが不快な思いをするのかと……

 3人のお兄様達は頭を抱えた。



 学園生活を楽しみにしてジラルド学園に入学して来たアルベルトは、入学早々に毎日押し掛けて来る女子学生達に参っていた。


 今まで静かに皇宮で過ごしていたのだ。

 ラウル達と共に学び遊んでいるだけの生活だった。


 皇子であるアルベルトだけで無く、貴族の令息令嬢達も学園に通うまでは皆似たような生活をしている。

 貴族の家に招待された母親のお茶会に連れて行かれ、決められた場所で遊ぶ事が貴族の子供達の日常だった。


 それでは社交性が育たないからと設立されたのがジラルド学園である。



 そんな生徒達の前に皇子が現れたのだ。


 親達から聞いていた噂の皇子様。

 我が国のたった1人の皇子様。

 それも……

 眩しい程の美少年だ。

 皆が浮き足立って熱狂するのは仕方の無い事。


 しかし……

 そのフィーバーぶりは生徒達だけでは無かった。


 ロナウド皇帝陛下以来の皇族の入学で、先生達も舞い上がってしまい、何の対策も立てられないままにアルベルト皇子の1年が終わったのだった。


 そして……

 逃げる様にしてローランド国へ留学したが……

 アントニオ学園でも結局は同じ事だった。


 他国の皇子と言う肩書きを抜きにしても……

 アルベルトの美貌はずば抜けているのである。

 女子徒達がこぞってアルベルトに夢中になるのは必然的で。


 だけど……

 アントニオ学園は他国の学園。

 他国だと言う事でアルベルトは随分と気が楽になっていた。


 それはラウル達も同じで。


 だから……

 皆で夜遊びもしたし、女の子とお付き合いもした。

 16歳の成人になった事もあって。


 ケイトリン・セイ・ラザイヤ侯爵令嬢は……

 アルベルトが留学中にお付き合いをした令嬢だった。


 背がスラリと高く、自分の顔とスタイルに自信たっぷりな美人である。



 酒が進んで酔いが回って来た3人が話を続ける。


「 俺さ~アルがレティを好きになったのが不思議だったんだよな~ 」

「 確かにな……レティはアルの好みの女では無いよな 」

 エドガーとレオナルドがラウルを見ながら言った。


「 そうだな。俺もアルが妹に惚れるとは思ってもみなかったな 」

 ラウルが手に持っていた酒の入ったグラスをテーブルに置いた。



 そう……

 アルベルトに近付く女性は、皆が皆自分に自信のある女性なのである。


 自分なら皇子に相応しい。

 自分ならアルベルトの横に並んでも引けを取らない。

 自分なら彼に愛して貰える。


 そんな自信たっぷりな女性達がアルベルトに言い寄るのだから。

 アルベルトの周りにいるどの女性も同じ様なタイプになってしまう。


 だからラウル達は……

 背の高いボンキュッボンのスタイルで、ハッキリとしたきつめの目鼻立ちの美人がアルベルトの好みだと思っていた。


 それに比べてレティは……

 目だけは大きいが鼻も赤い唇も小さく童顔である。

 肌の色は白く、透明感のある美しい女性だ。

 小柄でスレンダーなボディ。

 胸が小さい事が彼女の悩みでもある。


 だから……

 アルベルトがレティを好きになった事に驚いたのだった。


 性格的にも……

 レティは自分を前に出さないタイプだ。




 ***




 ケイトリンが外交官になったのは……

 こうやってシルフィード帝国にやって来て、堂々とアルベルトの前に立つ事が出来ると考えての事だ。


 他国の貴族が皇太子殿下に会う事は難しい。

 王族で無ければ、宮殿に入る事さえも許され無いだろう。


 だから……

 ケイトリンは外交官になったのだ。

 アルベルトに会う為に。



「 アルベルト様……やっと会えましたわ 」


 やっぱり素敵だった。


 いえ……

 少し背も伸び、身体は逞しくなられて、黄金の髪も輝きを増して……

 あの頃よりも遥かに素敵な大人の男になられているわ。

 あれから5年も経ったのですから。


 2人でデートした日々が忘れられない。

 あの時……

 あんなに優しくエスコートして下さったのは、彼もワタクシを想っていて下さったからに決まってる。


 きっと……

 大人になったワタクシを見て……

 彼も何かを感じてくれた筈。

 ワタクシを見る瞳が少し揺らいでいたわ。



 それにしても……

 婚約者が公爵令嬢なのが気に入らない。

 帝国の皇太子の婚姻相手は王女だと決まっているから……

 彼の帰国に合わせて身を引いてあげたのに。


 噂に聞くと……

 婚約者は小さくてやせっぽっちな令嬢だとか。

 アルベルト様の好みの女性はワタクシの様な女性の筈。


 ワタクシだけに向けられたあの優しい眼差しを……

 もう一度向けられたい。


 絶対にアルベルト様を落としてみせますわ!



 ケイトリンは自身満々で来国して来たのだった。











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― 新着の感想 ―
[一言] まーたアルがきっぱりと釘をささないからレティを傷付けて自己嫌悪するパターン?学習してくれー
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