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閑話─殿下には内緒で

 



 コンコンとドアを叩く音がした。


「 リティエラです 」

 リティエラ様がヒョコッとドアから顔を覗かせた。


 可愛らしい。

 そして……

 白衣が眩しい。


 白衣を着た天使は満面の笑顔で俺を見つめている。


「 入りたまえ 」

 そう言ってベッドから上半身だけを起き上がらせると、リティエラ様は直ぐにベッド脇までやって来て、俺が凭れやすい様にベッドの背凭れにクッションを当ててくれた。


 そのクッションに俺は緩やかに凭れてリティエラ様と見つめ合った。



「 ケチャップ様……手首の具合は如何がですか? 」

 リティエラ様は俺の手を取って脈を測る。


 なんて小さな愛らしい手なのか……


「 うむ……まだ少し痛む 」

「 ケチャップ様の名誉の負傷ですものね 」

 そう言ってリティエラ様は俺をうっとりとした瞳で見つめて来た。

 あの大きなピンクパープルの瞳で。


 何故そんな熱い瞳で俺を?

 俺は……

 胸の鼓動が激しくなるのを感じた。



「 心臓に異常が無いかを調べさせて頂きますわ 」

 リティエラ様は可愛らしい声でそう言いながら……

 俺の逞しい胸をはだけさせて聴診器を当てた。


 なんて大胆な……



 俺の逞しい胸に彼女の頬が近付いて来る。

 彼女の息が掛かる程に。


「 その逞しい胸に顔を埋めても良いですか? 」

「 それは……駄目ッスよ~……殿下が…… 」


「 殿下には内緒で…… 」

 上目遣いで見つめて来るリティエラ様の悪戯な顔がそこにあった。


「 ケチャップ!! 」


 誰だ!?

 今良いとこなのに……


「 おい! ケチャップ! 何を寝惚けているんだよ!? 」

「 リティエラ様……寝惚けてなんかいないッスよ~ 」 

 肩をゆさゆさと揺すられたのでケチャップが目を開けると……

 そこには鼻先がくっつく距離にロンの顔があった。


「 !? わーーっ!! ろ………ロン!? 」

 ケチャップは慌てて仰け反るとベッドの背凭れに頭を激しくぶつけた。


 ゴン!!!




 ***




 皇宮騎士団第1部隊第1班所属のケチャップ23歳は蜘蛛型魔獣との戦いで、蜘蛛型魔獣の尻から毒糸を放出されて名誉の負傷をした。


 直ぐにレティ医師から治療をされたので毒に犯される事は無かったが……

 怪我の経過や薬を渡す為にケチャップの部屋に訪れる予定だった。


 しかしケチャップは……

 毒を浴びたので安静にしなきゃならないと、レティ医師から言われていたのにもかかわらず、自分の部屋の掃除をした。


 ケチャップの部屋はとてもじゃ無いが若い女の子の入れる部屋では無かった。

 何だか臭いもエグいし。


 ケチャップは掃除をした。

 手首は痛むがそんな事は言ってられない。

 窓を開け放して新鮮な空気を入れて、洗濯物はクローゼットに押し込んだ。


「 ど……どうだ……これでピカピカだぁ~ 」

 部屋を掃除したケチャップは……

 そう言いながら大の字になってベッドに仰向けに倒れた。



 それから暫くして……

 レティ医師がケチャップの部屋までやって来た。

 少し顔が赤いのはアルベルトから激しくキスをされていたからで。


 全く! いくら魔力切れだからって……

 あんなにしつこくするなんて酷いわ。


 白衣を着てデカイ顔のリュックを背負ったレティ医師は、プリプリと怒りながら歩いていた。



 コンコン……


 返事が無いわね。

 具合が悪いのかしら?


 レティは護衛のカレンとエレナと顔を見合わせた。

 具合が悪いのなら大変だ。


「 入りますよ 」

 急いで入るとベッドにケチャップが仰向けに倒れていた。


「 ケチャップ様!? 」

 レティとカレンとエレナは慌ててケチャップの側に駆け寄り顔を覗き込む。


 すると……

 ケチャップは何やら幸せそうな顔をして眠っていた。

「 良かった……眠っているだけみたいね 」



 レティ医師はその間に治療をして、処方薬を置いて部屋を後にした。


「 起きたら飲ませて上げて下さいね 」

 ……と、隣の部屋のロンに伝言を残して。




 頭をしこたまベッドの背凭れで打ったケチャップは、後頭部に手を当ててゴシゴシと揉みほぐしながら手首に巻かれている包帯を見た。


「 綺麗に巻き直されている…… 」

 リティエラ様が薬を塗って包帯を新しく巻いてくれたんだ。


 ケチャップは頭を抱えた。

「 あの可愛らしい手の感触を味わえなかった 」と言って。

 ロンに不敬な事を言うな!と頭を叩かれたのは言うまでも無い。




 夢だった。


「 殿下には内緒で…… 」



 それにしてもなんて幸せな夢。

 ケチャップは鼻の下を指でキュッと擦り上げた。











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