閑話─もしもあの時……( 500話記念 )
『 シルフィード帝国皇太子殿下御成婚物語 護衛騎士達から見たお2人の愛の奇跡 』
皇太子殿下と公爵令嬢の御成婚の日取りの発表と同時に発売された本は、帝国中の人々が2人の恋物語に夢中になった。
勿論騎士達も、自分達の報告書を元にして作成された本である事から夢中で読んだ。
グレイもその1人だ。
本心では読みたくは無かったが……
本を読めと騎士団団長の命令が下ったのだから読まなければならなかった。
「 お2人の出会いは……リティエラ様が学園に入学された直後だったのか…… 」
グレイは天を仰いで独り言ちた。
グレイがレティと初めて会ったのは騎士クラブである。
クラウドに誘われて騎士クラブに行くと……
アルベルトとエドガーが模範試合をしていた。
その後にグレイとエドガーが試合する事になり、グレイが弾いたエドガーの木剣がある部員に向かって飛んで行き、既所でアルベルトの放った雷の魔力で木剣が当たるのを防いだ。
そのある部員がレティだった。
グレイはやがてレティに惹かれて行く。
会う度に。
そして……
初めて自分の想いを自覚したのはレティが16歳の新年祝賀の宮中晩餐会の時。
酔っ払った父親がグレイとレティの婚姻話が水面下であった事を暴露してしまったのだ。
俺の妻になる筈だった女性。
そう思ったら……
もう、どうしようも無い程にレティを好きになっていたのだった。
そして……
グレイはこの御成婚物語を読んで思い出した事があった。
ウォリウォール公爵の令嬢と会ってみないかと、叔父であるデニスに言われたのだ。
言わばお見合いである。
グレイが22歳、レティが14歳の時で。
その時のレティは、領地を引き上げて皇都のウォリウォール邸にやって来た頃だった。
そして……
グレイはレオナルドの姉のカトレア嬢にフラレた事を引き摺っていた頃で。
カトレアの猛アタックでお付き合いを初めたが……
外交官として海を渡ったまま彼女は他の外国の男と電撃結婚をした。
婚約寸前までいった2人だったのに、あっさりとフラレたのだから引き摺るのも仕方が無い事だった。
それに……
相手は14歳。
14歳の令嬢ならば急いで会う必要も無く、もう少し大人になってからでも良いじゃないかと、会うことを拒否した。
その時のグレイは……
留学先から帰国するアルベルトを待っている間に、己れの剣の道を極めてより強くなっていようとしていた。
翌年には立太子の礼があり、アルベルトは正式に皇太子となるのだから。
公務も本格的に始まる事もあって。
そして……
アルベルトの帰国直後に2人が出会った事を本で知った。
彼が初めて公爵邸を訪れた運命の日。
彼女はラウルの妹。
2人はもっと早くに出会っていたのだとグレイは思っていた。
幼い頃から知り合いで……
時間の経過と共に想いを育んで来たのだろうと。
もしもあの時……
彼女と会っていたのなら。
何かが変わっていたのかも知れないと思わずにはいられない。
グレイの視線の先には……
仲良く手を繋いで甲板を散歩する2人の姿があった。
海を指差してキャアキャアと楽しそうだ。
側にいれば……
どれだけ2人が想い合っているのかが分かる。
特に殿下の彼女への寵愛ぶりは凄いもので……
その寵愛をアピールする事で懸命に彼女を守ろうとしているのだ。
彼女は我が国最高位貴族の公爵令嬢。
だけど……
帝国の皇太子の結婚相手がただの貴族では、どの国も納得がいかないのが本当の所なのだろう。
殿下が全力で彼女を守っておられる。
だから……
俺は身体を張って彼女を守る。
この命に代えても……
これが俺の愛。
それでも……
どうしても思ってしまう。
もしもあの時……
殿下よりも先に彼女に会っていれば……
何かが変わったのだろうかと。
***
アルベルトはグレイのレティへの想いを知っていた。
レティを本気で好きだからこそ……
レティを命掛けで守ってくれるのだ。
だからこそ彼には安心してレティを任せられる。
それは……
ケインやノアにも当てはまる事で。
エドガーの父親であるデニスとレティの父親のルーカスとで……
グレイとレティを婚姻させる話があったと聞いた時には激しく動揺した。
レティの幸せを望むのなら……
グレイと結婚した方が幸せになるかも知れないと、グレイのレティを見つめる目を見ていて思う時もある。
レティと婚約をしてからは……
自分の立場や所為でレティを泣かせてばかりいる。
自分の婚約者と言う事で危険な目にも合わせてしまっている。
だけど……
レティの死を回避して、ループを終わらせるのは自分だけだと言う確信がある。
レティは俺と巡り合う為にループしていたのだと。
そう思わずにはいられない。
いや……
そう思いたい。
皇太子である俺だけが出来る事がある。
2人一緒だから出来る事も。
アルベルトは思う。
もしもあの時……
公爵邸に行かなければ……
レティのこの4度目の人生でも2人は出会わなかったのだろうかと。
レティの3度の人生では出会わなかったのだ。
俺はイニエスタ王国の王女と婚約をしたのだから。
レティの話では……
だからこそ……
ループしてやり直しをしているのだと。
今が正しいのだと思うのだ。
そして……
もしもあの時レティに出会っていなければ、彼女はたった独りでこんな数奇な運命と対峙していたのかと思うと胸が痛い。
時折……
身体を震わせて泣いている事も。
こんな小さな身体で一体どれ程の想いを抱えているのかと。
そんな時アルベルトは……
何時も黙ってレティを抱き締めるのであった。
2人で海を見ていたら遠くで魚が跳ねた。
かなり大きな魚だ。
レティの瞳がランランと輝く。
魚を見ると目の色が変わる。
とんだ公爵令嬢だ。
魚がいるのだから釣りをしたいと言い出したレティに、軍船のスピードでは無理だよと優しくあやしながら……
アルベルトはレティの頭に唇を寄せた。
この話で何と500話になりました。
まさか初めての作品でこんな大作になるとは……
思ってもいなかったです。
下手の横好きですね。_(^^;)ゞ
只今5章の途中なのですが、6章で完結します。
5章をもう少し書いて、いよいよレティの運命の20歳の6章に突入します。
後少しです。
飽々してる方もいらっしゃるとは思いますが……
もう少しお付き合いして頂ければ嬉しいです。
読んで頂き有り難うございます。