噂の婚約者としゃっくり
馬車から降りて来たアルベルトとレティが突然襲撃されて、周りにいる騎士達が思わず身構えたが……
あまりにも小さな小さな襲撃犯に頬が緩んだ。
「 わたくしはシャーロット 」
アルベルトに抱き付いて来たのは4歳の小さな王女だ。
「 僕はクリストファー 」
レティに飛び付いて来た元気な男の子は、シャーロットの弟で3歳の王子。
彼等はサミュエル王子の年子の子供達だった。
アルベルトはシャーロットを右手で抱き上げ、レティに抱き付いているクリストファーをレティから剥がして左手に抱いた。
レティに触れる者は例え小さな子供だろうと、ジジイだろうと許さないのが皇子様なのだ。
「 宜しく、私の小さな王女と王子 」
アルベルトはキャアキャアと嬉しそうに声を上げる2人に挨拶をした。
「 お兄様! だぁいすき 」
チュッとアルベルトの頬にキスをしたシャーロットがレティをチラリと見た。
その顔は……
女の顔だった。
!?
何?今のは?
気のせい?
気のせいよね?
だって彼女はこんなにも可愛らしいんだもの。
「 こらっ! ロロ、クリス! 」
サミュエルがシャーロットを、ジョセフがクリストファーをアルベルトから引き取った。
「 アルベルト皇太子殿下と、ウォリウォール公爵令嬢にきちんとご挨拶をなさい 」
2人の母親であろう女性が前に進み出て来た。
後ろでは侍女達がおろおろとしている。
「 紹介しよう。私の妃のコゼットだ 」
コゼットも金髪でこの家族は全員金髪だった。
1通りの挨拶が終わると、アルベルトはシャーロットに手を引かれて城の中に入って行く。
レティはラウルの側に行った。
「 アルはこの国の人って感じがするわ 」
「 我が国では、アルの金髪は珍しいからな 」
我が国の皇子様なのに……
何だか寂しく感じたレティだった。
その時に……
「 僕がお姉さんのエスコートをするよ 」
クリストファーがレティに手を差し出して来た。
「 まあ! 素敵な王子様はとても紳士的でいらっしゃるのね 」
小さな王子の手にレティは手を乗せた。
すると小さな紳士はレティの手の甲にチュッとキスをした。
「 おっ! この糞ガキいっぱしだな 」
「 お前! ふけいだぞ! 」
クリストファーがラウルを睨み付けると……
面白そうだと悪ガキ共が囲んだ。
「 生意気そうな顔だな 」
「 僕は……王子だぞ! 」
「 そんなもの関係無いね 」
悪ガキ共に威圧されてクリストファーは泣き出した。
「 もう!止めなさいよ! こんな小さな子に 」
レティはクリストファーを抱き上げた。
クリストファーは直ぐにニッコリと笑ってレティの胸に顔を埋め様としたら、首根っこを摘ままれバリっとレティから剥がされた。
アルベルトが戻って来ていたのだ。
側でハラハラしながら見ている侍女にクリストファーを放り投げると、侍女達が慌ててクリストファーを受け止めていた。
「 レティ……行くぞ! 全く油断も隙も無い 」
アルベルトは子供のくせにとブツブツ言いながら、クスクスと笑うレティの手の甲にキスを落とす。
「 あんな小さな子供にでもやきもちを妬くんだ 」
「 あれが帝国の皇太子の真の姿さ 」
「 流石魔性の女は違う 」
3人は2人の後ろ姿を面白そうに見ていた。
***
アルベルト御一行様が待つ謁見の間に、マケドリア王国の国王が入室して来た。
アルベルトの祖父である。
国王はアルベルトの顔を見るなりうるうると涙を流した。
「 シルビアに良く似ている…… 」
どうかハグをさせておくれと言って、両手を広げてアルベルトの前にやって来た。
「 お祖父様…… 」
「 よくぞ来てくれた…… 」
「 母上が逢いたがっておりました 」
「 そうかそうか……余にシルビアの事を聞かせておくれ…… 」
「 はい…… 」
国王も金髪で……
母上に似ていると、アルベルトは初めて会った祖父に胸がいっぱいになっていた。
国王はアルベルトの肩位の背丈だった。
昨年に王妃が逝去し、側室に至っては3年前に既に逝去していた。
すっかり気落ちした国王は、来年には王太子に譲位する事になっていて、最近では国王の仕事の殆どを王太子が担っている。
シルビアはシルフィード帝国に嫁ぐ際に、最後にハグをしてから両親に会ってはいなかった。
シルビアの母親である王妃のお墓参りを、アルベルトにして貰う事はシルビア皇后陛下の達ての願いであった。
皆が涙を流していた。
祖父と孫は会えたのに……
父と娘は会えないのだと。
感動的な場面に……
レティもポロポロと涙を流した。
「 おや? そこで泣いている美しいお嬢さんを紹介してくれないかのう? 」
国王はアルベルトから身体を離して、後ろで涙を拭うレティを見て目を細めた。
「 紹介します。リティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢……私の婚約者です 」
「 初めまして……ヒック……!?………リティエラ・ラ・ヒック……ウォリウォール……ヒック……でございます 」
そう言ってカーテシーをした。
レティはしゃっくりが止まらなくなった。
「 おやおや。噂の婚約者殿が大変な事になってるから介抱してやっておくれ。では、アルベルト殿。自分の国の様に我が国でも寛いでくれたまえ 」
国王は……
久し振りに笑ったのうと、笑いながら側近や騎士達を引き連れて謁見の間を後にした。
噂の?
国王様にも私の噂が?
一体どんな噂なのかと思うが今はそれどころでは無い。
公爵令嬢がこんな所でしゃっくりが止まらなくなるなんて……
お母様が知ったら卒倒するわ。
ヒック……
レティがしゃっくりと格闘していると……
王太子殿下が満面の笑顔で近寄って来た。
「 父上のあんなに楽しそうな笑い声は久し振りに聞いた 」
そう言ってアルベルトに握手を求めて来た。
「 初めまして叔父上 」
「 ようこそ! そなたの母の母国マケドリア王国へ 」
2人はがっちりと握手をした。
「 姉上は息災か? 」
「 はい……叔父上を懐かしがっておられました 」
「 義理兄上も健勝だと聞き及んでいる 」
国王と言っても名ばかりで、この国の全ては既に王太子が取り仕切っていると言う。
彼の横には優しげに微笑む王太子妃がいた。
「 余と王太子妃にも、その噂の婚約者殿を紹介してくれると嬉しいんだが 」
「 再来年に結婚式を上げる事が決まった私の婚約者のリティエラ・ラ・ウォリウォール嬢です 」
アルベルトから紹介をされレティは、しゃっくりをしながら挨拶をしてカーテシーをした。
ヒック……
もう涙目である。
王太子は笑いを押さえながら皆と順番に歓迎の言葉と挨拶を交わした。
疲れているだろうからと、王太子妃がサミュエルに皆を部屋に案内をする様に言い終わると、王太子夫婦は謁見の間を後にした。
緊張する時間が終わり……
皆はホッと安堵するのだった。
「 レティ! 大丈夫か? 」
「うん……ヒック……大丈夫じゃ無い……ヒック…… 」
全く……
何をしていてもどんな時でも可愛いな。
アルベルトがレティの背中をトントンとしていると……
「 痛い! 」
その時、ラウルがレティの耳を引っ張った。
「 どうだ! 止まっただろ? 」
全くこんな時にしゃっくりだなんて……
ウォリウォール家の恥じだと言って、ラウルがチッと舌打ちをする。
「 お兄様! 痛いわ! 」
「 痛い方がしゃっくりが止まるんだよ! 」
「 あっ!止まった………………ヒック……止まって無いぃ~……ヒック…… 」
痛かっただけじゃないのよ!とレティがブウっと頬を膨らませた。
「 レティ! あっかんべーをしたら止まるぞ 」
……と、レオナルドが言う。
レティは真剣にあっかんべーをしている。
勿論嘘で、3人はニヤニヤと悪い顔をする。
「 3回まわってワンって言うのがドゥルグ式だ! 」
なっ!と、後ろに控えているグレイにエドガーが目配せをする。
「 そう……ヒック……なの?……ヒック 」
レティが3回まわっている。
「 おい! エド! 」
グレイがエドガーを睨め付けながらレティを止め様とした時に……
「 ワン! 」
レティは大きな声で元気良くワンと言った。
なんて可愛らしい……
あまりにもの可愛さにアルベルトは思わずレティを抱き締めた。
グレイは片手で両目を押さえて俯いてしまい、他の騎士達は口元を押さえたりして皆もその可愛さに悶絶していた。
女官達は可愛らしいを連発していた。
「 あっ! 止まったわ! ドゥルグ式って凄いわね 」
レティはそう言ってアルベルトの腕の中から、エドガーとグレイに向かって親指を立てて良いねポーズをした。
どうだ凄いだろうと言いながら、悪ガキ達は腹を抱えて笑っている。
また騙されてる……
アルベルトは何時も兄達にからかわれているレティを不憫に思うのだった。
あの悪ガキ達にずっとこうしてからかわれて来たんだろうと。
「 リティエラ嬢。しゃっくりは止まりましたか? 」
サミュエルがクスクスと笑いながら、部屋に案内をしようと言ってアルベルトの横にやって来た。
「 ええ! サミュエル王子殿下もしゃっくりが出たら、3回まわってワン! ですわよ 」
得意そうに言うレティを見ながら、悪ガキ達は更に笑う。
「 ああ……参考にさせて貰うよ 」
サミュエルはクックッと笑いながら謁見の間を退出して行った。
「 しゃっくり止まって良かったね 」
「 ええ……しゃっくりって3日続いたら死ぬんですって…… 」
「 本当に? 」
「 あのね……医学的観点からは…… 」
アルベルトはクスクスと笑いながらレティと手を繋いで、案内のサミュエルの後に続いた。
ラウル達は笑いながら2人の後に続く。
してやったりの顔をして。
そんな様子を見ていたマケドリア城にいる人々は……
とても幸せな空気に包まれた。
あの噂の婚約者様は大層可愛らしい令嬢だったと。




