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忘れられた王女の国

 



 シルビア・フォン・ラ・シルフィード皇后陛下。

 彼女は琥珀色の瞳でハニーブロンドの髪の美貌の后である。


 アルベルトのブロンドの髪は母親譲りで、シルビアよりも若干薄い金髪だったが、雷の魔力が開花してからは黄金色のよりキラキラと輝く髪になっていた。


 アルベルトがシルフィード帝国で目立つ理由の1つに、このブロンドの髪がある。

 他国との混血が盛んなシルフィード帝国でも、金髪は珍しいものであった。


 

 以前にレティが行った仮面舞踏会で……

 金髪の男をアルベルトと間違え、浮気をしたと勘違いして飛び蹴りを食らわせそうになった事があった程だ。


 金髪と言えばアルベルト皇太子殿下だと言う事が、シルフィード帝国では浸透していた。

 なので……

 デートをしていると直ぐに皇子だとバレてしまい、大騒ぎになってしまうのが2人の悩みの種である。



 マケドリア王国は隣国グランデル王国よりも小さな国だった。


 先代の国王には側室がいて既に第1王女と第2王女がいた。

 長らく子供に恵まれ無かった王妃が、やっと身籠り生まれたのが第3王女のシルビアだ。


 そして……

 シルビアが生まれて翌年に待望の王子が生まれた。


 国王は勿論の事、国中が王子の誕生を喜んだのは当然で、皆の関心は王子のみに注がれた。



 正室と側室。

 その争いはどの国も同じで……

 王子を産んだ王妃に対する側室の嫉妬は恐ろしいものがあった。


 王子を守る為に王妃は側室を警戒する事に心血を注ぐ事になり、シルビアは何時しか()()()()()()()と呼ばれる様になっていた。


 弟王子との差を感じながらも、シルビアは乳母や侍女達に囲まれて大切に育てられた。

 シルビアに対する両親の直接の愛こそ少なかったが……



 そんな事も関係したのか……

 シルビアはアルベルトには乳母は付けずに自分の乳で育てた。


 皇太子妃が乳母を就けないと言う事は画期的な事であったが、難産だった事で次の御子は望めないと言われた事もあって、シルビアは常にアルベルト皇子の側にいて世話をしたのだった。


 しかし……

 そんな幸せも先代皇帝が突然の崩御をするまでの事だったが。


 新皇帝となったロナウドと共にまだ5歳のアルベルト皇子を皇太子宮に置いて、皇宮に住まなければならなくなったのである。


 皇帝と皇太子になる皇子は同じ宮では過ごす事は出来ないと言う、シルビアにとっては切ない決まりがあったからで。




 シルフィード帝国のロナウド皇太子殿下に嫁ぐ事が決まった時に、シルビアはマケドリア王国の国民達からの注目を初めてされる事になった。


 3ヶ国同盟での世紀の政略結婚では……

 マケドリア国王が、シルビアの弟である王太子にシルフィード帝国の皇女フローリアの輿入れを望んだが……


 グランデル王国には王女しかいなかった事から……

 既に王太子には妃がいたが、国王は王太子妃だったナタリアを側室にして、シルフィード帝国の皇女フローリアを王太子妃とする事で、政略結婚を実現させたのである。

 

 マケドリア王国では……

 側室の娘である第1王女と第2王女も候補にあがったが……

 シルフィード皇帝からは、やはり正統な王妃の子である事を望まれて、シルビアがシルフィード帝国の皇太子妃になった。



 そんな政略結婚と言えども……

 当日皇太子であったロナウドがシルビアの姿絵に恋をしたのは事実。


 ロナウド皇太子が単身でマケドリア王国のシルビア王女の元へ逢いに行った事は、御成婚物語の本で明らかになった事である。


 そのロマンチックな物語は『海を越えたロマンス』として両国民が熱狂したのだった。


 そして……

 5年もの間子供が出来なくても、決して側室を迎え入れなかったロナウド皇太子をマケドリア王国の国民達は好ましく思っていた。


 自国の忘れられた王女が、帝国の皇太子殿下にこれ程までに大事にされているのだ。

 それは他国からの脅威をどれだけ退けるものになるのかと……


 それが彼女の犠牲の上に成り立っている事だと、マケドリア王国の国民達はシルビアに感謝したのだった。

 今更ながらに。




 ***




 グランデル王国での短い外遊を終えて、シルフィード帝国皇太子殿下御一行様はシルビア皇后の母国マケドリア王国に向かった。


 マケドリア王国の国民達はグランデルの国民達以上に、シルフィード帝国の軍船に驚いた。


 忘れられた王女がシルフィード帝国に嫁ぎ、皇后陛下になり見事にその役割を果たしてくれている事で、シルビアの母国の人気は高いものになっていた。


 そして……

 自国の王女の生んだ皇子が立太子の礼で皇太子となり、その類い稀なる美丈夫振りが世界に広がる事となった。


 その美丈夫皇子がマケドリアの地にやって来たのである。

 その熱狂ぶりはグランデルよりも凄いものであった。




 グランデル王国は何処かシルフィード帝国に似た感じがあったが……

 マケドリア王国は違った。

 屋根の色が全て赤で統一をされ、一軒家の建ち並ぶ可愛い街並みはまるで絵本の様な国だと感じさせられた。



 マケドリア王国の港に出迎えに来ている人々を見てレティは驚いた。

 金髪がごろごろいるのである。


「 アルがいっぱいいる…… 」

 甲板から出迎えに来ていたマケドリアの民衆を見ていたレティは、思わず呟いていた。



 マケドリア王国の国王はシルビアの父親である。

 アルベルトにとっては祖父。

 シルビアの弟の王太子には、第1王子と第2王子がいる。

 アルベルトの従兄弟達だ。


 第1王子はサミュエル・リオ・ヤ・マケドリア。

 アルベルトよりも3歳年上の24歳。

 学園を卒業すると直ぐに結婚をして、4歳の王女と3歳の王子がいる。


 ジョセフ・リオ・ヤ・マケドリア第2王子はレティと同い年で、彼には婚約者がいて来年の春には結婚する予定だ。



「 マケドリア王国へようこそ 」

「 出迎え感謝します 」

 アルベルトがサミュエルと握手をする。

 続いてジョセフと握手をした。


 3人で挨拶を交わすのをレティはじっと見ていた。


『 5位はマケドリア王国サミュエル王子殿下。柔らかな笑顔を向けられればたちまち恋に落ちる 』


 レティの持っている『 世界の美しい王子様ランキング トップ10 』の冊子では、このサミュエルは5位に入っているのだ。



 レティの趣味である兄弟間の違い探しのゴングが鳴った。

 いや、今回は従兄弟と合わせて3人の間違い探しだ。



 サミュエルもジョセフも金髪なのはアルベルトと同じだが……

 その金髪はくすんでいて、アルベルトの金髪の様な輝きは無い。


 アルベルトの瞳の色はシルフィード家の特徴であるブルーの瞳。

 ただ……

 アルベルトは父親であるロナウドの青い瞳よりは薄いアイスブルーのキラキラした瞳である。


 サミュエルとジョセフはシルビアの瞳よりは茶色の瞳。



 兄弟は似てはいるけれども……

 従兄弟同士は……

 まだアルとアンソニー王太子殿下の方が似ているかも。



「 私の婚約者のリティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢だ 」

「 貴女が……()()婚約者ですね 」

 そう言って、サミュエルはレティの手の甲にキスをした。


 噂……

 グランデル王国ならば分かるけれども……

 この国では私は一体どんな噂をされているのかしら?


 ニコニコと笑うサミュエルにレティはカーテシーをして挨拶をした。

「 はい。わたくしが()()アルベルト皇太子殿下の婚約者です 」


 皆が笑った。

 アルベルトは肩を揺らす。


 クスクスと笑うジョセフにもレティはカーテシーをした。


 サミュエル王子殿下もジョセフ王子殿下も素敵な笑顔だわ。

 恋には落ちなかったけれども。




 ***




 皇太子殿下専用馬車に乗って、マケドリア王国の街を出発した。


 沿道から手を振る人々の熱狂振りは凄かったが……

 それでもシルフィード帝国の人々のテンションの高さには及ばない。


 シルフィード人は、皆がお祭り好きで陽気な人達だと改めて知る事になったりして、他国へ出向く事は自国の事を見直すチャンスでもあるのだとアルベルトは思ったのだった。

 


「 凄いわ……お伽噺の国の世界みたい 」

 レティは人々よりも町並みに興味がある様だ。


 赤い屋根の一軒家には水車小屋が隣接していたり、牛が柵の中に飼われていたりして、ほのぼのとした町並みが馬車の窓から見て取れた。


「 皇后様はこんな素敵な国でお育ちになられたのね 」

「 そうだな……俺の血のルーツでもある……興味深いね 」


 第1王子であるサミュエルも第2王子のジョセフも柔らかな人となりをしていた。


 母上の育った国。


 自分の血の半分はこの国のものだと思うと……

 アルベルトは胸がいっぱいになるのだった。




 マケドリア城は小さな王宮だった。

 シルフィードの宮殿が、広い堀に囲まれた3階建ての威圧感いっぱいの巨大な宮殿に対して……

 小高い所にある2階建ての王宮は、庭は広いが建物自体はこじんまりとしている様だった。


 門から敷地に入り、木々の繁った路を進むと沢山の出迎えの人々が並んでいた。



 御一行様の乗った馬車が正面玄関に到着すると……

 素早く馬車から降りて来たグレイ達騎士が皇太子殿下専用馬車の周りを取り囲み、女官達も馬車の横で頭を垂れる。


 御者が踏み台を置き、馬車のドアが開けられた。


 アルベルトが先に降りるとワッと歓声が上がる。

 軽く皆に手を上げると、アルベルトは直ぐに馬車の中にいるレティに手を差し出した。


 レティがアルベルトに手を添えられて馬車から降りると……

 更に歓声が上がった。


 すると……

 アルベルトに小さな女の子が突進して来た。

「 うわっ!?」


 そして……

 レティにも小さな男の子が飛び付いて来た。

「 何!? 」



「 わたくしはシャーロット 」

「 僕はクリストファー 」


 彼等はサミュエル王子の子供達だった。












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