魔獣との遭遇
「 魔獣だ!! 魔獣が現れたぞーっ!! 」
グランデルの騎士達が叫んだ。
「 こんな……王都に魔獣が?」
驚きながらシルフィードの騎士達がアルベルトの側に駆け寄って来た。
「 アルベルト殿……狩りは中止だ! 一旦丘の上まで引き上げる 」
アンソニー達もやって来た。
見れば皆は凄く冷静である。
「 アンソニー殿。王都にも魔獣が出るのか? 」
「 ああ……たまにな 」
シルフィードでは魔獣が出現する場所は国境付近に限られている。
北のミレニアム公国との国境であるエルベリア山脈付近か、西のタシアン王国との国境付近の密林なのである。
2年前のドラゴンの襲撃は……
何者かの思惑があると言うのであれば、あれはイレギュラーなのだろう。
「 最近はやたらと数多く出現する様になった 」
「 確かに……それは我が国でも同じだ 」
国境警備隊の報告では、昨年に比べて魔獣の出現率が増えていると言う話だ。
だから……
開発されたばかりの雷風の矢が大活躍してるのだと。
死者所か怪我人さえ出ていないと言う報告に、国防相と騎士団団長兄弟が泣いて喜んでいる。
「 どの国も魔獣が増えているみたいですね 」
サハルーン帝国でも魔獣が増えていると、騎士団会議で言っていましたとニコラス隊長が言う。
「 アルベルト殿、皆が集まったみたいだからそろそろ引き揚げよう 」
「 ………アンソニー殿は魔獣の討伐には行かないのか? 」
「 ? 今に始まった事じゃ無いし、いちいち出現する度に私が出向いていたら身が持たないよ 」
ん?
最近増えたからでは無いのか?
そんなに魔獣が頻繁に出る事は、シルフィードでは報告されてはいない。
昔から。
「 そうか……我が国にはあれがあるからか 」
アルベルトは1人言ちた。
その横顔が美し過ぎて……
アンソニーはドキリとする。
駄目だ。
シルフィードの騎士達が変な顔をして私を見ている。
この心の動揺を見抜かれる訳にはいかない。
「 魔獣の出現場所はここからそう離れてはいないが、我が国の優秀な騎士達が討伐するだろう 」
アンソニーは皆に手を挙げて、移動の合図をして逃げる様にさっさと駆けて行った。
「 殿下……我々も移動しましょう!……リティエラ様や、女官達が不安がっている事でしょう 」
まだ鳴り止まないラッパの音を怪訝して、ニコラスが騎士達に目配せをすると、皆は頷いた。
「 そうだな 」
しかし……
アルベルトは手綱を握ったままで指示を出さない。
「 いや……グレイ、サンデー、ジャクソン、ロン、ケチャップは俺と一緒に魔獣の出現した場所まで同行! 後の者はニコラスと一緒に丘の上まで移動せよ!! 」
「 御意!! 」
アルベルトの指示で皆は一斉に動く。
アルベルトは馬の手綱を引いて、ラッパが鳴り響いている方に馬の腹を蹴って走り出した。
その後をグレイ達騎士が駆け出した。
嫌な予感がする。
行く!
あれは絶対に行く。
鳴り止まないラッパの音が……
アルベルトの心を不安にさせる。
逸る気持ちを押さえて馬のスピードを更に上げる。
愛馬のライナで無いのがもどかしい。
彼女のスピードは天下一品だ。
アルベルトの後ろをグレイ達が続く。
彼等を選んだのは彼等が騎乗弓騎兵部隊だから。
グレイを同行させるのは当然だが……
魔獣の正体が分からない今は、やはり弓矢を使いこなせる彼等が適任だと考えられたからで。
居た!!
レティは魔獣を取り囲む騎士達の先頭にいて、弓矢を魔獣に向けて構えていた。
その瞬間に……
魔獣からは糸の様なものが放出された。
「 居たーっ!! 」
ドーーーン!!!
騎士達の叫ぶ声と同時に雷が魔獣に命中する。
アルベルトが雷を放ったのだ。
騎士達もアルベルトが現場に向かう目的が分かっていた様だった。
***
レティは狩りに参加する為に、狩場の奥に向かって馬を走らせていた。
ワーワーと歓声が上がるとアーチャーレティの血が騒ぐ。
しかし……
途中まで馬を走らせたが……
「 駄目よ……皇太子命令が出てるわ 」
レティは騎士。
騎士とっては皇太子殿下の命令は絶対。
命令を破る事は出来ないわ。
戻ろうと馬の手綱を引いた時に……
ラッパの音が鳴り響いた。
ラッパの音は国に寄っては違うが……
シルフィード帝国では危険を知らせるラッパの旋律は決められている。
きっと……
ここグランデルでも同じだろう。
ずっと鳴り止まずにいると言う事は……
何か危険に遭遇してるのだと言える。
そう思ったら……
馬の手綱を引いてラッパの音に向かって走り出していた。
何だかワクワクする。
ショコラで無いから遅いのは仕方が無い。
ああ……
帰国したらショコラに乗って弓騎兵の訓練が出来るんだわ。
レティは逸る気持ちで馬を走らせた。
「 うおーっっ!! ビンゴだ!! 」
大きな生き物らしき物体に、グランデルの騎士達が弓矢を構えて対峙していた。
「 嘘ーーっ!! 蜘蛛!? キモーっ!!! 」
それは大きな丸い身体に脚が8本。
それも長い脚がサワサワと動いていて……
頭がギロリとレティの方を向くとギィィィ~ンと鳴き声をあげた。
騎士達は突然のレティの登場に驚いた。
彼女はシルフィード帝国の騎士服を着ているのだから。
そして……
何故か1人なのである。
応援が来たのかと一瞬喜んだグランデルの騎士達。
ここにいるのは……
全く役に立ちそうも無い小さな女性騎士で。
彼等はガッカリしたのだった。
「 うわーっ!! 頭がいっぱいあるぅ~ 」
「 騎士様! ここは危険です! どうかお下がり下さい 」
馬から降りて、ずんずんと向かってくるレティをグランデルの騎士達が引き止める。
しかし……
女性騎士は怯まない。
「 この距離では矢は当たらないわ! 」
かといって蜘蛛に近付いたら殺られる。
「 フフフフ……今こそこのオハルの力が必要ね! 」
レティは背負っていたオハルを手に持った。
オハル?
おおお……
彼女の持つ素晴らしい弓……
こんな弓は見た事が無い。
騎士達は、レティの持っている銀色に輝く弓に目が釘付けになる。
「 このオハルは軽くて凄い飛距離が出るのよね。私が採掘場で掘り出した…… 」
レティはオハルの自慢を始めた。
いや……
騎士のご令嬢。
今はそんな場合では………
慌てるグランデルの騎士達。
その時に無視をされていた蜘蛛型魔獣がギィィィ~ンと鳴いた。
「 煩いわね! クモリン!! 」
クモリン?
この気持ち悪い蜘蛛型魔獣の事か?
「 今直ぐに、お前の気持ち悪いど頭に、私のオハルの矢をぶち込んでくれるわぁぁ!! 」
嫌~!!
こんな可愛らしい顔をして……
そんな、汚い言葉を言うのは止めて~!!
そう思いながら、騎士達はレティの後ろで弓矢を構えた。
レティはオハルをキリリと引く。
その時にクモリンは後ろを向き、お尻をレティに向け白い糸を放出した。
しまった!!
クモリンは糸を放出するんだった!
それも……毒の糸………
「 居たーっ!! 」
ドーーーン!!!
騎士達の叫ぶ声と同時に雷が魔獣に命中した。
レティの前には……
両手を広げた大きな背中が……
彼女を守る様に立っていた。