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幻の婚姻話

 



「 はぁ!? 絶対に駄目ですわ!! 」

 ブラコンレティの怒りは炸裂した。


 アルが駄目ならお兄様って言う考えが気に入らない。

 お兄様だけを愛する女性(ひと)にしかお兄様は渡せないわ。


 ハクハクと口を動かし何かを言おうとしているラウルを他所に、レティはキッパリと否定の言葉を述べた。


「 アルが駄目ならお兄様だなんて……… 」

 レティは怒りでワナワナと震えながらアンソニーを睨み付ける。

 あの決闘は何だったのかと。


「 いや……私は反対してるんだ…… 」

 レティのあまりにもの怒りの表情に、アンソニーは両手の掌を広げて、胸の前で降参ポーズを取っている。


 そして……

 レティの怒りの瞳は国王に向けられた。


「 陛下……このお話はお受け出来かねます 」

 レティは真っ直ぐに国王を見ている。


 陛下に……

 陛下に異を唱えたぞ。


 これが……

 殿下と決闘をした令嬢なのだと、グランデルの家臣達は驚いていた。



「 我がウォリウォール公爵家の嫡男として、正式にお断りを申し上げ奉ります 」

 息を吹き返したラウルがレティの横に立ち、腰を折り頭を垂れた。


 あんなに堂々と……

 あれがウォリウォール公爵の令息。

 陛下はどうなさるんだろう。


 グランデルの臣下達が成り行きを固唾を呑んで見まもっている。



 そこにアルベルトが口を開いた。

「 陛下! 突然の申し出で、ウォリウォール兄妹にも一考の余地を与えて頂きたく……へ……陛下? 」


 アハハハハハハ……

 国王陛下は腹を抱えて笑い出した。

 フローリア王妃も扇子を握り締めて笑っている。


「 ほんに王妃に聞いてた通りだな。その物怖じしない態度……余は益々ウォリウォール兄妹を気に入ったぞ 」

 こんなに笑ったのは初めてだと国王陛下は楽しそうだ。



「 まさかこんなに直ぐに断られるとは思わなんだわい。アルベルト殿、疲れも出ているのに来国早々に不躾なことを申した。許せよ。 」

 そう言って国王はアルベルトに片手を上げた。


「 まあ、もう1度良く考えて返事をして貰いたい。返事は今すぐにとは言わないぞ 」

 そう言って国王陛下は席を立ち、その後ろを扇子で口元を隠したフローリア王妃が続いた。


 フローリアはアンソニーとアルベルトを順に見やった。


 ロナウド陛下が言っていたとおりね。

 煩い兄妹だ事。


『 皇太子には煩いウォリウォールが2人も側にいる 』


 フローリアはクスクスと笑った。





 ***




 まさかのお兄様狙い。

 今度は国王陛下からアルにリズベット王女との結婚を迫られるのかと思いきや……


 アルが駄目ならお兄様って言う考えが許せない。

 そんな安易な気持ちでお兄様に結婚を申し込んで来る人達はお断りだわ。

 それが他国の王族だったとしても。



「 お前らな~肝が冷えたぞ 」

 アルベルトが眉根を揉みながら兄妹を見やった。


「 俺は断ったぞ! 」

「 断れるものなのか? 」

「 私も断ったわ! 」

「 陛下は聞き入れてはいなかったぞ 」


 皆でラウルの部屋に集まってミーティング中である。


「 ラウル様も遂に婚約かぁ 」

「 随分と若い婚約者だねぇ 」

「 どうだ? 婚姻を申し込まれる気分は? 」


 何だか愉快そうな顔をしているのはウォリウォール兄妹以外の3人。

 特に何時も女性関係で悩まされているアルベルトが嬉しそうで。



 冗談じゃ無い。

 今度は俺がロリコンだと言われちまうじゃないか!


「 何だラウル! 不敬だぞ! 」

 ラウルの心の中を読み取ったアルベルトは憤慨する。


 リズベットは15歳。

 21歳のラウルとは6歳違い。

 大人になった者同士の6歳違いは何の支障も無いが、流石にこの年齢での6歳違いは見た目も宜しくは無い。


 だから……

 リズベットと親し気にしていたアルベルトにロリコン疑惑の噂が上がったのだが。

 まあ、アルベルトの場合は、婚約者である童顔のレティと、2人の体格差も関係しているのだが。



「 アルならともかく、俺は王女なんかごめんだ 」

「 アルならともかく、王女なんて絶対に許しませんわ 」


 それがウォリウォール公爵兄妹の出した揺るぎ無い結論。


 王家に何を言われても断る事が出来る貴族。

 それがウォリウォール公爵家の血筋だ。

 自国であろうが他国であろうが。



「 俺ならともかくって何なんだよ!? 」

 アルベルトが憤慨している。


 本当に……

 自国皇太子に対しても容赦無い悪い兄妹なのである。




 ***




「 お兄様! 本当ですか? お父様が、リズとウォリウォール公爵令息との婚姻の話を仰ったと言う事は…… 」

 リズベットは、謁見の間で国王がラウルに婚姻の話を持ち掛けた事を侍女から聞いた。


 まだ国王から呼び出されてその話をされて無い事から、決定事項では無いのだろうが。


「 心配するな! この兄が絶対に阻止する! 」

 あんな礼儀のなってない公爵令息なんかにリズを降嫁させるなんて。

 父上も母上も一体何を考えているのか。


 そりゃあ……

 臣下としては心強い男だが。


 叔父上からはウォリウォール家は命懸けで進言してくる無くてはならない臣下だと言われた。

 私にもその様な臣下を持てと。



 兄はムカつくが……


「 本当に……父上の前でも一歩も引く事は無かった 」

 流石は自分と決闘をした令嬢だと、アンソニーは何だかレティが誇らしく感じた。

 レティとは『 皇子様ファンクラブ 』の仲間なのである。



「 ワタクシは構いませんわ 」

「 ………えっ?………リズは王族に嫁ぎたいのでは無いのか? 」

「 公爵家でも……お姉様の様に幸せになれるのなら 」

「 ………… 」

 アンソニーは複雑だった。


 即効断られたのだ。

 まさかリズベットが了解するとは思わなかったのである。



 リズベットとラウルとの婚姻の話は、シルフィード帝国から帰国したフローリア王妃から国王に進言された話。


「 ウォリウォール公爵家への降嫁は、他国の王族に嫁がせるよりも値打ちがありますわ 」


 ふむ……

 確かに。


 グランデル王国はシルフィード帝国よりは小国だが、もっと小さい国は世界には沢山ある。

 グランデルとしてはそんな小さな国と懇意になるよりは、シルフィード帝国の最大貴族であるウォリウォール公爵と懇意にする方が余程利益になる。


 そんな姑息な事を考えるのはグランデル王国の国力が弱いからで。


 シルフィード帝国は国力のある世界で最大の国家。

 世界各国の王族が、アルベルト皇太子殿下をどうしても諦め切れ無い理由がこれなのである。

 婚約者がただの貴族だと言う事もあって。


 これが……

 アルベルトとイニエスタ王国のアリアドネ王女の婚約ならば、これ程までに騒がしくは無いのだろうが。




「 ウォリウォール公爵はサハルーン帝国へも、今でも個人で支援物資を送っているそうだな 」

 サハルーン帝国に恩を売っているウォリウォール公爵。


「 ルーカスはそれ程の人物でしたわ 」

 フローリアは皇女時代はルーカスの事は良く知らなかった。

 宰相の息子だと言う事しか。

 この時の宰相こそが3国での政略結婚を成し遂げた人物なのだ。


 あの時は……

 どんなに恨んだ事かしら。

 王太子妃が既にいると言うのに王太子に嫁がされたのだ。

 いくら元王太子妃を側室にしたからと言って、彼女のプライドはズタズタだった。



「 確かに……弱小国に嫁がせるよりも良いかも知れない 」


 そう考える両陛下は、まだ自国の大臣達にも言って無い話を先にしてしまったのだ。

 完全に勇み足である。



「 リズがセリーヌみたいにならぬ様にと先走ってしまった たの…… 」


 第1王女セリーヌは……

 親の期待を見事に裏切り、学園時代に侯爵令息と恋愛をした後に結婚をして、その侯爵令息を公爵に格上げした事から今は公爵夫人である。


 だだ……

 その公爵がアンソニーの御代の宰相になる事は確実視されている事から、内々から国を支える為にはこれで良かったのかも知れないと今なら思えるのであった。



「 仕方無いですわね。リズも王族に嫁ぎたがっておりましたし 」

 まさかリズベットに心境の変化があるとも知らずに、国王はこの話を大臣達に改めて言う事は無く、幻の婚姻話となったのだった。



「 あら? ワタクシはかまわなくてよ? 公爵令息の愛があるなら 」



 公爵令息の愛は無かった。












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