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観音様からの……

 



 沿道の人々からの大歓声の中、御一行様はグランデルの王城に到着した。


 王城はシルフィード帝国の皇宮の半分位の規模だ。


 シルフィード帝国の宮殿の周りには大きな堀があり、宮殿に繋ぐ為の架けられた橋は皇都公園から続く1つの橋だけ。


 何時も皆が行き来している橋であり、軍事式典のパレードの時に、白馬に乗った皇子様や騎士達が行進してくる橋である。


 敵が皇都まで攻めて来たら……

 帝国民を皇宮に避難させた後に、橋上で騎士達が敵と戦うのである。

 大勢の敵が一気に攻めて来れない様にと考えられた鉄壁の守りの宮殿であった。


 まあ……

 シルフィード帝国の地が敵に攻め入れられた事は、建国以来1度も無い事だが。


 グランデル城は規模は小さいが、シルフィード宮殿と同じ仕様で堀と橋が架けられてあった。

 それはフローリア王妃がシルフィード宮殿を参考に造らせた堀と橋。

 国民には知られてはいない事だが。



 アンソニーが両陛下に挨拶をする為に、一同を謁見の間に案内しようとしている時に()()はやって来た。


「 アルベルト従兄妹様(おにいさま)!! 」


 声の主はリズベット王女。

 自分が乗っていた馬車から飛び降りるなり、アルベルト目指して駆けて来た。

 アルベルトが到着するのを、今か今かと馬車の中で待っていたのだ。


 アルベルトが振り向くと同時に彼の胸に飛び込んで来た。

「 うわっ!? 」


「 お会いしたかったですわ! 港までお出迎えに行きたかったのに、学園があるから駄目だとお母様に言われたの! 」

 学園が終わって直ぐに帰って来たのよとアルベルトの逞しい胸に腕を回して抱き付いている。


「 リズ! 見苦しいぞ! ちゃんとアルベルト殿に挨拶をしなさい! 」

 アンソニーがリズベットをベリッと剥がした。

 何だか悔しそうな顔をしたのは気のせいか。



 アルベルトはリズベットの前で腰を折り、手の甲にキスをした。

 とたんにリズベットは真っ赤になる。


「 久し振りだね。元気にしてたか? 学生服が良く似合うよ 」

「 アルベルト従兄妹様(おにいさま)! お久し振りです。リズは15歳になりましたのよ 」

 グリーンの学生服を着たリズベットが、スカートの裾を持ちピョコンとお辞儀をした。


 可愛らしいですわ。(←レティの心の声)



「 皆様も長旅お疲れ様。宮殿でゆっくりと休んで下さいね 」

 リズベットは事の成り行きを見ている皆にそう言うと……

 クルリと制服のスカートを翻して、アルベルトの腕に手を回した。


「 お父様とお母様がお待ちですわ。リズが謁見の間までご案内します! 」


 えっと……

 アルベルトは咄嗟にレティを見た。

 この手は振り払った方が良いんだよなと。


 しかし……

 レティは後光の差した観音様みたいな顔をしていた。


「 !? 」

 何か怖いんだけれども……



 サハルーン帝国で妖艶な女達とバトッて来たばかり。

 あっちの皇女は、それはもう乳牛の様な胸をタワタワさせながら、アルベルトの部屋に夜這いに来ていたのだ。


 まあ、可愛らしいニャンコちゃんだこと。

 学生服が眩しいですわ。


 レティはコクンと頷いて、レティの方を見ているアルベルトに、リズベットと一緒に行く様にと促した。

 観音様の様な顔で。



 アルベルトは取りあえずはリズベットから絡められた腕を剥がして、手を差し出してエスコートの形をとった。


「 可愛い従兄妹殿、お手をどうぞ 」

「 まあ! 喜んで 」

 リズベットは真っ赤になってアルベルトの手に手を乗せた。

 淑女扱いされて嬉しいのだ。


 毎日の様にアルベルトと顔を合わせているレティでさえも……

 皇子様然とした事をアルベルトにされたら、未だにドキドキするのだから。



「 では……リティエラ嬢は私が案内しよう 」

 観音様レティはアンソニーにエスコートされて、アルベルトとリズベットの後を続く。


 丁度良かったわ。


 レティはアンソニーと重要なミーティングをしなければならないのだ。


「 アンソニー王太子殿下。会報誌を持って参りましたわ 」

「 本当か!? 前の会報誌から随分と日にちが経ったから、もう除名されたのかと思っていたよ 」


 レティの所属する『 皇子様ファンクラブ 』では、アンソニーは今でも名誉総裁として在籍中で、時折レティから送られてくる会報誌を楽しみにしているのである。


 勿論、学園を卒業しているレティもまだ名誉会員として活動中である。


 そもそも、部外者である他国の王太子が入会しているのに、卒業したからと言って会員ナンバー5番が辞める必要は無いのだと、会員ナンバー1番から4番は考えた。


 要は……

 レティが持ち込むレアな皇子様を拝めるので、会員ナンバー5番を手放したく無いのだ。

 喪女達はしたたかであった。




「 そうか……この国には王太子だけでは無く、あの王女もいるんだ 」

 アルベルトと歩くリズベットを見ながら、ラウルは眉をグシグシと揉んだ。


「 また、面倒な事にならなければ良いが 」

「 この王女はアルの従兄妹なだけに厄介だよな 」


 シルフィード帝国ではその従兄妹を大事にし過ぎて、皇子様のロリコン疑惑の噂が流れたのだ。

 レティとアンソニーの決闘騒ぎで噂は直ぐに立ち消えていたが。


 観音様の様なレティを見ながら……

 この国ではどうやってアルを守るんだろうかと、ちょっとワクワクした兄達であった。


 

「 それにしても……王太子と仲が良さそうだな? 」

「 今や戦友だと言っていたが 」

「 剣を交えた後は友情が目覚めると言うぞ! 」


 レティとアンソニーは楽し気にヒソヒソとやっている。

 後姿も素敵だわと。

 前を歩く皇子様を堪能している2人である。




 ***




 普通の顔だわ。

 グランデル国王の顔を見るなりレティはそう思った。


 グランデル国王の顔は王族には珍しく普通の顔だった。

 どの国の皇族や王族はかなりの美形。

 何故なら……

 王族は選り取り見取りの選べる立場にいるからで。


 国王の横にフローリア王妃が並ぶと更に普通の顔になる。


 フローリア王妃は超美形なシルフィード家の皇女である。

 この普通の顔の国王が王太子時代に、輿入れして来たフローリア皇女に一目惚れをしたと言う話は頷けるのだった。



「 アルベルト殿。遥々ようこそ。昨年は王妃や王太子が世話になった 」

「 お初にお目に掛かります。シルフィード帝国皇太子アルベルト・フォン・ラ・シルフィードでございます。陛下にお会い出来ました事を嬉しく存じます 」


「 アルベルト殿、やっと結婚の日取りが決まり、ロナウド皇帝陛下もさぞやお喜びの事でしょうね 」

「 はい、やっと父母に安心させてあげる事が出来ました 」



 そして……

 国王がレティを見やった。

「 アルベルト殿、紹介してくれるかの? この美しい令嬢を 」

「 はい。彼女がリティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢。私の婚約者でございます 」


「 お初にお目に掛かります。リティエラ・ラ・ウォリウォールでこざいます 」

「 王太子と決闘をした勇敢な婚約者とは思えない位に可憐な令嬢で驚いたぞ 」


「 はい。あの時は……出過ぎた真似を致してしまいました事をお詫び致します 」

「 構わん構わん。王妃もそなたを応援したと申していたぞ 」

「 そうですわ。力の限り応援しましたもの 」



 コホンコホンとアンソニー王太子が咳をすると、チラリとアンソニーを見やった国王は、余も見たかったと顔をくしゃりとして笑った。


 あら?

 アンソニー王太子殿下もリズベット王女も国王陛下には似てないわね。

 この2人は完全に王妃様似だわ。



 そして……

 ラウル、エドガー、レオナルドに声を掛けて、挨拶も終了すると思いきや……


 国王陛下はゆっくりとラウルを見た。


「 ラウル殿。折り入って話があるのだが 」

「 はい? 」

 ラウルは姿勢を正して国王の顔を見た。


 何だろう?

 親父の事かな?


 襟を正して真剣な顔をして立っているラウルは本当に凛々しい公爵令息。


 亜麻色の柔らかそうな髪に紫の瞳。

 レティよりは眼光は鋭いが……

 2人っきりでいても直ぐに兄妹だと分かる程に2人は良く似た兄妹である。


 シルフィード帝国の公爵令息。

 皇太子殿下の親友で、将来は宰相になると決められたエリート中のエリートだ。

 帝国内の令嬢だけで無く、他国の令嬢達からも釣書が届く様になった昨今である。



「 単刀直入に申す。そなた……うちの末姫……リズベットを娶ってはくれまいか? 」

「 ……… 」


 会場がシーンとした。


「 ??? 今なんと仰いましたか? 」

 鳩が豆鉄砲を食らった顔をしたラウルが目をパチパチと瞬きした。


「 我が国の王女のリズベットと結婚をして貰えないだろうか? 」

「 誰が? 」

「 そなたが 」

「 ………… 」


 ニコニコと笑う普通の顔立ちの国王の横で……

 フローリア王妃が扇子を広げて口元を隠した。



「 はぁ!? 」


 大声ですっとんきょうな声を出したのはレティだった。



「 絶対に駄目ですわ!! 」


 レティは観音様の顔から般若の顔になっていた。











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