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グランデル王国へ

 




 サハルーン帝国からグランデル王国へは北に向かって進み、隣国だと言ってもスピードの出る軍船でも3日はかかる。


 サハルーン帝国とグランデル王国との陸地ルートは、シルフィード帝国とミレニアム公国の境界線の様に、間には巨大な山脈がある。

 サハルーン帝国の水はこの山脈から湧き出る水が命の水となっている。


 この巨大な山脈が無ければ、グランデル王国はサハルーン帝国に疾の昔に侵略されていた事だろう。



 グランデルに近付いて来ると幾分か涼しくなった様で、甲板に出やすくなっていた。


 グランデル王国。

 シルフィード帝国の皇女が嫁いで来た国。

 ロナウド皇帝陛下の姉フローリア王妃のいる国である。


 当然ながらアンソニー王太子殿下のいる国。

 レティの因縁の相手アンソニー王太子。

 彼は昨年の軍事式典で、レティと決闘をした王太子なのである。



「 わたしは船に残るわ! 」

「 レティ? そんな事出来る訳無いだろ? 」

 寄港を明日に控えてレティは弱気になっていた。


 そもそも今回の目的はサハルーン帝国への訪問。

 アルベルトからサハルーン帝国に行く事を聞かされた時は飛び上がって喜んだ。


 ドラゴンの事も聞きたいし、シルフィード帝国よりも進んでいる医療の事も、ポーションを作った薬師達にも話を聞きたい。

 そして……

 デザイナーとして、洋裁店のオーナーとして絹の生産を学びたかった。


 ただ残念な事に……

 国としての諸事情の為に、ポーションを作った薬師達とは会うことは叶わなかったが。



 グランデル王国に立ち寄る事は必然的で。

 サハルーン帝国にまで行っているのに、隣国であるグランデル王国と、そのまた隣国であるシルビア皇后陛下の母国マケドリア王国に立ち寄らない訳にはいかない。


 どちらの国もシルフィード帝国の重要な同盟国で、何よりもアルベルト皇太子殿下の親戚のいる国なのだから。


 ルーカスからこの事を伝えられたレティは固まった。

 皇后陛下の母国への訪問は構わない。

 問題はグランデル王国なのである。



 どの国も王族の人気は絶大である。

 王子や王女が誕生した時から、国民が慈しみ敬いながらその成長を楽しみにしている。


 とくに第1王子。

 やがて王太子となり将来国王になる王子には、国民が特別の思い入れがあるのは当然で。

 アルベルト皇子を見れば分かる様に……

 王太子の国民からの人気は特別なものなのである。



 その王太子がシルフィード帝国に外遊中に貴族令嬢に決闘を申し込まれ……

 その令嬢に負けてしまったのだ。


 アンソニー王太子に妾になれと言われた事には腹が立ったが。

 国の安寧を願わなければならない王室の王太子としては、当然の事だったのかと今なら思える。


 グランデル王国は小さい国。

 大国シルフィード帝国との絆を確固たる物にしたいと願っての言葉だったのだろうと。


 それに……

 ロナウド皇帝とフローリア王妃の姉弟に乗せられてしまった感が否めない。

 決闘なんて、この2人が止めれば簡単に止める事が出来たのだ。


「 負ければ良かった…… 」

 何で勝っちゃったんだろう。


 そう。

 帝国民にも乗せられた感がある。

 あれ程の盛り上がりを見せた応援をされたら勝たない訳にはいかない。


 ルーカスには……

「 自分で巻いた種なんだからきちんと後始末をして来なさい 」

 ……と、発破を掛けられたのだが。


 要は、自分のケツは自分で拭けと言う事である。



 叱られた仔犬の様に悄気るレティにアルベルトはクスリと笑う。


「 大丈夫だよ。可愛らしいレティを見たら、皆が一目で君に恋をするよ 」

 アルベルトが膝の上に乗せているレティの顔にチュッチュッとキスをして来る。

 ただ今レティの部屋でデート中なので。


 憎たらしい。

 私はあんたとは違うのよとレティはアルベルトの両頬をウニっと捻り上げた。


「 痛いよ、レティ…… 」


 皇太子殿下にこんな事をするのはレティだけである。




 ***




 シルフィード帝国の軍船はグランデル王国の港に着岸した。

 その巨大さと重厚差はグランデルの人々を驚かせ、そして歓喜させた。


 グランデル王国は常に隣国サハルーン帝国の驚異にさらされていた。

 シルフィード帝国との関係を強化する為に、シルフィード帝国の皇女を輿入れさせ、元からいた皇太子妃を側妃にしてまでも同盟を結びたかったと言う事は、国民も知ってる所である。



 シルフィード帝国はこんな巨大な軍船を持ってる凄い国なのだと改めて歓喜したのだった。

 その帝国の皇女がこの国の王妃。

 当時は批判もしたが……

 弱小国であるこの国を守る為に、前国王のした事は間違い無かったのだと。


 反対に……

 よくぞこの小さな国に大国の皇女様が嫁いで来てくれたもんだと、フローリア王妃の好感度が上がった。


 アルベルト皇太子殿下のグランデル王国への来国は、この事からも成功だったと言える。

 当時色々とあった皇女の結婚に、色んな意味で国民達の意識を変えたのだった。




「 行くぞ! レティ 」

「 はい 」


 何時もの様に気合いを入れる。

 レティは、もしかしたら石を投げられるかも知れないと思いながらアルベルトと甲板に立った。


 船上から見る港はどの国にも特徴がある。

 グランデル王国の港は小さい港だった。

 ……と言ってもミレニアム公国程には小さくは無いが。


 サハルーン帝国もドラゴンの襲撃が無ければ、大きな港だったのだろうと胸が痛かった。

 反対にドラゴンの襲撃が無ければ、両国の皇太子が行き来する事は無かったのだろうが。



 こうして見れば……

 シルフィード帝国がいかに大国なのだと言う事がわかる。

 交易の盛んなシルフィードの港は、倉庫が建ち並び沢山の外国の人々が行き交う港なのである。


『 歓迎! アルベルト皇太子殿下 』

 あちこちにアルベルトを歓迎する横断幕が掲げられていた。


 これは来国したどの国も同じで、姿を現したアルベルトにどよめきと歓声が上がる。

 黄色い悲鳴やピンクの声が上がるのも同じだ。


 外交をするにあたり、この皇子の美丈夫振りはある意味戦力なんだわとレティは思った。

 女性達からの夜這いさえされなければ。



 サハルーン帝国の肉食女達は激しかった。

 皇女達が張り切っていたから出番はなかったが……

 皇帝陛下の側室達もやって来る可能性も十二分にあった程に。


 バトルをやるなら……

 皇帝陛下の側室達の方がやりがいがあったのかもとは思うが。

 そこは外交上宜しくない。



 そんな事を考えていると……

 どうやら騎士達の安全確認が終わった様で。


 グレイや騎士達の姿がグランデルの港にあった。

 絶大的な安心感で他国の地に降りられるのは彼等がいるからである。


 レティはふぅぅっと息を吐いた。


「 レティ、おいで 」

 アルベルトの優しいエスコートでタラップを降りる。


 やはり……

 緊張しているのか、レティはタラップで躓いて前につんのめって転びそうになった。


「 きゃっ! 」

 少し先を歩いていたアルベルトが直ぐにレティを抱き抱えた。


「 大丈夫か? 」

「 ………有り難う 」

 恥ずかしくて真っ赤になったレティをアルベルトは抱き上げた。


 キャーキャーと歓声や悲鳴が聞こえる。


 アルベルトはレティを片腕で抱いたままに、片手を上げてタラップを降りて行く。

 レティはアルベルトの首に手を回して恥ずかしそうに顔を埋めた。



 港には当然ながらアンソニー王太子が出迎えに来ていた。

 皇族や王族の来国には、敬意を表して皇太子や王太子が自ら出迎えに行く事は当然の事で。

 それがまた彼等の仕事なのである。


「 お久し振りですアンソニー殿 」

「 ようこそ我がグランデルへ。相変わらず仲の良ろしい事で……妬いてしまいますね 」

「 私の大事な婚約者だからね 」

 結婚式の日取りも決まり直に招待状が届くだろうから、是非王太子妃と参加してくれる様にと言う。


「 勿論、行かせて貰うよ 」

 そう言ったアンソニー王太子の顔がどことなく暗かったのが気にかかる。



 次にアンソニーはレティの前に立った。

 周りの者に緊張が走る。


「 この可愛らしい令嬢が…… 」

「 アンソニー王太子と決闘をしたのか? 」

「 もっとごっつい令嬢だと思っていたぞ 」


 しかし……

 2人は目を合わせた瞬間に握手をした。

 2人は戦友になっていた。


 アルベルトがクックッと笑うと……

 慌ててアンソニーはレティの手の甲にキスをした。


「 ようこそ我が国へ。リティエラ嬢は相変わらず可憐で美しい 」

「 お久し振りです。また、お会い出来て嬉しいですわ 」

 レティはドレスの裾を持ちカーテシーをした。



 戦った2人は戦友の気持ちを持っていたが。

 未だに気持ちが収まらないのはラウルだ。


 自分の目の前で妹がバカにされたのだ。

 強いてはウォリウォール家をバカにされたのだと怒りは収まらない。


 一触即発の2人の握手に火花が散る。

 アンソニーも同じだ。

 王太子の自分に対して、不敬な態度のラウルに怒り心頭なのだ。

 それに……

 今回はそれだけが原因では無かったが。



 レティはそれ所では無い。

 出迎えに来ていた、要人達、騎士達から、まるで客寄せパンダの様にジロジロと見られていた。

 レティとは視線を合わせずに。


 視線が合ったら決闘を申し込まれるんじゃないかと。

 レティが目を合わせてニッコリと挨拶をしようとしたら、露骨に目を反らされるのだった。


 やっぱり……

 嫌われているのだわ。



 その時……

 アルベルトはレティを抱き寄せた。


「 !? ちょっと! アル? 」

「 良いから 」


 そして……

 レティの頬にチュッとキスをした。

 愛しくてたまらないと言う風に。

 いや、実際に愛しくてたまらないのだが。


 周りから歓声と黄色い声が上がる。



「 まあ! 皇太子殿下が婚約者を寵愛してるのは本当だったのだわ 」

「 これでは、リズベット王女様の入る余地はありませんわね 」


 アルベルトの寵愛こそがレティの地位を高める事になる。

 仲睦まじい2人を見て皆は目を細めるのだった。



 自分の安易な行動で……

 従兄妹であるリズベット王女との、婚姻の話まで持ち上がったのは昨年の事。


 そのせいでレティが……

 リズベットの兄王子である王太子から俺の妾になれとまで言われた。

 シルフィード帝国には側室制度が廃止された事がその理由なのだが。


 レティの為に側室制度の廃止をしたと言うのに。



 グランデル国王が、我が国との更なる強い関係を求めているのは確かな事で。

 それは……

 王妃である叔母上を里帰りさせた事から見ても明らかだ。

 なので……

 リズベット王女との婚姻を勧めて来るのは予想出来る事。


 レティとの結婚式の日取りも正式に発表したと言うのにと、アルベルトは1つ溜め息を吐いた。

 サハルーン帝国でも皇帝陛下から皇女を勧められた事から、アルベルトはうんざりしていたのだった。



 アルベルトは馬車に乗り込む前に……

 もう1度レティの頭にキスをした。


 キャーっと悲鳴が上がるのを背中で聞きながら、2人は船から降ろされた皇太子専用馬車に乗り込んだ。


「 他所の国なのに……これはちょっとやり過ぎじゃない? 」

「 良いんだよ。俺はレティのもので、レティは俺のものだと知らしめたいんだから 」

 唇にキスをすれば良かったかなとレティの顔を覗き込んで来た。


「 それは嫌よ! 」

 レティはプイっと横を向く。

 その怒った顔がまた可愛らしいと、アルベルトはレティの頬にキスをした。


 他人に見られていようがいまいが、常にイチャイチャしている2人は……

 ただ今、甘い甘い婚約期間中である。



 馬車はグランデルの王城に向かって走り出した。










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