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繋がる点と点

 



『 魅了 』


 魅了と聞けば……

 ここにいるシルフィード帝国の皆の心が凍り付く。


 ナレアニア王国での騒動は、勿論ジャファル達も知っていた。

 王太子が廃太子になった程の出来事だったからで。


 しかし……

 それが魅了の魔術師兄妹の所業だった事は知らない。


 王太子が公爵令嬢と婚約破棄をして、平民の娘と結婚をすると言い出した事の騒動だと言う認識だ。


 後に……

 王太子の異常や貴族達の異常の全てが魅了の魔術師兄妹の所業だったと言う事が、シルフィード帝国皇帝からナレアニア国王に知らされたが……

 その時は既に騒動が終息していた事から、これ以上の国の混乱を避ける為に公になる事も無く伏せられたのだった。



「 そうか……魅了の魔術師の2人を処刑したのか…… 」

 魅了の魔術師については、捕らえたら直ぐに処刑をする事が鉄則とされている事はジャファルも知っている事である。


 いくらでも人の心を操れる彼等なのだ。

 監守を操り牢屋から脱獄するのは容易い事であり、その報復として取り調べ官や宰相達を操り、国王をも暗殺しようとした魔術師もいるのだから。



「 しかし……よく捕らえる事が出来たな? 」

 魅了の魔術師は文字通りに魅了の魔術をかける事から、捕らえる事が困難。


「 どうやって捕らえたのだ? 」

 参考にしたいから教えてくれとジャファルが言う。


「 ……いや、……その…… 」

 魅了の魔術師の妹に色仕掛けをして迫った事は言えない。

 ここにはレティがいるのだから。


 口ごもるアルベルトだが……

 皆も青い顔をしている。


 魅了の魔術にかかったのは何もラウルだけでは無い。

 毎夜ラウルの店に歌姫アイリーンといたからラウルが酷かっただけで、エドガーもレオナルドも魅了にかかっていたのだ。


 彼等も、恋の始まりだとして……

 アイリーンに焦がれていたのだから。



 そんな彼等の様子を見て、ジャファルは余程の事があったのだと推測した。

 魅了の魔術師はそれ程までにやっかいな存在なのだと改めて認識した。


「 それは……また別の機会に…… 」

 アルベルトはそう言って、最近にあったレティの襲撃事件の事を話した。



 ミレニアム公国から来た1人の少女が、占い師に操られてレティに危害を加えようとした事件があった事を。


「 何故その少女がリティエラ嬢を狙った? 」

「 それは…… 」

 これもやはりアルベルト絡みであるのが痛い所だ。



「 グレイ班長が1人で強盗の30人をやっつけたんだから! 」

 増えていた。

 賊の人数が12人から30人に。

 グレイはレティの尊敬する師匠だ。

 鼻息も荒く自慢する。


「 それでね。馬車から飛び降りた時に3回転して……シュタッて決まったの 」

 レティは着地の姿勢に妙に拘る女の様だ。


 時々レティの武勇伝の話が横入りして来たが。

 話終えた時には……

 やはり全てが繋がっている様な気がしてならなかった。



「 占い師…… 」

 初めて()がその存在を現したのである。


「 そのネックレスの魔石には魅了の魔力が融合されてたのか? 」

「 我が国の魔力研究者の調べでは、今まで存在しなかった魔力を感じると言うのだ 」


 皆はアルベルトとジャファルの会話を静かに聞いている。

 今、アルベルトの話す事は、ラウル達3人にとっても初めて聞かされる事なのである。



 魔力使いは他の魔力使いの魔力を感じ取る事が出来る。

 ルーピンの調べによると……

 感じた事の無い魔力だと判明していた。


 勿論、雷の魔力使いであるアルベルトも、その魔石には何らかの魔力を感じ取っていた。


「 ワタクシノオウジサマナノニ 」

 彼女にこの呪文を言わせ実験したが、この魔石には効力が無くなっていた事が悔しい所である。



 今、世界で確認されている魔力使いの魔力は、光、炎、水、風、雷、そして……聖女の持つ浄化だ。


 この浄化の魔力だけは魔獣を浄化する特別な魔力であり、その魔力使いが100年に1度位しか現れ無い事から、浄化の魔力使いを聖女と呼んでいる。



「 魅了の魔力使いがいるというのか? 」

 皆は青ざめた。

 もしも存在するとしたら……

 これは世界的に大変な事になるのだと。


 魔力使いの情報は国の宝であり、戦力にもなる事からトップシークレットだ。

 どの国に魔力使いがどれだけいるのかは知らされてはいない。


 アルベルトが雷の魔力使いだと発表されたのは、皇子が魔力を持っている事で戦争の抑止力になると考えられたからであった。


 アルベルトも……

 抑止力になるのならばと公表を許した訳で。

 皇族である彼は率先して政治の道具になるのだった。

 皇族に生まれた責務として。



「 魅了は魔術では無いのか? 」

「 いや……魔術も存在をすると言う事は間違い無い 」

 ジャファルの問いにアルベルトが答えた。


 魅了の魔術に関しては……

 捕まえたら直ぐに処刑をする事が鉄則なので、悲しいかな詳細は分かってはいない。


 しかし……

 あの兄妹からは魔力は感じられ無かった事から、彼等は魔力使いでは無い。

 魅了の魔術師は確かに存在しているのだ。



「 あの魅了の魔術師は声で魅了するのだと思うわ。兄は役者で妹は歌手だったから……いや……でも……兄は不自然に私を見つめてきたから、あの兄妹は瞳で魅了する事も出来たのかもね 」


 レティの話に皆がギョッとする。

 アルベルトも知らなかった事である。


「 兄にみつめられてレティは何とも無かったの? 」

「 ええ……全然 」

 だって……

 アルの方が断然格好良いんですものと、レティが照れた顔をして言う。

 ウフフと恥ずかしそうにアルベルトを上目遣いで見ながら。


「 レティ…… 」

 可愛い事を言うレティに胸がキュンとする。

 甘い甘い顔で……

 アルベルトがレティにキスする寸前で、レティの横に座っているラウルにベリっと剥がされた。


「 魅了の魔術が効かないのはアルだけでは無かったのか…… 」

「 こいつらスゲーな 」

 エドガーとレオナルドがテーブルを叩いて笑う。



「 魅了の術をかけるには道具もある 」

「 道具もあるの? 」

 ジャック・ハルビンは世界中を飛び回っている事から、その存在を知っている。


「 それは……香水だ 」

「 香水……… 」


 確か……

 魅了の兄妹を捕まえた後……

 アルに抱き締められた時にアイリーンの香水の香りがした。


 アイリーンの香水は普通の香水の香りでは無い独特の香り。

 決して良い匂いの香りでは無い事を記憶している。

 まあ、香水の香りの好みは人それぞれなんだけれども。

 どのブランドでも無い香水だった。


 そう。

 レティは1度目の人生ではお洒落番長の異名を持つ程に、あらゆるお洒落を追求した。

 それこそ香水は嗅ぐだけでその香水の名前が分かる程に。



「 あの時……アルから魅了の妹の香水の香りがしたわ! 」

「 !? 」

 レティがその時の話をすると……

 とたんに皆が青くなる。

 また、あの話をするのかと。


「 だから……アルベルト殿からどうして魅了の妹の香水の香りがしたのか? 」

 ジャファルの問いに……


「 いや……その…… 」

「 それはね…… 」

 またしても口ごもるアルベルトだったが、なんとレティが、あの時の様子を説明し出した。


 ラウル達も、色仕掛けで落としに入ったとは聞いていたが、詳しい事は聞かされてはいない。

 この事件はシルフィード帝国ではトップシークレット扱いの独特な事件だった事なので。



「 レティ…… 」

 アルベルトは両手で顔を覆っていた。


 レティがどんな風にそれを見ていたのかも……

 改めて知る事になり胸が痛くなった。



「 男の容疑者を、雇った女で色仕掛けで自白させる事は昔から取られている手法だが……女を男が色仕掛けで落とすのは聞いた事が無いな 」


 ジャック・ハルビンはそう言いながらもアルベルトを見て納得をする。

 成る程……美丈夫な殿下ならではの策略だなと言って。


「 ほほう……色仕掛けねぇ……他の女に迫っている所を自分の女に見られたんだ…… 」

 参考にさせて貰うよとジャファルはニヤリと笑い、顎を撫でたのだった。



 結局……

 この場では答えは出なかったが。


 誰かの策略で、帝国を弱体化させようとしていた事は確かな様だと言う結論に至った。


 誰かがいると言う事は……

 これからも仕掛けて来るのだ。


 最優先に調べなければならないのはその誰かの正体。

 これからも情報を交換する事を約束した両国の皇太子達であった。


 これから先、2人の皇太子の間を行き来する事になるジャック・ハルビンの役割が大きくなる事だろう。



 動き出した未來。

 レティの1度目の人生では無かったジャック・ハルビンとの深い関わり。


 ジャック・ハルビンから渡されたあの包みの正体が分かる時には、この点と点が1本の線になるのかも知れない。


 レティは……

 帝国の2人の皇太子が握手をしている姿に胸を踊らせていた。





 ***




「 レティ…… 」

 アルベルトがレティの背後から抱き締めている。


「 アル! 暑いわ……もういい加減離してよ 」


 ここは船の甲板の上。

 朝早くサハルーン帝国の港を発って、皇太子殿下御一行様を乗せた船は、次に立ち寄るグランデル王国に向かっている所である。



 この日は朝からずっとアルの様子がおかしいのよね。

 出立のセレモニーの間中視線が合わないのを不思議に思っていたら、視線が合うと悲しそうな顔をして……


 やっと2人だけになったからその理由を聞こうとした所、後ろから抱き締めて来たのである。

 そして……

 何も言わないままでずっとレティの後ろから抱き締めているのだ。


「 どうしたの? 何かあったの?」

 それでもアルベルトは黙ったまま何も言わないで、レティの頭に頬を寄せたままでいる。


「 アル? 」

 レティが逃れ様としても、逞しい腕でガッツリと抱え困れては小さなレティは身動きさえ取れない。


 兎に角暑いのよ!

 いい加減にしてよとキレる寸前に、アルベルトが泣きそうな声で囁いた。


「 僕の事を嫌いになって無い? 」

「 どうして? 」

「 魅了の魔術師の妹に…… 」

 それを言うとアルベルトはまた黙ってしまい、レティの肩にコツンと頭を付けて更にぎゅうぎゅう抱き締めた。


 昨夜の事を気にしてるの?

 いや、あの時の事を気にしているのね。


「 あれは……陛下の命令だったから仕方無いわよ。お父様の策略なんでしょ? 」

 お父様も殿下を恨んじゃいけないって言ってらしたわ。


 それに……

 来ちゃいけないって言われていたのに……

 勝手に行ったのは私が悪いんだからとレティは言う。


「 見たく無かったよね 」

「 ……当たり前でしょ!自分の婚約者が他の女に迫っている所を誰が見たいのよ? 」

 ……と、レティが声を荒げる。


「 ごめん…… 」



 あの事件の事は誰も語る事は無かった。

 勿論2人の間で話す事も無かった。


 あの時……

 あの場にいたのはアルベルトに迫られているアイリーンと、彼女に密着をして口付けをしようとしているアルベルトと、部屋に突入して来たレティだけだったのだから。


 陛下やルーカスや騎士達は部屋の外で待機中であった。



「 アルがね、アイリーンを壁に押し付けていて……彼女の手を上で持って……足を彼女の足の間に入れて……彼女の顎を持って……キスをしようとしていたの 」

 ハッキリと覚えている。


 震える声で話すレティ。

 アルベルトはそんな具体的な事を話すのを止めさせようとしたが……

 ラウルに止められた。


「 アル……これはレティのトラウマになるから、良い機会だから全部話させた方が良い。辛い事や悲しい事は吐き出させた方が良いに決まってる 」

「 ………… 」

 アルベルトは両手で顔を覆った。


 ラウルは将来の宰相として心理学を学んでいた。

 司法の無いシルフィード帝国では宰相が刑罰司る事から。



 そんな事があって……

 アルベルトはレティに合わせる顔が無かった。


 はっきり言ってアルベルトは、女性が抱き付いて来たとしても何も感じる事は無い。

 だから……

 いくらでもああいった事は容易に出来るのである。

 国の為にと言われたら……

 また同じ事が出来る覚悟もある。


 それは……

 幼い頃のあの事件のトラウマからだと言う事は、封印された記憶なのでアルベルト自身さえ知らない事。



 例えレティに見られたとしても……

 仕方の無かった事だと割り切っていられたが。


 あの時の事を話すレティの悲しそうな顔を見ると……

 心が痛くて仕方無いのだ。



「 もしかして……キスを……したの? 」

「 して無い! 彼女から言質を引き出す為にキスをするフリをしただけだ!」

 レティは少しホッとした。


 そして……

 アルベルトはレティが一番喜ぶ言葉を言う。


「 レティが乗り込んで来てくれたから、嫌な任務が早く終わったんだ。レティは僕を守ってくれる最大の騎士だよ 」


 抱き締めながら耳元で優しく囁くと……

 レティは嬉しそうに俯いた。












読んで頂き有り難うございます。

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