レティ、悪役令嬢になる
「 それはワタクシですわ 」
甲高い声が食堂に鳴り響いた
「 アルベルト皇太子殿下と、オペラをご一緒したのはワタクシ 」
食堂の全員の視線が彼女に集まる。
「 殿下はワタクシの手を取り、優しくエスコートして下さいましたわ 」
「 本当に夢の様な時間でしたわ 」
あの時、アルベルトの横にいた黄色い令嬢は、前に食堂でレティにやり込められた令嬢だったのだ。
あの時、やり込められた腹いせをしたかったのだろう。
いきなりレティに絡みだしたのだ。
これは厄介な事になった。
相手が男なら、締め上げれば済むだけの話なんだが
女性だとそうはいかない………
弱ったなとラウル達と話していた。
お前、何でこんな女と………
皇后命令だったんだよ、
………とヒソヒソしていたら………
「 オーホホホ、お黙りなさい 」
いきなりレティが腰に手を当て、手には扇子を広げて仁王立ちになった。
彼女が持ってる扇子は、金に紫の刺繍に赤の羽がついたド派手なものだった。
輸入雑貨屋で買ったからどうしても使ってみたかったらしい。
「 オーホホホ、貴女ごときが何を偉そうにほざいてございますのよ 」
………台詞が何やら怪しい。
そうなのだ、彼女こそが
我が国、筆頭貴族である、ウォリウォール公爵家の令嬢なのである。
皇族に次ぐ、最高位貴族令嬢の頂点である。
この台詞はレティが言ってこその台詞だ。
そう言えば
アルベルトが入学した頃は
上級生のお姉さま方がアルベルトを巡り、しょっちゅう繰り広げられてた光景だった。
あの時は心底うざかったが、レティがやると可愛い。
「 オーホホホ、」
パチンと扇を閉じ
「 では、失礼しますわ 」
………あっ、いきなり終わった。
ブっ…………
アルベルトは吹き出し、腹を抱えて笑いだした。
ラウル達が可愛い可愛いと頭を撫で回していた。
もう1回やれとラウルが言うと
「 オーホホホ、そこへおなりなさい 」
「 オーホホホ、ワタクシの前にひれ伏しなさい 」
台詞が違う方向へ………
レティは悪役令嬢が気に入った。
同じクラスの生徒からもリクエストが上がったのか、レティはそちらに向かい、扇をパチンと閉じて
「 オーホホホ、5時限目の用意は出来て? 」
………と、授業を心配する、良い悪役令嬢になっていた。
その時庶民棟から
「 あの扇はうちの店でリティエラ様が買われたものよ 」
そうスーザンが叫ぶと(←流石商売人の娘)
レティは彼女の方に扇子を差し
「 オーホホホ、素敵な店でしたわ、皆様お買い物に行ってあげて下さいませ 」
………と、もう『オーホホホ』を言いたいだけとなっていた。
勿論、
あの噂の令嬢が皇太子妃候補かも知れない………
………の、噂は立ち消えた。




