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レティの怒り

 




「 アル! 私を馬車の上に乗せて! 」

 矢を射るには高台からの方が良いのだとレティが言う。

 私の背も低いしねと肩を竦めながら。


 こんな時でも可愛い。


「 分かった 」


 地面にいたら賊が襲ってくるかも知れない。

 勿論俺が守ってみせるが万が一の事を考えて。


 アルベルトがレティを自分の肩に担ぎ上げると、レティはうんしょとばかりに馬車の上によじ登った。


「 うわぁ! 高い! 」



 上から見渡せば……

 グレイが1人で次々に賊を倒していた。


「 グレイ班長凄い……流石私のお師匠様だわ 」

「 この程度の賊位はグレイなら赤子の手を捻るよりも容易く倒せるよ 」

 グレイはレティの自慢の師匠だが、アルベルトの自慢の臣下である。

 騎士団随一の剣の腕前を誇る騎士なのだから。



 その時……

 後ろの馬車の窓からユーリが叫んだ。

「 敵がこっちに来たー! 」

「 彼女が狙われているーっ! 」

 御者達も叫ぶ!


 レティが後ろを振り返れば……

 男が剣を振り上げてエレナの方に迫って来ていた。


 レティはギリリと弓矢を構える。


 エレナは足が竦んで動けないみたいだ。

 アルベルトがエレナに向かって走り出した。


 シュッ!!!

 レティは矢を放った。


「ウワァァッ!!!」

 見事に剣を持っている手首を掠め、その衝撃で剣を弾き飛ばした。

 男が怯んだ時にアルベルトが男を蹴り上げ取り押さえた。




 ***




 グレイに倒され、呻く襲撃犯達をグレイとエドガーが拘束している時……

 少し離れた場所の木の陰に、黒いマントを着た者がいることにレティが気が付いた。


 頭からスッポリとフード被っていて顔は見えない上に、半分木に隠れているので、レティの場所からは男か女なのかも分からなかった。


「 賊の仲間? 」


 じっと見ていると何か一点を凝視している様だ。

 その視線の先を見やると……

 その視線はアルベルトに向けられていた。



 危険!危険!危険!

 レティ騎士の……

 主君を守らなければならないセンサーが働いた。


 レティは弓矢を構える。

 シュッと放たれた矢はバスッと木に突き刺さった。


 正体を見せろ!


 すると………

 黒いマントの者が馬車の上に仁王立ちしているレティを見た。

 そして、フードから覗く口元が微かに動く。



『 ワタクシノオウジサマナノニ 』



「 !? 」

 勿論、声が聞こえた訳じゃない。

 読心術が出来る訳でも無いが、何故だかそう言った様に感じた。


 あの時の女子生徒だ!!


 学園の卒業前にレティは階段で押されて落下した。

 ケインがレティの下敷きになったが、幸いにも2人共に大した怪我にはならなかったのだが。



 その時に犯人から微かに聞こえた言葉が……

『 ワタクシノオウジサマナノニ 』だったのだ。



 賊であろうとも……

 負傷しているのなら直ぐにでも治療をしたい。

 だけど……

 今はユーリ先輩がいる。

 私と同じ考えのユーリ先輩ならば、必ずや襲撃犯も治療をするに違いない。



 よし!

 今度こそ犯人を追う!


 犯人はフードを押さえて顔を隠し、踵を返して走り出した。


「 逃がすか! 」


 レティは馬車からフワっと飛ぶと、着地するなりゴロゴロと回転をした。

 着地の衝撃を和らげる為に。



 それをを見ていたアルベルトとグレイがいきなりのレティの行動にギョッとしている。


「 レティ!? 」

「 リティエラ様!? 」


 転がったレティはすくっと立ち上がると直ぐに駆け出した。

 逃げて行く犯人を追う為に。


 犯人は少し先に停めてある馬車に向かって駆けて行く。


 しかし……

 足の早さはレティが断トツで。

 普通の令嬢は、全力疾走など生まれて此の方した事が無いのが殆どなのであった。


「 待ちなさい! 」

 レティは黒いマントをふんむと握り自分の方に引っ張った。

 犯人は仰向けに倒れた。

 女同士はやる事が荒い。



「 貴女は何者!? 」


 また私を狙ったの?

 そんなに私が憎い?


 私なんか……

 3度も皇太子殿下と王女の婚約のニュースを聞いたけれども……

 何度も2人が素敵に踊る姿を見て来たけれども……

 だからって王女に危害を加え様とかは思いもしなかったわ!



 レティは黒マントの女に馬乗りになってフードを捲り、中にあった顔を見た。


「 …………嘘でしょ!? 」


 レティが驚くのも無理はない。

 フードの中の顔は……


 昨年のミレニアム公国での外遊で……

 大公邸の舞踏会の時にアルベルトとデビュタントのダンスを踊り、医師になりたいから相談したいとアルベルトを呼び出した令嬢。


「 エメリー・ナ・デリクソン伯爵令嬢……貴女が……どうし……て? 」


 他国の令嬢が……

 昨年にデビュタントを終えたばかりのまだ若い令嬢が……

 執拗に私を傷付け様としているのか!?


 たった1度アルと踊っただけで。


 いや……

 もしかして……

 踊っただけでは無い?

 他にも何かあったの?


 その時……

 エメリーに馬乗りになっていたレティはアルベルトに引っ張り上げられた。


「 何事だ? 」

 レティを抱えながらアルベルトは倒れている女を見ている。



 グレイがエレナを呼んだ。

「 この女性を調べてくれ! 」

「 はい! 」


 この襲撃事件では少しも役に立たなかったエレナだったが……

 やはり女性の取り調べは女性が必要不可欠なのだ。



 エレナが跪いてエメリーを起こすと……


『 ワタクシノオウジサマナノニ 』

「 !? 」


 そう呟いたエメリーは……

 レティに飛び掛かろうとした。


「 何をする!? 」

 直ぐにグレイが間に入り、アルベルトがレティを抱き寄せた。

 エレナがエメリーを拘束する。



『 ワタクシノオウジサマナノニ 』

 エメリーはずっとぶつぶつとこの言葉ばかりを言っている。



「 そいつ……何処かおかしいんじゃないか? 」

 先程通りがかった馬車の御者に、盗賊を捕まえたから自警団を呼んで来る様にと言伝てたと言いながら、エドガーがやって来た。


「 何だか目の焦点もおかしいわ 」

 エレナがエメリーの顔を覗き込んでいる。


「 レティ? この令嬢を知って……あっ! 」

 アルベルトも気が付いた。


「 この令嬢はミレニアム公国の……彼女だ! 」


 皆が一斉にアルベルトを見た。


 ()()なのか?

 この()()()にも困ったもんだ。

 ……と、言う様な顔を皆がした。



「 ミレニアム公国でもやらかしていたのか? 」

 エドガーが()()()の友達に戻って呆れた顔をしている。


「 ち……違うぞ! 勘違いをするな!」

「 ワタクシノオウジサマナノニって言ってるじゃないか! 」


「 レティ! 違うよな? 彼女に呼び出されたけれども……レティが彼女と会ったんだよな!? 」

「 そうね……でも、わたくしの知らない所で何かあったのなら、わたくしが知る由も無いわ 」



 うわ~!!

 怒ってるぞ。


「 エド! 誤解を招く様な言い方をするな! 」

 アルベルトはレティをクルリと自分の方に向けて肩に手をやった。


「 レティ! 何も無いから…… 」

 馬車から飛び下りて転がったので、レティ付いた葉っぱや泥を甲斐甲斐しく払うアルベルトは、必死の言い訳と愛の言葉をレティに贈る。



 揉める2人は勝手に揉めさせて……

 皆はエメリーを見た。


「 何か……術にでもかかっているのか? 」

 グレイがエレナに頬を叩く様にと言う。


 エレナがエメリーの頬をパチパチと叩く。

 しかしエメリーは虚ろな目をしている。


「 そんなんじゃ駄目よ! 」

 レティはエメリーの胸ぐらを掴んで頬を思いっきり引っ叩いた。


 バッチーン!!


 ひぇ~

 凄い音が鳴った。


 レティのあまりにもの容赦の無い平手打ちに皆が青ざめる。

 相手はまだうら若き令嬢だと言うのに。

 それでもレティよりはボンキュッボンだが。



 この女は……

 他国まで来て……

 学園の制服を着て……

 こっそりと忍び込んでまで私に危害を与えたかったんだ。


 その後……

 ミレニアムに逃げ帰れば捕まらないのは当然で。

 お父様の捜査能力も大した事が無いと、嘲笑われたりもしたのよ。


 お前があの時に私を押したから……

 ケイン君が怪我をした!

 もしかしたら……

 取り返しのつかない事になっていたかも知れない。



「 もう一発お見舞いしようかっ!? 」

 レティは手を振り上げた。


「 ………うっ……… 」

 その時……

 エメリーが正気に戻ったかの様に目をパチパチと瞬かせた。


「 うわー! レティ!もう止めろ! 彼女が死ぬぞ! 」

 アルベルトが振り上げられていたレティの手首を持ち、後ろから抱き抱えて止めた。

 レティは剣と弓矢の鍛練をしているから、その腕力が強い事をアルベルトは身を以て知っている。



「 彼女を庇うの? 」

 それはわたしくしに言えない何かがあったからなの?と、レティはキッとアルベルトを睨む。


「 遥々こんな所までやって来るんだから……ハグ位じゃ無いな……キスか……それ以上があるのかも 」

 エドガーが面白がって言うと……

 レティが涙目になる。


「 エド! 黙れ!! レティ……本当に何も無いから! 」

 エドガーを睨み付けながらも、防戦一方のアルベルトは再びレティをなだめすかす羽目に。



 また、ごちゃごちゃと揉め出したカップルはさて置いて……

 グレイは地面に座り込んでいるエメリーの前に片膝を付いた。


 頬はレティにぶたれて赤く腫れている。

 どれだけ力を込めたのか。


「 君は……ミレニアム公国のエメリー・ナ・デリクソン伯爵令嬢で間違いないか? 」


「 ………… 」

 エメリーはガクガクと震え出した。


「 ワタクシハ……… 」

 目から大粒の涙がボロボロと溢れ落ちていく。


 その視線は……

 やはりアルベルトに向けられていた。










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